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219.ついてこられるんか?

「あ? 何を笑ってやがる」


「だってよ。急にお前の体がカチコチになったのも、縫い付けられたようにオイラの足が動かなくなったのも、スキルを使ったからなんだよな? 来訪者なんだもんなぁ、ゼンタは」


「けっ、それがわかってんなら俺が何をしようとしたのかも大方わかってんだろ」


「だから油断ならないって言ったんさ」


「はあ……?」 


 てっきり作戦失敗をあげつらってるのかと思いきや、どうもそんな雰囲気じゃない。スオウは本気で俺に対する警戒度を引き上げているようだった。


「魔法には対処法がある。火には水、雷には土、闇には光。魔法の大半を占める攻撃用の物はもちろん、それ以外にも。それを知識と経験が後押しをするよな」


「……、」


「『防ぎようがない』。スキルの怖さってのはそこにあんだ。それが来訪者の怖さでもある。こっちの知識になく対処のしようもない特殊な術。来訪者ごとにスキルの種類は数多く、強弱は幅広い。だけどそれも厄介さの手助けになってるんさ。スキルを持たない身からするとそのせいでいつまで経っても対処法を確立できないんだからな」


「お詳しいじゃねえか。シガラやエニシにゃそこまでの見識はなかったぜ」


「にしし、これは来訪者本人にゃ釈迦に説法だったな! でもオイラが怖がる理由もはっきりしたろ? 今のは何かが上手くいかなかったみてーだけど、バッチシ決まってオイラがやられてた可能性だってあるんだ。誘われてまんまとスキルを食らっちまったのは事実。逢魔四天の中じゃ最もスキルの怖さを知ってるはずのオイラでもこれだ、だから怖い。だから――油断はしねーよ?」


 ぐっ、と全身に力を溜め込むようにしたスオウ。


 その姿を見た途端に、引き金に指のかかった拳銃を向けられてるようなプレッシャーを感じたぜ。まさしく弾丸のような速度で駆ける奴にはピッタリの表現だろうよ。


「会話中に体の力が消えるのは、スキルの節約のためなんか? だったらそれはもうオススメしない。ここからは常に全開でいたほうがいいぞ」


「……!」


 スオウにはSP節約の概念まであるのか……。


 いや、魔力だって使い方は似たようなもんなんだから、来訪者についてある程度知識を持ってればこれくれぇはごく普通の発想だとは思う。


 思うがしかし、それを身体の強張りから見抜くってのがちっとも普通じゃない。


 黒いオーラが出るせいで傍目からも発動がわかりやすい【死活】ならまだしも、こいつの言いぶりからすると指摘してんのはむしろ【超活性】のほうだと思われる。


 ――ちっ。油断ならねえってのはこっちのセリフだぜ。


「仕方ねえな……」


「んっ?」


「さっきから使ってる【死活】はスキルを強化するスキルだ。単発式のスキルを対象にするなら【死活】のほうもSP消費は一括前払い。【武装】で出した武器とか【召喚】で呼んだ仲間を強化する場合がそうだ。ただ継続型の【超活性】は時間経過でSP消費が伸びていくタイプだ。それを強化するとなると【死活】もその形式になっちまって、すげー嵩む嵩む。HPほどじゃなくてもSP総量だって順当に増えてんのに、節制の気構えがなきゃやってらんねえよ。連戦なら特にな」


「……それをオイラに言ってどうするんさ?」


「いやなに。人間側に潜入なんつーやってたこととは裏腹に、てめえの戦法は引くほど単純だからな。俺のほうも手札を明かしたほうがスッキリ戦えるような気がしてよ……ほら、噛み合うんじゃねえかって」


「……にし! おかしなやつだなぁ、自分を追い込んだだけじゃんかよ。まさかそれでオイラの速度についてこられるんか?」


「そんじゃやってみようか――【死活】・【超活性】!」


 俺がスキルを使用すると同時にスオウも動いた。溜めた力を爆発させるような挙動で、今度は直線の軌道。つまりは真っ直ぐの最短、最初の俺の攻撃をなぞるように攻めてきた!


「づぅァ!」


 ただ突っ込んでくるだけだってのに、先制はできない。

 戦斧を前に出すことすら間に合わずにがつんと拳を食らった。


 だが身体強化は万全だ、【金剛】には及ばんがダメージは安く済んでる。おかげで体勢も大して崩れちゃいねえ。


「っらぁ!」

「ししっ、ハズレ!」


 残念ながら反撃も間に合わなかった。


 短く持ってとにかく速さを最優先にしてみたが、大振りだろうが小振りだろうがそう変わりはねえみてえだ。


 スオウのいた場所を戦斧の刃が横切る頃には、あいつはとうに飛び退いて俺が攻撃する様を悠々と眺めてやがんだからたまらねえ。


「にっしし、だけど目だけはちゃんと追ってくるな! そんならこういうのはどうだ!?」

「!」


 地を蹴ったスオウが壁に足をつけ、そこをまた蹴った。次に天井、地面、壁――とまったく止まることなく跳ね続ける。そしてその速度はどんどん上がっていく。


 人間ピンボール! 

