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165.最強を名乗ることが許された

「魔皇軍との戦争が終わると今度は闇ギルドが動き出すって? それが本当なら大事だ。というより、面倒事かな。だけど実力のある奴ってのは表で十分に評判を高められるからね。闇だなんて意味深に名乗ったころで、結局はただのドロップアウト集団だろ? そう大したのはいないと思うけど」


「やー俺もそう言ったんだがな……レンヤの野郎はいやに自信満々だったぜ? あいつはやると言ったらやる奴でもある。こればかりは楽観視すべきじゃねーかもしんねえ」


「ふうん。だったら気を付けないとな。蘇った魔族との死闘を制した果てに勝ち星を闇ギルドに掻っ攫われるなんて冗談じゃないよ」


 アップルの言葉に俺は頷く。


 レンヤは幹部止まりでまだ『廃れ屋敷アバンダンド』を掌握しきれてはいないようだったが、あいつがああまで言い切ったんだ。近いうちにそれはなされるものと見ていい。


 クラスでレンヤのことを一番よく知ってんのはたぶん俺だ。だからそこは疑ってない。あいつはいつでも大言を吐くが、確かな実行力だって持ち合わせてるんた。


 それがレンヤって男の厄介なとこだぜ。


「とにかく、これでまた修行する理由がひとつ増えちまったな」


「ただ魔皇軍に勝てばいいってんじゃなく、余力まで残しとかなくちゃいけないわけだもんね」


「そう考えるとなかなか大変だなぁ……。トードさんの知り合いだっていう来訪者にちゃんと稽古をつけてもらえればいいんだがよ」


 それが叶わなかったときはどうしようかね。

 第二のプランってやつはまったくの白紙なんだが。


 と悩む俺と同じく、アップルも「例の来訪者か……」と悩ましい様子で呟いた。その含みのある感じが気になって俺は少し訊ねてみた。


「なんだ、アップルもその人のこと知ってたのか」

「知ってるってほどじゃないよ。会ったこともないしさ。ただ、うちの親父とも知り合いらしくって」

「パインさんと?」


 ちょっと驚いたが、考えてみると不思議でもないか。トードとパインは旧知の仲なんだ。だったらトードと古い知り合いだっていう来訪者は、パインとだって顔見知りである可能性は十分にあり得ることだった。


「その人について、パインさんからはどんな話を聞いてるんだ」


 対面する前に少しでも情報が欲しい俺からすると、そう質問せずにはいられなかった。

 けっこうな身近に貴重な情報源がいたことには自分の間の抜け具合を痛感させられたが、まずは反省の前に噂の人物の人となりを知ろう。


 と、思ったんだが。


「だからさ……私はなんにも聞いてないんだよ。昔話でぽつりとそれらしいことを言ってたなってぐらいで。三十年以上前の、駆け出しだった頃の話。その頃のことを親父はあまり語りたがらないけど、逆算するとそうなるんだよね」


 三十年。えーっと、たしか先輩来訪者がこっちに来た時期ってのがそれくらいで、トードとの出会いもまたその時期なんだっけか?


「そう、親父がトード組合長と知り合ったのもそれくらいで、パーティも組んでる。そしてトード組合長は来訪者ともパーティを組んでたらしいから、必然……うちの親父もその来訪者とはパーティのメンバー同士だったことになるでしょ?」


「確かにそうなるな。だけど、なんでパインさんはそのことをアップルに話さねーんだろうか」


 パインは俺の知る限りじゃ自分の過去の武勇伝を人へ気持ちよく語って聞かせるようなタイプじゃあない。


 だがアップルへの普段の態度を見るに、娘である彼女だけには自身の秘蔵エピソードってのを話しそうなもんに思えるが。や、自慢ってんじゃなく、寝物語代わりにでもさ。


「まあその来訪者は――正確にはその来訪者が所属してる今のギルドってのが、いまいち評判のよろしくないところだからねぇ。もしかすると親父もそれを気にしてるのかも」


「えっ? ちょ、ちょっと待てや。評判よくないって、それ本当なのか」


「うん。来訪者とセットであの『屍の魔女』も来るんだろ? ネクロマンサーだってことを公言していながら、唯一の成功者に数えられている大傑物。なんだけど、そっちもてんで良い噂ってのは聞かないね。当然、そいつも同じギルドなんだけど。この二人に限らずあそこのギルドメンバーは一人残らずそういう調子さ」


