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232.誰も容易く信じるな

 ちょいと冷静になって振り返ってみるとだ。

 俺たちの立場っつーのは実は、けっこう危ういんじゃないか?


 というのも今回のクエストは大勢が死亡か行方不明となって、そもそもダンジョン内で何が起きたかを説明できる人間ってのが極端に少ない。


 ジョンの命を賭した救命行為によって瀬戸際で助かったマーニーズを除けば、残りの生存者は『アンダーテイカー』のみ。これが唯一欠員なしで生還したパーティでもある。


 加えて言えば、この場合はもたらした情報の度合いも問題になる。


 シガラは別にして、スオウとインガについてはマーニーズの口からも語られているが、あの人はあくまで戦闘を行なっただけ。魔皇軍側の行動や目的がどういったものかってのは一切伝わっちゃいない。


 それを知り得たのは俺たちだけであり、そんな重要な情報を掴み、それだけ魔皇軍幹部である逢魔四天と濃密な接触を経ていながら生存しているというこの構図……これは傍から見るといかにも怪しい。怪しすぎて逆に怪しくないんじゃないかと思っちまうほどだ。


 だがそんな、あんまり露骨に死亡フラグを立てるもんだから逆に生き残りそう、みたいなマンガのストーリーを予測するような物の考え方は現実じゃ通用しない。


 怪しいからには怪しむのみ。

 そんで現状、あからさまに怪しい俺たちはこうして魔皇軍との内通を疑われている、と。


「そういうことなんすか、マクシミリオンさん」


 自分でも声音が固いもんになってるのがわかる。マクシミリオン以上の硬質さだ。だがそれもそうなるぜ、アーバンパレスの団長に嫌疑をかけられてるとなれば、それは冒険者としての破滅を意味するも同然なんだから。


 や、さすがに即破滅のワードへ繋げるのは飛躍気味かもしれねえが、あながち大袈裟でもねえだろう。


 なんせ相手はSランクかつ最大規模、おまけでこちらの世界の社会全体を管理する統一政府セントラル様のお抱えだ。


 ひょっとしなくてもこのおまけの部分こそがアーバンパレスを最も権威たらしめている要素で、政府長ローネンとも懇意であるマクシミリオンに目を付けられるってのは即ち、冒険者界隈どころか人の社会そのものから居場所をなくしかねない余程の一大事だ。


 ――なんとかして誤解を解かねえとマズい。


 戦いで流れるのとはまた別の種類の冷たい汗が額から伝ってくるのも、当然だよな? 


 この緊張感はマクシミリオンも感じ取っているはず。

 ここは腹を割って話し、どうにか信用を取り戻さんとな……と前のめりになった俺に対し。


「いいや、そうではない。俺はお前たちを疑ってなどいないんだ、ゼンタ」


「……へ?」


 あんまりにもあっけらかんと否定するんで思わず間抜けな声が漏れちまった。ちょっと呆けちまう俺たちの前で、マクシミリオンは少しだけ苦笑して続けた。


「勘違いさせてしまってすまないな。俺が言いたかったのはその反対。現状、信用に値する者は『アンダーテイカー』しかいないと……そう伝えるつもりだった」


「……?」


 ど、どういうこった? 信用ならんどころか信用に値する? しかも俺たちしかいない、だと?


 推測とまさに正反対のことを言われて頭がこんがらがったが、パッと閃きを得たことで謎が解けた。マクシミリオンの側から……アーバンパレスの視点から考えりゃいいことだったんだ。


「そうか、魔皇軍と直接戦ったのはアーバンパレス以外じゃ俺たちだけなんだ……!」


「ああ。まさしくその点こそがお前たちを魔皇軍の敵対者として証明するものだ。……これも魔皇案件の取り扱いを厳重なものとした弊害だが、そもそも魔皇軍の存在自体つい最近まで知られていなかったくらいだ。各地で起きたインガ、エニシ両名が引き起こした事件の痕跡を意図せず入手してしまった冒険者の例は数件ほど確認されているが、実際に対峙したのはお前たちが初にして唯一だ」


「聞けば数年前からのことなんすよね? 魔族の姿が確認できるようになったのは。そしてここしばらくはアーバンパレスもインガやエニシとバチバチにやり合ってたみたいじゃねーすか。それなら俺ら以外にも偶然、魔皇案件に関わっちまうパーティがいたって不思議じゃなさそうなもんすけどね」


「交戦経験のある者が殆どいないのは、その状況になった時点で助からないからだ」


「!」


「お前の言う通り、魔皇軍と会敵してしまったと見られる、あるいはうちの構成員によって確認が取れている事例もある。だからこう言い直そう……対峙ではなく、そういった状況に陥って尚生還できたのが、お前たちのみであるとな」


