185.ここを通りたくば
頼みたいこと……おっとそうだった。
俺ぁとあるお願いをするために招集の命令に承諾しつつ、そのついでにローネン政府長と会わせてくれって頼んだんだったな。
絶好の機会だってのに危うくただ挨拶しただけでさよならしちまうところだったぜ。
「口利きが欲しいんすよ。教会の『聖女』って人に会いたいんで、そのアポを取り付けてくれないっすか」
聖女ってのは教会のトップ。ギルドで言うところの団長みたいなもんだ。
大シスター、シスター、シスター候補生たち、それ以下の大勢……を取り仕切るお偉方。
教会自体が治癒の場面以外じゃ部外者に排他的(らしい)ということもあって、聖女に会いたいと思ったところで一般人じゃおいそれとは叶わない願いだ。
明日にでもこのセントラルシティの教会本部で修業中であるサラに会いにいってみるつもりではあるが、そのついでに聖女を出してくれと言ってみたって唾を吐かれて終いだろう。
……や、まさかシスターがそんな品のねえ真似はしねえだろうが、向こうの気分的にゃそれくらい冷たくあしらってくんじゃねえかってことな。
だから、アーバンパレスを抱えるのと同じように教会もまた管理下に置いてる統一政府の長であるローネンから、直々の口伝を頼みたいと考えたんだ。
専属契約を結んでるらしいアーバンパレスと教会じゃまた事情もかなり異なるんだろうが――言うなりゃアーバンパレスと警団は公安と警察みたいなもんで、教会は一枚岩の大病院ってところか――いずれにしろ政府と太いパイプで繋がってるこたぁ確かだ。
教会からの出奔者であるサラの、新しい仲間。そんな立場の人間がただ「会いたい」と言うのとローネンからの「会わせてやってくれ」の言葉があるのとじゃ、どっちに期待を持てるかなんつーのは言うまでもねえよな?
そういうつもりでお願いを口にしてみたんだが。
「――――、」
一瞬の間があった。そんときのローネンの顔は今までの人に親しみやすさを覚えさせるための皮を脱ぎ去ったような、見てて重苦しさすら感じるような表情だった。
が、それも次の瞬間にはさっぱり消えて元の柔らかな笑みに戻っていた。
気のせい、では決してねえ。
すぐに隠したが、ローネンが俺の言葉に何かを思ったってのは確かなことだ。
それも口には出さないような彼にとって重大な何かを。
さすがに俺の代わりにアポを取れというのは失礼が過ぎたかと後悔の念が湧き起こる。思った以上にローネンが話しやすい人で、マクシミリオンとまで会えて俺の気は緩んだ……というか大きくなっちまってたのかもしれねえ。
もっと頼み方を考えりゃよかった、と内心で自分に舌を打つ俺に、けれどローネンは軽い口調で答えた。
「わかったよ。それが君に必要なことであるというのなら、私は喜んで応じよう」
「えっ……いいんすか?」
「勿論いいとも。できるだけの力添えをすると約束したばかりじゃないか。早速頼ってもらえてこちらとしても嬉しい限りだ」
白髪混じりの長髪を揺らしながらローネンは愉快そうに笑っている。
そのことに俺はホッとして、改めて話す機会をくれたことに感謝を言っておいた。
◇◇◇
「それじゃあ二人とも、気を付けて。僕はここまでだ」
快く(?)願いを聞いてくれたローネンとはそこで別れて、俺とメモリは統一政府本部を出ようとしていた。
来るときは通らなかった正面玄関まで案内してくれた委員長もそこで足を止めたんで、俺は振り返ってその顔を真っ直ぐ見た。
「あんがとよ委員長。いや道案内のことだけじゃなくってな。ローネンさんが会ってくれたのはお前がここで働いてることも無関係とは思えねえだろ? だからそれも含めてのお礼だ」
「買いかぶり過ぎだよ。本部勤めと言っても同僚は大勢いるんだ。まだ僕はローネン政府長からそこまでの信頼を頂いてはいない」
ふーん、そうなんかね?
