表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/557

179.伝説のお宝

「『ガロッサの大迷宮』……?」


 誰がということもなく呟かれた言葉には、一同に共通する不可解さってもんがありありと表れていた。


 かく言う俺も何故だ、という思いが強ぇな。『ガロッサの大迷宮』が何かってのは以前サラから聞いたんでわかっちゃいるが、わからねえのは……ここでどうしてその名が出たのかってことだ。


 その疑問を誰よりも先にぶつけたのは狼の獣人ブルッケン・シャウトだった。


「なんだァそりゃ。俺たちゃ魔皇軍と戦うために集められたんじゃなかったのか? それがどうして仲良くダンジョンへ潜るなんて話になるのか訳がわからねェんだが……俺以外の奴には話が通じてんのか」


「こちらもさっぱりだ。ふふ、まさか宝狙いで軍備拡張の金策を図るというわけでもないだろうしな……」


 だとしたら面白かったんだが、と冗談交じりにアルフレッドが室内でも外す気のないらしい山高帽のつばを遊ばせながら言えば、なんとジョンはそれに首肯で応えた。


「ある意味じゃそれが近い」


「ほう……?」


「入るたびに形が代わり、宝が自動発生する。それを守ろうとするかのように魔物や魔獣も生まれ、無作為に徘徊する。それがとある天才が作り上げた人工ダンジョン『ガロッサの大迷宮』だ。知らない者はいないな?」


「とーぜんさ! あそこ楽しいよなー! オイラたちもこっち来てからは何回か挑戦して、宝だっていくつか見つけたんだぜ!」


 にししと笑いながらダンジョンを気に入ってる風のビットーがそう答える。おそらくはアルフレッドが言うところの話題性ナンバー1のパーティ『韋駄天』も、例の大迷宮にゃお世話になってるらしい。


 そういやレジャー施設のような扱いだともサラは言ってたっけな……じゃあ危険そうに聞こえるのにこんな呑気な反応なのも当たり前か? そんな俺の考えを裏付けるようにジョンが言った。


「魔物蔓延る危険地帯とはいえ、その危険度は浅ければ低く奥に進むほど高くなるという法則性に則ったものでもある。過信や慢心さえなければ自分の実力に見合ったエリアでの宝探しが楽しめる。俺もガキの頃には夢中になって挑戦の列に並んだもんさ」


 ほー。最低限戦えるだけの力や探索能力さえあれば確かに、かなり面白い場所だろうな。


 冒険者にとってはうってつけの修行場になるし、そのついでにお宝までゲットできる可能性もあるとなりゃ、そりゃあ挑まないほうがおかしいわな。


「けれど誰も最奥までは到達していない……わたしくはそう聞いていますけど?」


「その通りだ、カルラ・サンドクイン。俺たちが目指すのはまさに、その前人未到の最奥地ということになる」


「最奥、ねえ……。そんな場所を目指してどうなるってんだい? 噂を聞く限りじゃあ生成される迷宮に最奥なんてもんはそもそもないか、あっても迷宮の主として設定された魔物が待ち構えているだけだって話らしいじゃないか?」


「いィや、その噂の信憑性は低いぜオーバスティス」


「! シャウト……意外だね、あんたガロッサに詳しいのかい」


「ハハハ、俺が鼻の利く男だってのは知ってんだろ? 儲け話にゃお前なんかよりよっぽど敏感さ」


 セントラルシティから遠く離れたプーカを拠点ホームとしているガレル。それと同じくギルド『獣鳴夜ビーストナイト』もホームは別の街のはずだが、それでもブルッケンは大迷宮に関しちゃガレルより情報に精通しているようだった。


「入るたびに構造を変えるダンジョン。だが、全体の広さと最深部の深さってのは必ず決まっているそうだぜ? 紅蓮石によって遠視や転移が封じられてるんで実証こそされてねェが、深く潜れるだけの実力のある連中が回数を分けて少しずつ確かめたことでそれはほぼ確定的なんだとよ。ま、俺も興味はあったが到達点更新を狙うとなると出費も嵩むしリスクもある。未知の解明だけを魅力として目指すにはちとしんどい……と、浅い階層で引き返して奥には手を出してこなかったがよォ」


 喉の奥を鳴らすようにくつくつと低く笑いながら、ブルッケンはアーバンパレスの二人組へその獣の顔を向けた。


「そういうことだと思っていいんだな? わざわざこれだけの戦力で、今になって迷宮の突き当りを目指す。統一政府セントラルから常に最新かつ確度の高い情報を仕入れているであろうお前たちがそんな提案をするってこたァ……これで眉唾でしかなかった『伝説の宝』の噂が一気に真実味を帯びたぜ?!」


