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20.命の保証と言うには

「推薦状に、有益なもんに、高い実力……」


 それがFランクを飛び越えてEランク、つまりはちゃんとした冒険者という立場になるための必要条件。全部じゃなくて、どれかひとつでいいんだが。


「ちなみに高い実力って、どれくらいっすか」


「それは私のほうからはなんとも……昇級判断は組合長に一任されますので」


 うーん、組合長か。いかにも偉そうだな。そんな人が出てくるとなると、ぶっちゃけどれも難しそうだ。

 つか、現状はどれも無理じゃねーの。


 とは思ったが、念のためサラに耳打ちで確かめてみる。


「お前、実はめっちゃ強かったりしない?」

「そんな風に見えます?」

「見えん」


 ダメか。じゃあ次だ。


「組合になんかすげーお得なもんを出せたりは……」

「するはずないじゃないですかー、登録にお金取られるのすら知らなかったくらいなんですもん」

「だよな」


 これもダメか。じゃあ最後。


「誰か有名人の知り合いでもいないのか? 推薦が通るようなご立派なやつでよ」

「いたら路頭に迷ってないです」

「さようで」


 思った通りに全部ダメ。

 俺の場合は言うまでもない。


 こうなると一気にビギナーランクを卒業するってのは諦めるしか……いや待てよ、受付の姉ちゃんは確か「時間をかけない」昇級方法だって今のを紹介したんだよな。てことは……。


「すみませんお姉さん。時間をかける方法にはどんなものがあるんでしょうか」


 俺と同じ考えに至ったらしく、サラがそう聞いた。すると姉ちゃんは頷いて、


「冒険者学校へ通って、教員から合格だと認定を受けることですね。本来はこちらが正規の手段となります」


「へー! 冒険者になるための学校があるとは聞いてましたけど、あれはこういう意味だったんですね!」

「なんだ、ご丁寧にべんきょーさせてくれるのかよ」


 お勉強っつーのは死ぬほど嫌いなんだが、冒険者ってのは当然冒険が仕事で、命懸けでもあんだろう。そういうのになろうっていうんだから、さすがの俺でもちったぁ真面目に授業を受けようって気にもなるってもんさ。


「受講料が出ますが、月に二千リル。登録料と同じ額を都度お支払いいただくだけでその他の条件はございません。まとめ払いも申し出れば可能ですよ」


「あー。そっちにも金を使うのか……」


「でも、学校に通いながらでもFランクのクエストであれば、私たちも受けられるんですよね?」


「はい。Fランクのみで、授業への出席に支障が出ない範囲でなら、いくらでもクエストの受領が可能となっております」


 そっかそっか。何も出ていくばかりじゃなく、実入りを増やしていくこともできるわけか。


 七つあるうちの一番下だというFランクだけあってそんなにがっぽがっぽと稼げもしないだろうが、月に二千リルくらいはどうにかなりそうだ。


「それを聞けて安心しましたー。ところで、学校に通うのって何日くらいですか? 最低でも一ヵ月はかかるみたいですけど……」


「最低でも、二年間ですね」


「「――二年間!?」」


 思わず大声を出した俺たちだったが、受付の姉ちゃんは営業スマイルを崩すことなく続けた。


「はい。二年の間に基礎的な知識や技術を身に着け、最終的な試験に合格すれば晴れて卒業となります。仮にそこで不合格となってしまっても、留年制度もあります」


「留年っすか? 退学じゃなく?」


「その選択となりますね。選ぶのはあくまでも受講者の意思ですが、退学するのでればFランクの仮資格もはく奪となって、冒険者とは名乗れなくなります。留年を選ぶのであれば留年者用の授業を受けて、半年ごとに試験へ再チャレンジするかをこちらも自分の意思で決めることができます。ですが、再チャレンジの機会は二回まで。留年者プログラムも一年半を過ぎれば適用外となるので、その期間を過ぎるか試験に三度落ちると、今度は強制的に退学処分となってしまいます」