「……なる、ほど」


 それだけだと今回のクエストの件と合わせてますます内通者説が色濃くなりそうにも思えるが、俺たちゃ逢魔四天の一角を倒すことで既に無実を証明している。エニシ戦はアーバンパレスとの共闘でもあったことがここにきていい追い風になってるぜ。


 インガとも同格で、人からすりゃ厄介極まりない、魔族からすりゃ重用できる能力を持ってるエニシを葬るってのは……いくら信用を得るためっつってもそりゃさすがにやり過ぎだ、普通に考えて選ぶ手段じゃあない。


「そうだな、潜り込むだけなら他にも手頃な方法はいくらでもある。同じ理由でお前たちが裏切り者とは考えづらいのが、先も言った通り魔皇軍にこちらの情報が流れていたという事実だ。会議以前に決められていた『ガロッサ攻略』の案を、どうやってお前たちが入手することができる?」


「……不可能。それができるとすれば、あなたたちの内部」


「わわ、メモリちゃんちょっと……、」


「いや、いい。ずばり言ってくれて気持ちがいいくらいだ。……俺もそう睨んでいるところなのでな」


「「「!」」」


 外部組の俺らにゃできっこねえ。

 それは裏を返せば内部組ならやろうと思えばできるって意味になる。


 つまり、裏切り者がいるなら――。


「アーバンパレスか統一政府セントラル。そのどちらかに属する者である可能性が高い」


 言い切ったマクシミリオンに、俺たちの喉が鳴る。このふたつと教会は、三つ合わせて世界の中枢だ。言うなりゃ人間側の総本山。そんなところに魔皇軍の手先がいるかもしれねえ。それも何人も、何十人も。


 もしそうだとしたら、かなりやばいじゃねえか……!?


「いや。何十人も、というのは流石にあり得ない。そこまでできているなら情報の横流し以上に有効な手法がいくらでも取れる。それこそ組織を内部から分裂させて機能不全に陥らせることもな」


「そうしないってぇのはつまり、裏切り者は一人か二人……いても精々数名の範囲ってことか」


「そうと見做すのが妥当だろう。そしてそれは確実にいるものと思ったほうがいいな。そうでないとガロッサでの一連の出来事と辻褄が合わない。俺は確信を持っているからこうやってお前たちに話しているんだ」


「……! そりゃやっぱり、俺たち以外に明確に魔皇軍の敵だって言えるやつがいねえからっすか」


「まさに。潜伏しているであろう裏切り者についてはまだうちでも政府側でも限られた人間にしか共有されていない。しかし今は処理に追われて誰も冷静になれていないが、直この事件の違和感に多くの者が気付き始めるだろう。その前に、たった一組味方と信じられる外部のお前たちに直接伝えておきたかった――警告をしておきたかった」


「……警告?」


 意味深なその言葉に眉をひそめれば、マクシミリオンは一掃の重みを言葉に滲ませて言った。


「誰も容易く信じるな」


「なっ……、」


「俺が信を置くのもあくまでパーティとしての『アンダーテイカー』。お前のギルドを貶めるわけではないが、他の所属員まで信用することはできない。そしてこれはお前たちにも当てはまる」


「そりゃまさか、疑えってんですか。身近にいる仲間たちを?」


「絶対と言えるかどうか。これはそういう話だ。出会いやその後の関係性がどうであれ、裏切り者が最初から裏切り者であるとも限らない。今まさに増えているところかもしれない」


「……!」


「だからこその警告だ、ゼンタ。ただでさえもお前は新たに仲間を増やそうとしているのだしな」


「――カルラ・サンドクイン率いる『天道姫騎士団プリンセスナイツ』のクエスト不参加組三名はうちでの保護を拒否し、後日『アンダーテイカー』へ合流することとなった。確かそうでしたな?」


 手に持った紙へ目を下ろしながら確認を取ってきたバーネスクに、俺は憮然とした顔付きにならねえように注意しながら同意を返す。


「合流っても、カルラが戻ってくるまでの間っすよ。それにその三人は来訪者で、元の世界からの俺の知り合いだ」


「言ったろう、出会いや関係性は根拠にならない。政府やアーバンパレスに潜む者が数名だったとしても他の場所に潜伏していないとも言い切れない。特に『天道姫騎士団プリンセスナイツ』はここ中央都市セントラルシティをホームとしていたギルドでもある。言動には慎重になって損はないだろう」


「……うす」


 ――内容的にも心情的にも重苦しいまま、アーバンパレス団長との話し合いはしばらく続いた。


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