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233.手遅れかもしれない

 マクシミリオンと会ってから三日後。その翌日には中央を後にして我らがポレロへと戻っていた俺たちだが、遅れてそれについてきた連中が今日ようやく到着した。


 カルラが結成したギルド『天道姫騎士団プリンセスナイツ』。そこに所属する合同クエスト不参加組の三名はいずれも女子であり、頭を失った彼女らは一時『アンダーテイカー』へ身を寄せることになっている。


 俺の提案じゃなくアーバンパレスの保護を断ったうえで向こうが自分たちから言い出したことなんだが、まあクラスメートのよしみだ。居場所がないってんならこっちで引き取ることはぜんぜん構わない。ユマやヤチもいることだし居心地が悪いってこともないだろうしな。


 というわけで中央にあるギルドハウスを引き払ってやってきたのが、こいつらだ。


「よく来たな、陽香ヨウカシズク、それからハナ……どっちがヨウカでどっちがシズクだ?」


「私がそう~」

「私がそう~」


「や、だからどっちがどっちなんだ」


「…………」


 双子の入野ヨウカと入野シズクは、見た目に違いがまったくない。口調や表情、仕草にもない。短めのツインテールの髪型に、全体的にオーバーサイズな服装までぴったし揃えられてる。


 双子なんだから顔立ちなんかがそっくりなのは当然だが、上から下までこの瓜二つっぷりは双子の中でもトップクラスだろう。

 他に双子を見たことねーから確かなことは言えねえけど。


 ヨウカが喋ってんのかシズクが喋ってんのか俺にはわかんねーんで、三人組最後の一人。砂川ハナへと視線で助けを求めたんだが……こいつちっともこっちを見やがらねえな。ギルドハウスばかりを眺めている。


 ……ま、うちは内装からしてヤチが拘りまくったからな。

 その評判は上々、特に女子からはかなり評価が高い。

 こいつらも気に入ることは間違いなしで、到着一番目を奪われるのも仕方ねーかもな。


「そんなに気になんだったら一通り見てこいよ。ただし外観からは想像つかんほど広いんで、迷わねえよう気を付けろ。特に地下はちょっとした迷路だぞ」


「……いいの? 来たばかりの私が勝手に」


「勝手っつってもお前たちも使う場所だからな。どうせ改めてみんなに紹介すっけど、誰かと会ったらちゃんと挨拶はしとけよ」


「わかった。じゃあ、そうさせてもらうね」


 軽い足取りでハウスの探検に向かうハナ。その背中を見送りながら、相変わらず距離感の掴みにくいやつだと思ったね。なんつーかあいつ、薄いんだよな。言動も印象も。


 中肉中背、短くも長くもないストレートの髪、容姿にも特徴的な部分なし。

 物腰は基本穏やかで誰に対しても波風を立てない性格。その代わり特別仲のいいやつもいないっぽい。

 そして出席番号は二十六番。  


 ……二年以上も同じクラスにいて俺が知ってるハナの情報はこれだけだ。ほぼ外見だけだな。


 たまーに話すことがあっても特筆できるような出来事は一度も起こってねえ、と記憶してる。


 それは個性的なやつばかりのうちのクラスにおいてハナが普通すぎたってだけで、特段影が薄いわけでもねーのにあんまし印象に残らないわけだ。相対的にな。まるで半透明人間だ。


「お前たちみてーに特徴的すぎてもアレだがよ」


「なにが~?」

「なんの話~?」


「こっちの話だ。お前らはハナと一緒にやらねーのか? ギルドハウスの探検」


「別にいいかな~」

「知らないとこ怖いし~」


「見て回らねーとずっと知らないままじゃねえか……嫌なら別に勧めんが」


 ヤチの拘りに拘った内装もこの双子にゃ効果なしか。南無。


 そういやこいつら、あっさり自分たちのギルドハウスを手放してきてんだもんな。そもそも衣食住の住に欠片も興味のねえタイプなのかね。


「そっちのハウスは売っ払いでもしたのか?」


「売り払うって、あそこ元々テナントだし~」

「姫様の稼ぎがないと使用料払えないし~」


「テナントぉ? あのカルラが自前で用意しなかったのかよ。そいつはちっと意外だな」


 そりゃ買い取りや新築でギルドを構えようとすんのはなかなかの負担だが、カルラともなれば自分の城は借り物なんかじゃなく、一から建てて完全に自分の物にしたがりそうなもんだが。


