17.それはもうとんでもない強さ
「質素だな」
「質素ですねえ」
部屋の中には、ベッドだけ。あとは窓か。本当にそれだけしかなかった。
うーん、五百リル。
「だけどベッドと屋根があるってだけでも天国だな」
「ですね! 私もしばらく野宿だったので嬉しいです」
俺はともかく、年頃の女が一人で野宿とかやべーな。こいつよく無事だったな……。まーちょっとやそっとの危機くらい軽く乗り越えそうなエネルギーはあるけどさ。
「それじゃ私、早速お風呂に入ってきますね」
「おう。俺もお前のあとに行くわ」
サラはやっぱり女子だけあって、汗臭いのが気になってるらしい。
聞けば『クリーン』とかいう『プロテクション』と同じカテゴリの魔法をサラは使えて、そいつで体を清潔に保っていたらしいのだが……どうしても風呂の気持ちよさには敵わないとのことだった。
「ゼンタさんは森にいたそうですけど、どうしてたんですか? ネクロマンサーなら光属性の『クリーン』とは縁遠いですよね」
「あ? いや、属性とかは知らんけどさ。俺はあれだぞ。どんだけ汚れても、水を頭から被ると勝手に体も服も綺麗になるんだ。これ楽でいいぞ。びしょ濡れにはなるけどな」
「えー! 来訪者さんってそういう感じなんですか!? ずるい!」
「別にずるいこたぁないだろ……」
「私がシャンプーを使えないことにどれだけ苦しんだと思ってるんですか!?」
「知らんわ!」
ちなみに俺の服装は、下が制服のズボンで上がタンクトップというラフな格好だ。
シャツは初日からずっと荷物を持ち運ぶための風呂敷代わりに使ってる。乱暴に使っても破れねーしすぐ汚れも落とせるしってんで、けっこう便利だ。主に余った肉とかを包んでいた。
今は手ぶらなんで腰に巻いてるけどな。
「さてと……」
よっぽど風呂が嬉しいらしいサラが鼻歌まじりで出ていったんで、俺は今朝ぶりにステータス画面を開いた。
おっさんとのやり取り優先でスルーしてたが、実は酔っ払い男を撃退したときにレベルアップの表記が出てたんだ。
「レベルアップは歓迎だが、どういうこった? 何故上がった……敵を仕留めてもねーのによ」
これまでは敵の息の根を止めることでレベルアップしてきた。
だが俺はあの男を殺しちゃいない。
顔面をぶっ叩きはしたが、気絶させただけだ。
「……殺さなくても経験値は入るってことなのか」
考えてみりゃ、敵を殺さずに済ませたことはなかったな。
森では確実に仕留めないとこっちが危ない奴と戦うか、食料確保のために狩りをするばかりだった。さっきみたいに『撃退』で終わらせる機会なんてなかったわけだ。
だからわからなかっただけで、何もレベルアップのために必ず殺す必要はないらしい。
「しかも人間からでも貰えると」
これがわかったのは、けっこうデカいな。
一気に経験値取得の幅が広がったぞ。
ただ、どういうときにどれくらい貰えるのかってのが計算できない限りは、あんまし当てにはできんが。結局は体感で覚えていくしかねえ。
「経験値も数字で出たらいいのにな……ま、とにかくステータスを見ますかね」
『シバ・ゼンタ LV11
ネクロマンサー
HP:66(MAX)
SP:38(MAX)
Str:51
Agi:37
Dex:20
Int:1
Vit:36
Arm:30
Res:11
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV1】
クラススキル
【武装:LV3】
【召喚:LV2】
【死体採集:1】
【接触:LV1】』
「おお……!?」
今回、やけに数字の伸びがいいぞ。これまでの上昇値よりも確実に上だ。
10を超えて上がりづらくなった分、レベルアップ時にステータスがもっと上がるようになったのか? だとしたらありがたいことだが。
「それでも頑なに1からピクリともしないのもあるけどな」
ま、そこはさっさと流すとして。
さり気なく追加されてて見逃しそうになったが、クラススキルのほうに見慣れないもんがあるじゃねえか。
「【接触】……? 今度はどんなスキルだ?」
新スキルを確かめるときはドキドキするぜ。
外れなんじゃないかっていう悪い意味でのドキドキもあるけどな。
とりあえずポチっと。
『【接触】:悍ましき気は触れた者に良からぬものを与える。やがてそれは死を連想させるだろう』
うわーわかんねー。
はいはい、またこのパターンっすね。具体的な説明はなし、と。
