177.世の冒険者たちを代表するような
どばっと紹介回
一気に出し過ぎか
後ろでバタンとやや乱暴に扉が閉じられた。
ここまで案内してくれたイモンズというおっさんが閉めてくれたんだろう。
そう思いながらひとまず遅刻の謝罪のために下げてた頭を上げれば、室内の一同からの視線が挨拶をする俺の全身に突き刺さった。
俺はここにいるのが錚々たる顔触れだと事前に知らされているが、たとえそれを知らなくたってかなりの圧を受けただろうな。連中にはそんだけのオーラってもんがあった。
円卓に座っているのは招集された各ギルドの団長クラスたち。
その後ろに従者のごとく立ってんのは副団長クラスの人間のはず。
つまり世の冒険者たちを代表するようなトップと準トップがここに勢揃いしてるってことになる……。
どこのギルドが呼ばれ、どんなやつらが会議に参加するのかを頭に叩き込んできてる俺は、誰がどこの所属なのか大体の検討がついてる。
頑張って覚えた成果を今こそ見せようじゃねえか。
「ほう、これが『葬儀屋』……新参の話題性ではナンバー2の躍進的ギルド。想像以上に若い……うむ、良きかな」
俺用と思われる円卓の空席、その右隣には山高帽をかぶりスーツをびしっと着こなした細身の大男が座っている。穏やかな顔付きにこの余裕のある紳士めいた態度……間違いねえ、こいつがギルド『ブギー・ボギー』の頭目であるアルフレッド・イオルだな。
世にも珍しい闇属性と光属性の二刀流で長く冒険者界隈の前線を走るというベテランだ。付き従えているのはこちらも多属性を武器とする副団長のシンドラーという男だろう。うーむ、二人ともシックな黒のスーツなんで、なんだかマフィアが紛れ込んでるみてーにも見えるな。
「ハハ……なんだ、おィ。いい魔物連れてんな。見たことのねーやつだぜ。俺が貰ってやろうか、そのペット」
更にその隣、牙を剥き出しに笑ってる狼男。こいつが獣人のみで構成されたギルド『獣鳴夜』を率いる頭だという、ブルッケン・シャウトか。ボチを欲しがってんのはたぶん冗談なんかじゃなくて、割と本気で言ってそうだな。
背後にいる二人……情報通りならブルッケンの右腕と左腕であるフェンとミョルニだと思うが、どっちも『お望みとあらばすぐにも奪います』って目付きでこっちを見てるしよ。おっかねえなぁ。ちなみにフェンが犬顔でミョルニが蛇顔だ。ホントおっかねえわ。
「あれぇ? マニーちゃんちょっと意外~。遅刻したことを謝るなんて思わなかったからぁ、ゼンタちゃんのこと見直したぁ。評価花丸急上昇~。ね、ジョンちゃん?」
「ジョンちゃん言うんじゃねえ。遅刻してる時点で評価は下げろ……お前は評判だけで人を判断しすぎなんだよ、マーニーズ。どんな野郎も自分の目で確かめるまでは保留が正解だ」
この場で唯一、二人で並んで座ってる男女。今名前も出たが女のほうがマーニーズ・マクラレン、男がジョン・シャッフルズ。どちらも業界最大手の大ギルド『恒久宮殿』が誇る特級構成員である。
マーニーズは場にそぐわない振袖みてーな恰好をしていて、間延びした口調で喋る妙な怪しさで満ちた女だ。
対するジョンはエグい剃り込みにイカした革ジャンを羽織った不良根性丸出しの出で立ちである。単なるチンピラに見えなくもない風体だが、どことなく伝わってくる硬派そうな雰囲気がそうとは感じさせない。
マーニーズとは見た目と中身の印象が逆で面白いコンビだな。
「久しぶりだねぇゼンタ。なんだかまた随分と男前になったんじゃないかい」
「やっほーゼンタくん」
威嚇込みのブルッケンとは違う、親しみのある笑みを向けてくるのは空飛ぶ大艦隊ギルド『巨船団』の総督である女キャプテン、ガレル・オーバスティスだ。その後ろには前に知り合った五番隊の隊長だというテミーネもいて、朗らかにこちらへ手を振ってくる。
同行してるのが一番隊隊長じゃねえってのは少し意外だが、俺としても顔見知りは多いほうがやりやすくって助かるぜ。一緒に会議を頑張ろうと俺も二人に手を上げておいた。
や、決して遅刻を庇ってほしいとかそういう意味じゃねえぞ?
