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156.全面対決は避けられない

誤字報告に感謝

 ポレロへ帰って翌日、俺たちは組合へと呼び出された。今回も受付をすっ飛ばして組合長であるトードと直接の面会だ。


 既にアーバンパレスからユニフェア教団本部で何があったのかについては知らされているようだったが、そこは一応組合の冒険者として、俺たちからもクエスト中の出来事を説明した。


 全てを聞き終えたトードは真面目な雰囲気で頷いた。


「まずお前たちが一番気にしているスレンティティヌス・ポセドー……傷付いたっつー特級の件だが、命に別状はないらしい。無事に教会で治癒が成功したようだ」


 その言葉に俺たちはホッとする。

 回復阻害なんてもんを見たのは初めてだったんで、いくらサラ以上の奇跡を操るというシスターの手でも治しきれるものなのかと不安に思ってたんだ。


 だが、治癒が成功したというわりにトードの口調が重たいのが気になった。


「一命は取り留めたが、体のほうがな。以前のようには動かんらしい」


 トードも部外者の自分が根掘り葉掘り聞くのは気が引けたそうだが、俺たちが知りたがるだろうと詳しく容態を聞き出したのだとか。そこでわかったのは、失くした腕や貫かれた胸は元通りになったものの、その機能が落ちてしまったということだった。


 即死でもおかしくないほどの重傷だったせいか、あるいはこれも回復阻害の影響か。

 とにかくスレンは意識を取り戻したはいいが戦闘能力を大きく落としてしまっているようだ。


「『グレーターヒール』と言えばどんな高級ポーションの効能をも上回る最高の治癒魔法だ。大奇跡なんて言われるくらいだからな。だが魔法ってのは万能じゃないし完璧じゃない。なんだってできるわけじゃあない……ポセドーという男だって教会に運び込まれても死んでたか、腕が戻らなかった可能性だって大いにある。助かっただけでもめっけもんだぞ。命あっての物種とも言うだろう」


 俺たちの顔が暗くなったのを受けて、励ますようにトードが言った。


 確かにその通りだと思った。あのときはマジでスレンが死んじまうと焦ったんだ。そうならなかっただけマシと思うべきだろう。気分を沈めるよりもまずはスレンが生きてるってことを喜ばなくっちゃな。


 聞けばスレンは早速リハビリに励む姿勢を見せているんだとか。

 本人がそうやってめげてないんだから、俺にできることはそれを応援するくらいしかねえ。


「さて、この任務の依頼主……あえてどんな立場かはもう語らねーが、そいつもユニフェア教団がどうなったかは耳にしたようでな。向こうから連絡が来てぜ。『感謝を伝えてほしい』だとよ」


 手渡される報酬とともに告げられた伝言に、サラがにっこりと笑った。


 今回の依頼人はルチアとカロリーナだ。教会に属する二人なんだから、いち早く事の顛末を知る機会もあったんだろうな。


「どうも依頼人とアーバンパレスとで行き違いがあったみてーだな。先にアーバンパレスが調査任務に就いていたってのにお前たちにも依頼が来たのがその証拠だ。セントラルはユニフェア教団っていう怪しい組織へ慎重策を採っていたようだし、どう対処するかを対外秘にしてたんだろうよ。だから依頼人にも情報が入らず、業を煮やして別の冒険者を動かしたってところなんだろうが……ま、そこにどういう関係性があるかなんて、俺にはどうでもいいことだが」


 トードは諳んじるようにそんなことを言った。行き違い、ねえ。教会とアーバンパレスを繋ぐものと言えば、セントラルしかない。世界のルールを決めてるとかいう例の偉そうな組織のことだ。


 セントラルお抱えの冒険者ギルドに、セントラル公認の教会。

 同じような枠組みにはいても互いの距離は少し離れてると見ていいのか。


 少なくとも一枚岩と呼べるくらい密接ではないっぽいな……セントラルを頂点にした三角形。それが頭に浮かんだ。


「まあなんにせよ、アンダーテイカーは見事に依頼を果たした。ユニフェア教団の調査どころか、現地入りしてたアーバンパレスの構成員と合流・協力して事に当たり、邪悪な人体実験を繰り返し支配下に置いていた悪党を滅ぼした。しかもそいつの正体は、近年世間を騒がすようになったあの逢魔四天の一人だ」


 アップルやテッカの言ってた通り、とうとう逢魔四天の所業、それに魔皇の復活・・という一大ニュースは世界中の人間の知るところとなった。


 今までのように一部の人間だけで真相を口止めするには、今回の件は事が大きすぎる。


 カノーネの街の混乱は言わずもがな、他の街にだって少なからずエニシのペットと化した元人間たちが潜り込んでいた。そんな連中が一斉に泥へと変わったんだ、これで世間が騒がないはずがない。


