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192.ただ必死に世界を守ろうとしているだけの

 まあまあの時間を聖女マリアと話してから、俺が聖痕の間から出てみると……サラもメモリもまだそこで待っていてくれた。


「あ、ゼンタさん! どうでしたか。ちゃんと聖女様とお話できました?」


「ああ、そうだな……」


 頷いて応える。もちろんできたさ。それもかなり重要な話をな。


 ――俺は魔皇の正体を知っちまった。マリアの口から教えられたんだ。


 だが、それをこの場でこいつらに打ち明けることはできねえ。


「収穫はあったぜ。来訪者が元の世界に戻るための手掛かり……に、なりそうな情報ってのを貰った」


「本当ですか!? さすがは聖女様ですね、そんなことまでご存知なんて。よかったですねーゼンタさん、これで異世界に帰りたいというお友達がいてもどうにかなりそうじゃないですか」


「や、あくまで手掛かりであってまだ確定的じゃあねえんだがな。なんにせよそれも魔皇軍を倒してからだ。そうじゃなきゃ帰還方法どころの話じゃなくなる」


 マリアが言うには、俺がその手掛かりを入手するにはまず魔皇を倒さなきゃならねえんだそうだ。そして、マリアもまた自分の力でケリをつけるつもりでいる。場合によってはユーキの力も借りて。


 あの人は俺にそのための手伝いをしてほしい、と頼んできた。


 どうして俺なんだ、とは疑問に思ったぜ?


 来訪者の力が必要なんだとしても仮面女という年季の入った強ぇ先輩がいる。

 他にもクラスメートたちだっている。

 対魔皇軍の部隊にいるやつに限ったってカルラ率いる女子連中がいるんだ。


 選べる来訪者はよりどりみどり。


 聖女へ会いにきたのは俺のほうだ。

 だが、それだけでこんなことを頼む相手として選んだんだとは考えづらい。


 わざわざ俺を指名したことに意味はあるのか。

 そう聞いてみて、返ってきた答えはめちゃシンプルなものだった。


「だって柴様。あなたは死霊術師ネクロマンサーですから」


 ……その真意を俺が測れているかってのはともかく、マリアがなんとしても魔皇を打倒すべく決意を固めてるってことはひしひしと伝わってきたもんだ。 


 間違いなくあの人は一から十までそのために日々を過ごしている……。だからこそあの部屋で見聞きしたことを気軽にゃ口に出せねえ。


 そうだ、マリアはこうなることを予想していた。


 ユーキがやってきた五年前が事の始まりではあったんだろうが、それよりも遥か以前。

 それこそ百十五年前の魔皇軍との戦いが終わったその瞬間から、次の魔皇の出現を危惧していたんだ。


 危惧、というよりそんときゃまだ単なる懸念のひとつってくらいのもんだったのかもしれねえが。


 幸か不幸かマリアの未来予想図は正確過ぎたってわけだ。


 かつての仲間を失った経験からマリアは教会を発足するに至ったらしいが、それは何も脅威を次代の魔皇軍のみに絞ったんじゃあない。治癒のスペシャリストたる光属性の使い手の確保と成長促進。この世界に不足してるもんを自分の力だけで補おうと一世紀に渡って努力してきた結果が、今のこの政府認可という立場にある『教会勢力』だ。


 独占と言やぁ聞こえは悪いが裏返せばそこに確実に用意されてる、っつーことでもあるからな。


 それは有事の際にこの上なく機能し、迅速に大量の人命を救うことに繋がる。

 何故ならシスターやその候補生たちはそういった万が一に備えて常日頃から厳しい訓練を積んできた者たちなんだからな。


 治癒の腕が確かなんで感謝もされど、そのぶん高額の治療費を要求することで守銭奴とも陰口を叩かれる教会だ。


 そりゃあ統一政府セントラルから唯一正規の治癒所として認められているのがここだけってんならそうもなるだろうって話だが、もちろんこれはマリアが私欲を肥やしてるせいなんてこたぁねえ。どうしてもそれだけ金が必要になるんだ。


 人材の確保と育成、各地支部の増設、緊急時には長期に渡り完全無償で救助に勤しむ。

 これだけの条件を満たすには政府からの援助だけじゃ到底足りないってこった。


 特に、緊急時でどれだけ働けるかってのは普段のうちからどれだけ余裕を生み出せるかって点にかかってくる。


 がめついだの業突く張りだの言われようと治療費を安くすることはできやしないんだ。教会の誕生した目的を遂行するためには、な。


 実際、三十年ほど前にとある事件で世間が荒れていたときも、教会はずいぶんと活躍したとのことだ。


 聞けば体の弱かったらしいサラの母親が若くしてシスターへの道を諦めることになったのもそのときに人を庇って負った大怪我が主因だったようで。

 

