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211.僕が上、貴様が下

「フぅー……さあ、闘ろうか」


「……、」


 明らかに変わった野郎から滲み出るオーラの質。それが伝えてくるもんがある。


 へばりついてくるようだったプレッシャーが、叩き付けるようなそれになった。もはや搦め手はない。おそらく今のこいつは俺と同じ、インファイトのみにステータスを割り振っている!


 トントン、と軽く地面を蹴るその仕草。残した足の重心。自然体に握られた両拳……ヤバいな。とんでもなく動けるぞこいつ。


 元からフィジカルも強かったシガラだ、この究極戦闘形態スーパーマッチョモードだともう手が付けられねえんじゃねえか?


 だが、そうだとしてもだ。


 俺のやるこたぁさっきまでと一緒。

 どうせ距離をなくさなきゃ戦えやしねえんだ。

 能力使わずに奴さんから近接戦に持ち込んでくれるってんなら大歓迎だぜ。


 とはいえ長物で相手すんのはちとキツそうだな。ゴリラ以上にゴリラしてるあの体格でも野郎の身が軽いことは、細かい所作でわかってる。だったら――。


「【死活】・【超活性】!」


「!」


 こっちも素手で迎え撃ってやるよ。


「俺ぁもう、最後の最後までスキルを解除しねえぞシガラ」


「ソうだ。貴様にはそうする他ない。その技はリソースを削る類いのものなんだろうが……憂うことはない。どのみちそれより早く決着はつく」


「……!」


 シガラの言ってることは当たってる。


 【活性】が進化した【超活性】。

 スキルの名前まで変わったその成長によって得られたもんは大きい。


 まず【活性】だと長く使用すればするほど伸びたインターバルが消えた。一呼吸だ。解除してもたったそれくらいの間で再発動が可能になったんだ。

 何気に戦闘中、いつ発動するかタイミングを計算しなきゃならねえのは負担になってもいたからな。こいつは助かったぜ。


 次にSP消費の形式だ。利用分を一括前払いから時間経過で減っていく仕様に変更された。インターバルがなくなったことと合わせてよりフレキシブルに使えるスキルになったと言えるだろう。

 つまりは実戦向きってこったな。


 だが俺にとっての最大の変更点が、発動におけるSP消費の割合だ。増えた。かーなり増えた。同じ時間で計算すると減る量が前の倍くらいになってる。


 総SP量もレベルアップに応じて増えてるんでゲージの減りだけだと判断すんのが難しいが、【活性】は一番重用してるスキルなもんでその感覚は体に染みつくように馴染んでる。おそらく計算は間違ってはねえはずだ。


 俺には【SP常時回復】のスキルもあるものの、【超活性】使用中はギリ減ってくほうが早い。この状態で他のスキルも使えばそりゃーもうバリバリにSPバーは縮んでく。


 リソースを削るってのはまさにその通りで、シガラは的確に俺の懐事情を把握してることになる。


 ……ま、それも当然だ。

 こんだけ戦り合ってりゃ自ずと敵の呼吸ってのも読めてくる。

 それは俺からしても例外じゃねえ。


「けっ……まだなんもしてねーのに呼気が乱れてやがんな?」


「! ……、」


「どうやらリソース削ってんのは俺だけじゃあなさそうだ」


「クく、クくく」


 シガラは笑うだけだったが、その態度が十分に答えだ。


 奥の手と称すだけあって、マッチョ形態はシガラにとってもそう容易く維持できるもんじゃねえってことだろう。


 見た目はもはや別人だしな。体付きだけじゃなくて顔付きまでエグいくらいに変わってる。これだけの自己改造はさすがに負荷も軽くないってな。


 ――そのぶん、奴の肉体強度は凄まじいものになっちまってるだろうがな。


「オ互い様、か。僕と貴様にはやはり、大した差などナいというのか……?」


「! ……ああ、そうだな。意外なことに」


 初めはちっともそうは思わなかったが――本当に意外なことに、こいつと俺は気が合うかもしれん。


 互いの考えが筒抜けなせいでどちらかの立場が違えば、ひょっとしたら。ダチだったかもしれねえと。根拠もねえのになぜかそんな考えが浮かんじまったよ。


「ソれは、我慢がならないな。貴様のしぶとさ。それを強さだと認めることはしても、同等などトは思わない。魔族が、人間を、そう思ってはならない。――僕には使命がある」


「使命……それが魔皇の下についてることと関係あんのか」


「フん、言ったところでわかるまい。それこそが僕と貴様の差。それのみが異なる……決定的に。ならば示そう。この戦いを制することで証明すル。僕が上、貴様が下なのだと!」


「残念だがそりゃ無理だ。勝負が終われば、お前は這い蹲って俺に見下ろされることになる」


「ハ――行くぞ」


「おう、来いっ!」


 一瞬の間。仕掛けるか、迎えるか。ちらりとでも考えたのがマズかったか。


「ッ! 消え――」

「ハぁっ!」

「がッ……!」 


 側頭部テンプルにモロ食らっちまった――見えなかった! 【明鏡止水】があるのに! 【察知】も攻撃を知らせてたのに!


