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2.レベルアップ

「ガァッ!」

「ぐえ!」


 駆け寄ってきた熊が振り翳した爪。

 それに当たって俺はぶっ飛んだ。

 いやもうマジで体が宙を飛んだ。


 走馬灯とかはなかったけど絶対死んだと思った――が、運のいいことに俺はまだ死んじゃいなかった。

 こうやって物を考えられるってことは生きてるって証拠だ。


「い、痛ぇ……いやあんま痛くもないな?」


 肉をざっくりといかれたような感触だったんだが、痛みはそこまで酷くない。

 こうして普通に声を出せるくらいには大したことのないものだ。

 なんなら自分で頬をつねった時のが痛かったまである。


 体を見てみると、やっぱり怪我はなかった。

 つーか服すら破れてねえ。

 攻撃を受けた箇所にはなんかモザイクみてーなもんがかかってて、でもそれもすぐに消えた。

 そんでもう何事もなかったような感じになった。


 あー。こりゃやっぱアレだ。ゲームだからだ。

 全年齢対象のやつね。流血表現NGの子供でも安心して遊べる系。

 そうとでも考えなきゃ説明つかねー。


 それを裏付けるように、ほら。いかにもゲームって感じでHPバーが表示されてるもんな。緑色がぐんと短くなって、そんで赤くなった。


 どうやら今の攻撃で俺のHPは満タンから一気にレッドゾーンへ突入したみたいだな。


 これでもう残りはミリしかない――って。


「これってヤバいんじゃねぇの!?」

「グオォウッ!」

「げ!」


 熊の威嚇にビビった俺は即立ち上がって即反転、そして即ダッシュ。脱兎のごとく洞穴の外へと逃げ出した! 


 外は森みたいだったが、景色を確かめる余裕はない。

 とにかく走れ、俺!


「やべーやべーやべー! 次に攻撃食らったら俺どうなんだ!?」


 もしもここがゲームみてーな世界だっつーんなら、あれだ。

 目の前が暗くなって起きたら教会だとかセンターだとかの回復してもらえる場所にいる、みたいな……それが最大限希望的な観測ってやつだ。

 それならゲームオーバーなんて別に怖くねえ。


 だけどもし、そうじゃなかったら?


 ゲームオーバーが即ち――俺の『死』を意味しているとしたら?


「……っ」


 恐ろしい。

 急に知らない場所にいたり、画面が出たり、ナイフが手に出現したり……ゲームチックではあるけど、俺の意識は本物だ。

 このバクバク言ってる心臓も、走って肺が苦しくなってくる感覚もまんま、俺の知ってる現実リアルだ。


 そしてその感覚が告げている――何があってもHPをゼロにしてはいけないと!


「くそくそくそっ! なんで俺がこんな目に遭うんだ!」


 なんて言ってる間にも熊に追いつかれそうだ……! すぐ背後に息遣いを感じる!

 ドスドスって足音までするし! 

 こいつ重たそうなくせして足速すぎんだろ?! 

 小学生のうちはさぞかしモテただろうぜ、この健脚っぷりはよ!


 さっき吹っ飛ばされてナイフを落としたのが悔やまれる。

 いやあってもこんな デカい熊相手にどう対抗すんだって話だが、素手よりは遥かにマシだからな。


 SPがあればもういっちょ【武装】スキルで生み出せるんだが……そう考えた途端に視界に浮き出てきたSPバーはやっぱどう見ても半分以上減ってる。


 一回スキルを使ってこれなら、もう無理だろう。

 一応試しにと念じてみたが、案の定手には何も出てこねぇ。


 打つ手なし。

 助けも期待できず、そんでもってもう逃げるのも限界。


 いよいよゲームオーバーが避けられないものとなって、それでもがむしゃらに足を動かしていた俺は、だからそれに気付かなかった。


「は――?」


 突然体が浮いた――いや違う、足場がなくなったんだ! 

 逃げることに必死過ぎて進む先がまさかの崖と知らずに飛び出しちまった!


