218.馬鹿みてえに跳ね回りやがって
「ん~、遅い遅い! 遅すぎんさゼンタ! そんなんじゃあオイラにゃ指一本触れられやしないぞ!」
「ちっ、てめえに言われんでもわぁってんだよそんなことは……!」
っと、落ち着け落ち着け。
敵の言葉に熱くなっちゃいけねえよ。
俺は怒りをエネルギーに変えられる性質だが、常に頭をカッカさせてたら勝てるもんも勝てなくなる。大して良くもねえ脳みそではあるが、それでも毎回俺なりに考えながら戦ってるもんでな。
思考能力が落ちるのは非常によろしくねえ……それも特に、こんなヤベー奴が相手ならな!
「なるだけ冷静に探すとすっか。勝つための方法ってやつをよ」
『シバ・ゼンタ LV62
ネクロマンサー
HP:409(MAX)
SP:364(MAX)
Str:395
Agi:344
Dex:336
Int:1
Vit:295
Arm:265
Res:204
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV4】
【超活性:LV2】
【心血】
【明鏡止水】
【察知:LV5】
【EXP取得量微増】
【EXP取得範囲拡大】
【技巧】
【死線】
【環境適応:LV3】
【金剛】
クラススキル
【武装:LV5】
【召喚:LV8】
【接触:LV4】
【契約召喚:改】
【血の喝采】
【偽界:LV3】
【死活】
【死の祝福】
【死の逢瀬:1】
【黒雷:LV5】
【亡骸】
【呪火:LV1】』
俺が地面に手をついて蹲ったままでいると、スオウも頭の後ろで手を組んで余裕綽々の態度を見せる。襲ってこない。立ち上がるのを待ってやるよって面してるぜ。
そのにやけた顔に今すぐ一発ぶち込んでやりたくて仕方ねえが、わざわざ時間をくれるってんだからそれを台無しにするこたぁねえよな。これでじっくりと確認ができるぜ。
顔を蹴られたせいで足に来ている風を装って、こっそり今の俺のステータスを出して眺めてみた。
む……5レベルの上昇にしちゃどのステータスもかなり上がってるな。げーむによっちゃもうクリア後並みのステになってるぜ。
んで、今着目すべきは走力や機動力、素早さに関わるAgi……確かアジリティだったか。こいつだ。
よく伸びてるHPやStrに比べると見劣りはするが、俺のAgiが特別低いってことはない。むしろ順調に育ってる部類だろう。【超活性】や【明鏡止水】の補助ありきとはいえ逢魔四天ともまともに戦えるようになってるくらいなんだ、まず間違いなく俺が鈍いんじゃあない……、
――スオウが速すぎるんだ!
速いだけでてんで攻撃が軽いってんならまだマシだったが、一度目の蹴りも二度目の蹴りも威力はちゃんとあった。察するにスオウはまだまだ本気を出しちゃいねえってのにだ。
威力だけじゃねえ、速度も。
こいつにはもっともっと上があると。
俺の喧嘩勘がそう警告をしてきやがるもんでな。
「だが手がねえわけじゃねえ……、」
「おっ、立ったか。考え事は終わったんか?」
「おかげさんでな」
落ち着いて考えたことで策もまとまった。
そうだ、俺にはあの手があった。
ここで狙うは【死線】と【亡骸】のコンボ!
あれならどんなに速ぇ奴だろうと射程内に捉えられる!
……んだが、さっき【亡骸】は消費しちまったからな。どんな攻撃からも逃げられるだけあって、このスキルにゃ日に一度という使用制限があるってことを俺は忘れちゃいない。それでシガラ戦でもギリギリまで温存してたんだからな。
つまり攻撃を無効化しながら敵の懐へ瞬時に移動する例の強力コンボはもう使えない。
しかし【亡骸】なしでも【死線】は機能する。
発動のために一発は受けなくちゃならねえが、このすばしっこい敵を目の前に釘付けにできるのは大きいぜ。
HPが犠牲になるってのはネックではあるが、もしかすっとそっちも解決できるかもしれない。
この新スキルならな。
『【金剛】:その体は難攻不落の要塞の如し。あなたを襲う剣は折れ、牙は砕ける』
「目に力があんなぁ、ゼンタ。何か狙ってるっぽいが上手くいく自信はいかほどなんさ?」
「さぁて、試してみねえことにはなんとも」
「にし! ならサービスすっぜ。思う存分試させてやる!」
「――!」
消えた。地面を蹴る瞬間はギリ見えたが移動速度がヤバい、どっちへ行ったのかが捉えきれなかった。
超高速で周囲を飛び回ってるらしいスオウの企みは、ろくに見えやしなくたって一目瞭然。
いつどこから攻撃が飛んでくるかわからねえようにしてんだ。
俺の狙いってのがそれでも通るかどうか、と。なんてこたねえ。野郎のほうが俺を試してやがるってわけだ!
