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160.魔皇軍との戦いへの備え

「え……! サラちゃんって中央都市セントラルシティに向かったんだ。でも、呼び出しはまだ受けてないんだよね?」


「ああ、まだだぜ。つか呼び出されてたら俺もメモリも一緒に行ってるしな」


 じゃあどうしてサラちゃんだけ、と不思議そうにするヤチに俺も首を傾げた。


「ん? これ会議でも話さなかったっけか?」


「ご、ごめんね。もしかしたら聞き逃しちゃったのかも……」


「あー。ヤチは茶とか菓子とか並べるのに忙しくしてたもんな。いやすまんすまん。そんじゃ今改めて説明しとくわ」


 俺の言う会議ってのは、アンダーテイカーがギルドとして認められたことの祝勝会、兼、今後の方針をみんなで話し合うための場を設けた際のことを指す。


 魔皇の実在がほぼ確定していることと、その配下と既にアンダーテイカーが交戦状態にいること。


 そしてこれからその争いが激化するであろうこと――つまりはギルドのメンバーは否応なしに危険に巻き込まれちまうという避けようのない未来についての、かなり重要な話し合いだった。


 俺としては今のうちにギルドを離れる選択をしてくれてもいい、というつもりで開いた会議でもあったんだが……さすがというか豪胆というか、うちのメンバーには誰一人としてその選択をする者はいなかった。


 結局そんとき定まった方針は魔皇軍との戦いに備えて各々がやれるだけのことをやっておくという、まあ、方針て言葉が聞いて呆れるような根性論めいた結論で終わっちまったわけだがよ。


 しかし、何も具体案が出なかったわけじゃあないぞ。対策はある。その代表としてはやはり、ギルド発足人である俺を含めた主要メンバー三人の『修行』が挙げられるだろう。


「じゃあサラちゃんも修行をするために中央へ?」


「そうだ。あいつは恩師だっていうクララっつー人を訪ねるそうだぜ。ルチアとカロリーナの話はしたよな? そうそう、サラの友達の。あの二人とも連絡はついてるらしい」


 一度は自ら背を向けたシスターへの道。教会勢力の一員に戻るつもりこそないが、サラは再び奇跡の使い手としての己を磨くためにポレロを発った。


 元は仲間とはいえ現在は外様の人間でしかないサラに果たして、もう一回シスターの修行が可能なのかという不安はあるが……そこは出たとこ勝負だと本人はすっかり開き直ってる様子だった。


 実際あいつの悪運は俺に負けず劣らず強いんでどーにかこーにかなんとかなるんじゃないかとこっちも楽観視してるんだが、さてどうなることやら。


「ヨルとカスカもただ観光目的でついてったんじゃねえぞ。あの二人はサラの護衛なんだ」


「そうだったんだ……クエストの関係で街を離れたのかと思ってたよ」


「まー聞き逃してたらそう思うわな。でもパーティとしてのアンダーテイカーは一旦休業中なんだよ。俺とメモリもいつセントラルシティへ呼ばれるかわからんし、サラの欠けたまんまでクエスト受けるのもあれだしな」


 そっかぁ、と納得するヤチだったがそこで「あれ?」と疑問を呈した。


「たしかゼンタくんは、古くからこっちにいるっていう来訪者の人と会うつもりなんだよね?」


「おう。その人に元の世界への帰還方法と、強くなるための特訓法なんかを教わろうと思ってんだ」


「じゃあ、メモリちゃんはどうするの? なんだかここ数日は部屋から出てきてもいないみたいだけど……」


「別に心配しなくていいぜ。あいつはあいつで修業中だからな……今のうちにネクロノミコンと改めて対話しておくんだと。先輩来訪者と会うときに、その仲間だっていう有名なネクロマンサーも来てくれるよう、トードさんがセッティングしてくれってっからよ。それに向けて、つまりはメモリも呼び出し待ちってこった」


「そうなんだー……」


 話が飲み込めたと微笑むヤチだったが、ちょっとずつその笑顔の質が変わった。


「それじゃあ……私たち、今二人っきりなんだね」

「どこがだよ」


 うっとりしたように呟くヤチには呆れたぜ。


 確かにこの場に限れば二人だけで会話してるがな……しかしビートとファンクに指示を飛ばしながら猛烈に中華鍋を振るってるテッカがこっからでも見えるし、建物全体で言えば他にも人がいるんだぞ。


 そんな嬉しそうな顔で二人っきりって言えるようなシチュエーションじゃねーはずだが。


 ……既に隣合ってるのに、椅子ごと少しずつ近づいてくるのは何が狙いだ……?