想像するなら……【血の簒奪】と同じで相手を傷付けるか、あるいは触れて発動するタイプだろうか。発動して何が起こるのかは、さすがにこの説明じゃちっとも思い浮かばんがな。
「で、良からぬものってなんだ? ダメージでも与えられるのか?」
攻撃スキルなら、助かるけどな。今んとこそこに乏しいし。
だけど攻撃かもしれないなら迂闊に試せねーな。自分には無理だし、ボチやキョロもちっこいから何があるかわからん。
……ならばサラか。
いや、それはいくらなんでもな。
早くどんなスキルか知りたいではあるが、そのために実験台にするのはナシだろ。
しゃーねえ、試せるときを気長に待ちますかね。
確認を終えて俺がベッドに腰かけたとき、隣の部屋から物音が聞こえてきた。どうやら空き部屋に俺たち同様、客が入ったみたいだな。
おっさんが言ってたようにここの壁はかなり薄いようで、隣からは話し声がけっこうな音量で響いてきた。そいつらは男女二人組のようだった。
「ようやく人心地つけるな! 任務のためにも今晩はゆっくり休んで、明日に備えようではないか」
「声が大きい。私たちの目的は一般人に知られてはならないのよ。あんた、その自覚あるの?」
「無論だとも! 俺たちがアーバンパレスの一員として活動中であるということは誰にも明かさないさ。任務の内容についてもな!」
「だから声が大きいっての! 隣の部屋に聞こえたらどうする!」
バチン、という何かを叩く音がした。
これたぶん、女のほうが男の頭をはたいたな。
ばっちり聞こえちまってる俺からすると、声のデカさはどっちもどっちだがな。
そこからは声を潜めたらしく、耳を済ませても何を喋っているかは判別できなかった。いくら壁が薄いっつっても、大声量で話すようなことをしなけりゃ普通にプライバシーは守られてる感じだ。
しっかし、任務だなんだと言ってたが、どういうことだかな。
アーバンパレスの一員とも言ってたな……なんだそれ。なんかの組織か?
「たっだいまです~♪ あー気持ちよかった!」
メシでも食いに行ったのか、隣の連中が部屋を出ていったあとにサラが帰ってきた。
芯から温まってきたようで、風呂上がりで蒸気を上げているサラは、血色もよく恍惚とした表情をしている。昼間のミイラが生き返ったって感じだ。
こころなしか金髪もより輝いている。やっぱこいつ、見た目だけは超美人だな。
「? ゼンタさんもお風呂入るんですよね?」
「おう、入るぜ。でもその前に、ちと聞きたいんだが」
俺は隣の部屋から聞こえてきた会話をサラに伝えた。
何も知らないことも予想してたんだが、アーバンパレスというものをサラは知っていたようだ。
「『恒久宮殿』。世界一有名な冒険者のギルドですよ」
「ギルド?」
「はい。志を同じとする冒険者さんたちの集いですね。私でも知ってるような有名なところはいくつかありますが、中でもアーバンパレスは別格です。なんといってもあの『統一政府』……世の中のルールを決めてる偉い人たちお抱えのギルドですから」
「ほー。そんな凄いのか?」
「私も詳しくは知りませんけど、所属員は下っ端クラスでも強くて、それより上はとっても強くて、幹部ともなるとそれはもうとんでもない強さらしいですよ」
「へえ……じゃあ隣の奴らも相当強いのか」
「たぶん、そうなんでしょう」
その割に会話の内容はちょい間抜けっぽかったがなぁ。と俺は首を捻ったが、サラは珍しく真面目な雰囲気で首を振った。
「気にしないのがいいですよ。今の私たちが関わってもいいことなんてありません」
「まあ、そりゃそうだな。なんかお堅そうなとこだし、俺も関わり合いにゃなりたくねえな~」
「それより今は明日からの私たちについて考えたほうがいいですよね」
「お、確かにそーだな」
つーことで、聞こえちまった会話はまるっとスルーの方向で。
まずは俺も風呂でさっぱりしてから、今後どうするかを話し合うことにした。
『シバ・ゼンタ LV10+1
ネクロマンサー
HP:59+7
SP:33+5
Str:45+6
Agi:30+7
Dex:15+5
Int:1+0
Vit:32+4
Arm:27+3
Res:8+3』
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】
【活性:LV1】
クラススキル
【武装:LV3】
【召喚:LV2】
【死体採集:1】
【接触:LV1】New!』
スキルのほうも。