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204.形ある故に壊れゆく万物

「けっ、浅ぇか」


 造作愛に溢れたみょうちきりんなトンファーは壊したが、その中身にまではいまいち刃が届かなかったな。


 当たりはしたがほんのかすり傷。しかも血すら出てねえのを見るにこいつもエニシ同様、外見こそ人間らしいが中身はまったくの別物だってのは確定的だ。


 だったら小さい傷をいくつ重ねさせたところで大した意味はねえな。倒すためにゃ核の部分からきっちりぶっ壊してやる必要がある。


「っ……、これはまた、拙い欺瞞だ。やはりあなたは仲間を救出すべく焦っているようですね」


「嘘が下手だってのは否定しねーがな。だがそいつはお互い様ってもんだろ? なぁ、弟くんよ」


「……! 戯言ばかりを吐くその口、すぐにも塞いで差し上げましょう!」


 ぐんにゃり。トンファーの残骸を放り捨てたシガラの手に、地面から生えた新たな武器が握られた。


 ――棘付きの棍棒!? いや、こいつぁ狼牙棒って言ったほうがいいのか。かなり長いしすげーデカい。遊びなしの鈍重かつ鋭利なデザインで、しかもこのサイズ。マジで殺意しかねえな!


「はぁっ!」

「ちぃ……ぐっ!」


 ぶぅん、と見た目通りに重いが見た目以上に鋭く風を切って横から棍棒が迫る。


 戦斧で防御を試みたが、今度のは受け切れなかった。両腕から全身に伝わる衝撃に押されて俺は弾き飛ばされちまう。


 すっ転びこそしなかったがこりゃとんでもねえ威力だ。ユマのやつに鍛えさせてなけりゃ今の一撃だけで戦斧がぶっ壊れてたかもしれん。


「腕が痺れやがる……また面倒な武器だ。だがクラフターだっつう割にゃあデザインからセンスが感じられねえなぁ。姉ちゃんも言ってたぞ、お前に貰った鞭は糞ダサいってな」


「口を閉じずには戦えないんですか、あなたは」


「減らねえから減らず口って言うんだぜ」


「成程、道理ですね」


 互いに距離を詰め、得物同士をぶつける――という直前で俺は減速した。


「!?」

「【武装】再発動」


 ちょっとした足踏みぐれえはシガラの速度に上書きされる。そんでもって自分から意図的にズラしたせいでこのままじゃこちらばかりが野郎の攻撃を食らっちまうことになる。だがそうなるまでの一瞬の間合い調整が俺には必要だったんだ。


「『不浄の大鎌』、さらに【死活】!」


「何ぃ……!?」 


 手の内の武器を戦斧から大鎌へと変更。

 腕の位置は既に受けの形に整っている、あとは何もしなくていい。


 俺はただのんびりと狼牙棒が突っ込んでくるのを待つだけだ……全てを朽ちさせる不浄のオーラに満ちた鎌の刃に、獲物が自ら飛び込んでくるのを!


「なんだと、こうも容易く僕の武器がっ!?」


 【死活】により追加でSPを支払うことで強化された大鎌は、それに伴って刃に纏った不浄の能力もパワーアップさせている。触れた途端に浸食が進み、そのまま切り裂く切れ味の要らねえ斬撃。いかにも頑丈そうな狼牙棒とてこれにはどうしようもねえ。


 なんせ俺の大鎌は物理的な攻撃力はほぼねえんだから、いくら硬かろうとそりゃ無意味ってもんだぜ。


 格闘に近い殴打戦を捨てて繰り出した狼牙棒だ。それなりの自信を持っていたんだろうが、そのご自慢の武器が呆気なく破壊されたことでシガラの顔にははっきりと驚愕が浮かんでいる。好機だ。


 俺ぁそのリアクションが欲しくて武器を変えたのさ!


「【黒雷】蹴りぃ!」

「ぐぅ……っ!」


 顔面にヒット。……はしなかった。柄だけになった狼牙棒から離した手を差し込んでいた。ガードと呼べるほどのもんじゃあねえが若干なりとも威力は殺されている。野郎、てめーこそいい反応しやがるじゃねえか。


 ちっ、とシガラと俺の舌打ちが重なった。


 足を戻し、反対側の足を跳ね上げる。


「もういっちょお!」

「だから単調だと言ったんです!」

「うっ!?」


 蹴り足を捕えられた。シガラの両手にはいつの間にか三叉状になった十手にも似た武器が装備されている……ってかマジでいつ用意したよ!? ガチでわからんぞ、あり得んくらいに生成が速ぇ!