「あー! 何してるのゼンタっち! ダメだよ! そうやってヤッチーを誑かそうとしたって、私の目の黒いうちは絶対許さないんだからね!」


「濡れ衣にもほどがあるわ! 俺なんもしてねーだろ!?」


 ちょうど食堂へやってきたユマに見つかり、謂れのない非難を浴びせられちまった。理不尽すぎんだろこれ。


「遅れてすまんなゼンタよ。ちょうど風呂に入っとったんでな。がはは!」


「お、ガンズさん。いや、俺も急に声かけちまったからな。気にしないでくれよ」


 続いて食堂へ入ってきたガンズは騒がしいヤマをちっとも気にしてないんで、俺も少し冷静になれた。こういうときは年の功だよな。


 ユマはいつものようにヤチに抱き着き、俺に何かされなかったかなどと失礼なことを聞いてやがるが、もうそこには触れないでおこう。


 今は真面目な話をする場面だしな。


「あーっと、二人とも……ヤチも合わせて三人か。とにかくみんなに話がある。っつーのも会議で話したことの延長みたいなもんだけどな。まずはヤチとガンズさんだ」


 先を促すように視線を向けてくる二人に、俺はちょっとした思い付きで生まれた計画を説明する。


 満場一致で必要だとされた魔皇軍との戦いへの備え。そこで重要になるのは攻めだけでなく、守りもだ。


 各員敵らしき影には十分に気を付けようという話にはなったが、そういう防犯意識だけじゃどんだけ気を付けたって決して十分とは言えねえだろう。


 もしものときの防御の要ってのは、やっぱ家だ。

 俺たちの場合はこのギルドハウスこそがそれにあたる。


「そこで俺はギルドハウス自体をもっと強くしたいと考えた。部屋の内装や数を変えられたり設備の充実だったりと、住むだけならこれ以上ないってくらい便利機能満載の家だとは思うがよ。だけど敵に攻め込まれるって状況を考えると、ここにはまだ色々と欲しいもんが足りてないと思うんだ」


「そ、そうだね。浴室や食堂は拘ってデザインしたけど、自分たちを守るための家っていう考え方はしてなかったから……もう一度そのつもりで作り直す必要があるのかも」


「ふーむ。要するにギルドハウスの要塞化か。紅蓮魔鉱石の庇護下にあるこのハウスであれば、単なるリフォームの範疇に留まらない大改築も可能だとは思うが……しかし思った通りの構築ができるとは限らんぞ? なんせ紅蓮魔鉱石は謎だらけじゃ。失敗すれば目も当てられん」


「そうだな。ぶっちゃけリスクはかなりあるとも思ってる。でもこれは今後に向けてぜひやっておきたいことだ。そんでこんなことを頼めるのは……スキルで紅蓮魔鉱石と繋がってるヤチと、紅蓮魔鉱石ハンターとしての執念で夢を叶えたガンズさんの二人しかいねえ。だから、どうか挑戦してみてくれないか!」


 俺の言葉にガンズはにやりと笑った。


「断りゃせんよ、こんな楽しそうなことは! のう、ヤチの嬢ちゃん?」

「は、はい! 私もゼンタくんの力になりたいです。よろしくお願いします、ガンズさん」

「その意気じゃ! ワシらで一緒にやり上げようじゃないか」


 握手を交わして、早速スキルの力も踏まえてそれぞれ改造計画のアイディアを出し合い始める二人。そしてヤチを取られて寂しそうにしているユマ。


 普段の仲の良さを知ってるだけに気持ちはわからんでもないが、ユマにやってもらいたいのはギルドハウス改造のほうじゃないんだから仕方がねえ。


「なあユマ。前にちらりと聞いたが、お前は『職人スミス』っつー職業クラスに自信を持ってるんだよな?」


「うん! カスカっちと会うまでは色んな工房で腕を磨いてきたからね。これでも六色職人ザ・スミスのユマって言えば職人界隈じゃあちょっとした有名人なんだから!」


「ほー、そいつはいいや。ますます適任だ」


「うん? 何が?」


「職人としてのお前に依頼をしたいんだが……これだ」


 言いながら【武装】を発動させ『非業の戦斧』を呼び出して見せてみる。

 職業クラス病なのか、その途端にユマは俺の手にある大斧をじろじろと食い入るように眺めだした。年頃の女子としちゃあり得ない反応だよな。


「こいつに限った話じゃないんだが、どうも俺の武器は耐久度がいまひとつでな」

「ははーん。つまり武器の強化を頼みたいってわけかぁ」

「そうだ。できるか?」

「【先鋭】発動――『黒の職人ブラックスミス』」


 俺の質問に答えることなく、ユマはなんらかのスキルを発動させた。


 すると明るい茶髪だったユマの髪が真っ黒に染まっていくじゃねえか。髪だけでなく、瞳の色までも。そしてその雰囲気すらもガラッと変わって。


「ふう……さ、まずは私にそいつをよく見せてみな。どれだけ鍛えられるかって話はそのあとだ」


 髪をかき上げながら、少しばかり低くなった声ユマはそう言った。


 だ、誰だよお前は……!? と戸惑いつつも、その独特な迫力に押された俺は言われるがままに戦斧を手渡したのだった。


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