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19.ようこそポレロの冒険者組合へ

「ここかぁ、冒険者組合ってのはよ」

「立派な建物、出入りする屈強な男たち。間違いありませんね!」


 屈強な男たちっつっても、割合は男女半々くらいだがな。女の冒険者ってのも普通にいるっぽい。それが意外かどうかはよくわからんが。


 昨日の夜に決めた通り、例のごとく人に道を確かめながら辿り着いた冒険者組合。

 そこは意気揚々と『リンゴの木』を出た俺たちの期待を裏切らないだけの風格を感じさせた。


「まあ、朝一番で行くとか言っときながら、誰かさんがのんびりしてたせいで出遅れたけどな」


「いいじゃないですかー、朝のお風呂くらいゆっくり入らせてくださいよ。せっかく使えるんですからとことん快適に使わなきゃ損ですよ!」


 快適さの代償に所持金は減ってくんだが……残るは四千四百リルだ。計算すると、四泊+風呂二回分ってところだな。これはあくまで飯とか他に費やしそうな諸経費を省いた計算なんで、実際はどんだけ節約してもあと二泊が限界かね。


 だがこんな後ろ向きな皮算用は、新たに金さえ手に入ればしなくて済む。これから稼げばいいだけのこったぜ。


「よし、入るぞ」

「はい! あ、昨日みたいに人とぶつからないよう気を付けてくださいね」

「わかってらぁ」


 本当はスイングで開くタイプのその扉を勢いよく開け放つつもりでいたのは内緒な。

 酔っ払いと喧嘩する羽目になった失敗を反省して、今回は出てくる奴と正面衝突しないようゆっくりと開けた。


「朝でも賑わってますねえ」


 一緒に入って、俺の後ろから覗き込みながら感心したようにサラが言った。

 確かに割と人が多くいるぞ。俺たちが想定していたよりも遅く宿を出たと言っても、まだ朝だっていうのにな。


 クエストボードと書かれた掲示板を熱心に眺めている連中や、テーブルで顔を突き合わせて話し合っている連中、組合の職員と思しき制服を着た人に何か教えてもらっている連中。皆やってることは様々だ。けど、その全てが冒険者活動の一環だってことは見ているだけでも察せられる。


「私たちも彼らに混ざりますよ!」

「おう!」


 何個かある受付っぽいところが一箇所空いてたんで、そこの前に立つ。

 カウンターの上には呼び出し用っぽいベルが置いてあったが、それをチリンチリン鳴らすまでもなく、手隙の姉ちゃんが俺たちににっこりと微笑みかけてきた。


「ようこそポレロの冒険者組合へ! ご用件をお伺いします」


 ばっちりマニュアル通りって感じの第一声だ。


「ふ……。新顔が冒険者組合を訪ねてきたなら、用件は依頼か登録かのふたつにひとつ。私たちは当然後者ですとも」


 急に、何やら只者ではないような雰囲気を出すサラ。そんなことをする意味はよくわからんが、とりあえず俺も「うむ」と男らしく同意しておいた。


「それ以外の用でお訪ねくださる方もたくさんいますが……お二人は冒険者になりたい、ということでよろしいですね?」

「あ、はい」


 出鼻を挫かれた感じでサラが普通に答えた。

 最初からやるなと言いたい。


「畏まりましたー。それでは登録料としてお一人二千リル、しめて四千リルを頂戴いたします」


「「へっ?」」


「四千リルを頂戴いたします」


 二度言われて、ようやく頭が追いついた。


 冒険者になるのって金かかんのか!


