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221.【呪火】

「これはっ……? てめえ、俺の大鎌に何をしやがった?!」


「穢れを払ったんさ。オイラこう見えてそういうのは得意なんだよ。やー、うまくいってよかった……にしし! これでもうその大鎌に怖いもんなんてないな!」


「……!」


 確かにその通り。どういう原理かは知らんが、大鎌の最大にして唯一の武器である不浄のオーラは綺麗さっぱり消え失せちまっている。

 まるで洗い立てのシャツみてーにくすみひとつないって感じだ。


 これじゃただ臓物の寄せ集めに骨の棒が突き刺さってるだけ。前衛芸術もいいとこだ。物好きな感性をしたエセ美術家でも探して売っ払っちまおうか?


「ほいっ!」

「ぐえ!」


 こっちは絶賛お困り中だってのに容赦なく殴ってきやがる。


 思わず大鎌を手から落としちまった……が、丁度いい。一旦このまま消しとこう。


「【武装】、『不浄の大鎌』!」


 そんですぐに呼び出す。壊されたってわけじゃないんでこうすりゃ不浄のオーラが復活するんじゃねえかと考えたんだが。


「ちっ、呼び直しても駄目か。おい! これ元に戻るんだろうな!?」


「どうだろなー。不浄のオーラが付与エンチャントならもう戻らねえけど、刃自体が発生源なら時間が経てば元通りになるぞ。ただオイラにゃその鎌がどっちなのかわかんねえからさ」


「……なるほどな。だったら心配いらねーか」


 魔法用語を出されても俺はよく知らんが、エンチャントって言葉から推測することはできる。『不浄の大鎌』は明らかにそんなタイプじゃねえ。目にしたやつの大体がドン引く(俺も含めて)その見た目通りに、これ自体に不浄の原因があるはずだ。


 そう言うとなんか呪いのアイテムみたいで我ながらヤな感じだが、まあとにかく。

 すぐには無理でも数時間から数日程度で不浄のオーラは帰ってくるだろう。そう思いたい。


「にしし! そいつはもう使わないのか?」


「使えなくさせといてよく言えんな。防御無視の不浄の力がないんじゃもう武器にゃならねえよ」


「そーだろそーだろ。これで万が一も起こらない。オイラももっと大胆に攻められるぞ!」


「!」


 諦めて大鎌を消した俺を見てくすくす笑っていたスオウの姿が、不意にブレた。


 超高速で回り込まれた。そう察した俺は振り返るよりもとにかくしゃがむことを選ぶ。地面スレスレまで頭を下げた俺の上を、びゅおんと風の鳴る音が通過していった。


「うらっ!」

「おぉっと」


 倒立蹴り、とでも言えばいいのか。地面に手をついて逆さまで繰り出した俺の蹴りはタイミング的にゃバッチリだったはずだが、野郎はそれをひょいと首を動かすだけで躱した。


 顎を打ち抜く感触が幻になっちまった俺を嘲笑うように、スオウは大して力の乗ってねえ横からの蹴り、いわゆる三日月蹴りで俺の晒された脇腹を打ってきた。


「ぐぶ……っ、」


 くぉ、効きやがる。明らかに抜いた蹴りでも魔族の一撃、それも無防備なところに肋骨の下なんつー脆い場所を攻められちゃさすがにたまったもんじゃねえ。


 痛みを我慢して上下反対の視界を直すが、そこにもうスオウの姿はなかった。


「こっちだぞ!」

「! っの……何!?」


 咄嗟に声のしたほうへ目をやれば、今にも拳を打ち出さんと構えてるスオウがいたんで、反射的にその面を殴った。が、確かに目の前にいるはずなのに俺の打撃は空を切った――残像! そう悟ったときにゃ手遅れだ。


「へへっ、嘘だぜ」


「ッ……!」


 首の後ろ。頸椎へガツンと衝撃が襲う。まるで電撃でも食らったみてえだ。


 声も出せねえほどの痛みでのたうち回りたくなったが気力を振り絞ってそれをぐっと堪える――しかし膝をつくことだけは防げなかった。


 こんな姿勢じゃ狙ってくれと言ってるようなもんだとわかってはいるんだが……、


「ぐうっ!!」


 なんて考える間もなくやっぱ来やがった。こめかみを狙った蹴りを腕でガードする。


 寒気がするほど的確な急所狙いだ。だがそのおかげでどこに攻撃がくるか大体絞り込めるのはありがてえぜ。そうじゃなきゃ今のも防御が間に合わなかっただろうからな。


「おぉ、よく凌いだな! おもしれーぞゼンタ、殴るたびに反応が良くなっていく! 速くなったんじゃあない……無駄がなくなった! 余分を削ぎ落して速度の不足を埋めようってことだな。でもそれだけでオイラに追いつけるんか!?」


