175.未完成! その名は『ギルドロボ』!
ポレロへ戻ってきた俺とメモリはひとまず街の広場でドラッゾに降ろしてもらった。ギルドハウスに近いこの場所は『リンゴの木』をホームにしてた頃からひっきりなしにヘリポートならぬドラポートとして利用してるんで、住民たちももう慣れたもんだ。
ドラゴンゾンビが空から降ってきても誰も騒がねー街ってのもすげーな? 俺たちのせいなんだが。
「お! ゼンタくん、クエスト帰りかい?」
「まーそんなとこかな」
「最近あまりうちに来てくれないじゃないか。待ってるよ!」
「おう! 近いうちに顔出すぜ」
テッカみたくマーケットに店を出してるこのおっさんは顔馴染みなんで、挨拶も気安い。魔皇軍との戦争に向けて忙しくしてる今はマーケットに足を向ける機会もぐんと減っちまってんだよな。
早いこと魔皇案件なんざ片付けて、メシくらいのんびり食えるようになりたいもんだぜ。
他にもいた何人かの知り合いと一言二言言葉を交わしながら広場を出る。つっても単に「調子どうだい」「ぼちぼちかな」程度のやり取りでしかねーんだが、中にはこんな気になることを言うやつもいた。
「なんだゼンタ君、街を離れてたのか! じゃあまさか知らないのか――いや、その顔を見るにそういうことなんだな。だったら急いだほうがいい、おたくのギルドがなんだか大変なことになってるよ!」
「なんだって?」
メモリと顔を見合わせ、そこから俺たちは走り出した。何がなんだかわからんが、大変と言われたらそら焦る。とにかく様子を見てみねーとな。
……ところで今、住民たちは誰もメモリがメモリだって気付いてなかったっぽいな?
◇◇◇
「待っとったぞゼンタ! 見よ、ワシらの努力の結晶を!」
「ど、どうかなゼンタくん。皆を守るためのお家。なるべく要望に添わせたつもりなんだけど……」
「え、これって……」
自信満々に俺たちを出迎えたガンズとヤチ。
二人がそうやって見せてきたものは、俺の度肝をぶっこ抜いた。
「どっから見てもロボじゃねえか!! 日曜の朝にやってそうなやつ!」
そう、そこにデンと立っていたのは、なんとロボットだ。
それも巨大化した怪人とバチバチやり合いそうな感じに精悍でマッシブなデザインをした、巨大ロボである。
各所に元のギルドハウスを思わせる部位があるんで辛うじて俺たちの家が変形したものだとわかりはするが……それを知らんやつにとってはまさかこんなものが住居であるとは夢にも思わんだろう。
「ヤチの嬢ちゃんもロボと言ってたな。ワシゃこいつはゴーレムに近いと思うんじゃが、来訪者が見るとまた違うのか?」
「ゴーレム、っていうのはよく知らないんですけど……この外見は私たちにとってはロボと言ったほうが馴染みがあるんです」
「そうかそうか。なら名前は『ギルドロボ』にしようかの!」
呑気に名称を決めている二人に、俺は全力で説明を求める。
「な、なんでこーなった!? こっちもたった数日で様変わりしすぎだろ!」
「やはり満足はしてくれんか……いや、お前さんの不満もわかるとも。我らが傑作ギルドロボはまだ完成しとらんからのう……」
「はい……動かないんですよね」
「動かねーんだ!? この見た目で! こんな立派に仁王立ちしてんのに!?」
「ご、ごめんねゼンタくん。ここまで形を整えるのに精一杯で……」
「じゃが手応えはある! 紅蓮魔鉱石とヤチの嬢ちゃんの力に限界はない、すぐにも動かせるように仕上げてやるぞい!」
住めて動いて戦えるギルドハウス。
それが二人の目標なんだとか。
や、確かにそういう家を頼んだのは俺なんだが……さすがにこの出来は予想外っつーか、想像の斜め上っつーか。
「家自体が戦うとか俺にはねー発想だったわ……つか、そんなことさせて大丈夫なのか? 敵にパンチしたせいで自分が倒壊した、とかなったら嫌だぜ」
「もちろん強度も計算に入れておる。この状態のギルドハウスは紅蓮魔鉱石による防護で鉄壁の強度を誇る! 無敵じゃ!」
「あと、動かしても中は揺れないようにもしてあるんだよ。あとは本当に起動させるだけだね」
思った以上に完璧だった。ガンズもヤチも本気でギルドハウスを戦力の一端に加えようとしているらしい。
いやあ、ホントすげーなこの二人。