「うっそだろ!?」


 おいおい、んなの初耳だぞ。

 トードはそんなこと一言も……ああでも、こんだけ面会を渋られたからにはやっぱそういうことなのか。


 屍の魔女なんて通り名を持ってるやつが普通じゃねえってのには納得がいくし、先輩来訪者にしたって気に入らないと思えば自分を頼ってきた後輩だろうと躊躇なく半殺しにするような人物らしい。


 うん、どっちも確かにまともではなさそうだよなぁ……。


「だけどよ。その二人はともかくとして、なんでギルド自体がそんな評価なんだ。アーバンパレス以外でSランクのギルドってのはそこしかねえんだろ?」


 Sランクってこたぁつまり、冒険者界隈のトップ。文字通りの頂点にいるってわけだ。そんなやつらの素行が悪いなんてちょっと信じられねえんだが。


「過去の功績や所属員の実力。そういった点ではまさにSランク、だからアーバンパレスにも並んでる。だけどさぁ……よく思い返してみなよ。アーバンパレスみたいにそこが活躍してるって話を、これまで一度でも小耳に挟んだことがある?」


「あ……、」


 言われてみればそうだ。たったふたつしかないSランクギルドってんなら、どっちの名も同じくらいの頻度で耳にすることになるはずだ。


 だがこれまでに俺が聞いたり関わったりしてきたのはアーバンパレスのみ。もうひとつのギルドなんて名前すら聞こえてこない。


 これが表しているのは、両者の現在の活動度がよっぽど乖離してるって事実だろう。


「二十年前とかなのかな。結成時はまだ良かったんだろうけどね。だけど今となっては数少ない所属員のほぼ全員が世捨て人も同然なんだと。クエストも受けなけりゃ、たまに表に出ても冒険者規則なんて犬にでも食わせてろって態度で素行も酷い。ギルド申請に手間と時間がかかるようになったのはあのギルドのせいだって公然と噂されてるくらいだと言えば、その酷さもわかるんじゃない?」


「わーお……そりゃよっぽどだな」


 真相はともかくとして、そんなことを陰で言われるくらいにはめちゃくちゃな連中の集まりってことだな。


 一人や二人じゃなくメンバー全員がそんな調子って、いったいどういうギルドなんだよ。


「何があったかは知らないけど、ギルド結成の前後で親父やトード組合長とも道が分かれたみたいだからね。あるいはそこに確執だとか深い事情なんてなくて、単にそれぞれの道を選んだってだけなのかもしれないけど、もうそこは推測するしかない」


「まあ、教えてくれないんじゃそうなるわな」


「だから私の言ったことなんて噂と予想が材料のホラ話みたいなもんさ。あまり真に受け過ぎないでくれると助かる。仮にも親父たちが昔組んでた相手を悪くいいたいわけじゃない……でも火のないところに煙は立たないとも言うよね。用心はしときなよ」


「そうか、わかった。難しいがそうするよ」


 真実と判断するには根拠に乏しいってのは確かだ。

 だがどんな評判を受けてる人なのかってのが聞けただけでもよかったと思おうじゃねえか。


 これでますます腹を括れるってなもんだ。


「ところで、先輩来訪者や屍の魔女が所属する、その少人数だっつーギルドの名前はなんてんだ?」


 最後に聞いとこうと訊ねた俺に、アップルは引き攣ったような妙な笑顔を見せた。


「『最強団ストレングス』……笑っちゃう名前だろ? だけどちっとも笑えない。そいつらこそ現存メンバーたった五人だけの、それでも最強を名乗ることが許された連中なんだからね」



◇◇◇



 アップルが『リンゴの木』に戻ったことで俺は食堂で一人きりになった。

 テッカも二十四時間キッチンに詰めてるわけじゃないんで、今ここは俺だけの空間だ。


 おかげでアップルが聞かせてくれたことをじっくりと反芻することができたぜ。


 そういうことがしたいなら自室を使えってなもんだが、俺は育ちが育ちなもんで個室ってのがどうも慣れねーんだよなぁ。


 ギルドハウスができるまでは『リンゴの木』でサラやメモリと同じ部屋を使って多少は狭っ苦しい思いを味わってたんだが、今思えばあれくらいが俺には丁度よかったな。


 自室に戻らない理由としては、落ち着けないってこと以外にももうひとつある。


 実は今は人を待ってるところでもあるんだ。


 俺の部屋は食堂から近いが、わざわざ個室を訪ねさせるよりもここに残ってたほうが早いと考えたっつーこった。


 あいつが言うにはたぶんそろそろのはずだが……とちらりと壁掛け時計を見たところで。


「ゼンタっちお待たせー。武器の強化が完了したぜ!」


 髪色を元の茶髪に戻したユマが顔を覗かせ、弾ける笑顔でそう知らせてきた。


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