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170.心底腹が立つ

「おらおらおらぁ! 強化された俺の戦斧を食らいやがりな! 『パワースイング』だ!」


「…………」


「だーもう! 掠りぐらいしろってんだ、くそったれが! ひょいひょい躱しやがって!」


「拾った棒を振り回すガキだな、お前は」


 渾身の連続攻撃がまったく通じねえ! 素手で『非業の戦斧』を捌きまくるとかどうなってんだ……しかもそれだけに飽き足らず、ギミック攻撃を白刃取りで掴みまでしやがる!


 どんな力をしてんのか、仮面女の両手に挟まれた戦斧は完全に固まってびくともしねえ。


 だったらよぉ!


「ここは頼むぜ、ボチたち!」


「「「バウッ!」」」


 自分だけで無理なら他を頼るまでだ。既に呼び出し済みのボチ、ボチツー、ボチスリーは俺の声に従って三方から仮面女に襲い掛かった。


「犬っころが……」


 戦斧から離した手を地面についた仮面女は、両脚を広げて回転蹴りを放った。曲芸じみた攻撃だが威力は抜群で、飛びかかったボチたちはまとめて叩き返されて地を転がることになる。


「こんのっ! 『パワースイング』!」


 派手な攻撃をした直後を隙と見た俺はもういっちょギミック攻撃を仕掛けた。

 しなる柄から遠心力による加速を得た刃が逆さまになったままの仮面女へ迫る。


 今度こそ当たる、と思ったんだが。


「……、」


 ぴょーん、と五本の指だけで仮面女は大きく跳躍した。あっさりと俺の間合いから抜け出していく。虚しく戦斧が空を切る先で、吹っ飛ばされたボチスリーが復帰する間もなく着地ついでに踏み潰されて消滅した。


「ぼ、ボチスリー!」

「「バウッ……!」」


 同族(?)の末路にボチとボチツーもショックを受けてる。

 だがどっちも無暗に仮面女へ噛み付きに行こうとはしない。

 それは奴の強さに恐れをなしているからではなく、仲間を落とされながらもきちんと戦況を読むだけの目がボチたちにはあるからだ。


「今だ! やれぇドラッゾぉ!!」


「グラアアアアァウッ!!」


 遥か上空から隕石のように降ってくる巨体。言うまでもなくその正体はドラッゾだ。


 実は『腐食のブレス』を食らわせてやろうとドラッゾを呼び出したんだが、仮面女は黒い霧のようなブレスに包まれても平然としてやがった。


 一呼吸でもしちまえば酩酊に近い状態となってまともに動けねえはずなのに、ドラッゾの竜パンチを軽々と躱せたからには、おそらく効果自体が通ってねえんだろう。


 そう判断した俺は上空待機をドラッゾへと命じた。

 奴が少しでも俺たちから離れたら全力で突進攻撃をするように、と言い含めたうえでだ。


 落下によるエネルギーも加わった大質量での突撃が頭の真上からやってくる。


 これならいくら仮面女でも身のこなしだけでどうこうできやしねえはず!


「うお……っ!」


 重苦しい地響きの轟音とともにドラッゾは仮面女へとぶつかった。足元の地面ごと押し潰すほどの勢いだ。やはり自由に飛び回れるぐらい広い場所でのドラッゾは格別に強い。


 これだけのパワーであれば仮面女がどんなに高レベルだろうがちったぁこたえたに違いねえ――。


「んなっ!?」


「……まったく。驚くその間抜け面にも心底腹が立つ」


 片手だ。腕の一本だけで仮面女はドラッゾの巨体を支えている。それはあれだけの衝突を片手ぶんの腕力だけで防いだということ。ダメージを負っている様子はない。俺のリアクションを観察するだけの余裕すらあるぐらいだ。


 そのまま空いてる右手をギチリと握り込んだ仮面女は。


「! ドラ――」


「ふんっ」


 打ち上げられた拳。そこには尋常じゃねえ力が込められていた。

 たった一発でドラッゾの体の大半が吹き飛ぶ光景を目の当たりにしちまったからには、それが嫌でも理解できちまう。


「…………!」


 苦悶の声すらなく消滅するドラッゾ。


 頭上でかき消えるドラゴンゾンビになんか見向きもせず、仮面女は一歩ずつ。


 特に急ぐこともなく距離を詰めてくる。


 俺にはそれが魔王の歩みのように感じられたぜ。


「……っ、マジでとんでもねえなこの野郎」


 こいつにとっちゃドラッゾの落下突撃もわざわざ向こうから捕まりに来てくれた、ってくらいの認識か? ドラッゾにゃ悪いことしちまったな……だがいくらなんでも、片腕でドラゴンゾンビを拘束しちまえるような奴がいるなんて思いもしねえだろ!?


