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196.これ俺たちいらなくね?

 ロックトロールを屠ってしばらく。先を目指す俺たちの前にまた新たな障害が立ち塞がった。


「お次はモールオーガか……」


 両手をポケットに突っ込んだジョンがダルそうに言う。


 土気色の肌をしたそいつはそういう種族らしい。これがオーガ、ね。トロールよりは小さいがそれでもなかなかデカい身体をしてんな。


「モールオーガ。潜ることが得意で、獲物の真下からいきなり姿を現せて襲う奇襲戦法が持ち味のオーガ種ですよね」


「その通りだが、よく知ってるな。ああいう珍種は冒険者学校でも詳しくは教えないだろう。討伐クエストを受けたことがあるのか?」


「いえ、私の場合は教会の研修で習ったんです。実物を見るのはこれが初めてですよ」


「なるほど。うちの団長が一目置くだけあって、教会の指導もかなり優秀らしい」


 既にモールオーガも俺たちのことを見つけて臨戦態勢に入ってるってのに、やっぱりジョンは焦らないし急ぎもしない。サラと雑談を交わしながら悠々と敵のほうへと近づいていく。


 こっちは五人、向こうは一体。数えるまでもなくモールオーガが不利だ。だが奴さんはそんなこと気にしちゃいないようで、いかり肩でずんずんと迫ってくる。


「? 土の中から襲うタイプのくせになんで潜ろうとしねえんだあいつ……」


「いくら地中を掘り進むのが得意と言っても、地上を歩くような速さじゃあない。あくまで奇襲するための進化だからな。こうして互いを認識してる状態じゃ潜ったところで意味はない……そもそもガロッサの壁は攻撃したって傷ひとつ付かない。つまりまあ、ここじゃあいつはただの劣化オーガってことだ」


 えー……そりゃ悲しいな。ガロッサにポップした時点でとんだハンデを背負っちまってるじゃねえの、モールオーガ。


 本人はそれをどう思ってるのか、あくまで殺る気満々の面でもうすぐ目の前にまで来ようとしてるが。


「また私が焼いてもい~い?」


「お前ばかりに働かせるのも悪い。ここは俺がやろう」


 チリリ、と妙な音。それはすぐにパチパチと何かが連続で爆ぜるような音に変わった。


「それに……お前の魔法はどうにも派手でいけねえ」


 両手を封じたままでジョンがその場から消えた。そして次の瞬間にはもう……モールオーガは死んでいた。


「速っ……そんで強っ!」


 どういう魔法かはわからんが、とにかく蹴り一発だ。雷を纏った脚がモールオーガの頭部を粉砕させた。おいおい、魔法の使用から討伐完了までが早すぎんだろ? しかも明らかに手を抜きまくっていてこの威力だ。


 パチチ、と残り香のように後つく僅かな雷光を踏みつけ、タバコの火でも揉み消してんのかと思う仕草で霧散させたジョン。

 そのときになってようやく、司令部を失ったモールオーガの巨体がドサリと地に倒れた。


「攻略は始まったばかりだ。こんなもんに割く時間はねえ。素早く、そして静かに片付けていくぞ」


 か、かっけぇ。

 そして当たり前だが、強いな。


 ジョンもマーニーズもさすがはエンタシス。メイルやスレンに勝るとも劣らぬ超一流たち、か。


「ジョンちゃん待って~。ほらほら、私たちも行きましょぉ?」

「あ、ああ」


 さっさと行進を再開したジョンに追いつこうと急ぐ。モールオーガの横を過ぎるとき、既にその死骸が焼きすぎたパンを思わせる脆さでボロボロに崩れていってるのがわかった。


 ガロッサで自然発生したモンスターは死ぬとこうやって消えるのか……つくづく紅蓮魔鉱石の不思議なパワーが働いてるってことを実感させられるな。


 ギルドをロボにするっていうヤチとガンズの使い方もぶっ飛んでるが、規模や出力で言ったら『ガロッサの大迷宮』が上回っている。これは紅蓮魔鉱石自体の持つ力が違うのか、それともその力を引き出すのがダンジョン製作者はべらぼうに上手かったのか。


 石の大きさがまったく違うんで前者か、とは思うが後者も普通にあり得そうだよな。


 なんせこんなダンジョンを作っちまうほどの力を、百年前は魔皇軍を苦しめたらしい大兵器として使っていたんだ。

 ヤチとガンズの二人がかりでもその技量に敵わねえっつー結論も納得できはする。


 しかし、だったら……それだけの天才についてどうしてマリアは何も語ろうとしねえんだかな。


 確実に百年前、対魔皇軍の部隊にいた仲間同士だろうによ。

 その仲間が残した紅蓮魔鉱石が現代の対魔皇軍作戦において重要な役目を果たそうとしてるんだぜ?


