表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/557

240.決着をつけるつもりでいます

今作では初めての会話オンリー回

次からは普通に戻りやす

「どこまでが予想通りで、どこからが予想外なのか。まずはそこんとこ教えてもらっていいすかね」


「概ね全てです」


「全てが予想通りだと?」


「全てが予想外でした」


「……。だけどマリアさんは高ランクギルド合同でのガロッサ攻略に、乗り気じゃなかった。否定的ですらあった。事態の急転を恐れていたが、ありゃつまり。今回の結果が予測できていたからじゃあないんすか?」


「なら何故もっと真剣に止めようとしなかったのか、と。あなたはそう問いたいのですね」


「責任おっ被せるつもりはねーけどよ。だが実際、魔皇が知ってたんだ。だったらマリアさんだって紅蓮魔鉱石の相互干渉については知ってたんじゃねえのかよ? 魔皇軍の攻め入りを予測できたのだってその知識があったから。そうじゃなきゃ、俺たちがこんな目に遭うなんざ考えもつかねえ」


「私にあった確信は別の部分なのです」


「なんだって?」


「順を追って疑問に答えますと、私は紅蓮魔鉱石を深く理解しているとは言えません。ダンジョンとして作り出されたガロッサにすら侵入を果たせる仕組みがあったことは、私の考えを大きく超えていました。柴様は私が紅蓮魔鉱石を所持していると存じたうえで『知識を秘匿していた』と判断されたのでしょうが、そうではなく私が持つ知識とは魔皇その人のもの。そこの一点において、魔皇軍にもなんらかの動きがあって然るべきだと確信したまでです」


「……つまりだ。『何かが起こる』ってのだけは絶対に近いレベルで予測できていたが、その何かがどんなことかまではさっぱりわかってなかったと。そんでその予測ができたのは、紅蓮魔鉱石の裏技を知ってたからじゃあなく、あくまで魔皇に詳しいから想像のついたことだと。そういう認識でいいんだよな」


「その通り。柴様は聡明な方ですね」


「…………、」


「私の言葉だけを信用するのは難しいことかもしれません。ですが無理を承知で、どうか信じていただきたく思います。限られた機会に政府を諭す。私にできることと言えばそれだけでした。それでもガロッサの攻略が推し進められた以上、もはやそこに私の力が一切及ばないことを受け入れざるを得ませんでした」


「まあ、わかったっす。俺ぁマリアさんなら魔皇軍の転移を防げたんじゃねえかと思ってたもんすから、そうじゃねえとはっきり言ってもらえてよかった。ここを曖昧にしたままじゃこの先の話ができねえ」


「……、」


「そりゃあ、俺でもそんくらいは予想できる。俺には魔皇が『紅蓮魔鉱石』を目的にしていたのか、それとも『ガロッサの紅蓮魔鉱石』だから欲しがったのか判断がつかねえ。あれに眠る大兵器としての力を踏まえりゃ後者じゃねえかとは思うが、推測の域を出ない。重要なのは人間側にあった紅蓮石のひとつが奪われたってことだ。これで所在が明らかな紅蓮魔鉱石は残りふたつ」


「柴様方の発見した物と、私たちが有する物ですね」


「マリアさん所有の物は言わずもがな、俺たちのだってあんなに大々的に発見が世間へ知れ渡ったんだ。魔皇だってそんくれえご存知のはずだろ? なのに奪いにこねえのはガロッサの石さえ手元にありゃいいからか、もしくはそれができないからか。うちもみんなで考えてみたが、ちゃんとした答えは出なかった」


「疑念ご尤も。ですので、既に試しています。私の石を用いて果たして柴様の石へ干渉ができるかどうかを」


「! 結果は……?」


「『できない』。どうやらそれが是のようですね。干渉は拒絶されました。柴様のほうから私の石へ試してみても同じ結果になるでしょう」


「そうなんすか……安全面では一安心ってところだが、これはやっぱり所有者の有無が関係してんすかね」


「それ以外には考えられないかと。相互作用があったとしても紅蓮魔鉱石が優先するのはやはり持つ者の意思。他者の干渉を拒絶する意思があるならその通りにする。ガロッサの石は所持者不在により意思表示もなかった。そこに魔皇は付け込んだ、ということですね」


「この手回しの良さは、前々からガロッサへの侵攻を企んでたとしか思えねえっすよね」


「ええ。その実行をこうも完璧なタイミングで行ったからには、以前から計画があったのでしょうね。ガロッサの石への干渉はアーバンパレスの構成員たちがダンジョン内の固定化に勤しむ最中に行われたと見るべきです。それなら変調があっても誰も気付かない。如何に石同士の作用があったとしてもそれが露呈してしまっては大扉を固められ、奪取が難しくなりますから」


