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207.死んでいったやつらの無念を知れ

「くっ……!」


 また足を捕まえられちまった。足首から下が地面に沈んで動かせない。


 パワースイングで足元を崩せば逃げるこたぁできるが、そうするためにはまず……目の前のシガラをどうにかしなくっちゃあな!


「地面より先にてめーを砕いてやる!」

「させるとお思いで?」

「にっ?!」


 がっしりと何かに腕を掴まれた。見てみりゃそれはドラッゾを縛り付けてるのと同じ、紐状に伸びた土。両腕に何本も巻き付いたそれのせいで俺は戦斧を振るうことができなかった。


「細く伸ばすと動かすのが速ぇな……! だがこんなもん!」


 スキルの効果で拘束の緩い俺は腕に力を込めることで紐土を引き千切ることができた――が、それによって生じた間はシガラにとって垂涎の付け入る隙になった。


「そこ!」


「がふっ……、」 


 頬をぶたれる。


 プロテクターを嵌めたシガラの殴打はやはり痛ぇ。本当なら大きく吹っ飛ばされてただろうが足が固定されているせいでそうはならず、俺はまるで自立型のサンドバッグみてーにシガラの前に戻って反対の頬へ二発目を浴びた。


「がっ……てめ、っウ!」


「ですから、させませんと――」


 なんとか反撃してやろうと戦斧を持ち上げたが、ボディが開いた瞬間に腹へ拳が突き刺さった。また誘われた!


 胃の中のもんがせぐり上がってくる。

 いや、これは内臓そのものが飛び出しそうになってるのかもしれねえ。


 そう思わせるだけの威力がシガラのパンチにはある。


「――申し上げているのですがね。随分と耳が遠いご様子。……顔を上げなさい」


「ぐぅ……、」


 痛みで頭が下がったところを、髪を引っ掴まれて無理やり上げられた。強制的に目と目を合わせられる。


「虫けらも同然のあなただ、ちゃちな希望なら抱くべきではない。粛々と頭を垂れて死を受け入れていればよかったものを……無駄な抵抗と挑発を繰り返した挙句に仲間共々惨たらしく死ぬ。なんと哀れなことでしょうか。あなたは僕を怒らせてはならなかったんです。今なら考えなしの頭でもそう思えるのではありませんか?」


「…………、」


 こいつ……俺に後悔をさせたがってるのか。

 これまでの言動を心から悔やみ、謝罪の言葉を口に出させようとしていやがる。


 こんなことを言うあたりまだ怒りの熱は冷めきっちゃいなさそうだ……だが俺たちをやり込めたことでいくらか冷静になってんのは確かだ。荒れてた口調も元に戻っちまってるしな。


 ちっ、策は失敗か。

 シガラは怒ってもそれが原因でミスするタイプじゃあねえ。


 きちんと感情と思考を分けて動ける奴だった……だからあんだけ激昂していても戦闘にゃ影響らしい影響も出なかったわけだ。


 残り四割弱。レベルとステータスが大幅に上がったことでだいぶ頑丈になったはずの俺だが、こんだけ食らえばHPもさすがに危険域に入ってきた。


 やっぱ逢魔四天は強ぇ。

 エニシに何度も殺されかけたことでそれは身に染みて知っていたはずが、それでもまだ俺の想定は甘かったらしい。


 シガラは強敵だ。


 状況もエニシ戦のときとは大きく異なり、出し惜しみを考えちゃいらんねえ場面。


 こうなったら仕方ない。できればここぞっていう最後の攻め時にこそ使いたかったんだが、もう四の五のと言える時間は過ぎちまってる。


 そう決断を下した俺は、真っ直ぐシガラの目を見返した。


「後悔なら俺ぁいくらでもしてるぜ」


「ほう、どのような?」


「今朝食ったトーストをよ。もっとカリッと焼き上げたほうがよかったんじゃねえかってな。普段あんまりパン食わねんでオーダーを間違えた感がある」


「……はい?」


「あとアレだ。お前の姉ちゃんな。トドメを刺す前にあいつの仕出かした所業をもっと後悔させりゃあよかった、ってのも俺の後悔だ。もっともっと苦しませるべきだった……これからお前がそうなるようにな」