委員長が俺たちを連れてきたときのローネンはかなり信頼感を見せてたように思えたが……つかそもそも、信頼されてねーやつがこんなすぐ本部内で働けるわけもねーよな。
よくもまあ一からここまで。そう考えるとやっぱすげぇよ委員長は。
「だけど俺にとっちゃ残念だな。この分じゃあ委員長とも一緒に戦えそうにはねえ」
「そうだね……僕の所属する市衛騎団が対魔皇軍の戦力に組み込まれることはないだろう。各都市を巻き込んだ総力戦にでもならない限りはね」
「大事だな。んなことにならねえようとっとと倒しちまわねーとな。くそったれな魔皇とその手下たちを」
「ふふ。柴くんがそう言うと、本当にあっさりと倒してしまいそうだね」
くすくすと口元に手の甲を当てながら笑う委員長は、しかしすぐに真剣な顔付きになって。
「悪いが柴くん、三毒院さんたちも含めてそちらのことは君に任せたい。僕は僕でやらなくちゃならないことがあるんだ。まだ朧げではあるけれど、きっとこれは必要なことだと思うから」
「よくわからんが、あれだろ? ローネンさんが言ってた魔皇軍以外の危機の芽ってやつ。それを摘むために委員長も忙しいってこったな。まーそっちのことは俺もお前に任せっからよ、魔皇軍のことはこっちでなんとかしてやるさ」
「ありがたい。君が味方にいてくれることほど、僕に勇気をくれるものはないよ」
「また大げさな」
「大袈裟なもんか。……メモリさん。どうか柴くんのことをよろしく頼むよ。彼は必ず無茶をするだろうから、それを止めろとは言わない。だけど傍で見守ってあげてほしいんだ。どうかお願いします」
「……願う必要は、ない。言われなくても、わたしはそうするつもりだから」
メモリと委員長、二人の視線が交錯する。
委員長は男だが美人度で言えば成長したメモリにも引けを取らない不思議生物だ。
その切れ長の瞳とメモリの丸っこい赤目はかなり対照的ではあるものの、どちらも引けを取らないだけの迫力ってもんを持ってる。
目と目でのやり取りだけで何がどうなったのか……やがて二人はどちらからともなく握手をした。どういうこったよ。
「ん……そういや委員長、よくこれがメモリだってわかったな。前に見たときとは何もかもが変わってるだろ?」
「わかるさ。君に向ける眼差しがまったく同じだったからね」
「なんだその見抜き方」
テクニカルすぎてちょっとキモいぞ。
とはさすがに悪い気がして言わなかったが。
◇◇◇
そしてその翌日、俺とメモリは教会本部へと足を運んだ。
別れ際にローネンは「すぐに教会へ一報を入れる」と言ってくれたんで既にアポは入ってるはずだ。顔パス、とはいかねえだろうがサラと会うのも聖女と会うのもすんなり話は通るだろう……とさっきまでは思ってたんだがなぁ。
「クママママ! ここを通りたくばこのカロリーナを倒していけクマ!」
ルチアとともに教会に秘密でサラへ会いにきた、例の着ぐるみに近いタイプの熊の獣人カロリーナが俺の前にデンと立ち塞がっていた。
何がどうしてこうなった、とは思いつつ。
パワーアップを確かめるにはいい機会かもしれねえと、ちょいとワクワクする自分もいたぜ。
『シバ・ゼンタ LV57
ネクロマンサー
HP:355(MAX)
SP:312(MAX)
Str:342
Agi:294
Dex:287
Int:1
Vit:247
Arm:228
Res:169
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV4】
【超活性:LV1】
【心血】
【明鏡止水:LV1】
【察知:LV5】
【EXP取得量微増】
【EXP取得範囲拡大】
【技巧】
【死線】
【環境適応:LV2】
クラススキル
【武装:LV5】
【召喚:LV7】
【接触:LV4】
【契約召喚:改】
【血の喝采】
【偽界:LV3】
【死活】
【死の祝福】
【死の逢瀬:1】
【黒雷:LV4】
【亡骸】
【呪火:LV1】』
伸びたステータスと変化したスキルたち。
せっかく向こうから仕掛けてきてくれたんだ。ガロッサの大迷宮に挑むより先に、カロリーナを相手にいっちょ肩慣らしさせてもらうとすっかね!
『シバ・ゼンタ LV41+16
ネクロマンサー
HP:229+126
SP:191+121
Str:220+122
Agi:187+107
Dex:172+115
Int:1+0
Vit:156+91
Arm:148+80
Res:94+75
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV3】+1
【活性:LV4】→【超活性:LV1】
【心血】
【集中:LV4】→【明鏡止水:LV1】
【察知:LV3】+2
【EXP取得量微増】
【EXP取得範囲拡大】
【技巧】
【死線】
【環境適応:LV2】New!
クラススキル
【武装:LV5】
【召喚:LV5】+2
【接触:LV4】
【契約召喚】→【契約召喚:改】
【血の喝采】
【偽界:LV2】+1
【死活】
【死の祝福】
【死の逢瀬:1】
【黒雷:LV2】+2
【亡骸】
【呪火:LV1】New!』




