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239.真剣なお付き合いをしてる……!?

「マ――マリアさん!?」


「はい」


 にこりと。

 相変わらず花が開くような明るさと優しさを同居させた笑みを見せるマリア。対して俺のほうは顔が引きつっちまうのをどうしても抑えられなかった。


「なんだって聖女様がこんな場末の酒場なんかに……?」


「おい、ブン殴られてえか」


 後ろのカウンターからそんな声が聞こえた気もしたが、今は構ってられねえ。


「柴様はこちらだと、シスターサラに教えていただきました。よろしければまたお話をしたいのですが、私に時間をいただけませんか?」


「……願ったりだな。俺もマリアさんにゃ聞きてえことがたくさんある。ごたごたが落ち着いたら真っ先に会いに行くつもりだった」


「ええ、そうでしょうね」


 マリアは訳知り顔で頷く。実際彼女には俺がそう言うってのは予想がついていたことなんだろう。


 つか合同クエストがあんな結果に終わった以上は、根本的な部分から擦り合わせのし直しが必要なのは当然のことでもある。


 お話ってのはもちろんそれに関する内容であり……もっと具体的に言えば紅蓮魔鉱石や魔皇軍、そして魔皇本人についてのことのはずだ。


「おい。話す中身がなんであれ、ここでは勘弁しろよ。あのマリア・イチノセがいると知られりゃ大迷惑だ。そろそろ普通の客たちも酒を飲みに来る時間なんでな」


「お客、ですか? まだお昼なのに……?」


「う、む……だけど来るやつは来るんだよ」


 陽も高いうちから酒をかっくらう、なんて行為はマリアにとっちゃ想像すらできないものらしい。心底不思議そうにしている彼女に宿屋兼酒場の店主であるパインはバツが悪そうにしていたが、まぁその言自体は一理ある。


「宿のほうはともかく飲みのほうの客層はここ、あんまよろしいとは言えねえからな。マジで明るいうちでも当たり前に来るし、そいつらに見つかりでもしたら悪い意味で騒ぎになること請け負いだぜ?」


「そうですか? なら、場所を変えたほうがよさそうですね。『アンダーテイカー』のギルドハウス……柴様のお部屋などではどうでしょうか」


 つらつらと候補地を上げる淀みのなさからして、マリアも元からここに腰を落ち着けるつもりはなかったのかもしれねえな。


 考えてみりゃ教会トップの聖女様という立場を抜きにしても、『魔皇軍』やら『ガロッサ』やらホットになりつつあるワードがふんだんに散りばめられた会話をこんなとこで大っぴらにやれるわけもねえ。


 ――しかしよりによって俺の部屋かよ。


 見られて困るもんはねえが自室に異性を入れるのは抵抗がある……そういうことは自分で稼げるようになるまでは絶対にするな、と姉貴に教え込まれて育ったからな。


 なんせ施設じゃ部屋は共同だったし、年少組もいたしな。そういうのを言葉じゃなく腕力で教育されたってのがポイントだ。おかげで頭より体が学習して、今もうなじ辺りの鳥肌となって拒否反応を示している。


 このリンゴの木で寝泊まりしてた頃にはサラやメモリと同室だったが、それは金がなかったからだし、俺自身もあの二人相手なら特になんとも思っちゃいなかった。


 だがようやく持てた自室にマリアという格別の美人を迎えるってのは姉貴法の第三条に抵触しちまうようだな……つってもこの申し出を断るわきゃねえんだが。


「いいっすよ。そんじゃさっさとハウスへ移るとしますか。すえた酒場にマリアさんは似合わねえ」


「そんなことは……ですがありのままを言わせていただくと、こういった場所だとどうしても落ち着けないことは確かですね」


「おめーらさっきから失礼だな! 特にゼンタ、てめえは俺に何か恨みでもあんのか!?」


 パインの不満を背中にぶつけられながらリンゴの木を出た俺たちは、その足ですぐ隣のギルドハウスへと向かった。


 その間俺は人目からマリアを隠しながら、数歩ほど先を歩くという要人警護中のSPみたいな動きをしてた。それも意識せずに自然とだ。恐るべしだぜ、マリアの聖女オーラ。


 無事に数メートルだけの案内を終えたところ、我がギルドのロビーではメンバーたちが楽しそうにしていた。


「ほーらユーキちゃん、次いきますよー。『クロスブーメラン』!」


「――えいっ!」


「わぁー! すごいすごい、また落とした! ねえねえヤッチー、凄いね!」


「う、うん。まだ小さいのにとっても強いんだね、ユーキちゃんは」


「えへへ、それほどでもないです」


「謙遜もできて偉いですね!」


 あ、遊んでやがる。それもマリアの義理の娘であるユーキと一緒にだ。


 しかもその遊び方がサラの放ったクロスハーツへ同時に飛び出したユーキが追いつき、持ってる棒で叩き落とすというだいぶ武芸に寄った内容だ。


 これをやるためにいつもよりロビーの面積を広げてまでいるようだが、そんなに楽しいかこの遊び? 