「グァ!?」


 本当に俺へ手をかける直前だったらしい熊も、一緒になって宙に放り出される。


 あー、熊にも表情ってあるんだな。めっちゃビックリしてるぜ。

 わかるよ、俺もそうだから。

 だってこの下、高さが半端じゃねえんだもん。


「「……」」


 空中で逆さまになった熊と目が合った。そんで俺たちは仲良く落っこちて――。



◇◇◇



「ふぃー……なんとか助かった」


 いざ落ちる、という瞬間に断崖から生えた木に気が付いた俺は咄嗟にそれを掴むことに成功したのだ。

 手が届いたのは運がよかった。

 小さな枝なのに思ったより頑丈で、掴んでも折れなかったことも幸運だったな。


 それで俺はどうにか落ちずに済んだ。

 ただし熊、あいつはダメだった。

 執念深く俺に向かって爪を振るってきたがギリで当たらず、そしてそのまま崖の下へ落ちていった。

 ご愁傷様としか言いようがない。


 そんでこうして一人、崖を這い上がって生還したというわけだ。


 ふー……上ったのは精々数メートルくらいなんだが、けっこう疲れたぜ。

 崖の上から見渡す限りのジャングルって感じの大自然をうんざりした気持ちで眺めながら、俺は額の汗を拭う。


「にしてもナイフを落としたのが逆によかったな。手が埋まってたら枝を掴むのに失敗してただろうし……」


 崖から落ちたのは不運だが、そのおかげで熊に追いつかれなかった。

 武器を手放したのは不運だが、そのおかげで底へ落ちなかった。


 ……これをラッキーなんて言っていいのか微妙なとこだが、まあ人生ってのはたぶんこういうもんだよな。


 今はとにかく死なずに済んだことを喜ぼうじゃねえか。


「つってもHPがミリ残りっていうピンチは変わってねーわけだが……」


 ゲームなら減ったHPの回復手段だって当然あるだろうが、現状の俺にとっちゃあそんなん望むべくもなし。

 ここは森だ、大自然の中だ。

 熊がいるんだから他の動物だっているはずで、そんでもって次に出会うのがまた凶暴な肉食獣だったりしたら今度こそ完全に詰みだ。


 こんな虫に刺されても死にそうな体力で生き残れる気が全然しねー。


 と、生き残れたはいいものの割と絶望的な気分になってしまった俺の目にまたしても文字が映った。


「お、おお……!?」


 しかもそいつは、今の俺にとっちゃ何よりも嬉しいものだった。



『レベルアップしました』



 おっしゃあぁ! 

 レベルが、上がった!


 俺のテンションが上がったのはその表記にだけじゃない。

 なんと減っていたHPが全快したんだ! あとついでにSPも!


 これで喜ばないほうがどうかしてる、とりあえず死にかけ状態から脱したんだからな!


「レベルアップしたら回復までさせてくれるとかめっちゃ優しいじゃん……いや優しいのか?」


 こんなわけわかんねー事態に遭遇してる時点でもう論外なはずじゃね? 

 なんかDV男に花貰って感謝するダメ男好きな女になった気分だぜ。


「だけど助かったのは事実か。どれ、ステータスをちゃんと見ておこう」


 HPに余裕ができたので心のほうにも余裕ができた俺は、さっきよりも落ち着けていた。

 落ち着いちまっていいのかって思わなくもねーけど、まあ慌てたって何が良くなるわけでもないしな……ともかく一旦はステータス確認が最優先だ。


 頭に思い浮かべると画面はすぐに出てくる。



『装備

 スキル

 ステータス』



 これがデフォルト画面か。

 なんか簡素過ぎて泣けてくるな。

 とりま、【ステータス】部分をぽちっと。



『シバ・ゼンタ LV2

 ネクロマンサー

 HP:26(MAX) 

 SP:7(MAX)

 Str:19 

 Agi:10 

 Dex:6 

 Int:1 

 Vit:15 

 Arm:9 

 Res:5』



「んだよどれも大して上がってねえじゃねえか、ふざけろ。1ポイントも上がってねえのもあるし。なんなんだ? このアイエヌティーってのは」


 まーぶっちゃけ、上がってたってどれがどんなステなのかわかんねーから参考にもならねーんだけど。


 ひとまずはHPとSPさえ覚えとけばいいかと画面を戻す。

 するとさっきは気付かなかったが、【スキル】の横に小さくNewと出てることに気が付いた。


 これは……まさか新スキルが手に入ったってことか?!

 ステータスのがっかり感が一気に吹き飛んだ。

 逸る気持ちに従ってすぐにそこを押してみる。

 ナイフ以上になんか役立つスキル来てくれ、と祈る俺の目に飛び込んできたのは――。



『【召喚:LV1】』



「――召喚!?」


『シバ・ゼンタ LV1+1

 ネクロマンサー

 HP:20+6

 SP:5+2

 Str:15+4

 Agi:8+2

 Dex:5+1

 Int:1+0

 Vit:12+3

 Arm:7+2

 Res:4+1』


前回のステータスと上昇値です

これから各話に書き足していきます

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― 新着の感想 ―
[良い点] この時点で、おバカ主人公決定なのですね。
[一言] INT上がらないネクロマンサーとは斬新だな
[一言] 賢さが上がってないですね 悪運だけで生き残りそうです
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