 それでも反応できなかった!


「フぅん!」


「ちっ、この……ぐはっ!」


「鈍い! オぉおっ!」


「か……ッ、」


 容赦なしの連打。全部がテレフォンパンチ。フルスイングの拳ってのは力が乗ってるぶん避けられやすくもあるはずだが、とても躱せやしねえ。身を守るので精一杯だ。


「ぐう……!」


 だが防御も完璧とはいかん。


 打撃がハード過ぎる! 


 最初に頭に食らっちまったのが痛い、気合で意識を保ったが確かに気が遠くなりかけた。その余韻がまだ続いてるせいできちんと受け切れずに足がふらつく。すると次の拳がさらに苦しくなる。


 こいつは悪循環の連鎖だ、このままじゃすぐ限界がきちまう!


「【黒雷】ッ!」

「!」


 悪い流れを断ち切るには攻めに転じるしかない。強引でもいいから手を出すんだ。俺は遮二無二、黒い雷を乗せた拳をシガラの殴打のひとつへとぶつけた。


「ヌ……!」


「っぎ……!」


 互いに腕を弾かれる。互角……いや俺のが多少押され気味だったか? 連打のうちの一発に渾身の一発で打ち負けるとは冗談じゃあねえぜ。


 やっぱこの姿のシガラを勢いづかせちゃいけねえ――無理矢理だろうと流れは貰う!


「【黒雷】蹴りぃ!」


 途切れたラッシュ。その刹那を逃さずに差し込む。上段蹴りが野郎の顎を捉えた。ばっちりの感触だ、なのに。


「カあっ!」


「ごふ……ッ、」


 か、返してきやがった! 

 装甲もなくなり丸出しの急所に【黒雷】の蹴りを受けたってのに、即座に反撃してくるとは!


 っ、そうか、そもそもこいつの体に急所云々の常識を当てはめんのが間違いか。傷を負っても瞬時に治せるような奴だ。しかも今は生身は生身でも内側から肉体を弄ってもいる。


 全身丸ごと死角なし。

 そう思って殴り合ったほうが良さそうだな……!


「【死活】・【技巧】!」


「っ!」


「五連【黒雷】!!」


「ヅぅあ……っ!!」 


 こちらも負けじと殴られた直後に大技を返してやった。


 五連撃の強化【黒雷】! 


 急所を攻めても効果がねーってんなら、真正面からぶち破るまでだ!


 さすがに効いたか、今度こそシガラの連打は終わりを迎えた。だが、ほんの僅かに後退しただけ。俺の最強の攻撃はそんだけしか野郎に影響を与えられなかった。


「ちっ、さっきはこれで装甲の上からでもぶっ倒せたってのによぉ。どんだけ頑丈になりゃ気が済むんだ、てめえは」


「コっちの台詞だ……貴様こそ尻上がりニ調子づいていくじゃないか。何をやっても食らいついてくる。まるで悪夢だよ」


「へっ、夢見が悪いってか。なら目ェ覚まさせてやろうか?」


「イいや結構。代わりに貴様を眠りにつかせる……この手で未来永劫ノな!」


 シガラが逞しい腕を振りかぶる。やはり速い。だが何度も殴られたことでちったぁ目も慣れてきた。どうにか動きが追える。


 まだ回避できるほどの余裕はないが、しっかりガードするくらいのことはできそうだ――。


「……!?」


 そう、見えた。見えちまった。発射直前の矢のように引き絞られたシガラの剛腕。その肌の色が浅黒く変色していくのが。


 ぎゅうっと中身が詰まるように。何かが極限まで凝縮されるように。

 ただでさえみっちりと詰め込まれているシガラのボディが、より一層。


 右腕だけに得体の知れない力が集っていく――俺の目はしかとそれを捉えちまった。


「う、お、お――!」


 ヤバい。何かはわからんがとにかくヤバい!

 スキルなんざなくたって生存本能がそう騒ぎ立てる……!


 直感に従い咄嗟にガードの姿勢を変更した、その瞬間にそれは来た。


「ヌぅぁああああああぁっっ!!」


「ッ…………ッッ!!!」


 雄叫びとともに繰り出された、その単純な右のストレートによって。


 防御も虚しく、まるで俺自身が射られた一本の矢になったかのような速度で激しく吹っ飛ばされた。


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