「だっていつ使わなくなるかわからないし~」

「そんなとこに必要以上にお金かけてもね~」


「んん? そりゃつまり、ギルドを用意する段階から引き払うのも考慮に入れてたってことか」


 そう訊ねれば双子はまったく同じ動きでこくりと頷いて肯定した。


 ふーむ? 中央都市セントラルシティに居を構えていながら、カルラはいつでもそこから出られるようにもしていたと。……なんか変だな。


 高ランクだったり有名だったりする冒険者の大半は中央にいる。それは冒険者だけに限った話じゃなく、世界の中心はやはり中央。あらゆるものがあのバカデカい街を基準にして動いているってわけだ。


 だからカルラも当然のように、中央こそを自身の居場所としたんだろう。


 そう思ってたんだが、だとしたらそこに建てたギルドハウスを仮拠点としか捉えてなかったってのはちょいと矛盾が生じるぜ。


「……カルラは単にデカい街だからって中央を選んだんじゃあなく、他に何か目的でもあったのか……?」


「それはたぶんそう~」

「確認するって言ってたから~」


「確認って何をだよ?」


「さあ~知らな~い」

「そこまでは聞いてな~い」


「ちっ、使えん」


「「ひど~」」


 しかしこいつら、ずいぶんと気にかかることを教えてくれたな。


 カルラのやつはなんかの狙いがあったってのはほぼ確実だろう。それがなんなのかってのはさっぱり見当もつかんが、それを踏まえて思い返せばあいつの態度は妙だった。


 三毒院カルラってやつぁ元から威圧的、高圧的なやつではあるが、わけもなく自分から噛み付くような狂犬じゃあない。

 それはどっちかってーと機嫌が良いときのレンヤのやり口だぜ。


 それがどうだ、会議の日は俺に対してやけに挑発的だったうえ、アーバンパレスへの不信感も隠しもせずにこれでもかと煽っていた。あの粗野なブルッケンすらも引くほどに、だ。そしてそれはガロッサへ潜るときにも変わっていなかったな……。


 まさかカルラは、気付いていたのか? 


 統一政府セントラルやアーバンパレス側に裏切り者がいるかもしれねえってことに……いや、いくらなんでもそれはないか。


 そこまでわかってるならなんも言わずに招集に応じるのは変だし、何より『確認』なんてワードは使わねーだろう。


 だから考えられるとすりゃアーバンパレスか、もしくは政府に対してなんらかの疑いを抱いていたってところか。


 あいつのムーブからするとそれが一番しっくりくる。


 だがそりゃなんの疑いだ? 

 誰の何に怪しく思った? 

 そのきっかけはなんだ?


 ――そういや、態度がどこか変だったのはレンヤも同じだな。


 あいつもまたクラスメートを複数囲って妙なことを初めてやがった。徒党を組むっていう普段のレンヤなら最もやりたがらねーだろうことをやってまで、だ。


 ギルドと闇ギルド。

 所属こそ異なるが、クラスでもヤベーやつの筆頭であるこの二人が揃ってらしくねーことをしている。


 俺は最初それを言葉通りに住む世界が変わったことでタガが外れたんだと考えていたが、もしそうじゃなかったとしたら。


 あいつらにはあいつらで、そんな行動に出る真っ当な理由があったんだとしたら――……つって、結局それがなんなのかがわかんねーんだけどよ。


 本人の口から直接聞かないことにはこれ以上推測のしようもねえ。

 人伝にでもカルラが何をしてたか知りてーとこだが、同じギルドっていうこれ以上ないくらい近いポジションにいたこの双子がろくにわかってないんだからそれも望み薄だよな。


 ふう、我知らずとため息を漏らしてた俺をどう思ったか。

 ヨウカとシズクは少し考える素振りを見せて、互いに顔を見合わせて、それからこう言った。


 一連の動作は怖いくらいにシンクロしてたぜ。


「そういえばなんだけど~、姫様は~」

「もう一個気になること言ってた~」


「気になることだと? どんな風に言ってた」


「えっとね~……『手遅れかもしれない』って~」

「合同クエストの前にそう言ってたよ~」


「なに……、」


 手遅れ、だって? 合同クエストの前に……つまり招集のかかった後からあいつはそんなことを言ったのか。


 ――おいおいマジでよぉ、カルラ。


 お前は何を知ってたんだ? 何を探ろうとしてたんだ?

 どうしてそれを俺に黙ってたんだ?


 プライドの高いあいつらしく俺なんかをちっとも頼りにしてなかったからか、それとも――。


「ねえゼンタ~」

「姫様は無事なのかな~」


「…………、」


 双子のそんな問いかけに、すぐに答えてやることはできなかった。


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