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244.一歩たりとも動いていませんでしょう

 入った! それも確実に!


 花弁にくるまれちゃいるがほぼ真下から見てた俺が言うんだから間違いねえ、ユーキの一刀は確かにマリアを捉えた!


「しっ――、ッ?!」


 振り下ろし、からの即振り上げ。会心の一撃を決めながらも容赦なく追撃を加えようとするユーキだったが、返し刀は止められちまった。


 ――マリアがこともなげにその刀身を素手で掴んでみせたからだ。


「確定クリティカルのうえに威力そのものも大幅に引き上げられている。素晴らしいですね、ユーキ」


「う……!」


 ユーキは刀を引こうとするも、それを握るマリアの手はビクともしない。これがただの棒きれなら納得の光景なんだが、剥き身の刃だぞ。そんなもん掴まえられんだろ普通。


「『ワイドブレイク』」


 刀身を放すと同時に唱えられた魔法。それによって正面にいたユーキだけでなく、俺もキョロも白蓮の花ごといっぺんに蹴散らされた。


「ぐぁ……っ!」


 っ、今のは委員長も使ってた複数を攻撃対象にできる無属性の魔法か!


 確か無属性の特徴は物理的な破壊力にあったはず。そんで出が早く戦闘において扱いやすいとかなんとか……だがその代わり一発の威力はそんなにねえって話だったが、マリアの場合はどうだ。


 先に食らった【白打】のぶんもあるが、俺のHPバーがもう三割ほどまで減っているじゃねえか……!


「くそっ、なんだってこんなに食らうんだ!?」


「は、母上のスキルだと思います。魔法のちからを上げるものがあるって聞きました」


「その通りです。上位スキルも持っていますが、そちらは切っているので安心してくださいね」


 安心なんかできるかってんだ。魔法の威力上昇……シンプルだが強いスキルだな。俺もMPがあって魔法を使えたなら絶対に欲しがっただろうよ。


 ユーキの口を塞ぐどころか自ら手札を晒すことにも躊躇のねえマリアに、あわよくばと俺は聞いてみる。


「ついでによぉ、ユーキのスキル込みの斬り込み攻撃。ありゃどう見ても当たってたのに、ちっともこたえてねえのはいったいどんな手品なのかも教えてくれよ」


「【転換】というスキルをご存知ですか? これはMPを減らすことでHPの減少を防ぐものです」


「……!」


 SPをHPに変換する【補填】と少し似てるか。対象がMPっていうのと、減ったあとから補充するのとそもそも減らさねえって違いはあるが……いやこうしてみると全然違うスキルだな。


 今俺が話しながらこっそりとHPを回復させてるのと同じように、斬られる瞬間にマリアも実は【転換】を使ってたってことだな。


「このスキルの優れた点は『痛み』をも消せるというところにあります。ご存知の通り来訪者はある程度苦痛に鈍くなってはいても、完全に遮断されているわけではないでしょう? 戦闘中に痛みによって後れを取ることがないという利点は甚だ大きく、低レベルの頃は【転換】を重用しておりました。そのおかげで助かった場面も多くあります」


「……純粋な疑問なんだが、本当に半分の力で戦ってくれてんだよな?」


「勿論。私は自分に枷を嵌めており、それを外すことをまだ考えていません。ステータスは文字通りに半減、スキルに至ってはそれ以下です。耐性系や抵抗系のパッシブスキルはひとつ残らず切っています。自動迎撃、自動回避も解除。加えて攻撃用・防御用いずれも全てレベル39までに習得したものだけを使用することにして――そして手加減の何よりの証拠に、この通り」


 とマリアは自らの立つ位置を示して。


「ここから一歩たりとも動いていませんでしょう?」


「クエ……ッ!」


 会話中を狙った背後からの不意打ち。キョロの自己判断によるそれはマリアには通じやしなかった。


 攻撃の寸前ってところでどこから飛び出したのか不明な一本の閃光によって、キョロはそりゃあもう見事にかち上げられちまった。


「くそっ、キョロぉ!」


 一見お喋りに熱心で俺とユーキばかりに意識が向いているようだったマリアだが、ちゃんと気付いていやがったのか。このぶんだと【察知】のようなスキルも持ってるのかもしれねえな――しかしそれよりも。



『レベルアップしました』



 たった今レベルが上がった……! 戦いが始まったばかりで早いようにも思えるがしかし、俺とマリアのレベル差からするとむしろ遅すぎるくらいだぜ。


 経験値増加スキルをいくつか持っててもこれってこたぁ、マリアが自身に枷を嵌めてるってのはマジらしい。どういう理屈かは知らんが、弱体化してることで入ってくる経験値も減ってんだろう。


