表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/557

206.少し本気を出せば

「っ!」


 俺たちが動くよりも先に地面が蠢いた。


 足が沈もうとする。異変をいち早く察したドラッゾは浮かび上がってそれを避けたが、翼を持ってねえ俺はそうもいかない。


 ずずずと足首までが埋まっちまう。が、【偽界】がそれ以上の沈没を阻む。


 やはり俺が丸っと飲み込まれちまうこたぁないようだな――だがそれにしたって足を封じられちゃ移動もできやしない。


 本当に面倒な能力だな!


「とはいえ上が自由ならどうとでもできらぁ。【死活】・『パワースイング』!」


 戦斧を強化してギミック攻撃を放つ。


 鞭のように持ち手部分がしなった斧は頭の上から直滑降。小っさい隕石みてーに落ちて俺を拘束してる地面を叩き砕いた。


 これで埋まった足を引き抜けた、けれど。


「上出来ですね……ならば趣向を変えさせて頂く!」


「なに――ぐげっ!?」


 またぞろエニシと似たようなセリフを吐いたシガラ。


 その直後に俺の目の前の地面が揺れたかと思えば、瞬時に棘のように鋭くなってこっちへ伸びてきた! 


 鋭利な先端に刺されることはなかったが、その勢い自体は食らっちまう。顔面に痛打を受けて吹っ飛ばされた先、また倒されてたまるかとどうにか堪えたんだが……そんときにはもう周囲から何本もの棘が迫ってきていた。


「がっ、ぐっ、この……!」


 来訪者じゃなかったら全身串刺しだ! 

 スプラッタこそ避けられちゃいるもののダメージは蓄積していく。

 みるみるとHPバーが短くなっていきやがる……!


 こりゃマズい、と俺は再び戦斧を振るう。


「うぉおお! 『パワースイング』!」


 振り回した遠心力で四方八方の棘をその発生元から叩き折っていく――だが壊滅とはいかなかった。


 攻撃の最中にまた足が地面に埋もれちまったせいで上手く技が決まらなかったせいだ。クソが、鬱陶しいことこの上ないぞ!


「グラァウ!」


「ドラッゾ!」


 引き続き無尽蔵の棘の餌食になるのを覚悟したところで、頭上からドラッゾが救援に降りてきてくれた。


 逆さまの状態で突っ込んできたドラッゾは人間のもんになった拳で思い切り地面を殴る。小さくなってもパワーはそのままだ、位置エネルギーも手伝ってそのパンチの威力は凄まじかった。


 ドッゴン! とけたたましい音で地面が放射状に割れ、周辺の棘ごと俺の足の拘束もなかったこととなった。


「ふう、助かったぜ――、っ! ドラッゾ、後ろだ!」


「グラッ?」


 俺の指摘で急ぎ振り返ったドラッゾ。その目には忍び寄ってきていたシガラの姿がドアップで映っただろう。


「ふん!」


「グラ――、」 


 長い脚を高々と上げての上段からの蹴り。振り下ろされるそれをドラッゾは両腕でガードしたが、受け止めきれずにがつんと弾かれた。


 ドラッゾにも負けねえパワーだと!? 


 蹴りつけたシガラの足をよく見りゃあ、その膝から下にはプロテクターのようなもんが取り付けられているじゃねえか。あれも偽界から生み出したもんに違いねえ。


「何を驚く? 僕が作れるのは武具ばかりではない!」


「けっ、そういやトンファーも似たようなもんだったな。蹴り足の重さと大きさを嵩ましさせることでさらにパワーを得たってわけだ」


 重量ってのは力だ。


 軽いやつじゃ重いやつにそうそう敵わねえのはそもそものパワーが違いすぎるせいであり、そういう意味じゃ竜人モードのドラッゾは重さと軽やかさを兼ね備えた反則級のファイターなんだが……そこは魔族も一緒ってことだな。


 進化したドラッゾにも容易く対処してみせるそのスペック。


 気を引き締めていかねえと一瞬で殺されちまうな……!