やることのスケールがデカいったらないぜ。
「一応聞くが、前の家にも戻せるんだよな?」
「当然! いくらなんでも変形しっぱなしにはせんて、安心せい」
「ああそう……」
本当に安心したぜ。興が乗り過ぎて戻し方を考えてなかった、とか普通に言い出しそうで怖かったんだ。
イヤだぜ、ただいまーとか言って巨大ロボの足先から入ったりすんのは。
改めて変わり果てた外観を見上げて、なんてことない街並みの中にすっくとロボットが立っている違和感の激しさに眩暈みたいなものを覚えた。い、異様だよな……ご近所さんからはなんて思われてることか。
俺が感嘆とも呆れとも言えない感慨にふけっていると、ガンズはきょろきょろと誰かを探すように辺りを見回していた。
「ところでゼンタ、メモリの嬢ちゃんはどうした? 一緒に帰ってきてないのか」
「それに、そちらの方は……? メモリちゃんによく似てるけど、もしかしてお姉さんなのかな?」
「なぬ! そうなのか?」
興味津々な表情を向ける二人に、なんと言ったもんか俺は少し迷う。が、迷う余地なんてなかった。起きたことそのまんまを伝えるしかねーだろうよ。
「姉ちゃんじゃねえよ。これがメモリだ」
「「ん?」」
「いやだから、こいつがメモリ本人なんだって。な?」
「そう」
「「? …………!」」
二人揃ってきょとんとしていたが、やがて俺の言葉の意味がわかったんだろう。みるみる目を丸くさせて。
「「え~~!? こ、これがメモリ(の嬢)ちゃん!?」」
見事にはもって絶叫を上げた。
「なんで!? どうしてこんなに大きくなってるの!?」
「たった数日でいったい何をどうしたらこうなるんじゃ!?」
「お前らがそれを言うか!」
自分たちだって劇的すぎるビフォーアフターを披露しといてそのリアクションかよ――って、そりゃそうか。家と人じゃあ、まだ家のほうが大変貌にも納得がいくってもんだよな。
俺はどっちにもいまいち納得いってねーけど。
「俺も詳しくは知らないが、これがメモリの修行の成果だ。ばっちり成長してるのがわかるだろ」
「わかり過ぎるわい、これは……。いやメモリの嬢ちゃん、えらい別嬪さんになったのう」
「ほ、本当に……綺麗。うう、どうしてゼンタくんの周りにはかわいい子ばっかり」
お、二人もそう思うか。
感想が同じで嬉しいぜ。
ヤチが何を言ってんのかはよくわからんが。
「……照れる」
「照れるな照れるな。正当な評価だぜ、これは」
照れると言いつつメモリの表情筋は毎度のごとくピクリともしてねーが、それでも美人に思えるんだから大したもんだ。女は愛嬌とよく聞くが、メモリに関しちゃそれがなくても男たちが放っておかなそうだぜ。
「前と違って前髪を上げてるのもいいんだろうな。だけどお前、変装のとき以外は頑なに顔を隠してたってのに、なんでまた髪形までガラッと変えたんだ?」
背も髪もぐんと伸びたにしたって、あんだけ貫いてたスタイルをそう簡単に曲げるもんだろうか。
そう思って聞いてみると。
「これは……師匠からのアドバイス」
「へえ、グリモアがそうしろって言ったのか」
「そう。……このほうが、わたしの目標に近づくはずだと」
「そ、そうか……」
答えながらメモリはじっと俺を見てくる。やはりすげー目力だ。隈も取れて健康的になった今はいい意味で印象的でもあって、なんだか俺はその迫力にたじたじになっちまった。
なんか、やけに距離もちけーしよ。
「あーっと……うん、いいアドバイスじゃねえか? 俺もそうしてたほうがいいと思うぜ」
「……そう」
満足そうにメモリは頷く。そして一歩引いてくれたんで俺もホッとした。
しかしいい加減メモリの目標ってのがなんなのか知りてえな。ただ、天涯孤独の身らしいメモリの過去にも関わってくるもんだろうと予想はつくんで、下手に訊ね辛いんだよな。
やっぱ自分から打ち明けてくれるのを大人しく待つべきなのかね。
「びっくりしたけど……とにかく、ゼンタくんもメモリちゃんもおかえり!」
「ゆっくり休ませてやりたいが、早くロボ状態での内装も見せたいんじゃよ。さぁ入れ入れ!」
「おお、それは俺も見てえな。行こうぜメモリ」
「うん」
ま、今んとこはメモリも楽しそうだし……それでいいよな。