「…………!」


 シガラの目付きが変わり、髪を掴む手に一層の力がこもった。かなりの激痛がする。俺が来訪者じゃなけりゃとっくに頭皮を持っていかれてたかもな。


「この期に及んでまだ御託を並べるとは……呆れた卑しい性根だ。腐臭がする、腐っている! よっぽど無惨に殺されたいか? ならば望み通りその願いを叶えてやろう!」


「てめえなんぞに叶えてもらう必要はねえなぁ。俺の望みは自力で成し遂げっからよぉ! とっておきをくれてやるぜ!」


「む!?」


「【死活】強化――【超活性】を発動だ!」


 全身に溢れ漲る活力。【活性】の進化スキル【超活性】。さらにそれを【死活】でパワーアップさせている。今の俺は戦いの権化だ。


 埋もれた足首もなんのその。

 踏み出した一歩はいつも通りに持ち上がり、地を踏みしめた。

 この状態でならちょっとした拘束なんて無意味に等しい。


「なっ――」


「おぉっらぁ!」


 距離が近すぎるんで戦斧を消して、素手で殴る。


 お返しに横っ面をはたいてやれば俺の変貌に目を奪われていたシガラは綺麗にぶっ飛んだ。


 手足に装着した防具で野郎の体重はかなりのもんになってるはずだが、【超活性】中の俺にとっちゃそれも誤差みたいなもんだった。


「おっと、しまった。【黒雷】で殴ってやりゃあよかったな」


 そうすりゃ大打撃だったのに。やり返そうと気が急いてうっかりしてたぜ。


「まぁいいか。お前も思い切り頼むぜ。【死活】発動、対象はドラッゾ!」


「グララァッ!」


 バギン! と両腕と翼をぐるぐる巻きにしていた紐土の束をドラッゾはあっさりと破壊した。その全身には俺と同じく黒いオーラが纏われている。【死活】の強化の証だが、客観的に見て禍々しさがハンパじゃない。


 やっぱネクロマンサーのスキルってのは悪役めいたもんばっかりだ。けど構わねえ。それで本物の悪を討てるってんなら俺は喜んで邪悪にもなろう。


「なんだその絵に描いたような強化は……! 舐め腐っている! 来訪者だかなんだか知らないが、ふざけているとしか言えない。ゼンタ、お前ごときがその力で大きな顔をして! 大きな口を叩くのは! 魔皇軍として許してはおけない!」


 立ち上がったシガラにも変化があった。プロテクターの数だ。両手足だけにしか付けてなかったものが全身に広がっている……あれじゃもうプロテクターってより鎧だな。それもどことなく意匠が甲冑を思わせる。


「完全武装ってわけか……いい勝負になりそうだな」


 だが見た目に惑わされちゃいけねえ。

 というより、見た目だけに注目しちゃいけねえ。


 あいつの偽界の本領は武器作りより地形操作にある。シガラの動向だけを見てたら文字通りに足を掬われることになる……。


「勝負だと! 愚昧め、これはそんなものじゃあない。処刑だ! 一方的な断殺なんだ! これより僕は徹底的に殺すぞ、もはや後悔の時間も残らないと思え!」


「気が合うねえ、俺ももうカードを切る順番なんか考えるのはやめたところだ。こっから先は徹底的に暴れ尽くす。だが安心しろ、お前と違って懺悔の機会は与えてやるつもりだ」


 ドラッゾと一緒に身構える。


 俺たちの視線の先でシガラは唯一露出していた顔面も装甲で覆って正真正銘の全身武装となった。


「――ぶちのめす。それで死んでいったやつらの無念を知れ」


「――戯け者めが。貴様もその弱者の無念の一滴となるんだ」


 シン、と静まり返る偽界。

 張り詰めた静寂はほんの一瞬。動き出したのは三者同時だった。


「ふゥん!」

「っらぁ!」

「グラウ!」


 衝突。重装兵と化したシガラの突撃に対し俺とドラッゾが拳を繰り出した。激震が走る。空間にも、そしてぶつかり合う俺たち自身にも。


「ぐ……っはぁ!」


 ふたつの拳撃に多少後ずさったシガラだが、すかさず全身の装甲からスパイクを飛び出させて俺たちを狙った。

 背後の地面からも同様の技が襲ってきていることを【明鏡止水】と【察知】が知らせてくる。


「上からだ!」

「グラッ!」


 鎧のスパイクを潜り抜けるように身を屈めながら、横のドラッゾへと指示を出す。ドラッゾ自身も上に逃げることを選んだようなのでちょうどよかった。


 下からは俺、上からはドラッゾ。

 挟み撃ちの構図だ。


 合わせろ、なんてもう叫ぶ必要もない。


「【黒雷】ぃ!」

「グラァッ!」


「!!」


 いくつかの棘をぶっ壊しながら打ち付けた【黒雷】は、頭上から振り下ろされたドラッゾの蹴りと寸分違わないタイミングでシガラへヒットした。


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