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176.魔皇軍対策会議

「やっとついたか……ふー。さすがにポレロからじゃ日数かかったなぁ」


「……中央地方に入って以降は列車での移動だったのだから、仕方ない。中央の広さは全地方でも随一」


「そうは言っても途中まではドラッゾで空の旅だったんだぜ? この列車にしたって移動速度は相当なもんなのに……どんだけ広ぇんだよ、中央ってのは」 


 振り返って、たった今降りたばかりの列車の上品な黒の色合いを眺める。


 中央地方は他地方と違って航空制限なるものがあるらしく、飛行手段を持つ者でもおいそれと空を飛んじゃあいけねえそうだ。だから俺たちも、今回の移動は中央入りの時点で足を列車へと切り替えたわけだ。


 ――そうだぜ、列車だ。


 馬車がタクシーやバスの役割として現役バリバリの世界でそんなもんを拝むことになるとは俺もかなり驚いたが、貴重な大質量の魔鉱石を動力源にしたスーパーな価値を有する統一政府セントラルご自慢の『魔導列車』だと聞いて納得した。


 ま、都市間が完全に整備されててモンスターも徹底的に排除されてるこの中央でしかお目にかかれない代物らしいんで、一般的な移動手段とは言えねえがな。運賃もけっこうなもんだしよ。


 今回は統一政府セントラル側からの呼び出しっつーことで俺たちの代金は向こう持ちだが、そうでもなけりゃあ、移動日数がたとえ倍に伸びてもいいからいつも通り馬車を使ってたところだ。


「とにかくこれで中央地方のさらに中央、華の中央都市セントラルシティに到着ってわけだな。……しかし参ったぜ。サラの修行終わりがまだなうえに、移動のペースを読み間違えたせいで想定よりだいぶ遅くなっちまった。時間的にゃもうとっくに始まってんぞ……『魔皇軍対策会議』!」


 これじゃ遅刻確定だ。

 つーかこの時点で遅刻してる。


 だったらもう急がなくたっていいんじゃねーかと心の中のものぐさな俺が鼻をほじりながら言ってくるが、学校の授業じゃねーんだからそうもいかねえ。


 何せ政府からの強制招集。

 そんで大ギルドのトップが一堂に会す、魔皇軍との全面戦争に向けた対策会議だ。


 今からそんなもんに参加するなんざ、改めて思うと事は笑えるくらいに重大だぜ。これは俺たちがいなくても問題なく進むような軽いもんじゃねえ。だからこんだけ焦ってんだ。


 や、問題なく進められちまったら俺たちが中央まで来た意味がなくなるんで、それも困るっちゃ困るんだがな。


「なるべく急ぐしかねーな。走るぞメモリ。まずはこのステーションを出よう……ってここもやたら広いな! 出口はどっちだ!?」

「あっち」

「さすがメモリ!」


 メモリも今回初めてセントラルシティを訪れたというんで、要するに異世界版おのぼりさんってところなんだが、浮足立ってる様子はちっともねえ。めっちゃ落ち着いてるぜ。


 マジ頼りになるな、メモリのこの冷静さと方向感覚は。


「だが土地勘がねえのはどうしようもねえし、統一政府セントラル本部の建物は人に聞きながら目指したほうがいいだろうな……道を確かめて、それからすぐに乗る・・としようじゃねえか」


 メモリとともに大急ぎでステーションを出た俺は、ひとまず道を知ってそうな人間にあたりをつけて呼び止めることから始めた。



◇◇◇



 統一政府セントラル本部第二大会議室への通路にて――。


「それで、どうなっとるんだ」


「はっ! 七組中六組が既に会議室へお着きに! 現在最後の一組の到着を待っております!」


「何故まだ揃っていないのかと聞いている」


「はいっ……確かに時間厳守の通達は行いましたので、移動に際し何かトラブルがあったのではないかと」


「どんな理由があろうとこの強制招集の厳命に背いていい理由にはならん! ……そもそもだ、他の者たちにしても前日までには本部入りするようにと連絡されていたはずが、アーバンパレスを除き全員が開始時刻スレスレでようやく顔を見せたらしいではないか。なんたる足並みの悪さか! これが統一政府セントラルに運営を許可されたギルド、その内のトップランカーたちの姿か!?」


「まことに遺憾ではありますが……しかし室長。ローネン様は『七組が揃って招集に応じてくれただけでも奇跡だ』とお喜びになられておいででしたが」


「馬鹿もんが!! 王位五指御老公様方の見解を直にお聞きし、実行指揮を取る我らがリーダー! 政府長・・・ローネン様にそのような言葉を口にさせてしまうことがまず論外だろう!」


「はっ! か、考えが至らず申し訳ございません!」


「まったく……。それで、遅れているという一組はどこのギルドなんだ」


「はい、それが……例のユニフェア教団事件に関わったあのギルドのようで」


「……! よりにもよってあそこか……! むう、アーバンパレスの会議室入りと同時に始める予定だったが狂わされてしまったな。これを元にまたいらぬ茶々で時間を取られなければよいが……。ともかく門兵たちに伝えろ! それらしい影が見えたら首根っこを掴んでもいいから最速でここまで連れてくるようにとな! これ以上進行を遅らせるわけにはいかんのだ」


