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181.ボチベロス

「礼を言っとくぜ、ゼンタ・シバ」


「ああ、さっきのことか? 話が進まなきゃ俺も困るしな、気にしなくていいぜ」


 カルラに対して一人だけ反論かましたことを言ってるんだと思った俺は、そう返した。

 あれはガレルに促されてのことだし、あくまで本心を述べたまでだ。礼が欲しくてしたことじゃあない。


「それもあるが……教団事件のことだよ。お前たちがいなけりゃ確かに、俺の大切な仲間は死んでいただろうからな」


「そ~そ~、ティティちゃんの大怪我には私も驚いたけどぉ、命があって本当に良かったぁって思ったのよねぇ」


 ティティちゃん、というのが誰のことなのか一瞬わからなかったが、流れ的にはスレンティティヌス・ポセドーのことで間違いないだろう。この二人と同じ特級構成員エンタシスで、エニシ撃破の立役者。間一髪のところで俺の命を救ってくれた恩人でもある。


 このマーニーズとかいう振袖女は、スレンを「ティティちゃん」なんて愛称で呼ぶのか? なんつーか、そりゃすごいな色々と……。


「そっちの礼だっていらねえさ。スレンさんがいなかったら俺だっておっ死んでたとこだ」


「バカ言え、先輩を救われて感謝しねえわけにいくか」


「マニーちゃんもちょっと反省~。面白がって教会に知らせたりしたのはちょっと悪かったかな~って。こんなにいい子たちならそんなことしなかったのにぃ」


「お前はどのみち同じことをしてただろ」


「もぉ、ジョンちゃんったらまた厳しいんだから」


 教会、というワードではたと気付く。


 そうだ、なーんか引っかかるもんがあったんだが、それが何かようやくわかったぜ。

 俺はマーニーズという名を既に聞いたことがあったんだ。


 他ならぬ教会勢力の一員であるルチアが教えてくれたアーバンパレスの要注意人物。

 それがこのマーニーズ・マクラレンに違いねえ!


 ……せっかく忠告を受けてたってのに、あれっきり俺は教会とは関わってねえんですっかり忘れちまってたぜ。


「あんただったのか、クララっていうシスターにサラの居場所をチクったのは……」


「本当は教会に知らせるつもりだったから、そっちは未遂だけどね♪ せっかく教え子が元気にしてるって報告してあげたのに、クララったらそのこと隠すんだもん~。あのときはマニーちゃんもぷくぅってなったけど、今は納得してるわ。ゼンちゃんもサラサラちゃんもとっても可愛いものね、贔屓したくなっちゃうのもわかるぅ」


 おいおい、俺らのことまで妙な愛称で呼び始めたぞこの女。サラなんか元の名前よりも長くなってるじゃねえか。呼びにくいだろ、サラサラちゃんって。


「でも一番気になるのは、そっちの子……メモりんかなぁ」


「なに、メモリが? そらまたなんで」


「だってこうして見てるだけで――只者じゃないってわかるからぁ。ふふ」


 振り向いて流し目を寄越すマーニーズ。けったいな女に舐めるような目付きで見つめられているメモリは、だけどちっとも顔色を変えなかった。無表情。まるで会話が一切聞こえていないみてーに黙々と歩き続ける……が、その瞳だけはしっかりとマーニーズを見つめ返していた。


「…………、」

「うふふぅ~」


 な、なんだこの二人の妙な間は。


 確かに俺はMP(魔力)なんて持ってねえし、特殊な力はスキルしかない。それに対してメモリは肉体の成長に比例して魔力量が増加しているうえに、ネクロノミコンつー超強力な武器を二冊も所有してもいる。


 見る奴が見ればメモリが只者じゃねえってことはすぐに見抜けるだろう。


 だがそれにしたってアーバンパレスのエンタシスともあろう者がこうも特別視するってぇのは……俺が思ってる以上に今のメモリは、とんでもねー凄腕ネクロマンサーに育っちまってるのかもしれねえな。


「やっぱり素敵だわ~、三人とも凄く素敵」


 まったく怯まないメモリに満足したようにマーニーズはにんまりと笑って、前に向きなおった。


「少しちょっかいかけようと思ってたけどや~めたぁ。その代わり、ダンジョンでは私が守ってあげるから安心してねぇ」

「それもちょっかいと変わらねえと気付きやがれマーニーズ。毎度そんな調子だからレヴィのことも困らせてんだろうが」

「え~!? なんで守ってあげて困られるのぉ? マニーちゃんわかんない〜」


 ぶんぶんと振袖を振り回して子供っぽい仕草を見せるマーニーズ。


 美人というよりは垂れ目で可愛らしい雰囲気の顔立ちなんで、それが似合ってないとまでは言わねえけどよ……だが確実に二十歳は過ぎてる見た目だからな。実年齢は知らんがさすがにちょっと、外見年齢に見合ってないと言わざるを得ない。


