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205.竜人モード

「ドラゴンゾンビだと……! 召喚したのか!」


 突如出現した巨大な質量に阻まれて俺へのトドメを刺し損なったシガラ。ドラッゾの背中越しに聞こえる奴の声にゃあ、忌々しげな響きが多分に含まれてるぜ。


「グラァウ!」


 着地でドラッゾは勢いよく地面を踏みつけた。バギン! と固められていたはずの俺周辺の岩肌めいた土たちが割れる。ひゅう、助かったぜ。これで動けるようになった。


 襲ってきたシガラを遠ざけ、俺の拘束を解く。召喚しただけでこの活躍ぶりだ。やはりドラッゾの巨体とパワーは頼りになる。


 だけど今はその大きさが仇になりかねん場面でもある。


 シガラの偽界は狭くはねえが決して広いとも言えねえ空間だ。

 球体状のこの場所じゃあドラッゾの売りである機動力がほぼ活かせず、しかもデカいから自在に形を変える地形に腕や脚を捕われやすいっつー不利まで生じる。


 なんせ飛行にしろジャンプするにしろ、ドラッゾの背丈じゃちょいと浮かんだだけで天井に頭をぶつけちまうことになるからな。


 これじゃあ【契約召喚】のスキルが成長してさらに強力になったドラッゾの雄姿を披露できそうにない……だが大丈夫だ。


 そんなことは当然わかったうえでドラッゾを呼んだんだ、打つ手はある。


 単に強くなっただけでなく【契約召喚・改】はドラッゾにある大きな変化をもたらした。

 今がそのお披露目時だぜ。


「竜の死骸ごとき! 僕の偽界が引きずり込めないとでもお思いですか!」


 俺に対してはできなかったが、ドラッゾなら直土葬にできると踏んだらしい。シガラは偽界を操作してドラッゾ周りの土を隆起させ丸飲みにしようとする。


「いーやそうはさせねえぜ。ドラッゾ! 『変身』だ!」

「グラッ!」


「へ、変身!?」


 おう! と応じた(たぶん)ドラッゾの全身がぐんぐん小さくなっていく。縮む、というよりも凝縮されていってるって感じだ。一瞬でコンパクトに収まったドラッゾは迫ってくる土の濁流から悠々と逃れることができた。


 すたん、と両の足で降り立ったその姿を見てシガラは困惑している。


「どういう、ことですか。これは……」


「見ての通りさ。ドラッゾは人型にもなれるんだよ。てめーらんとこのドレッダと同じようなもんだ。つまりは竜人モード!」


「グラウッ!」


 ゾンビだからか肌が灰色なのがちとアレだが、なかなかの美少年になったドラッゾが力強く頷く。

 元の姿のがそのまま小さくなった両翼と尻尾を生やしている今の恰好は、まさにドレッダと同じ竜人らしい出で立ちだと言える。


 余談ではあるが人間に直すとこの二人、すげー美男美女カップル……いや若夫婦だったんだなぁ。


 つーかドラッゾがこんな若かったってのにまずびっくりだわ。ドレッダだって女子高生相当だったのに、あれでも姐さん女房だったのかよ。


「……そんな見た目でも人語は話せないんですね」


「俺もそこはズッコケた」


 ドレッダのほうはあんなにしっかり話せてたのにな。

 まあ同じく竜人化したとはいえその過程が違うんだ、多少の差異はあるだろうよ。


 とにかくだ。


 今のドラッゾは小柄になったが重量はさほど変わらない。

 そりゃスピードもパワーも竜形態のときとそう変わらんってことだが、サイズ感のあまりの違いのせいで戦う相手からすりゃ大変貌もいいところのはずだ。


 小さくなった腕の一撃はそのぶん力が一点に集中するし、人の大きさになったことで移動じゃだいぶ小回りが利くようになって、総じて細かい工夫が色々とできるようになってる。


 要するに戦い方がこれまでとはガラッと変わるってこった。


「巨体を存分に活かしたパワープレイはできねーが、その代わり連携は取りやすくなったぜ。なあ、ドラッゾ」


「グラァ」


「……ふむ。確かに先程見せた回避。あの速度で、かつ飛行も可能とするのであれば、偽界内でもある程度は逃げ回ることでもできるでしょうね。僕にとってはドラゴンゾンビのままでいられるよりも、その姿のほうが厄介な形態だ」


