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183.私に時間を作れとね

「さ、行こう」


 ジョンとマーニーズとはそこで別れ、今度は委員長に手を引かれ会議場まで降りた俺を、その二人はすでに待ち構えていた。ローネン・イリオスティアとマクシミリオン・カイザス。さすがに超大物たちが揃ってこちらを見つめている状況にゃあちょびっとだけ緊張もしたぜ。


 知らず、俺の喉がゴクリと鳴った。


「お連れしました。こちらが僕の友人で、ギルド『葬儀屋アンダーテイカー』リーダーの柴くんです」


「うっす、どうも初めましてっす!」


「それから、彼女がメンバーのメモリさん」


「……お会いできて光栄、です」


 今気付いたが、俺もメモリも敬語が下手で、丁寧な喋り方ってのができないタイプだ。そういうところでは案外如才ないサラがいてくれりゃあちょっとは違ったんだろうが、あいにくとあいつは不在中。


 俺たちだけでこのマジでお偉い二人と話すのはなかなか無茶な試みなんじゃなかろうか……と若干の不安に苛まれた俺を笑い飛ばすように、ローネンもマクシミリオンも気のいい笑みを見せてくれた。


「案内ご苦労だったねナキリ君。そして初めまして二人とも。こちらこそ会えて光栄だよ」


「まったくだ。お前たちには是非、直接会って礼が言いたかった。……スレンティティヌスの命を救ってくれたこと、心より感謝する」


 ローネンに続き口を開いたマクシミリオンが、そのまま頭まで下げるんで俺は慌てて言った。


「いや! その礼ならもうジョンさんたちから貰ったし、団長さんまでんなことしなくていいって!」


「そうはいかない。アーバンパレスの団長だからこそ、団員を助けてくれた者には敬意と感謝を示す必要がある。今は言葉だけになってしまうが、どうか受け取ってくれないだろうか」


「わ、わかった。わかったっすから顔を上げてくれよ団長さん」


 なんせここは四方から丸見えの場所だ。

 横にあるデカい円卓にさっきまでずらっと並んでいた連中はもう一人残らず退席しちゃいるが、通りがかる人たちからは普通に見られちまってる。

 こんなとこで有名人に頭を下げさせてるってのは外聞がよろしくねえよ。


 仕方なく謝罪を受け入れると、ようやくマクシミリオンは姿勢を戻してくれた。


 そのことにホッとしたところで、スレンのことがあってのこの態度であることに気付いた俺は自然ともう一人のほうへ視線が移った。


 団員を救われたとよほど恩を感じてるっぽいマクシミリオンはともかく、ローネンが俺たちに「こちらこそ光栄だ」なんて言う理由はなんだ?


 そう言葉にしたわけじゃなかったが、さすがは様々な要職に就く年寄りたちを上手くコントロールしているらしい政府長様ってところか。俺の表情の僅かな変化からその疑問を見抜いたようだ。


「マクシミリオンと同じだよ。私も敬意を表したんだ。君たちがいてくれなければ最悪のシナリオになっていただろうからね……」


「最悪のシナリオ?」


「ユニフェア教団事件のことさ。あの場に君たちが合流していなければスレンティティヌス・ポセドー以下アーバンパレス構成員三名は落命し、敵幹部エニシは逃げおおせていた可能性が高い。教団の活動を抑制することはできてもその主因であるエニシが未討伐に終わっていれば事態はまさに最悪だった……魔皇軍対策会議に関しても今ほど迅速に開催できてはいなかっただろう。現状、決して良いとは言えずとも最悪には程遠い。それは君たちの力があってこそ得られた結果だ。私はそのことに感謝しているんだよ」


「…………」


 初めて会ったとき、『魔皇案件』に図らず首を突っ込んじまった俺たちに、レヴィは命が惜しければ手を引けと告げた。

 それは新参の冒険者がむざむざ死んじまうのを捨て置けなかった気持ちとともに、下手に事情を知らないやつらに引っ掻き回されたくないっていう思いがあっての忠告だったはず。


 インガとエニシに仲間を殺られた恨みだけじゃなく、統一政府セントラルの方針がそういったものだったから、余計にレヴィもジョニーも俺とサラが魔族の事件に関わることを良しとしなかったんだ。


