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14.ネクロマンサーってこんな感じだっけ

「ひぇええっ!」


 俺の意気込みに水をぶっかけるように、急にサラが慄いた声を出した。そのうえへたり込んでしまっている。


 そんなにゴリラの威嚇ドラミングが怖かったのかと思えば、サラの怯えた目はゴリラじゃなくボチのほうに向けられていた……しまった、そういやこいつ犬が苦手なんだっけか。


 たぶん、俺と同じように犬に殺されかけた経験でもあるんだろう。

 俺は恐怖症なんかになっちゃいないが、襲われて以来しばらくは目に入る犬が怖くて仕方がなかった。

 だからへたり込んじまう気持ちもよくわかる。


 これは、サラの傍でボチを呼んだ俺が悪いな。

 本当は離れとけって言いたかったんだが、今のサラの様子からしてそれは無理そうだ。


「ボチ、サラを頼む! あんまり近づきすぎないようにな!」


 一緒に戦うつもりで召喚したボチを、サラの護衛役に残しておく。

 サラにとっちゃ犬に守られるのは悪夢かもしれんが、そのまま放っておかれるよりは温情の扱いだと納得してほしいところだぜ。


「おっとぉ!」


 なんて考えていたところにゴリラの腕が迫ってきた。俺はそれを身を低くしてやり過ごす。


「【武装】、『骨身の盾』! 【活性】!」


 盾を装備しつつ身体強化。今度は逆方向からやってきたゴリラの腕を受け止め、そして弾き返す。こういうのをシールドバッシュって言うのか? 


 わからんが、とにかく【活性】発動中なら当たり負けはしないと判明した。


「重いは重いけどな……!」


 だけど、それがいい。殺しきれない衝撃があったほうが俺の最終兵器『恨み骨髄』を活かせるんだからな。


 俺が狙うはずばりカウンター戦法。


 HPを削られない程度に守りを固めて、何度も攻撃を受ける。

 ゴリラの動き自体は前に戦ったことで大方記憶しているから、それだけに集中してりゃあそうそうやられることはない。

 やられないだけで、このやり方だと本当なら勝てもしないはずだが、『恨み骨髄』の能力さえ使えりゃあその心配もねえ。


 まさに完璧ってやつだ!


「おらおらどんどん来いや!」


 ゴリラはめちゃくちゃに腕を振るって連続攻撃を仕掛けてくる。

 そう来るとわかっていた俺は焦らずに捌いていく。

 そうやって何発も受けつつ、そろそろ恨みパワーも溜まる頃かと勘定を始めた時、いつまでも潰れない俺に明らかに苛立った様子でゴリラが両手を組んだ。


 そしてそれを思いっきり振り上げる――これはマズい!


「うぉおっ!?」 


 間一髪。力一杯に叩き付けられるアームハンマーから逃れる。当たってないってのに衝撃に押されて地面にぶつかっちまった。


 やばい、すぐ体勢を立て直さねえと追撃が来るぞ……!


 と慌てた俺だったが、ゴリラはなんと予想外なことに、こっちからぷいと視線を逸らした。

 それだけじゃない、離れていっちまう。

 は?? と一瞬すげえ混乱させられたがゴリラの狙いがすぐにわかった。


 俺じゃないなら、決まってる。

 サラたちのほうを攻撃するつもりだってことだ!


「やっべえ……!」


 盾を放り捨てて急いで立ち上がる。が、そこでタイミング悪く【活性】が切れた。自分のスピードが目に見えて落ちたのがわかる。


 俺の視線の先では、ボチが駆け出していた。

 吠えながら、わざと目立つように。

 それに釣られてゴリラはボチへとターゲットを絞ったらしい。

 俺にやったように、両手を組んで叩きつけようとしている。


「……!」


 その気になれば安全圏へと逃げられるだろうが、それをすると今度はサラが狙われる。ボチはそのことを理解していて、わざと攻撃範囲から逃れないようにしている。だがあのアームハンマーは強烈だ、そんな半端な逃げ方では一発でやられちまうぞ……!


 ちくしょう、追いつけない! ここからじゃ何もできない! 


 他人を庇えるようなスキルがあれば話は別だったが――俺のスキルは全部、自分を守るためのものばかりじゃねえか!


