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24.竜の死骸

「ドラゴンを目撃したという人たちは……正しかったんですね」

「どうやらそうみたいだな」


 死体でも圧巻の存在感に言葉を詰まらせながら、俺たちはドラゴンを眺める。


 体の上に落ちても、動き回っても、こうして話をしていても。

 何をしても目の前のドラゴンが目を開けることはない……やっぱりこいつは、既に死んでいる個体だ。


「呼吸もしていませんし、間違いないですね。ドラゴンの死体は腐ったりせず、長い時間をかけてゆっくりと身体が溶けるように消えていき、最後には骨だけが残るそうですよ」


 つまりこのドラゴンは、今まさに身体が朽ちていく最中だってのか。とてもそういう風には見えないが、鱗があるのに妙に柔らかい感触だったのはそのせいらしい。


「死体にすらも他の魔獣や魔物はおいそれとは近づかないそうですよ。ただ恐れているからなのか、あるいは何か、彼らにとっても近寄りがたい理由というものがあるのか、それは定かじゃありませんが」


「それでさっきのピックビークたちも追いかけてこねえのか? ……なんとなく納得できるな。俺でもこう、こいつからは感じるものがあるしよ」


 ドラゴン。

 それはやっぱり特別な生き物なんだって、もう生きていなくてもその体からひしひしと伝わってくる。

 野生の生き物からすりゃこいつは、そりゃあ畏怖の対象にもなるだろうよ。


「死因はなんなんでしょう。どうしてこのドラゴンさんは死んでしまったんでしょうか。外傷があるようには見えませんし、寿命……? そうだとしても、何故こんな谷間の底で眠ることになったのか……」


 死を悼むように、サラがそっとドラゴンに触れる。

 なんか、こうしているとサラがシスターか何かのように見えてくる。

 言動は割と破天荒だがどこか、品の良さってのもあるからな。あとロザリオを持ってるってのもその印象を強める。


 俺もサラを真似て、ドラゴンに改めて触れてみることにする。思い切って顔へと手を伸ばし、撫でる。ただの爬虫類とは明らかに違うしっかりした鱗も、見た目からは想像もできない程にふんにゃりとしている。これは身体が完全に消えちまう日も近そうだな……。


「――え?」


 惜しいな、と俺は思ったんだ。

 こんなすげえ存在が骨だけになって、その威容を失っちまうのが残念だと。


 そう考えた瞬間に、俺の視界には表示が出た。



『【死体採集】:対象を選択しました』



 ずわっ! とドラゴンが黒いオーラに包まれた。

 それは『恨み骨髄』が纏う怨念の恨みパワーにも似たものだ。


「な、なんですかこれ!?」

「やっちまったかもしれねえ!」

「今度はなにをですかー!?」


 と俺らがわたわたしてる間にドラゴンの死体はふわりと浮かび上がり、それからギュイン! と俺の体に吸い込まれるようにして消えてしまった。


「え! 今、ゼンタさんの中にドラゴンさんが……」


「ああ……そんなつもりじゃなかったのに、スキルを使っちまった」


 ずっと謎だった【死体採集:1】というスキル。その名の通りに死体を採集するためのスキルなのは予想していたが、まさかこんな感じで発動するもんだとは。


 そして採集した死体は、どうなるってんだ。

 急いでステータス画面を開き、スキル欄を確かめてみる。



『スキル

 【悪運】

 【血の簒奪】

 【補填】

 【SP常時回復】

 【隠密:LV2】

 【活性:LV1】

 クラススキル

 【武装:LV3】

 【召喚:LV2】

 【接触:LV1】

 【契約召喚】』



「【契約召喚】だと……?」


 思った通り、スキルにくっついていた数字は回数制限だった。使用済みの【死体採集】は消えて、代わりに見覚えのないスキルがしれっと加わっている。


 既に【召喚】があるのに、【契約召喚】? 違いがわからねえ。とにかくまずは説明を見てみないとな。



『【契約召喚】:職業クラスに応じた魔物を使役する。それを絶対のしもべとして操れるかはあなた次第』



 あなた次第ぃ? 【召喚】で出てくるボチやキョロは無条件で俺の言うことを聞いてくれてるが、【契約召喚】で出てくる奴はそうはいかないってことか。


 ここまでくると何が召喚できるのか薄々わかっちゃいたが、一応は確認だ。



『選択可能:【ドラゴンゾンビ】』



 結局ゾンビかよ! いやまあ、「ドラゴン」じゃなくて「ドラゴンの死体」を採集したんだからそれが当然かもしれねえけど……。


 つか、ネクロマンサーやべえな。

 勝手に死体を自分の物にして、勝手に使役するわけだろ? 