 いやに素直に竜人ドラッゾの強味を認めたシガラは、だが直後にピンと人差し指を立ててこうも言った。


「しかしお忘れでは? ここには僕もいるんです。不定の大地から逃れようとしたところで僕自身がそれを阻止するまで。そう、ゼンタ。あなたにそうやってみせたようにね」


「……、」


 そうだったな。

 俺が半分埋められちまったのはシガラに足を掴まれて転がされたからだ。


 別にダメージなんかなくても、ああやって体勢を崩させるだけでも偽界のアシストになる。

 いくらでも自分有利に地形を変えられ武器まで好き放題量産できるあいつにとっちゃそりゃなんともイージーな仕事だろうよ。


 【偽界】で自然と補助される俺はまだしも、ドラッゾが同じことをされたらさすがにキツい。 


 あのパワーならワンチャン自力で抜けだせる目もあるにはあるが、仮に頭まで埋められちまったらそれも厳しいよな。


 危うく土葬させられそうになったことで、この地面が固まるとどんだけ堅固かってのはわかってんだ。シガラの偽界の脅威ってもんを俺ぁ体で理解してる。


「だからこそドラッゾを呼んだんじゃねえか」


「はい?」


「一人じゃ抜け出せないってんなら協力するまでだ。そんで、お前も忘れてんじゃねえか?」


「何を」


「俺たちだってただ逃げ回るだけじゃねーってことをだよ」


 ドラッゾが翼を広げて突撃の姿勢を取る。俺も傍に落ちてる『不浄の大鎌』を消して『非業の戦斧』を呼び戻して構えた。


「そっちから仕掛けてくんのなら上々。返り討ちにしてやんよ!」


「グラウ!!」


「――ふん。人間と竜の死骸風情が、よくよく舐めた口を利くものですね」


 低い声で呟いたシガラ。

 その足元の地面が大きく盛り上がり、奴を俺たちより上へと押し上げていった。


「!?」


「この逢魔四天に! 魔皇様より任命され頂点の一角へ据えられたこの僕に! いつまで勝てるつもりでいるんだ――何も知らぬ矮小な生き物がっ!!」


 つ、津波だ。土に対して使う言葉としちゃ不適切かもしれんが、そうとしか表現できないような……急角度に傾いだ地面の大津波が俺たち目掛けてやってきた!


「これならどうすることもできまい!」


「てめえが決めつけてんじゃねえ! 合わせろドラッゾ――【死活】・【黒雷】!」

「グラッ!」


 逃げ場はない。どこまで退避しようがこの津波は偽界中をさらって、いずれは俺たちのことも飲み込むだろう。だったら後ろじゃダメだ。


 進むべきは前!


 このビッグウェーブをどうにか突破するしか道はねえ!


「『パワースイング』ッ!!


 練度が上がり、武器にまで纏わせることができるようになった【黒雷】。


 まだ手足に乗せるほど楽じゃねえが今回は上手くいった。戦斧のギミック攻撃と完璧にタイミングを合わせて打つことができたぜ。


「グゥッラァアア!!」


 俺の横じゃドラッゾも必殺技を出すところだった。


 相手によっちゃえげつない強さを誇る『腐食のブレス』が竜人モードだと何故か吐けなくなった……だが代わりに『冷気のブレス』を会得しているらしく、その凍てつく暴風こそが今のドラッゾ最大の武器だ。


「いっけえええええ!!」


「っ、なんだと……!?」


 ――どっぱぁあん! 


 と、俺たちの合体攻撃で大津波が弾けた。


 全体からすると一部だが、俺たちが通り抜けられるだけのトンネルは開通したぜ。

 そして津波の上にサーフィンでもするようにして乗ってたシガラも、足場のバランスが崩れたことで目の前に落っこちてきた。


 へっ。きちんと着地はしたものの絵面としちゃかなり間抜けだ。これを煽らない手はねえな。


「おうおう、格好悪ぃなあ弟くん。お姉ちゃんの後ろで隠れてたほうがいいんじゃねえか? ……あっとそうだった。あの性格ブスは俺がぶっ殺してやったんだったな」


「貴様ぁ……! どこまで僕を虚仮にすれば気が済む!?」


 よーしよし、熱くなってきたな。


 これじゃどっちが悪役かわからんが、使える手は全て使わねえとな。

 心象偽界を使われた時点で間違いなくピンチなのはこっちなんだからよ。


 少しでも冷静さをなくさせて、最適から遠ざける。


 魔族とはいえ人間同様に感情があって、物を考えて、そんで生きている。マシーンじゃあない。いつでもどこまでも合理的に、なんてできやしない……シガラだって段々と化けの皮が剥がれ始めてるところなんだ、そりゃ間違いのねえこった。


「やろうぜドラッゾ。さくっと野郎をノして、こんなとこからはおさらばだ」

「グラァ!」


「できやしない、貴様らなんぞに……僕が負けることなどないんだからな!」


 俺はサラたちのために、シガラは怒りのために。

 互いにもう形振り構ってる段階じゃあない。


 こっからが死闘の幕開けだ!


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