「貴様も食らうがいい!」


「お断りだっ!」 


 野郎の蹴りと俺の戦斧が激突する。ちっ、マジでさっきよりも重いじゃねえか。このままじゃ押し切られる――なんてこたぁねえ。


 シガラが小細工しようとも、こっちにだってやれることはまだあるんだ。


「【黒雷】ぃ!」


 競ってる最中に戦斧へ【黒雷】を乗せ、出力を引き上げる。


「ぐ――、」

「さらに【死活】発動!」

「なんっ……がぁ!」


 若干だが押し返したところでついでに【黒雷】も強化する。

 戦斧と合わせて二重の強化が施された俺の一撃はついにシガラの防具を纏った蹴りを上回り、それをぶっ壊すことに成功した。


 防具ごと中身の足にも傷を負ったシガラ。

 だがパテで修復されるようにして切り傷はすぐに消えちまった。

 最初につけた腕の傷も同じようになくなってるんで、これもまたシガラの面倒な要素だ。


 内心で辟易とする俺だったが、シガラはシガラでご立腹のようだった。


「ちいっ! またしても僕の作品を、貴様ごときが!」


「壊されて怒るくれぇなら大事に棚にでも並べときな。今だ、やれドラッゾ!」


「グウラァッ!!」


「! 『冷気のブレス』か!」 


 離れた位置から凍える吐息を吹き付けるドラッゾ。口が小さくなってるからか腐食のブレスほど広範囲じゃあないが、それでもしっかりとシガラを捉えている。


 口径が絞られて弾速の上がったブレスによる狙撃……しかしそう易々と食らってやるほどシガラも間が抜けちゃいない。


「こんなものがどうした!」


 指揮者コンダクターのように腕を振り上げるシガラ。その動きに連動するようにして地面がせり上がり、シガラの前に厚い壁を作った。


 もちろん冷気のブレスとの間に、だ。


 これじゃ壁に阻まれてシガラにまで冷気は届かねえ――、


「とまあ俺がお前でもそうするわな」


「! しまっ――」


「【黒雷】・『パワースイング』!」


「がばぁ……っ!」 


 僅かでもいいから隙を作ること。


 俺はそう頼んだつもりだし、ドラッゾ自身もちゃんとそう認識してた。読めてなかったのはシガラ一人。冷気のブレスの発射と同時に戦斧を構えながら近づいた俺を見逃したんだ。


 意図を察した瞬間にさすがの反応速度で防具もどきを持ったシガラだったが、【黒雷】を乗せたギミック攻撃でそのプロテクターごとぶち抜いてやったぜ。


 今のはかなりの手応えがあった。


 ようやくまともな一発をくれてやったことを実感できたぞ……!


「おまけのもう一発!」

「く、この!」


 実戦の中で武器と【黒雷】の合わせ技も急速に物にでき始めている。シガラは再度防具を両腕に纏わせて防御したが関係ねえ、もう一回たたっ壊してやるぜ!


「おぉっらあ!」


 また命中。

 パワースイングはシガラの防具を破壊した。さっきと一緒だ。


 ――だが、何かが違う。会心と感じられたあの手応えとは丸っきり違っている!


 いったい何が原因だ? ギミック攻撃と【黒雷】はばっちりだった。俺にポカはなかったはずなのに、シガラへのダメージは確かに減っちまっている……。


「ふ……クラフターと名乗ったのは伊達ではない、ということですよ」


「まさか、てめえ!」


 そうか、妙な手応えになったのは奴の防具の質が変わったせいだったんだ。その幾層にも重なった断面を見て俺はそう理解した。


「一個じゃなく、薄い層を重ねたプロテクターで『パワースイング』の衝撃を散らしたのか……!」


「その通り、あえてある程度脆いままに多層構造にし、受け切るのではなく分散させる! 必ず壊れてしまうので使い切りになるのが欠点ですが」


 だが偽界を開いているうちは生成力は無限。

 使い切りだろうと大した問題にはならないって寸法か。


「攻めには従来の! 守りには多層を! 用途に合わせて構造を使い分ければその斧も、あの鎌も! もはや僕にとってなんの脅威でもありませんね!」


「……!」


 こいつなりに俺の武器にゃ脅威を感じてやがったか。


 そら朗報だが、確かに多層プロテクターじゃあ不浄の浸食もそのぶん遅れちまうな。得意気になるのも納得のうまいやり方だ。


「だが戦いながらそんな器用な真似ができるのか? 俺たちゃそうさせねえように苛烈に攻めさせてもらうが」


「グラァッ」


「苦も無くできますとも……貴様らなんぞにこれ以上手こずって堪るものか!」


「吹かしやがる。そんじゃあやってみなぁ!」


 ドラッゾと同時に突っ込む。その途端に新しい壁がシガラを隠した。そこで俺は少し速度を緩め、まずドラッゾを突貫させる。その拳が壁を打ち砕く。すぐあとから俺が続けば、隆起した地面がドラッゾを上へ持っていこうとする。


「おっらぁ!」


 させてなるかと急いで戦斧をぶつけた。それでドラッゾが自由になる。が、そんときにはシガラが俺の眼前にいた。力いっぱい振るったばかりで体が流れちまってる……防げねえ!


「ぐふっ!」


 プロテクターの拳を腹に食らった。よろめく。

 シガラの二発目、が来る前にドラッゾのガチで飛んでる飛び足刀がその後頭部を叩く。


 ――シガラは反対の腕のプロテクターでそれを防いだ。


「グラウッ!」


 ドラッゾは悔しそうな声を出しているが、今のはいい仕事だ。

 俺も踏ん張って続くとしよう。


「おぉっ、『パワースイング』!」


 振るう。防がれる。バキリィ、と割れ散るシガラの防具。多層構造が攻撃の意味をなくさせる。


 それをなしたのは俺の腹を殴ったほう……右手側のプロテクターだ。そんときゃ確かに普通の造りだったはずなのに、今はもう違う。


「っ、この瞬時に造り替えたってのか――」


「造作もないことですよ」


 いつの間にかプロテクターを装備し直していたシガラの足が、俺を強かに蹴りつける。


「うっぐ!?」


「グラッ――グゥラ!?」


「あなたはゼンタを気にかけ過ぎでは? 実に隙が多い……手玉ですよ」


「ドラッゾ……!」


 地面から紐上になって伸びた土に、ぐるぐると翼と両腕を絡め取られてドラッゾは身動きが取れなくなっちまった。


 ちっ、俺が不甲斐ないばっかりに……!


 同じ部分に二発も食らったことで痛む腹を擦りながら立ち上がる俺を、シガラは冷笑を浮かべて見ていた。


「ご覧の通り。少し本気を出せばあなた方程は度僕の敵じゃあない。――聞けるものなら是非聞きたいですね。もう一度あの下らない強がりを……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