 野郎は人間でこそねーが人型のもんがちっさなボールよりも速く、それもこんな広い場所を跳び回ってる様は圧倒されちまうものがあった。


 縦横無尽の乱反射。【明鏡止水】の集中力でしばらくはその軌道を追えてた俺だが、ふっとその影が霞のように消えて。


「ッガあっ!?」


 気付けば次の瞬間ぶっ飛ばされていた。

 しかもまた正面から、ただ思い切り突っ込まれただけ。

 それなのに俺は一切反応できずにやられた。


 今になって【察知】の警告と、奴の移動速度が生んだ突風を肌で感じているくらいだ……殴られ終えてから知覚したって遅いんだよ、こんちくしょう!


「ぐ、こなくそがっ!」


 空中で姿勢を入れ替え、着地。と並行して戦斧を盾として構える。


 途端にガィン! とそこに何かがぶつかってきた。


「おっ……」

「また正面か。思った通りだぜ――【黒雷】!」

「っぎ?!」


 睨んだ通りこいつには上があった。スオウの機動力は確実にさっきよりも速い。


 だがそれを誇示するかのように、もしくは当てつけのように二連続真正面からっつー愚直な攻め。となれば三度目もあるんじゃないかと疑うのは当然のこと。


 山勘めいたガードは成功、初めてまともに奴の攻撃を防ぐことができた!


 そして防御した瞬間だけは野郎が目の前にいる。

 すかさず戦斧に【黒雷】を纏わせれば、そこに接してる拳から腕を伝ってスオウの肉体へダメージが行った。


 物理的な威力を欠いちゃいるが、雷属性と死属性に同時に襲われたことでスオウの技後硬直が長引いた。


 ――僅かだろうと微かだろうと、俺にとっちゃそれは攻撃のためのデケぇチャンスが来たことを意味する。


「【死活】!」


「!」


 戦斧を構え直す暇はねえ! 少しでも動けるようになればスオウは俺の手の届かない場所へ消えちまう。その前になんとしても!


 この握り拳を全力で叩き付ける!


「【黒雷】!!」


「ッ……!!」


 片手を戦斧から放し、素手でぶん殴る。

 【黒雷】を乗っけた打撃はスオウの顔面へヒットした。

 顔の中心に食らってかなり痛そうだ――へっ、さっき蹴られた鼻っ柱のお返しだぜ。


「そして今ぁ! 足が浮いてちゃ自慢の脚力も活かせねえだろ!」


「!」


「【黒雷】――『パワースイング』!」


 振り下ろしのギミック攻撃と合わさった【黒雷】は本物の雷のような轟音を響かせながらスオウ目掛けて落ちた。


 俺なりに最速で攻撃と攻撃を繋いだつもりだ。足場がなくっちゃさしもの奴だって避けようがねえ、そう思ったんだが。


「っ、今のを躱すかよ……どうやって!」


 手応えなし。強烈に地面を叩いたっていう感触だけが残っている。


 どうやって、とは自分で言ってて虚しい言葉だ。俺は野郎がどう躱したかを【明鏡止水】でしっかり目撃したってのに。


 間違いねえ。

 見間違いなんかしねえ。


 あいつは今、確かに何もないところを蹴って……宙を蹴って移動した!


「おっとおっとぉ。まさかこの姿にさせられちまうとは。ああでも、いいのか。もう人間らしく化けてる必要なんてないんだもんな。うん。だったら構いやしねえや――」


「てめえ、その姿は……!」


 刃から逃れて離れた位置に立つスオウ。その外見には大きな変化があった。


 浅黒い褐色の肌が、黒みというより暗みを増した暗色に。

 それとは逆に黒々としていた髪が、渇いた砂のような白に染まり。

 目の色も反転し、黒に囲まれた白い瞳孔がまるで夜空に浮かぶ月のように。


 どっからどう見ても人間じゃないことが……野郎が魔族であることが一目瞭然にわかる出で立ちになっていた。


「――テンマのスオウ。これがオイラの本当の姿さ、ゼンタ」


 より目立つようになった揃いのいい歯をニッと覗かせて、凄みまで増したスオウは。


「油断なく。そのうえ全速力でも危ういってんなら……オイラだって本気だぜ」


 そう言ってこの戦闘において初めて、戦うための構えってもんを取った。


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