「おそらく今日か明日には大々的な公表がある。数日も経ってようやくたぁ、世の騒ぎからするとだいぶ遅いがな。だがセントラルとしても可能な限りの火消しがしたかったんだろうな。今回の騒動を魔皇案件だと認めちまうとこれまでの事件もそうだったと暴露するに等しい。するとますます混乱が大きくなるし、それが魔皇軍の後押しにもなりかねん……と、警戒するのは当然だが、もはや隠せるものかよ。無理なもんは無理だ。もう皆気付いちまってる。まったく何も知らない、魔皇案件の噂すら聞いたことがなかったって連中でもこのヒリついた空気は感じているはずだ。世界全体で良からぬことが起ころうとしている、その前兆ってもんをな」


 これまで下手に世間が慌てないよう、言い換えればアーバンパレスの調査を邪魔したり、魔皇軍を妙な具合に刺激しないよう噂の範疇で抑え込んでたのが裏目に出た。


 それでも知ってるやつは知ってるくらいにまで広まっていた魔皇の噂、不吉の種。

 種で収まってったそれが今回のことで一気に芽が出て茎が伸びて、大輪の花を咲かせちまったんだ。


 だからきっと、魔皇軍との大々的な全面対決は避けられない。


「本当に魔皇がいるのならいずれはそうなる。だが大掛かりな戦い、それこそ戦争を視野に入れるなら、それに突入する前に魔皇の目的が何かを明らかとし、その内容がなんであれ戦力もできるだけ減らしておきたい。セントラルとアーバンパレスはそう考えていたはずだ。だがこうなると悠長なことは言ってられない。これまでは人目を憚らずともそう大々的には動いていなかった逢魔四天が、一角を欠いたことでどう動くかは未知数。魔皇の音頭次第じゃ今すぐに侵攻が始まってもおかしくはない……」


 逢魔四天の欠落。そして一般人にも知れ渡った魔皇軍の存在。

 確かにこんだけ状況が動けば、魔皇軍からもなんらかのアクションがあると思ったほうが自然だろう。


 何もないならないで、それもまた不気味だ。


 なんせエニシのやったことが前提にあるからな。


 新しい教団なんてもんを立ち上げて、セントラルが慎重に様子見してる間に多くの人間を被害をもたらした。それだけでなく、被害をそのまま自分の戦力にまでしていたんだ。


 もしかしたら水面下でまたそういう策を取ってこないとも限らない。

 そちらも警戒するならアーバンパレス側もこれまで以上の戦力を各地へ投入しなければならないのは自明の理だとトードは言う。


「だが、アーバンパレスが世にふたつしかねえSランクギルドのひとつ――つまり世界最高峰の戦力を有している組織であったとしても、流石にこの事態を自分たちだけでどうにかすんのは無理がある。というのも逢魔四天はアーバンパレスのエンタシスをも超える実力者と見做されているくらいだからな……伝え聞くこれまでの戦績からして、俺もそれは間違いないと考えている」


 エンタシスの総数は八名――だった。


 だがセントラルが魔皇案件を立ち上げる切っ掛けとなった最初の被害者一名を皮切りに、インガとエニシから部下たちを逃がすためにもう一名が死亡し、今回もスレンが戦線から退いたことで残るは五名。

 しかもその内の一人は一級から上がりたての、特級ではあっても見習いのようなもんだとか。


 まともに魔皇軍幹部と戦り合えると目されるのは現在、僅かに四名しかいない。


 それも魔下三将はともかくとしても、逢魔四天レベルとなればエンタシスでも複数人で当たらないと確実に勝てるとは到底言い切れない。

 ここにアーバンパレス最強と噂される団長を頭数に含めたとしても戦力は良くても拮抗、厳しく見るならなお魔皇軍が勝っている。


「状況と情報の優位は向こうにある。いつどんなことをしてくるのかまったくわからん以上、アーバンパレスは後手に回るしかないからな。お抱えギルドの貴重な戦力が三人も落ちてんだからセントラル側も手なんざ選べない」


 ではどうするのか。

 答えは単純――魔皇案件に対処するための、それを可能とするだけの人材を増やせばいいのだ。


「条件は、状況次第でエンタシス並みかそれに準ずるだけの戦闘能力を発揮できる冒険者を有するAランク以上のギルドまたはパーティ。……もうわかったな、アンダーテイカー。お前たちはたった今からAランクになるんだ。そしてアーバンパレスとともに魔皇軍と戦う精鋭部隊の一員として、近くセントラルシティに招集されることになる――」


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