「キョロ、まだいけるな!?」


「クゥエッ!」


 よし。【死活】の強化の影響もあるんだろうが、ドゥームヴァルチャーになったキョロは格段に耐久も上がってる。俺以上に攻撃を食らってるのに戦意は満点だ。


 そしてレベルアップしたからには俺のダメージも帳消し。こっちの被害はまだ皆無に等しい。


「続けるぞ、ユーキ! メインはお前のままだ!」


「! はい!」


 さっきと同じだ。俺とキョロで仕掛け、本命にユーキ。だがちょいと手は変えさせてもらうぜ。


「【呪火】発動……!」

「!」


 ぴくりとマリアの眉が動いた。どう見ても警戒の表れだ。さすがは経験豊富な勇者様、圧倒的にレベルで劣る相手だろうとスキルへの関心は忘れねえってか。


 これが【呪火】を知らねえからなのか、それとも知ってるからなのかはわからねえが、ひとつ確かなことがある。


 それはマリアにも【黒雷】が効くってこと。

 本来の状態ならともかく、枷のある今なら絶対にな。


 最初はキョロの体当たりをユーキの刀同様素手で掴もうとしていたのに、そのせいで【黒雷】を浴びてからは絶対に触れようとしねえ。


 花でキャッチしたり、閃光で追い返したり。

 明らかにキョロを近づけ過ぎないように気を付けている。


 あんときはすぐに動き出しこそしたが、やっぱ効果はあったんだ。そうじゃなきゃここまでキョロを警戒しねえだろう。


 ――だったらこれを徹底的に利用しようじゃねえか。


 ただし【黒雷】だけに頼るんじゃ芸がねえ。そこでもう一味加えるために、そっちは搭載させているキョロに任せて俺自身は【呪火】を使うことにした。


 スキルLVの都合上【黒雷】ほどの派手さはない。が、俺の五本の指に灯った黒い火を見てマリアの顔付きに僅かながら変化があったのを思えば、この選択は間違いじゃあねえんだろう。


「よぉ、食らってみるか!? こいつはあんたでも防げやしねえぜ!」


「…………」


 呪いの火を見せびらかしながら迫る俺を静かな目で観察するマリアは、どこまでも冷静だった。


 ありゃあ【黒雷】にしろ【呪火】にしろ近づけさせなければいいことに代わりはない、ととっくに結論を出してるってえ目だ。


 ならこの人のすることはひとつ。


「【白打】」


「【死線】・【亡骸】!」


「!」


 だろうな! 絶対にまた使ってくると思ったぜ、そのスキルを!


 読めてたは読めてたがどうにもそいつは回避が難しいんでな、潔く避けるこたぁ諦めた。――避けるんじゃなく、食らいながらでも近づくことにしたんだ。


 【亡骸】で生み出した偽物の死体がぶっ飛んでいく。それを尻目に俺は【死線】によってマリアの真横へと移動した。当然、【呪火】は指に灯したまま解除しちゃいねえぜ?


「クエーッ!」


 付き合いの長いキョロもよくわかってくれてるぜ。俺のスキルコンボに合わせて再び空から攻撃を仕掛けている。


 ぃよしっ、こいつは完全に意表を突けた! これならマリアだって雷と火、どっちかは食らうことを覚悟するはず……!


「――なるほど」


 俺とキョロの挟撃が今度こそ決まる、という刹那のとき。

 そのごく短い時間の中で、なのにマリアは悠然と言葉を紡いでいた。


「有用なスキルをお持ちのようですね。召喚獣との意思疎通もお見事。しかし――保護魔法『ホワイトヴェール』」


 とん、と。

 上へと伸ばされたマリアの手……白い何かを手袋のように纏ったその指先が、先んじてキョロに触れて。


「【湾曲】を発動」


「クェ、」


 どがっ!! ともの凄い勢いでキョロは地面に落ちた。いや、落とされたんだ。軌道が空間ごと不自然に曲がったうえに、明らかに落下が加速までしていた……マリアのスキルの効力で!


 キョロが沈められたからには次に誰が狙われるのか、なんて考えるまでもねえ……!


「続けて【輝爆】を発動」


 次の攻撃に移るマリアの動作は恐ろしく速かった。【呪火】もこれじゃ当てようなんかねえ。


 見るからにヤベぇ輝きを放つ光。そんなもんをキョロに触れたのとは反対の手の平に生み出しながら、掌打で叩き付けようとしてくるマリア。


 それに対して俺の取った行動は。


「――【死活】・【金剛】!」


「!」


 最近得たばかりの防御スキルを切ることだ。


 へん。こういう展開になるってこたぁわかってたんでな、そこは手間取らなかったぜ。


 あとは俺がこいつを耐えられるかどうかだが……!


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