 ちくしょう、呆けている場合じゃねえ。

 ここでドラッゾという心強い仲間を失っちまったのは痛いが、俺にはまだボチとボチツーがいるんだ。


「お前たち、あいつを囲め。攻めるタイミングは俺と同時で必ず別方向からだ。いいな!」

「「バウッ!」」


 さっきから仮面女はボチのこともドラッゾのことも大して気にもせず、俺ばかりを狙ってきている。使い魔なんて率先して狙うほどじゃあない、とでも考えているのか。


 だったらこちらもありがたく、常に奴の死角へとボチたちを配置させてもらおうじゃねえか。


 仮面女の戦闘スタイルは徒手空拳。

 強いは強いが、範囲攻撃や遠距離攻撃は一度も見せていない。

 だからこそこうやって数を頼りにしているんだが、一塊になってちゃその利点も活かせねえからな。


「よーし、そこでいい……!」


 真っ直ぐ俺のほうに歩み寄ってくる仮面女の背後。右斜め後ろと左斜め後ろにボチとボチツーが陣取る。三角の真ん中に奴を置いて包囲している形だ。


 さっきまではボチスリーもいたんで四角形で囲ったんだが、むしろ今のほうが仮面女の視野を考えるに同時攻撃には向いてるかもしれねえな。


「…………、」

「……?」


 と、そこで不意に仮面女が立ち止まった。どことなく物言いたげな雰囲気で何かを考えるように俺を見つめ――そして急に動く。


 俺にではなく、ボチに対して。


「なにっ!」


 それはまるで一塁走者を牽制するピッチャーのような動きだった。最小の動きで振り向き、腕を振る。しかしボールは投げない。代わりに突き出されたのは拳。その先ではボチが俺の指示した通りに待ちの姿勢で立っている。


「ギャインッ」


 何かにぶっ飛ばされたボチは悲鳴を残して消滅。

 その様に泡を食う俺に構うことなく、仮面女は三塁の位置にいるボチツーにも同じことをした。


「キャウッ」


 結果は一緒だ。仮面女の拳から飛び出したと思われる見えない何かにぶん殴られ、ボチツーはすっ飛んで消滅しちまった。


 な、なんだぁ今のは!? 急に遠距離攻撃を披露しやがったのは、単に奴がここまで隠してた手札を切っただけのことだと納得もできるが……攻撃の種が見えねえってのはどういうこった? 


 目に映らない飛び道具なんて躱しようがねえだろうが――。


 いや。そんなこたぁねえ。落ち着いて考えりゃ対処はできるはず。


 思えば見えない飛び道具なんざ委員長だって使ってただろう。

 無属性魔法の『ワイドブレイク』、だったか?

 あれは魔法なんで詠唱のタイミングがわかりやすくはあったが、その代わり仮面女のほうは殴るモーションを入れなけりゃ発動しないようだからな。


 いつ来るのかは読める。そして俺には【察知】だってあるんだ、出が早いのが自慢だったらしい委員長の魔法よりかは避けやすいまであるぜ。


「よぅし! それがお望みならやってやるよ」


 仮面女はその場に立ったままだ。俺にも謎の遠距離用スキルを使うつもりだろう。だが腹は括った。一撃でボチたちを粉砕しちまう威力のある攻撃だが、それを掻い潜ってこの戦斧で斬ってやる。


 やることはシンプルだ。


 だったら俺に向いてるぜ、なんも不安に思うこたぁねえ。


「体感【活性】の持続時間も半分を切ってるしなあ……そろそろ決めさせてもらうぜぇ!」


 戦斧を強く握り締め、駆け出す。

 たった数歩分の距離を詰め切るよりも先に仮面女の腕が反応した。


 来る!


 何もない場所を叩く殴打。だがそれは寸分の狂いもなく俺を捉えたものだ。奴のアクションと【察知】の知らせ。見えないはずのそれがぼんやりと見えた気がした。


 俺は横に飛び退き、不可視の砲弾をやり過ごす。


 やった! と、達成感に浸ったのも束の間。

 ――まだ【察知】の警鐘が鳴りやまないことに俺の背筋に冷たいもんが走った。


 まさかだろ……!?


 間髪入れずの二発目。一発目が外れたことなんて意にも介さず奴は反対の腕も振るっていた。それはまたしても正確に俺を狙っている――いや、違う。二発目だけじゃない。仮面女は信じられないほどの拳速で連打を放っている。


 俺の目じゃ追い切れない、数え切れないだけの打突。


 その一発一発から飛び出した不可視の砲弾は、もはや見えなくたってはっきりとわかるぐらいに……迫りくる巨壁となって俺の身に降りかかろうとしていた!


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