「中央にまで逸話が届くあの『アンダーテイカー』! と、同席できてオイラすっげー嬉しいな! よろしくな、ゼンタにメモリ! それからボチも!」
初対面だってのにガレルたちと同じくらいの親しさで挨拶してくるのはパーティ『韋駄天』のリーダー、ビットー・マボロ。ボサ髪に露出の多い服装をした野生児って言葉がよく似合う、一見するとただのやんちゃそうな子供だが……その実力は本物だ。
まだ若いながらに一流冒険者として認められているビットーは、デビューから最速でSランクに至った天才として記録を塗り替えた偉人でもある。この中で唯一ギルドを持っておらず、なのに政府からの招集がかかったという点でもどれだけ優秀かは明らかってもんだろう。
「あっと、ごめんな! 相棒も挨拶したがってるけど、こいつ言葉が話せないんだ。勘弁してやってくれるかな」
「いいさそんなこと、俺たちゃ気にしねーよ。こっちこそよろしくな」
ビットーが相棒と呼ぶのはスィンクという名のたった一人のパーティメンバーのことだ。
アンダーテイカーが結成される二ヶ月ほど前にセントラルシティにふらりと現れた彼らは、その当日からすぐに獅子奮迅の活動を始めたわけだが、それから今日までこの二人が会話してるところを見た者はいないんだとか。
正確にはビットーのほうが一方的に喋るだけでスィンクはうんともすんとも返さないっていう構図らしいがな。
ちょっと前までのメモリよろしくローブとフードで顔も体も隠した、年齢も性別もはっきりしないその小柄な存在が物を言うことは確かにないようだ。
だけどそれでこっちが気を悪くなんてするはずもねえ。
律義なもんで代わりに謝ってくるビットーにそう返事をしつつ、一同の観察をやめて俺は自分の席へと近づいた。
さて……これで右側から順に見て、左隣まできたわけだが。実を言うとそこに座ってる女は俺にとっちゃあ改めて観察するまでもなく、よくよく見知った相手だったんだ。
俺の着席と同時、そいつは今の今まで頑として寄越さなかった視線をこちらに向けて、花のようににっこりと笑った。
「息災で何よりですわ、柴ゼンタ。まあ、傍若無人なあなたのことですから、世界が変わろうと気まま好き勝手に生きているだろうということは想像に難くありませんでしたが……うふふ、まさかわたくしと同様にギルドを立ち上げ、統一政府からお呼びがかかるほどの戦果を上げるとは少々意外……いえ、率直に言って大変に驚かされましたわ。あなたがよもや人の上に立てるような人間だとはわたくし、夢にも思いませんでしたもの」
「おーおー、好き勝手言ってくれてんのはどっちだかな。傍若無人なんて言葉はお前のためにあるようなもんだろ? 人の上に立てねえ、立つべきじゃねえってとこも含めて発言全部がブーメランすぎやしねえか? ――なあおい、うちのクラス自慢のお姫様……カルラ姫よぉ!」
俺とレンヤに並ぶ、カスカ命名「三ヤベ」最後の一人。
ド派手な縦ロールの金髪とこれまたド派手な黄金色のドレスを輝かせて三毒院カルラは俺のすぐ左という、クラスの位置とは全く違う席でけれど限りなくいつも通りに、とんでもなく偉そうな顔付きと姿勢で腰かけていた。
まるで、自分を本物の姫であると信じて疑ってねえかのように。