 一緒になって驚いていることから、サラも知らなかったらしい。又聞きっぽい感じで冒険者の仕組みについて色々教えてくれたこいつも、さすがに登録んときに何をするかってのは知識外だったか。


 まあ驚きこそしたが、考えてみるとそりゃ金くらいは取るかって思うね。

 聞く限りじゃ冒険者の資格っつーのは免許みたいなもんだもんな。


「どうぞ」

「はい、確かに。四千リルちょうどですね」


 サラが胸元から千円札ならぬ千リル札を四枚取り出して受付の姉ちゃんに渡した。


 いやおい、なんつー所にしまってやがるんだ。


 実はこいつ、服の上からでもわかるくらい胸があるんだが、まさか合間に金を挟んでたんじゃないだろうな。

 昨日はそんなことしてなかったのに何考えてんだホント。


「これで俺たちも冒険者になったってことでいーんすか?」


「いえ、登録はこれからですよ。まずはお二人のお名前と年齢を教えてください」


 用紙を取り出し、筆記具と見られる羽根みたいなもんを手に持ってそんなことを聞いてくる姉ちゃん。

 なるほど、一応は素性を訊ねたりもするってか。


「サラ・サテライト。十七歳です」

「柴善太……ゼンタ・シバ。十五」

「ゼンタシバさん?」

「ゼンタが名前っす」


「失礼しました。サラ・サテライトさんとゼンタ・シバさんですね。よろしければこれまで何をされていたのかお聞きしてもよろしいですか? お答えできないというのであれば構いませんが」


「「…………」」


 俺とサラは顔を見合わせる。なんか昨日からこんなんばっかだな。


 サラには秘密にしていることがあって、放浪を始める前どこで何をしていたかは俺にも言おうとしない。俺のほうは別に秘密なんてないが、打ち明けるべき過去もない。だって昨日までは森にいて、その前はただのどこにでもいる中学生だったんだからな。


「私はボランティア活動を」

「俺はサバイバル生活を」


「はい」


 結果として空白の職歴を誤魔化すための言い訳みたいなもんが俺たちの口から揃って飛び出したが、受付の姉ちゃんは一言で受け流してペンを紙に走らせていく。


 これぞプロだな!


「お二人はパーティを組まれるということでよろしいですか?」

「はい、そのつもりっすけど」

「わかりました。それでは、習得されている職業クラスをお教えください」


「私は……メイジでお願いします」

魔術師メイジですね」


「ネクロマンサーす」

死霊術師ネクロマンサーですね……へっ?」


 おっ、今度は姉ちゃんのほうが驚いたぞ。

 ペンを止めて、顔を上げて。

 そんで俺のことを上から下までじっくりと眺めた。


「ネクロマンサー、ですか?」

「間違いないっす」


 見せりゃわかりやすいかと思って、俺は【武装】を発動して『恨み骨髄』を取り出した。


「ほらこれ。俺の武器、このとーり骨なんすよ」

「ええっと……」


 いきなり背骨をぐいっと突き出されて、さすがのプロも困惑を隠せないようだったが、そこはやっぱプロ。背骨っぽい物が確かに武器だと確認するや、コホンと咳をして切り替えた。


「わかりました。メイジとネクロマンサー、登録いたします」


 まだどっか、俺がネクロマンサーだってことに疑心を抱いているような気配は感じられたものの、その後も細々とした質問がいくつか続いた後に、最後の説明となった。


 いよいよ冒険者デビューかと意気込んで喜んでいたところ、俺たちはまたしても受付の姉ちゃんから驚きの言葉を聞かされる。


「まずはFランクからのスタートとなります。ですが、Fランクは冒険者であって冒険者ではありません」


「えっ、それはどういう意味でしょうか」


「Fランクは別名初心者ビギナーランクとも呼ばれ、半冒険者とでも言うべき仮の資格を得た状態なんです。正式に冒険者として扱われるのは、そのひとつ上のEランクからだと思ってください」


 げっ、そういうところも免許と一緒かよ。

 俺たちはまだ仮免を貰ったに過ぎないってことか。


「どうすりゃランクを上げられるんすか。やっぱりクエストってのをこなしていけば?」


「いえ、Fランクのクエストでは何件達成しようと昇級は叶いません。時間をかけない昇級方法は主に三つですね。ひとつ、高名な方からの推薦状を持参する。ふたつ、組合にとって非常に有益な何かを提示する。三つ、著しくランク不相応と判断されるだけの高い実力を示す……以上です」


 指折り数える姉ちゃんの笑顔は崩れなかったが、対する俺たちの顔は正直、引きつっていたと思う。


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