 つか単純にぶりっ子具合が鼻につく。


「ったくこいつは……すまないな。マーニーズの与太話なんざ流してくれていいぞ。だが、お前たちを可能な限り守ってやりたいとは俺も思ってる。スレンについての恩返しってんじゃあないが……まあ、冒険者の先輩として。そしてダンジョン攻略クエストの責任者としてな」


「ぷぷ、ほんとはジョンちゃん、ゼンちゃんたちのこととっても気に入ってるのよ。だけど最初から甘い顔したら示しがつかないとかなんとか言って、こ~んな風に気取っちゃってぇ」


「うるせえな。それが俺のポリシーなんだから放っておけ」


「はぁい、わかってますぅ。でも今はもう、ちゃんと認めてあげたのよね?」


 そうなのかと見てみると、ジョンは俺の視線に少しばかり気恥ずかしそうにしながら咳をして……それから「ああ」と頷いた。


「きっちり自分の目で確かめたからな。アンダーテイカーはいいパーティらしい。……サラ・サテライトに関しては直接会うまで評価は保留するがな」


「も~、どこまでも強情なんだからぁ」


 ……なんか、思ったよりはまともな人たちだな? 


 や、ジョンはともかくマーニーズをまともと言っていいかは微妙なラインだが……いきなり殺しにかかってきたメイル・ストーンと比べると、ちょいと奇天烈なキャラクターをしてるくらいはぜんぜん普通に思えるぜ。


 俺の中でのエンタシスへの印象、そのハードルをメイルが一人で爆上げしてんだよな。もちろん悪い意味でだ。


 なまじあいつが出会った一人目だっただけに、少々おっかないとこはあっても十分に話が通じたスレンが逆に不気味に感じたくらいだったからな……今思えば異常な心理状態だったぜ。


「ときにゼンタ・シバ……」


「ゼンタでいいぜ。俺もジョンさんって呼ばせてもらってるし」


「そうか。ならゼンタ。無用な詮索は控えたくもあるんだが、どうしてもひとつ気になってな。質問していいか」


「質問? そんくらいお安い御用だ、俺についてならなんだって遠慮なく聞いてくれよ」


「お前についてじゃあなく……いや、ある意味そうか。お前が連れている使い魔のことだが」


「ん? こいつがどうかしたか?」


「上がってきた情報と少し違っているんで戸惑っている。その三つ首の狼みたいな生き物は、本当にお前がよく召喚しているっていう『ボチ』で間違いないのか?」


 そう問われて、俺は横を歩いてるボチのことを見た。

 真ん中にボチの顔。その右にボチツー、左にボチスリー。


 うん、異常はないよな……三匹合体状態の『ボチベロス』だ。


 今のボチは首が増えただけじゃなく、体格も狼というより巨大馬ぐらいになったし、運動能力はその比じゃないくらい上がってる。つまりこれはボチたちが融合して強力になった証の姿ってことだ。


 変態し、分裂し、そこからまた合体変態することでこんなことになった。そりゃあ最初は俺だって戸惑ったが、もう慣れたぜ。体がデカくなったって点以外は普段のボチたちとそう変わらねえしな。


「間違いなくボチだぜ? 種族はゾンビウルフからケルベロスってのに変わってるけどな」

「……なんで種族が変わったんだ?」

「そりゃスキルがパワーアップしたからさ」

「スキルの力で……首まで増えたのか」

「まあ、この前三匹に増えたからな。そらとーぜん頭も三つになるわな」

「そうか、当然なのか……」


 ジョンの背中からはやるせない感満載の哀愁みてーなもんが漂ってくる。


 いったいどうしたのかと首を捻ってると「目立つからボチを引っ込めてくれないか」と頼んでくるんで、ステーションからここまで乗っけて走ってくれたボチに礼を言って【召喚】を解除した。


「ありがとよゼンタ。さすがにこれから政府長に会おうってのに魔物……だよな? がいたんじゃ、使い魔とはいえ問題があるんでな」


 政府長に会う。

 その意外な言葉に俺は目を見開いた。


 ――まさか、こんな簡単に要望が通るたぁな……。


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