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198.こんな場所で奇遇だね

「きゃあっ!? ジョンさん!?」


「マジかくそっ、なんだってんだよこいつ……!?」

 

 ジョンをぶっ飛ばしたのは、人間――じゃなくて限りなくそれに近い形をした別の何かだった。


 体型で言えばまだ子供くらいの小さいサイズ。

 だがジョンでも反応しきれない速さで急接近、からの即攻撃をしてきやがった。


 速度も威力も半端じゃねえ、これまでに出てきたモンスターたちとはまるで次元が違う!


「ついに強敵登場ってか? やったろうじゃねえか!」


「――そいつから離れろ!」


 俺たちが構えたと同時にジョンからの指示が飛ぶ。


 声の感じからして派手に殴られはしたが全然平気そうだ。とはいえ指示の中身はよくわからん、こんな危険な奴は何もさせずソッコーリンチがいいんじゃねえか!?


「いいから言う通りにねぇ~」

「「「!」」」


 マーニーズ以外。俺もサラもメモリもこの場にいる四人がかりでガン攻めする選択をすぐには捨て切れなかったが、偽子供の様子を確認して考えを改めた。


 奴のその水晶でできてんのかってくらい滑らかな肌からバチバチと電気が走ってるのを見て、すぐにマーニーズに続いて後退したんだ。


 あれはおそらくジョンの――、


「『プレパレーション・サンダー』……『スパーク』!」


 バチバチバチバチィッ!! 


 迸る電流。偽子供の体から直接溢れたそれは猛烈な電撃となって強く弾けた。


 す、すげえな。あの一瞬で反撃を間に合わせてたのかよ。避けられねえと判断してから魔法を使ったに違いないが、神速すぎる。思考速度も魔法の仕込み方もだ。


 ジョンの戦士としての優秀さを再認識すると同時に、それ以上の驚愕も味わう。


「――――、」


「効いてないのか……!?」


 あれだけの電撃を浴びても偽子供は平気そうにしている。


 本当にノーダメージなのかは表情のないのっぺりとした顔付きのせいで読み取れねえが、少なくともそのガラス細工みてーな気味の悪い瞳にしっかりと俺たちを映していることだけは確かだ。


 人形めいた見た目にゃそぐわない、獲物を狙うじっとりとした視線。


 立ち並ぶ俺たちの中でまず反応したのは、やはりマーニーズだった。


「この子もゴーレム種ぅ……よね? こんな種類は知らないけどぉ~、さっさと燃やしちゃったほうがよさそう~」


「――、」


 一歩、いや、半歩。


 攻めっ気を露わにしたマーニーズが、ほんの少しだけ前に出た。その挙動を子供ゴーレムは見逃さなかった。


 次の標的に彼女を選び、先んじて跳躍。ジョンを強襲した際に見せたバネを遺憾なく発揮しマーニーズへと拳を向けた。


「マーニーズさん!」


「ぽぉーいっ」


「は……?!」


 ――捌いた。ぱっと見はゴーレムの動きに追いつけそうにもない緩やかな動作で、なのにマーニーズの振袖に包まれた腕は敵の打撃を的確に捉え、その軌道を自分に当たらない方向へ反らしてみせた。


「――、」


 マーニーズのすぐ横の地面にゴーレムの拳が打ち付けられる。


 攻撃が無力化されたことに果たして思うところはあるのかないのか。とにかくゴーレムにリアクションらしいもんはなく、すぐさま二撃目に移ろうとしたが……今度はそれよりもマーニーズのほうが早かった。


「『ラヴァタッチ』ぃ」


 放たれたのはただの無造作な掌打……腕に溶岩さえ纏っていなければ、だが。


 手の平を中心に真横へ噴き出した溶岩流は灼熱とともに小さなゴーレムを弾き飛ばした。


「『ラフファラリス』ぅ」


 マーニーズに容赦の二文字はない。マグマがこびりついたまま地に転がったゴーレムへ追い打ちの魔法をかける。


 ジュゴウッ! と火元もねえってのにそのボディが焼け始めた。

 一瞬で陽炎が立ち昇るほどののっぴきならねえ火力だ。


 噴火と超高熱……立て続けにこんだけのもんを食らえばゲームセットだろう。

 そんな俺の確信は、あっさりと打ち砕かれちまった。


「……ふぅ~ん。ちょっと面白いかもぉ」


 言葉とは裏腹にちっとも面白いなんて思ってなさそうな、普段の甲高いぶりっ子口調もどこへやらの低い声音でマーニーズが言った。


 その視線の先じゃあ未だに体から湯気とともに熱を燻らせたままで、しかしすっくと平気に立ち上がろうとする小柄な影があった。


 まったくの無事。

 起きてこちらを向く所作にゃ見る限り淀みもなく、子供型ゴーレムはまだまだ戦えるってことを俺たちに示している。


「嘘だろ、これでも立ちやがるのか……熱も電撃もこたえてないってのか?!」


 傍で戦いぶりを見れば見るほどにエンタシスの凄まじさがよくわかる。


 ジョンの戦闘技術、マーニーズの高火力。


 それ以外の点でもこの二人が飛び抜けているっつーのは、のんびりとした雰囲気のマーニーズですらもあれだけの格闘ができるってことからも明らかだぜ。


 やはり一流ギルドの最高戦力たちだ。初めてメイル・ストーンというエンタシスを目にしたときからこっち、俺たちもかなり強くなったってのに、それでも未だに色あせないその強さ。