 やってることすげえ邪悪じゃね?


 自分の職業クラスに若干の薄気味悪さを抱きつつ、ドラゴンゾンビの説明も見てみる。



『【ドラゴンゾンビ】:竜の死骸は稀に動き出し生者を襲うと言う。その姿に生前の誇り高さはどこにもない。生ける屍が持つのは死を認め難い程の恩讐いずれかのみである』



 うわー。こんなの読むとゾンビにしちまったのを余計に後悔しちまう。

 しかも俺、こいつを召喚できそうにもねえぞ。

 感覚的に無理だってのがわかるんだ。


「SPがぜんっぜん足りてねえ……!」

「えすぴー? ってなんです?」

「あ、サラは知らねえのか」


 そこで俺はかいつまんでSPやスキルの説明をしてやった。サラは理解が早く、すぐにポンと手を打って頷いた。


「なるほど! SPとは私たちで言う魔力みたいなものですね。ゼンタさんはそれを消費して、スキルという不思議な力が使えると」


「そうだな。SPはボチを出すのにも使う。今のドラゴンも本当なら呼び出せるはずなんだが、消費量が多すぎるみてーでよ」


 俺の今のSPのMAXが38だ。最初が5だったことを思えばだいぶ増えたが、それでもまったく足りん。正確なことは言えんが、要求される感じからするとドラゴンゾンビの召喚に必要なのは……ざっと50はありそうな気がする。


 50!? いや多すぎだろこれ。ボチとかキョロは5ポイントで呼べるんだぞ。その十倍ってマジか。


 と思ったが、ボチとさっきのドラゴンを思い浮かべて比べると……たった十倍であれを呼べるのは破格って気もするな。

 ぶっちゃけ百倍でもおかしくねえくらいだろ、戦力的には。


「果たしてあといくつレベルが上がれば呼べっかね……そもそも呼ばねえほうがいいか? 本人の意思と関係なしにゾンビにさせられたなんて、普通は怒るんじゃね?」


「どうでしょう。そこはドラゴンさんがどう思うか次第ですから、直接お話してみるしかないんじゃないですか?」


 話……できるか? ドラゴンだし、しかもゾンビだぞ。……自信ねーが、やってみるしかないか。めちゃ怒り狂ってたとしてもすぐに召喚は解除できるしな。


「あれ? ゼンタさん、見てください。ドラゴンさんで隠れていたようですけど、こんなとこに横道がありますよ」


「お? ほんとだ。また随分と綺麗にくり貫かれた穴だな」


 人が通れるくらいの大きさのその横穴はかなり奥まで続いているようで、覗いただけじゃ見通せない。まるでドラゴンの死体で封印されていたような感じだな。


「ゼンタさんの言う通り、これは自然にできた洞窟ではありませんね。それにしては壁も天井も整いすぎていますから」


「俺は別にそんなつもりで言ったんじゃねーけどな。なんだ、じゃあこいつは誰かが掘った跡なのか?」


「おそらくはそうでしょう。でも、こんな場所でそんなことをする人ってどういう人なんでしょう。ほら、おじ様も言っていたじゃないですか。ウラナール山の谷底には恐ろしいものが巣食っているって」


「確かにそう言ってたな――あれ?」


 そういや、その恐ろしいものとやらがどこにもいねえな?

 と、静かな谷底を見回した途端。


 それを見計らったみてえに揺れが起きやがった。

 それは最初は小さく、段々と大きく、そしてすぐに地響きにまで変わった。


「ゼ、ゼンタさん……あっちから」

「ああ、わかってる……こっちからも来てっからよ」


 谷の右からも、そして左からも。

 まるで津波かと思うような軍勢と勢いで、そいつらが俺たち目掛けて迫ってきていた。


「ありゃでっけえ蠍か……!? しかも二足歩行だぞおい! スプリンターばりの完成されたフォームで走ってきやがる!」


「あ、穴に避難しましょう! あの巨体なら入ってこれないはずです!」


「賛成だ!」


 左右からこんな奴らに襲いかかられたら一溜まりもねえ。さっきのピックビークの襲撃なんぞ目じゃないくらいの被害を受けるだろう。


 他に逃げ込める道もない俺たちは、大急ぎで横穴へと駆けこんだ。


 ガガガガガッ! と飛び込んだ俺たちの後ろで、穴に入ろうとしてくる二足歩行蠍の腕らしきもんが暴れていた。


 こりゃゾッとする光景だぜ……ひー、くわばらくわばら。ここに穴がなかったらどうなっていたやらな。


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蠍(シュタンシュタンシュタンシュタン)
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