 まとめると、冒険者学校の生徒でいられるのは最長でも三年半で、卒業試験を受けられるのは通い出して二年経ってから。

 試験は合計三回まで受けられ、その全部に失敗するか三年半を越すと学校から追い出されると。


「試験には座学と実技がありますよ」


 付け加えられたその言葉で、ますます話に聞いた自動車学校みたいだと思った。


 姉貴は高校生になって施設を出てから、すぐに自費でバイクの免許を取って、それをわざわざ自慢しに来てたからな。取り立てで俺を後ろに乗せたせいでお巡りに止められて速攻で罰金払わされてたけど。

 つか、あんときまでニケツがやっちゃダメな場合もあるって知らんかったわ俺。


「ゼンタさん、ほっこりしてる場合ですか? 何を考えているのか知りませんけど、二年間はちょっと長すぎますよ」


「そうだった! ちょっとおねーさんよぉ、二年も学校通わんとビギナー卒業できねえってのはちと横暴じゃねぇか?」


 そーですそーです、と俺の後ろから子分のようにサラが援護する。

 だけど俺たちの協力して出す圧なんか意にも介さず、受付の姉ちゃんはきっぱりと言った。


「横暴などではありません。冒険者というのはそれだけ危険な生業なのですから。その後の人生の保証と言うには、二年間はむしろ学ぶ時間として短すぎるくらいだと私は思っています」


「「……、」」


 た、正しすぎる。この真っ当な言い分にいちゃもんはつけらんねえよ。


 けどよぉ、いくらなんでも二年も拘束されるのはキツイなんてもんじゃねえって。

 冒険者になることだけが目的ならそれもいいかもしれんが、俺たちはそうじゃないからな。


「作戦タイム、いいっすか?」

「どうぞ」


 許可してくれたんで、俺たちは後ろを振り向いてひそひとと話を始めた。


「さて、どうするよ」

「まず、選択肢がふたつありますよ。冒険者になることを諦めるか否かです」

「金も払ってんのにやめるはないだろ。そもそも冒険者以上に良さげな職もねえってのに」

「ですよね。それなら次の選択肢ですね。諦めて二年間を学校へ費やすか――『一発逆転』を狙うか」


 一発逆転。

 つまりは、飛び級に必要な三つのうちのどれかのゲットを狙うってことだ。


「……厳しそうだが、それっきゃないな。運がありゃ二年より遥かに短く済みそうだしよ」


 と、方針を固めたところで俺たちは受付の姉ちゃんへ向き直った。


「とりあえず、入学はあとに回そうと思います」

「今日のとこは手頃なクエスト見繕ってもらっていいっすか。できれば報酬のいいやつで」


「はい、わかりました。少々お待ちください」


 ちょっとだけ何か言いたげな顔をした姉ちゃんだったが、俺たちの決定に口を挟むことはなく、お願いした通りにFランククエストの中からなるべく高い金を貰えるやつを探してきてくれた。


「ウラナール山の調査?」

「ウラナール……ってどっかで聞いたな」

「ほら、あのときですよゼンタさん。私たちを乗っけてここまで連れてきてくださったおじ様の」

「ああ、思い出した! そうか、あのおっちゃんがここらの地理を説明してくれたんだったな」


 ポプラの街から数キロという割と近場にある山。確かそれがウラナール山だ。


 なんでも山の中腹から切り立った崖が渓谷のようになっていて、一部の人は二又山なんて呼んでいるらしいが……ウラナール山が見えたときにおっちゃんが教えてくれたのはそれくらいのもんで、それ以外の詳しいことは知らん。


「あの山がどうかしたんすか」


 傍目にはなんの変哲もない山でしかなかったがと思い返しながら聞いてみると、受付の姉ちゃんは次のように答えた。


「ええ、実はこんな情報がありまして……『ウラナール山にドラゴンが出た』、と」


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