「ふむ、興味深いな……」

「なんですの、それ?」

「オイラも知らないなぁ、それってどんなお宝なんだー?」


 伝説の宝とやらはこのメンバーでも知ってるやつと知らないやつとで別れてるな。


 俺も後ろにいるメモリをちらりと見てみたが、首を振った。こっちも知らないらしい。やたら色んな情報に強いサラがいたらこれも解説してくれたかもな。


「ううん~。最奥で眠ってそうなのはお宝じゃなくってぇ、『兵器』なんだけどねぇ。魔皇軍をぶっ殺せるかもしれない、きょーりょくな兵器よ♪」


「「「!」」」


「あー……信用ならないかもしれないが、マーニーズの言ってることは本当だ」


 信用ならないってどういうことぉ!? と頬を膨らませて怒る振袖女を横目ですらも見ようとせずジョンは続ける。


「ダンジョンを作った男は、百年以上前。魔族との争いが起きていた戦乱の時代を生きた人間だ。しかも当時に残された資料を読み解くに、男は何か、強大な力を持つ兵器を操っていたそうだ。魔族が敗け、滅び、戦争が終わったあと。もはや活躍の機会もなく、むしろそれ自体が新たな戦いの火種にもなりかねないと判断した男は、自らの兵器を隠すために『ガロッサの大迷宮』を用意したんじゃないか。これが現在セントラルとうちの共通見解、最有力と見なされている説だ」


「なるほど、つまり迷宮自体が宝箱というわけか……しかし忘れてはならないのが、迷宮を形作っているのが何の力によるものかということだ。紅蓮魔鉱石。世界にふたつ……おっと失敬、先日アンダーテイカーが三つ目を発見したのだったな。世界に三つしかない、大変稀少かつ強力な魔力を持った正真正銘の至宝だ」


「わかっているさ。中身より価値のある宝箱を用意してどうする、と言いたいんだろうアルフレッド。紅蓮魔鉱石でダンジョンを作成できるようなら、その力のほうが兵器よりもよほど価値がある。だから最奥に兵器が封じられているという見解は的外れだ、とな。だがお前はひとつ思い違いをしている」


 ふむ? と小首を傾げたアルフレッドに……というよりも円卓を囲む全員によく聞かせるように、ジョンは身を乗り出した。


「上の出した見解にはまだ続きがあってな。……それは、『宝と宝箱は一致しているのではないか』というものだ。まあ待て、きちんと説明するからそう逸ってくれるなよ。考えてもみろ、大迷宮唯一の入り口である大扉に埋め込まれた紅蓮魔鉱石。あれこそがダンジョンをダンジョンたらしめる全ての源だが……そんなもんを常に外へ晒しているのは無防備にもほどがあるだろう? 何をしてもあの石は大扉から外れないと知れ渡っている今だからこそ誰も疑問にも思っていないが、天才と称される例の男が意味もなくそんなことをするだろうか。ああもこれ見よがしに掲げられていることにも何か、それなりの意味があるんじゃないか……だとしたら」


 話が飲み込めているかとジョンは一同を見渡しているが、少なくとも俺の顔には理解の色が見て取れたことだろう。


 というのも、ダンジョンと同じくギルドへ紅蓮魔鉱石の力を利用してるからには少し、事の奇妙さがわかった気がしたからだ。


 ギルドの拡張と防衛のために紅蓮石を飾ってはいるが、それは家の内部にだ。軒先に吊るして見せつけたりはしちゃいない。


 そりゃあれだけ貴重なもんにまさかそんな真似ができるはずもねえ……だがそれとほぼ同様のことをダンジョン製作者はやってるってことになるわけだ。


 こりゃあやっぱり、どう考えたって奇妙だろう。

 作成者の気紛れと言えばそれまでの話になるが、理屈にならねえもんは気持ちが悪い。


 だからそこに無理やり理屈を当てはめるとなれば――。


「つまりだ。宝の正体は宝箱そのものであり、必然、兵器の正体もまた宝箱であり。そして最奥に封じられているのは……どうやっても大扉から外れない紅蓮魔鉱石を、自分の物とする『権利』である。と、最終的に団長とローネン政府長はそう結論付けた」


 大ギルド総出で、現在持ち手不在である紅蓮魔鉱石を入手する。


 そしてその魔力を解放し――大昔に発揮したという兵器としての力を取り戻させる。


「それがこの七組による最初の合同クエスト。決行は三日後だ。それまでに済ませることは全て済ませて、全力で任務に当たれるようにしてくれ」


 必ずハードなクエストになるぞ、とジョンは気迫に満ちた表情で告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