「ボチぃ――!!」


 今まさに、ゴリラの腕が振り下ろされた。

 その瞬間に。


「『プロテクション』!」


「!?」


 きらりと光る半透明の壁のようなものが、ゴリラの攻撃を防いだ。

 それをやったのは、言うまでもないだろう。


 サラは、ボチのほうに片手を向けた姿勢でロザリオを握りしめながら叫んだ。


「やらせませんよ、お猿さん!」

「……! ナイスだぜ、サラぁ!」


 足に力を入れる。思わぬ邪魔によって攻撃を弾かれたゴリラは、若干だが体勢を崩している。今がチャンスだ。


 切れた直後なので【活性】は再発動できねえ……けど、んなの関係ねえ!

 そんなのなくたってやってやらあ!


「おぉおおおっ! 【武装】、『恨み骨髄』!」


 跳び上がる。そして剣を手に取る。

 どす黒いオーラを振りまくそいつを、渾身の力を込めて振り抜く。


 ドゴッ! と。


 剣で斬ったとは思えないすげえ鈍い音を立ててゴリラの首が曲がった。


「ゴァ……ッ、」


 鳴き声だか呻き声だかを漏らして、ゴリラは倒れて動かなくなった。

 当然だ、首の骨をばっちし折ってやったんだからな。

 ……にしてもこの剣、切れ味が悪いにもほどがあるだろ。棍棒と変わらねえぞこれじゃ。


「わうわう!」

「やりましたね!」


 嬉しそうにボチとサラも駆け寄ってくる。

 お互いに距離を開けているのがなんとも言えんが、まあそこはしょうがないな。


「ボチ、よくやったぞ。サラもボチを守ってくれてサンキューな。すげえ技を使えるんだな」

「いえいえ、今の私にはあれくらいが精一杯で……ゼンタさんこそすごいですよ! 随分と戦い慣れてて、もう歴戦の戦士じゃないですか」

「まあ、こいつくらいならな」


 このゴリラが厄介なのは複数連れ立って現れたときだ。

 凶暴なくせにグループを作りやがって、連携までしてきやがるからな。

 実際にそうやって襲われた俺は、その怖さをよく知っている。


 その際に殆どのゴリラを相手取ったのはもちろん親猫だ。俺は例の如くボチ、子猫と協力して一体だけを倒したに過ぎない。

 ただまあ、そんときの経験がこうして活きたってことだな。


「それにしても、怖い剣ですね。なんですかこのデザイン? 背骨?」

「あー……俺もぶん回しててあんまし気持ち良かぁねえな、これ」


 復讐相手のゴリラが死んだことでオーラは解除されているが、オーラなしでも十分に不気味だ。なんせ背骨に持ち手がくっついただけって感じの剣だからな。


「でも仕方ねえよ。俺の職業クラスはネクロマンサーらしいからな。出せる武器もこういうのになるんだろうよ」


「え、ネクロマンサー……? ですか? ゼンタさんが??」


「おう。言ってなかったがボチもただの犬じゃねえぞ。ゾンビ犬だ」


「あ、だからこんなに紫なんですね。てっきり新種の毒にでも侵されてるのかと思いました」


「そうは思わんだろ」


 やっぱ普通じゃねえよな、こいつ。


 だけど……腰が抜けるくらい怖いはずのボチを守ろうとするくらいにはガッツのあるやつでもある。

 そのガッツで強盗なんかしちまったわけで、なんとも評価に困るんだが……とにかく、根っからの悪い奴ってことはなさそうだよな。


「ネクロマンサーってこんな感じだっけ……? もっと悍ましい術を使う恐ろしいクラスのはずじゃあ……でも実際に会ったことはないから……」


「? おい、なにぶつぶつ言ってんだ」

「え、いや、別になんでもないですよ? ぴゅ~♪」

「吹けてねえっつの。俺の前では二度とやるなよそれ」

「二度と!?」


「ボチ、戻れ」

「わう」

「ちょっと、なんで口笛吹いちゃダメなんですかー!」

「普通に腹立つから」


 ゴリラも無事に倒して、仕切り直しの出発だ。


 誰も怪我無く戦闘を乗り切れたのはいいが、レベルも上がらなかったな。

 前の戦闘では、上がりたてでもゴリラを倒した途端にまたレベルアップしたんだが……。


 原因はやっぱ、経験値なのか。


 レベルは上がれば上がるほど、上がりづらくなる。

 それもゲームのお約束と言えばそれまでなんだが、俺としちゃあ憂鬱だな。

 スキルゲットのチャンスが減っちまうと死活問題だ。


「……もっと手頃なのをたくさんぶっ殺しといたほうがいいのかね」


「わ、ネクロマンサーらしい発言ですね」


「マジ? ネクロマンサーってそういう感じなのか?」


「さあ。でも生き物を殺すのが好きそうじゃないですか、名前的に」


「お前に聞いたのが間違いだったわ」


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