 いやまあ、五歳児がこんだけ見事な動きを見せたらそらー感心はするがな。


「娘さんも連れてきてたんすね……?」


「私一人で来た、とは言っていませんよ?」


 ユーキの存在に呆気に取られた俺に、ちょいと茶目っ気を覗かせながらマリアは言った。


 ……なんか、聖痕の間で会ったときとはほんの少し印象が違うような。あそこのあの空気感が彼女をもっと特別に仕立てていたのか、教会を離れたことでいくらかマリアの気が緩んでるのか。


 どっちだろうと俺としちゃいくらか接しやすくなるってもんで、ありがたいこったがな。肩こらねーし。


「おい、お前ら」


「あ、ゼンタさん」


「オレゼンタさん! おひさしぶりです! お元気そうでなによりです!」


「おう、ユーキも元気だな」


「うん、元気だよ!」


 遊んでる最中だからかユーキのテンションも高ぇな。このぶんならもうしばらく放ってても大丈夫そうだ。「オレゼンタ……?」とユーキの俺に対する妙な呼び方に首を傾げてるサラへ一言添えておこう。


「その調子で面倒見ててやってくれ。俺ぁマリアさんと少し話してくっからよ」

「あ、はーい」


「申し訳ありませんが、シスターサラ。今しばらくユーキのことを頼みますね」

「はいっ! お任せください聖女様!」

「俺との返事の差よ」


「ユーキも、お姉さんたちにご迷惑をおかけしないようにね」


「はい、母上! じゅーじゅーしょーちしておりますっ」


「よろしい」


 笑いながらマリアは娘の頭を撫でる。そのやり取りを微笑ましそうにヤチもユマも並んで眺めていたが、俺とマリアが奥へ行こうとするとヤチだけはハッとした顔になって、一瞬で詰め寄ってきた。


「お、お話ってどこでするの?」


「俺ん部屋だけど」


「えっ!? ゼ、ゼンタくんのお部屋で……!? その中で二人っきり……!? こんなに綺麗な人とゼンタくんが!?」


「いや感嘆疑問符使いすぎだろ。どうした急に」


「私でも週に一度のお掃除でしか入れないのに……!?」


「まだ使うか。つーかお前週一で入ってたのかよ、知らなかったぞ」


 ぶっちゃけ紅蓮魔鉱石で管理されてるこの家は手動の清掃の必要なんてないんだが、それでは家政婦としての沽券にかかわるってんでヤチは毎日のようにどこかを掃除して回ってるんだ。これはギルド完成当初からずっと変わってねえ。


 まーより清掃が行き届くぶんには文句ねーし、俺がいないときに部屋へ上がり込まれてようと構いやしねえんだが、それを事前に言っといてほしかったな。気づかねえ俺が悪いのか?


「とにかく、やましいことはなんもねえよ。俺もマリアさんも真剣だ」


「真剣なお付き合いをしてる……!? まさか歳の差婚……!?」


「あ、駄目だこいつ。引き取ってくれユマ」


「はいはーい。ほらヤッチー、あっち行ってよーね」


 なんでかは知らねーがメイドモードとは別のスイッチが入っちまってるヤチを、ユマは手慣れた様子で引っ張っていった。


 俺はヤチにああいう一面が出始めたのは異世界に来た影響だと思ってたんだが、あの感じからするとあいつは昔からああで、それをユマだけは知っていたのかもしれんな。


 コンビの面目躍如ってところか……ユマがうちのギルドに加わってくれた良かったぜ、本当に。


「喧しくってどーもすんませんね、マリアさん」


「いえ。とても良い雰囲気のギルドだと思いますよ」


「そこは同意っすね。んじゃ、俺の部屋はこっちっす!」


 マリアからすりゃただのお世辞だったのかもしれねえが、そういう風には聞こえなかったんで俺も本音を返しておいた。


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