 そりゃあユーキが育ち切るまでの時間稼ぎが目下の目標だというあの人のことだ、大昔の大兵器が眠りから目覚めるのを歓迎しない気持ちはあって当然かもしれんが。


 だがそうだとしても何も語らねえってのは不自然だろう。


 あの人が何を言おうが言うまいが、どうせガロッサの攻略クエストは進められちまうんだ。だったら大兵器ってのがどんなもんだったか、あるいはその使い手がどんなやつだったのかくらいは、ある程度教えてくれたってよさそうなもんなのに。


 初対面だってのに謎の信頼を見せて、教会の仲間にも打ち明けてねーようなことを俺には教えてくれた。そんな俺にも兵器の正体については黙ったままなんだから、その秘匿っぷりは相当なもんだよな。


 もしそこに、感情論以外のちゃんとした理由ってもんがあるとしたら……そりゃいったいなんなのか。


「わ、広いところに出ましたね」


 考えが中断される。サラの言葉に辺りを見てみると、確かに狭い一本道からちょっとした講堂くらいの広さがある場所へと風景が変わっていた。


 やべーやべー、クエスト中だってのにえらくぼんやりしちまってたぜ。

 いくらジョンとマーニーズが頼りになるからってこれはいかんな。


「こんな造りのとこもあんのか、ガロッサ……」


「ダンジョンだからな、通路だけじゃなく地形だって色々ある。だが大抵こういう場所じゃ大勢湧く・・のがセオリーだな。上を見てみろゼンタ」


「上……?」


 首を上げると、ジョンの言いたいことがわかった。穴ぼこだ。壁や天井の高い位置にいくつも穴が開いてる。意味深なそこから何が出てくるのかはもう、言われなくたって察しがつく。


「……ロックリザード。の、群れ」


 ぽつりとメモリが言った通り、ありゃロックリザードだな。ロックトロールに続いてまた見知ったのが出てきやがったか。ま、向こうはこっちのことなんざ知らねえんだけどよ。


「にしてもすげえ数だな! 五十匹以上はいるんじゃねえか……!?」


 続々と這い出てくる大量のロックリザードはとても正確にゃ数え切れねえほどだった。


 それだけの数が頭上を這い回ってる光景は、別に爬虫類が苦手じゃない俺でもちと気持ち悪いもんがあるぜ……何匹かは引っ付くのが下手なのかぼとぼとと落ちてきてるのもまたキツい。


「雑魚とはいえこれだけの群れで湧くとは確かに尋常じゃあないな……だがこの程度ならまだ騒ぐほどでもない」


「今度は私がやってもいいかしらぁ?」


「……こいつらは追い詰められると臓器を石礫として吐き飛ばしてくる。やるなら隙を与えずに殲滅しろよ」


「え~、そんなのぉ、マニーちゃんにする忠告じゃな~いもん♪」


 炎が渦を巻く。無邪気な仕草で体を揺らすマーニーズの周辺から溢れ出したそれは折り重なって密度を増し、やがてひとつの形を作った。


 こ、これは……デカいトカゲ!?


「火造魔法……石のトカゲちゃんたちにはぁ、マニー自慢の火トカゲちゃんをぶつけちゃうわ」


 炎で作られた大トカゲは、まだ尻尾部分が完成しきらないうちからロックリザードの全長を大きく越しているのがわかる。比較すると優に十倍はあるんじゃなかろうか? だが両者の差は大きさだけに留まらない。もっと隔絶的なまでの……力の差ってやつがあった。


「――『ミミックサラマンドラ』」


 燃え盛る大トカゲが口から火を吹いた。その勢いは半端じゃなく、また範囲も馬鹿げて広い。天井も壁も床も舐め尽くし、ロックリザードがどこにいようと関係なく餌食としていく。岩石のような肌を持つ連中が抵抗もできずに消し炭になっていく様からして、火力面も申し分なさそうだ。


「お掃除できてえらいね~、サラマンドラちゃん」


 たった一発の攻撃でロックリザードは一掃されちまった。


 それを褒めるマーニーズはどうやってんのか、よしよしと炎の体の大トカゲを平然と撫でている。首あたりを擦られて大トカゲも気持ちよさそうだ。


 そういう形ってだけじゃなくマジで生きてんのかそれ……?


「よし。マーニーズにしては手早く片付いたな」

「私にしてはって何よぉ」

「遊び癖のことを言ってんだ。せっかくの火力を活かさねえだろう、いつも」

「ひどぉい。マニーちゃん時と場合は選ぶもんね~」

「選んだうえであれなのか……! ったくしょうもねえ」


 ……これ俺たちいらなくね? ここまでアンダーテイカー、なんもしてねえんだが。この二人だけでルート攻略ぐれぇ余裕そうに見えっぞ。


 あんまり頼りになりすぎるんで逆に呆れちまった俺は、そういや他の二班はどんな具合だろうかと少し気になった。


ジョンが雷、マーニーズが火

他で言うとメイルは石でスレンは水ですね


各属性のスペシャリストを揃えている、というわけでもなくとにかく強ければそれでOKなのがエンタシスです

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