「合同クエストが上手く利用されちまったってわけだ……だがそれも、魔皇が俺たちの動向にやたらと目敏くなけりゃ利用のしようだってなかった。そうだろ、マリアさん」


「裏切り者のことを仰っているのですね」


「マリアさんの考えは?」


「います」


「断言、するんすね」


「そこを疑う余地も意味もありませんので。しかしその裏切り者が――、」


「? 裏切り者が、なんすか」


「いいえ、なんでもありません。裏切り者がいたとしても今の私たちに打てる手立ては存在しません。それよりもまず、すべきことを確実に。そのためにもこれからのことを話し合っておくのが建設的でしょう」


「紅蓮魔鉱石をふたつも手にした魔皇は、そらーとんでもねえ脅威だってのはわかってる……けど、ここに来たってことは、マリアさんはすぐにでも魔皇へ対抗するつもりでいるんすよね。ユーキだってつれてきたくらいだ、それはあいつにも関連してんでしょう」


「まあ、そこまでおわかりだったのですか。本当に柴様は優れた洞察力をお持ちなのですね」


「なあマリアさん……それ、やめてくんねーかな」


「!」


「何をさせたいのかは知んねーが、そんなよいしょ嫌味にしか聞こえねー。こう見えて今の俺ぁささくれ立ってるもんでね」


「そのようですね。あなたにとってそれほどまでに、敗北とは重いものですか」


「……! 当然だろ、負けてのほほんとしてられっか。人の命が懸かってんだぞ」


「ですが柴様は知らないのです。勝ち続けるということが如何に大変なことか。常勝など絵空事に過ぎず、人は誰しも必ず負けるもの。己に、敵に、姿なきものに。敗北を糧にすることが勝利の始まりなのです。勝てば最善、負けても次善。ならば負けてもそれが当然と考えるべきでしょう。重要なのは次に勝てるかどうか。たった一度の敗北に囚われてはいけませんよ」


「恥を打ち明けるが逢魔四天に負けたのはこれで二度目だ。それに、負けて当然だと? そんなのは先代魔皇を討ち倒してその野望を阻止してみせた勇者様の言葉たぁ、とても思えねーな」


「……私たちだって、勝ち続けてなどいませんよ。何度となく敗北を積み重ね、その度に犠牲を払って、しかし最後に勝てさえすればいいと。皆の無念を晴らすことだけを目指して戦い、その末にようやく本当の勝利を掴んだ。私たちが知っているのは勝利の栄光だけではありません。敗北の苦渋もまた、誰よりも多く味わってきているのですから」


「マリアさんがそうだってことは、魔皇もだよな」


「! ……、」


「だって魔皇はマリアさんの仲間だったんだもんな。一緒にこっちの世界にやってきた来訪者の一人で、元勇者パーティの一員で、前魔皇を倒しておきながら現代の魔皇になった信じられねー奴。……そいつもたくさんの勝ちと負けを繰り返してきているはずだ」


「――ええ、その通りです。ですから彼は、自軍幹部の敗北。その死も決して否定的には捉えていないでしょう」


「マリアさんはそいつの目標を『世界の支配』に違いないと言ったよな。それさえ最終的に叶うなら、仲間の死なんてなんとも思わねーってことかよ?」


「柴様にそう結論付けさせてしまうと些かの誤謬が生じることかと思いますが、言葉の意味としては何も間違っていません。……なので魔皇に関して私からあなたに、ひとつお知らせしたいことが」


「……なんすか」


「拒絶の意思さえあれば石は干渉を許さない、と言いましたよね。実は他にも試してみたことがあるのです。ガロッサ跡地を調べ見つけた紅蓮魔鉱石の力の残滓。それを元に私も、おそらくは魔皇が行ったのと同じ手法で経路を伸ばしてみました」


「……! 当人が拒絶さえしていないなら、所有者のいる紅蓮魔鉱石にも干渉ができる……!?」


「ええまさに。すんなりと魔皇の持つ紅蓮魔鉱石を辿ることができました。そのまま繋げることすら私には容易かった。出来上がるのは一方通行のパスになるのでしょうが、万が一を思いまだ形成には至っていません」


「まだ、ってことはまさかマリアさん――」


「ええ。近く私は魔皇の元へ飛び、単身決着をつけるつもりでいます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