 つまり俺たちアンダーテイカーは大ギルドだけじゃなく政府にも逆らい、手を出すなと言われた魔皇案件に首だけじゃなく手も突っ込んでいったことになる。政府長ローネンからすれば思うところのひとつやふたつもある行為だろうにそんな感情はおくびにも出さず、むしろ礼まで述べてくる。


 いくら結果オーライの形になっちゃいても政府の意向を無視しちまうような冒険者ってのは面白い存在じゃあないはずだが……ローネンはそれでも俺たちがギルドを開くことを認め、招集までかけた。対魔皇軍の精鋭部隊の一員に選んだ。


 そこからは確かに、ローネンなりの感謝。

 そして誰であろうと魔皇案件への対処のためなら使ってみせようという覚悟が感じられる。


「だからこうやって会ってくれたんすね?」


「おや? 君が要望を出したんじゃあないか。私に時間を作れとね」


「や、駄目元で頼んだことだったんで……まさか会いたいって言ってこんなあっさり会ってもらえるなんて思っちゃいなかったっすよ」


「ふふ……そうだな、確かに私はこれでも忙しい身だ。頼まれたからといって誰かれ構わず時間を割けるはずもない。それはマクシミリオンとて同じこと。だが、自らどうしても会わねばならぬと決めた相手であれば時間や手間など惜しむことはない」


 そこがわからねえ。要望が通ったってことは少なからず、ローネンのほうも俺に会いたいと思ったってことだ。今自分でもそう言ったしな。


 それはわかったが、しかしそう思った理由ってのがちっとも思い浮かばねえんだよな。


「そう難しい理屈ではない、シバ」


「カイザスさん」


「マクシミリオンでいい。団員や他の冒険者たちからはそう呼ばれている。……ローネンはつまり、お前たちを気遣っているのだ。ギルド『アンダーテイカー』はAランク昇格から数えても日が浅い。どころか、冒険者資格を得てまだ一年未満。勝手がわからないことばかりだろう。そんな状態で今回の魔皇軍対策会議への招集……お前たちを侮るわけではないが、荷が勝ちすぎていると判断するのは当然だ」


「まあ……そうっすね」


 ここは特に反論するようなとこじゃないんで、俺は素直に頷いておく。


 俺たちは一応Aランクで、上級冒険者の仲間入りを果たしてるわけだが、その昇格は対魔皇軍部隊に滑り込むための駆け込み乗車もいいところだ。

 トードにも言われた通り、まだまだアンダーテイカーはAランク相当のパーティであるとは言えやしねえのさ。


 マクシミリオンの言葉を受けてローネンも少し遠慮をしながら、


「気を悪くしないでもらいたいが……私の呼びかけに応じてくれた残る六組と君たちでは、少々事情がことなる」


「そりゃわかってるっす。あくまでエニシの件があったから選抜部隊の一枠に置かれただけってことだ。そんなんで自惚れるつもりはねえっすよ」


特級構成員エンタシスと共闘し逢魔四天を打ち破った成果は誇るべきものだと私は思うがね……けれどAランクの中でも最上位。限りなくSランクに近い評価を得ている彼らと上級に上がりたての君たちが肩を並べるとなれば、多少の弊害はどうしても生まれるだろう。なればこそ、私たちは出来る限り君たちの助けにならなければならないと考えた」


 はーなるほど、マクシミリオンまで俺のことを待っていたのは礼を言うだけじゃなく、これを伝えるためでもあったのか。政府長と団長双方からこう言ってもらえたら、そりゃあ選抜部隊の中じゃ圧倒的弱小ギルドでもそれなりに安心できるってもんだよな。


 ……ま、手厚くされたらされたで子供扱いを受けてるみてーでちょいと不満めいたもんも燻るが、だからって善意を突っぱねるほど俺の性根もひん曲がっちゃいない。


 偉い立場なのに必要以上に偉ぶらないこの二人に好感を抱きつつあった俺は、ありがたくその配慮に甘んじることにした。


「あざっす! 世話んなります!」

「……ありがとうございます」


 メモリと一緒にこちらも頭を下げてから、改めて二人と握手を交わした。


 マクシミリオンはがっしりと力強く、ローネンは包み込むように優しく手を握ってきた。

 俺もなるべく誠意を見せられるように頑張ったつもりだが、ガキの背伸び以上のもんにゃなれてなかったろうな。


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