「しかもこりゃ、釵ってやつか? 入り身でリーチを広げるにゃ適しちゃいるんだろうが、それにしたって随分渋いもんばかり使うな!」


「合理的なものでね。そういうあなたこそ武具にお詳しいようですが」


「男の子なもんでね!」


 挟み込まれている右足を引っこ抜こうとしたが、当然そんな動きは読まれちまってる。俺が力を入れる方向に合わせてシガラも足を掴んだままするりと釵を流す。


 するとまるで合気にでもかけられたみてーに俺はなんの抵抗もできず倒されて、ついでに頭まで打った。


「がっ! こんにゃろ、武器持ったまま器用なことを……だがいいのか? この大鎌を前に悠長にしててよ!」


 こかされても鎌を振るうことくらいはできるぜ。


 何度も言ってきたことだが長柄の鎌なんざ武器としちゃ下の下で扱い辛いなんてもんじゃねえが、それでもここまで使い続けてきたんだ。多少なりとも扱いくらいは心得らぁな。


 習熟の成果を見せるべく引き倒された姿のままでもシガラを不浄の餌食にしてやろう、としたんだが。


「――ん!? な、なんだ腕が動かねえ……いや、身体のどこも動かせねえだと?!」


 腕が埋まっている。それだけじゃなく足も頭も、全身が背中側から半分ほど地面に潜り込んじまっている! 


 この奇怪な現象、さてはこれがシガラの……!


「気付きましたか。ええ、遊びの時間はもう終わったということです」


 酷薄な笑みとともに俺を見下ろすシガラは、まだ壊れてねえ釵を興味の失せた玩具でも捨てるように手放した。落ちたそれはどぷり、地面の下へ消える。まるで泥の中にでも沈んだかのようだった。


「これぞ『異土いど戀天れんてん』の真骨頂。定形を持たぬ大地! 任意の武器の無限生成などはおまけに過ぎず、地に立つ者総てを意のままとするこの偽界。生者必滅、形ある故に壊れゆく万物。なればこそ自在・・こそが究極不変なりし! ひとたびここへ迷い込んでしまえばもう勝つすべなどありはしない……それが真理というもの」


「くそ……!」


 どこもかしこもガッチガチだ。

 いつかメイルに全身を石で覆われて固められたときを思い出させる。

 だが薄皮一枚分だったあの魔法とは違って今の俺を包んでいるのは大地そのもの。


 つまりはこの偽界に拘束されちまってんだ。


 シガラの思い通りにいくらでも形を変える地面。

 見渡す限りの地面にぐるりと囲われたこの場所じゃその特性がどんだけ反則的なもんかはもはや説明されるまでもねえことだ。


 現にちょいとミスっただけで俺はもう挽回不能なまでの窮地まで追い込まれてんだからな。


 エニシの偽界が生む無限兵隊も大概インチキくせえと思ったもんだが、こいつの偽界もなかなかどうして嫌気が差すほどの強力さがありやがる……!


 動けずに歯を食いしばる俺を、シガラは嘲りを取り戻した表情で指差した。


「もう一度言わせて頂きたく。『勝敗は既に決まっている』。僕の言葉に嘘はなく、あなたにとってこれがどうしようもない現実。そう、結局のところ、あなた方の命運遍くも我らの気分次第だということ」


「へっ、そうかよ。そんじゃあ動けねえ俺をこれからどうしてくれるってんだ?」


「どうする必要もありませんよ。もはや僕が何をするでもなく、あなたはそのまま地面の底の底へ沈む。感触を噛み締めることです、それが今生の別れの印となるのですから……――、?」


 死にゆく者へと向けられた嘲笑が、不意に歪む。雰囲気を一変させてシガラは眉根を寄せた。


「なんだ、どうなっている……何故これ以上引き込めない? まるで別の力が作用しているかのように――そんな馬鹿な。偽界には偽界でしか干渉できないはず。偽界を用いず僕の能力から逃れることなどできない……ゼンタ・シバ! お前いったい何をしている!?」


「……!」


 やっぱ機能してくれたか。

 おそらくはパッシブタイプの【偽界】スキル! 

 自分で何かしてる覚えはねーんで、シガラの目算が狂ってるってんならそりゃこいつのおかげなんだろう。


 エニシの沼地でも足を取られずに戦えたのもきっと【偽界】があったから。それと同じようにシガラの偽界に対しても抵抗してくれてんだ、と俺は理解した。


「は……種明かしはなんてことねえ。お前だってとっくにご存知だろうが」


「なんだと……!?」


「俺ぁ来訪者だぜ。お前の小せぇ脳みそじゃ考え付きもしねえことができちまう……それがスキルってもんだからな。そのひとつを今から見せてやる」


「っ、そうと聞かされてさせるものですか!」


 地中に沈めるんじゃなく直接仕留めようとしてきたシガラだが、残念。

 いかに武器作りが素早かろうと、てめーの一撃よりもスキルを発動させるほうが遥かに早く済むぜ。


「――【契約召喚・改】」


「なっ……?!」


 進化した『あいつ』の姿をとくと御覧じな。


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