「馬鹿みてえに跳ね回りやがって……毬かてめえは!」
「そりゃオイラについてこれないって言ってるようなもんだぜー?」
けっ、腹立たしいがその通り。【明鏡止水】が体感時間いっぱいに引き伸ばしても追えるのはスオウの影だけだ。元祖スキルコンボである【集中】と【活性】がさらに進化してるってのにこれとは、まったく恐れ入った。
「【死活】発動!」
「!」
常時発動型……カスカの言うところのパッシブスキルってのに変化したせいで、【明鏡止水】は【死活】による強化ができなくなった。
よくやる【黒雷】とか【超活性】以外にも【察知】や【SP常時回復】みてーな強化しときたいスキルはいくらでもあるんだが、それは【死活】の仕様上できないようになってんだよな。
なんで、SP消費がなくなった代わりというか弊害というか、前はやれてた【集中】と【活性】をどちらも強化して最強状態! みたいなことはもう叶わねえ。
しかしそれを補って余りあるほどの性能が【明鏡止水】と【超活性】にはある……強化できるのが片方だけになったとしても、ちっともパワーダウンなんかしちゃいねえぜ。
「にししっ、黒いオーラ! そいつはなんだかおっかねえな。でも――」
「っ! うらぁ!」
野郎が攻めに出た。【察知】で攻撃の気配を辿り、そちらへ戦斧を振るう。肉体の反応速度が上がったことでそれはどうにか間に合った。
が、しかし。
「また空振りだと!」
「ほらな、追い切れねえ。こけおどしだそんなもん!」
躱されちまった――だがそれもそうだ。気配を頼りに反撃を置いとくことができたって、そりゃ当てられはしねえわな。奴からすりゃそれを見たあとから進路を変更すりゃ済むんだから。
そもそも動く速さが違いすぎるからこうなる……やっぱスオウの足を止めねえことにはどうにもならねえと、戦斧を掻い潜って肉迫してきた野郎のけったいな得意面を見て理解した。
調子乗りやがって、俺が試すのはこっからだぞ!
「【死線】・【金剛】!」
「あらよっと! ――んっ?」
スオウの攻撃とスキルの発動は同時だった。
【金剛】で俺の肉体が硬くなったことと、【死線】のせいで俺の前から動けないこと。ふたつの違和感でスオウの表情は怪訝なもんになっている。
絶好の攻めどころ。
今戦斧を振れば確実に当たる。
――なのに俺はそうすることができなかった。
「っとと、なんだなんだ??」
【死線】での引き付けは一瞬しか持たねーんで、スオウはあっさりと俺から離れてった。せっかくのチャンスを逃しちまったが、そのことよりも。
「あー、くそ。こりゃ駄目かよ」
ちょいとがっくしな結果だぜ。新しいコンボを試したことで問題点が見つかった。
まず【死線】なんだが、これは本来遠距離攻撃をしてくる相手。つまり手の届かない位置から一方的に攻撃してくる敵を目の前に呼び寄せるスキルだ。それを至近距離にいる敵に使った場合、俺が食らうのと引き寄せの発動の間隔がゼロになっちまって……めっちゃ使いづらいってことがわかった。
まーこれはその感覚を掴んで食らいながらでも攻撃すりゃいいことで、要は俺の根性次第でカバーできる部分ではある。
もっと問題なのは【金剛】のほうだ。
このスキル……使うと動けねえ!
いや、ちっとも動かんってわけじゃねえんだが、極端に動きにくくなる。本当に金属の塊にでもなっちまったかのようにスムーズな駆動ができなかったぞ。
俺のほうがマジで鈍間になっちまってどうすんだって話だ、これじゃ攻撃が間に合うはずもねえ。
――【死線】・【金剛】のコンボは実質不可能。
それが判明しただけ収穫っちゃ収穫だが、【死線】単体でもスオウの打撃が重くて用をなさねえっつう難儀な状況になった。
頼みの綱があっさり切れちまった。
気落ちってほどじゃねえがガッカリする俺。
けれど、実験は見事に失敗だったってのにスオウは少し様子が変わっていて。
「……にししし。やーっぱ油断ならねえよなぁ」
『シバ・ゼンタ LV57+5
ネクロマンサー
HP:355+54
SP:312+52
Str:342+53
Agi:294+50
Dex:287+49
Int:1+0
Vit:247+48
Arm:228+37
Res:169+35
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV4】
【超活性:LV1】+1
【心血】
【明鏡止水:LV1】
【察知:LV5】
【EXP取得量微増】
【EXP取得範囲拡大】
【技巧】
【死線】
【環境適応:LV2】+1
【金剛】New!
クラススキル
【武装:LV5】
【召喚:LV7】+1
【接触:LV4】
【契約召喚:改】
【血の喝采】
【偽界:LV3】
【死活】
【死の祝福】
【死の逢瀬:1】
【黒雷:LV4】+1
【亡骸】
【呪火:LV1】』