「承知いたしました!」



◇◇◇



 第二大会議室にて――。


「おィおィ、ハハ……こりゃどういうこった? 当然のごとく『恒久宮殿アーバンパレス』様が最後のご登場かと思えば、それより到着の遅い奴らがいやがるとは! しかも一番の新顔ときてるじゃねェか。いったいどんな了見でこの俺を待たせてやがるんだ、おィ」


「ふふ……なに、これくらい構わないではないか。この面子を相手に堂々と遅刻とは大した大物ぶりだ。活きがいいのは嫌いではない」


「けっ、てめーの好き嫌いなんざ聞いてねェよアルフレッド」


「ははは! 何をそうカッカしてんだいシャウト。こういうときは大人がどんと構えるもんさ。新参者に苛立ってるようじゃ底が知れるってもんだよ。まあ、元からあんたの底なんて大概見え透いてるようなもんだがね……」


「んだとォオーバスティス! そいつは喧嘩の申し出ってことでいいのかァ!?」


「やれやれ、ですわね。仮にもこのわたくしと同列に位置づけられているのがどのような方々であるか、ほんの少しは楽しみにしていたというのに……皆さんまったくもって品のないこと。ガッカリですわ」


「アハハっ! お姫様は綺麗なのに言うことがキツいや。オイラはみーんなと仲良くしたいのになー!」


「そうそう~、私もそうできたらいいなぁって思うわ。ねえジョンちゃん。ジョンちゃんもそう思うでしょう?」


「俺をジョンちゃんと呼ぶんじゃねえ、マーニーズ」


「あぁん、私のことはマニーちゃんって呼んでってばぁ」


「うるせえ。……余計な諍いは俺だってご免だが、シャウトの野郎の言い分ももっともだぜ。この場で遅刻はねえだろう」


「確かにぃ。でも聞くところによるとやんちゃな子みたいだし、これも可愛げかなってマニーちゃんは許せちゃう~」


「うるせえ。知らん」


「ジョンちゃんちょっとひどすぎない~? なんだか人前でだとやけに私に厳しいのよねぇ」


「そりゃお前のふにゃふにゃが原因でうちがよそ様に舐められねえようにと気を付けてるからだ……! まるで人の目がなければ俺が甘やかしてるような言い方してんじゃねえぞ!」


「あ、ジョンちゃん照れてるぅ」


「この……!」


 それぞれが好き勝手に話す無秩序な会議室。だが不意に室外から聞こえてきた喧騒に、誰からというわけでもなく各人が口を閉ざして扉へと目を向けた。

 段々と近づいてくる怒鳴り声らしきものはそこから届いている。


「……なんたる非常識な! 遅れただけでなく窓から入ってくるとは! それもそんな魔物を市内で走らせただと!? 通常なら即刻市衛騎団ロイヤルガードに連行されとる!」


「や、とにかく急いでたもんで……! それにこの屋敷がデカすぎて正面玄関探す暇もなかったんすよ!」


「……窓からの侵入が、わたしたちに残された最後の手段だった」


「最後の手段に訴える前に一報ぐらい入れろ! いやそれ以前に! そもそも遅れて来るなという話だ!」


「すんません、列車にもっと早く乗るべきだったっす! あ、列車で思い出したんすけど弁当代にも経費って出るんすかね? 移動中の全食事ぶんと今日の昼用に買ったぶんの代金を貰いたいんすけど」


「図々しいな貴様!? この状況でよくそんなことを言い出せたものだ、もはや感心したわ!」


「そりゃどうも、へへっ」


「皮肉だ馬鹿もん! それより何故まだその使い魔を戻さん!?」


「なに悠長なこと言ってんすか、今そんな暇ないっすよ! 他の連中を待たせてんでしょう!?」


「な……! 遅刻しておいて逆に説教だと!? ええいもういい、とにかくあの部屋だ! さっさと入室して会議を始めろ!」


「うっす!」

「ごめんなさい」


 少しずつ大きくなる声、理解できるようになった会話内容に室内の何人かが眉をひそめたそのとき、とうとう扉が勢いよく開かれた。そうして転がり込むように入ってきたのは、まさに今し方議論の元になっていた件の人物たち。


「遅れました! どうもすんませんっす」

「……ません」

「ヴァルルッ!」


 ぴったり九十度の角度で腰を曲げて頭を下げる少年と、それに合わせて会釈程度の謝罪をする少女。

 その傍らでは馬を上回る体格に首が三つも伸びた、頭部だけ見れば狼によく似た謎の魔物までもが一緒になって詫びの姿勢を取っている。


 珍妙な一行に誰かが言葉を返すよりも先に、少年がさっと顔を上げて宣言した。


「アンダーテイカーのゼンタとメモリ、それからボチ……これより魔皇軍対策会議に参加させてもらいやす!」


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