「へん……そらぁ無理だろうな」


「にししっ、そこは認めるんだな!」


 悠長に喋りながらもスオウの動きは忙しない。

 またしても縦横無尽に空間を跳ね回るピンボールと化しやがった。


 人間に化けてない今、その加速具合はさらに向上し、早々に【明鏡止水】でも見えなくなっちまった。宙空すら足場にできるもんで跳ね方もより細かくなってるようだ。


 残像の線が幾本も俺の周囲に現れては消えていく……ああ、無理だっての。こんなんもう捉えられるわきゃねえだろうがよ。


「――【金剛】発動」


「むっ!」


 だが構わんさ。しこたまぶたれたことで思い付いたことがある。つーよりも、思い違いに気付いたってところか。


 速さに速さで対処しようとしたのがそもそもの間違い。

 なまじっかさっきまではギリギリとはいえなんとか動きを追えてたことと、武器を手にしていたせいで発想が行き詰まっちまってたんだ。


 ――速度じゃ到底叶わなくたって、俺にはスキルがある。

 皮肉なことに露骨な警戒を見せたスオウの態度が最大のヒントになったぜ。


「またその硬くなるスキルか! だがオイラ、見抜いてんぜ? それをしてる間お前は動けないってことに!」


「……!」


「そうとわかってるんなら中断する必要もないぜ、力いっぱいにそのスキルごと潰す! 釈迦力ぃ――」


 壁や空中を蹴る音が力強くなった。デカいのを狙ってるな。俺にその一撃を防ぐ手立てはない……だがそれでいい。防ごうなんて思っちゃいない。むしろその瞬間を心待ちにしてるくらいだ。


 勝負は一瞬。いつ攻撃が来てもいいように腹は据わらせた……! 


 どっからでも打ってきやがれ!


「『大説破』ぁ!」

「……!!」


 目に映らないほどの速度での接近、からの勢いをまったく殺さない手刀打ち。だがスオウのそれは打撃ではなく斬撃に等しい鋭さがある。そんなもんをこれだけの高速度でぶつけてくるんだから空恐ろしい。


 ギッィィイイイイ――ンッ!! と、耳の奥を突き刺すような高音が響き渡る。


 ぐらりと【金剛】越しでも体と意識が根本から揺らいだ――が、どうにか耐える。耐えなきゃいけねえ。


 ここが踏ん張りどころだ、何故ならこのスキルは……俺自身が直に敵と触れている際にしか発動できねえんだからなぁ!


「【接触】発動……!」

「うぁっ……?!」


 恐怖効果を与える【接触】のスキル! わかってるぜ、逢魔四天相手にこんなもんはその場しのぎにもならねえってこたぁよ。


 だがほんの一瞬でいいんだ。スキルLVも上がったこいつならたったの一秒未満だけでもいいんでスオウの動きを封じることができるんじゃねえかと賭けてみた――結果は大成功。


 【金剛】の解除で動けるようになった俺とは反対に、スオウは足が止まっている。


「こん、なん……!」


 ちっ、だがやはり攻め時と言うにはあまりに短い。もうスオウの目は正気を取り戻してる。殴るために腕を引く時間すらもない。


「んんっ……!」


 だから俺はとにかく腕を、手を前に出して。


 野郎の剥き出しの黒い胸に重ね置いた。


 なんの攻撃にもなってねえその動作に、スオウの目に疑問が浮かぶのを見ながら俺はスキルを発動させる。


「【呪火】!」


「うっ……ぎゃぁあああああああッ!!」


 喉が引き絞られたような痛切な悲鳴。それはもちろん、スオウの口から飛び出たもんだ。


 絶叫するのも無理はねえ。

 逆なら俺だって叫んでる。

 スオウよりもよっぽど情けねえ泣き声……いや、鳴き声を出す自信があるぜ。


 なんたってスオウは、火を纏った指でその胸を奥深くまで抉り取られてんだからな。


「あ、あづい……痛い!! なんだこの黒い火は!? オ、オイラの肉体がこんな簡単に傷付くはずがねーのに……ぎぃっ!」


「呪いの火だ。まだLVが低いせいか指先分しか灯せねえが、今の距離ならそれで十分だったな……。どーだよ、生身にゃかなりこたえるだろう」


「の――呪いの、火!」


 雷属性と死属性が混合してる【黒雷】のように、一見すると【呪火】も火と死の組み合わせのように思えるが、こいつは純粋な死属性のみのスキルだ。

 だから正確には呪いの火というよりも呪いそのものが目に見える形になってると言ったほうがいいのかもしれん。


 SPのコスパは【黒雷】に比べていいとは言えんが、そのぶん強力だぜ。こいつの何が良いって、多少の防御や硬さくらいなら物理的に突破できるって点だよな。


 そのおかげで。


「血ぃ……流れてんな、スオウ」

「……っ?」

「エニシやシガラは身体が泥で出来てたが、てめえは違うと」

「何を、言いたいんさ」

「いやなに。魔族だかテンマだか知らんが、血が通ってんならよ……俺には好都合だってことだ」


 逢魔四天にゃ使える機会もないかとほとんど諦めていたあのスキルが、今なら活きる。

 俺が持つ戦闘向けスキルの中でもとびっきりにえげつないアレがな。


「――【血の簒奪】を発動するぜ……!」


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