 だからこその困惑が俺たちを包んでいる。


「中層前で特級構成員おれたちとまともにやり合えるようなのが出てくるだと……? しかもこいつは未登録種だ。いよいよ本格的におかしくなってきたな……、」


 戦列に復帰してきたジョンが眉をひそめながら言う。

 それに対しマーニーズはゴーレムから目を離さずに頷いた。


「なんだか妙な空気よね~、ジョンちゃん。でも今はとにかくこの子を片付けちゃいましょう。一体だけならいいけどぉ、もしかしたら――」


「……来る」


 メモリが子供ゴーレムのいる方向、その奥を見つめながら呟いた。

 何がだ、なんて聞くまでもなかった。メモリの視線を追ったときにはもうその答えが出ていたからだ。


「ちっ。皿を下げる前から代わりを出すとは気が利いてやがるな」


 吐き捨てるようなジョンのセリフ。

 気持ちは俺も同じだった。


 子供ゴーレムとまったく同じ姿をしたのが、もう二体も現れやがった。


 これで計三体。

 一体だけでも十分に厄介なのが数を増やしたんだ、そりゃあ全員渋い顔にもなるぜ。


 だがそんなことはすぐにどうでもよくなった。

 追加の子供ゴーレムなんて目じゃないほどの存在がその後ろから姿を見せたんだからな。


「あぁ、いたいた。こっちのルートだったか。奥に行かれる前に見つけられてよかったよ」


 緊張感の欠片もない調子で、まるで遊んでる最中にうっかりはぐれた友人と合流したぐらいの明るく気安い態度でやってくるそいつは――。


「なっ……んでお前が、こんなとこにいる!?」


「そっちこそ。こんな場所で奇遇だね……なぁんて言っちゃうのは流石に馬鹿馬鹿しすぎるか? はは」


 忘れるはずもない。見間違えるはずもない。


 短い灰色の髪に、健康的な赤褐色の肌。

 子供ゴーレムよりも背の小さな、人懐っこい表情で笑う少女。


 俺たちアンダーテイカーが『魔皇案件』に関わることとなった全ての始まり。そしてジョンたちアーバンパレスにとっても何人もの仲間を奪われた不倶戴天の仇敵。


 ――逢魔四天の一人。『悪鬼羅刹』のインガがそこにいた。


「……!? どうなってやがる、何故ガロッサ内に魔皇軍が入り込んでいるんだ……!?」


 っ、そう言われればそうだ。インガと出会ったことも衝撃的だが、合同クエストのために何日も前から貸し切られているはずの『ガロッサの大迷宮』に冒険者以外がいるということ。


 これはどう考えても不自然な、異常事態だ。


「てめえっ、インガ! 入口にいた連中をどうしたぁ!!」


「ははっ、相変わらずよく吠えるねえゼンタ。久しぶりに私と会えたのがそんなに嬉しいか? まあそう睨むなって、なんにもしちゃいないからさ。あんたたちのお仲間は今もちゃーんとガロッサを封鎖してるさ……何も知らずに仕事してる気になって、間抜けぶりは哀れだがね」


「手は出してねえってのか……!」


「だからそう言ってるだろ? そんなことより今は再会を喜び合おうぜ。サラと……そっちは初めましてだね青髪ちゃん。それから憎きアーバンパレスのエンタシスたちよ。お前らと顔を合わせるのも久しぶりだ。だからってさんざ邪魔された煮え湯の味は忘れちゃいないけどね」


 からからと場違いなまでに楽しげにしているインガに、ジョンとマーニーズは傍にいる俺たちにとってもプレッシャーとなるほどの膨大な戦意と殺気を漲らせていた。


「憎いだぁ? 寝ぼけてんじゃねえぞ、それはこっちの台詞だ。魔皇軍てめえらに腸煮えくり返ってんのは俺たちのほうなんだよ……!」


「うふふ、本当にジョンちゃんの言う通りね~。でも今だけは感謝してあげる。こうしてノコノコ出てきてくれてありがとう。おかげでようやく、この手であなたを消し炭にしてあげられるわぁ……!」


「おっと。若いからかな、血気盛んでいいもんだねあんたたち。前に戦ったエンタシス二人組よりよっぽどに私好みだ」


 だけど残念なことに、とインガは本当に惜しそうに肩を落として続ける。


「今は相手をしてやれないんだなぁ。あんたたち冒険者と一緒で私にも仕事ってもんがあってね。まずはちゃっちゃとそれを終わらせてもらおう――かっと!」


 振るわれたインガの拳打。

 それは俺たちの中の誰を狙ったものでもなく、すぐ足元の地面を叩いたものだ。


 ドンと鈍重な音が響いた途端……ゴーレムの強烈な殴打でもビクともしなかったこのガロッサが、異様なほどに大きく震え始めた。


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