 シスターにもなってねえような一人の候補生のことをしっかりと覚えていたマリアから直にそんな話を聞かされちゃ、俺も教会に抱いていた印象を覆さざるをえねえ。


 つまりはコインの裏と表だ。


 教会の運営者として大金と権利を一身に背負うマリア。そのせいで一般人、特に貧困層は怪我や病気をしても満足のいく治療はなかなか受けられない。


 だがそこを解決しようとすると今度は教会の力が弱まって、例えば今回の『魔皇案件』のように大量の被害者が出るような事件で救える命が減っちまう。


 それはこの物騒な異世界においてはかなり致命的に思える。が、だからって少数とはいえ日常において救えるかもしれねえ命を見捨てていいのかってことになる。


 ――わからん。どっちがいいのか悪いのか、俺にはちっとも正解がわからん。


 正解なんてないのかもしれねえ。少なくとも、俺なんかが頭をこねくり回したところで出るもんじゃねえだろう。それだけはわかるぜ。


 百十五年前の無念を胸に、三十年前、そして現在。

 マリアはマリアの理念を元にやれるだけのことをやってる。

 政府長ローネンだって人々の暮らしと安全を守るために日夜休みなしで働いてる。


 統一政府セントラルも教会も、俺が思ってるほどふんぞり返った連中じゃなけりゃあ金の亡者でもなかった。


 ただ必死に世界を守ろうとしているだけの、立派な大人たちだった。


「なあ、サラ」


「はい? どうかしましたか、ゼンタさん」


 教会の在り方には不満を持ちながらも、シスターや聖女には尊敬を抱いてるというサラ。


 先日晴れて自らもシスターの一員となった俺の最初の仲間は、あんまし修道女らしくはない満面の笑みを見せていた。


「大したことじゃねえんだがよ、さっきからなんでそんなに楽しそうなのかと思ってな」


「あ、わかっちゃいましたか。実は久々にお買い物する計画を、メモリちゃんと一緒に立てたところなんです。クエストは明後日なんですよね? でしたら明日一日は準備に時間を使えるってことですから、余裕ですよね!」


「準備ってそれ……お前が言ってんのはまたウインドウショッピングのことじゃねえのか?」


「そうですけど」


 それがなにか? ってな顔をしてサラは首を傾げる。マジかよこいつ。


 ……いや、別にいいのか。こうして三人揃ったことだし、あと一日をどう使うかなんてのは自由だよな。


「メモリもサラに付き合ってやることにしたか」

「……、」


 こくり、とメモリが肯定する。付き合ってやるってなんですか、とサラがぶーぶー言ってくるがそれには取り合わず、俺も頷いた。


「だったらそうすっかね。どこをどう回るかとか決めてんのか? 中央都市ここで迷ったら洒落になんねえぞ」


「あれっ、こういうのにしてはゼンタさんが珍しく乗り気ですね。ひょっとして私たちみたいに外見をリニューアルしたくなりましたか?」


「ばっか、そんなじゃねえよ。つーか俺も新衣装ゲットしたしな」


「はい?」

「……いつ?」


「今だよ、今。マリアさんから貰ったんだ。餞別だとよ」


「えーっ! その手に持ってるのがそうですか!? どんなのですか、見せてくださいよ!」


「ダメだ。めんどくせえし、これにゃちゃんとした着るべきときってのがあんだよ。そう言われたからにはこんなとこでほいほい着れるか」


「そんなこと言って勿体ぶっちゃってぇ、ゼンタさんったら」


「んなことするかい。お前と一緒にすんなっての」


「…………、」


 広げてねえとよくわからねえだろうにマジマジと俺の持つ貰い物の衣装を見つめるメモリと、断っても諦めずに着せようと絡んでくるサラ。ちょいと鬱陶しい仲間たちを引き剥がしつつ、俺は笑った。


 ま、何が正しいかなんてわかりゃしねえが、何が正しくないかくらいはわかる。

 昔のマリアのように仲間を失うなんて俺ぁ絶対にごめんだ。


 だから。


「クエストまでは気楽にいこうぜ。そん代わり本番は気張っぞ。何せこれが新生アンダーテイカーの初仕事なんたからな」


「もう、言われなくたってわかってますって」

「……りょうかい」


 何があろうとこいつらのことは守ってみせる。

 今、改めてそう思ったぜ。


貰った服着るのはだいぶ後になりそう

というか忘れそう(筆者が)

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