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134.内通者がいるのなら

 外から見た通りユニフェア教団本部はピラミッドのような形をしてるもんで、上の階になるほどフロアが狭くなっていった。


 だから階を上がるほどに走り回る距離が短くなるのは助かったものの、そのぶん敵との遭遇率も上がってくのは参ったぜ。

 あっちからもこっちからも信徒がわらわらだ。


 だが散発的に起こる遭遇戦も、スレンがいる今は何も怖くねえ。敵が出てきた傍から水の魔法で切り刻み何もさせずに無力化させるからな。


 いやこの人マジでめっちゃ強い。もう俺にはそれしか言えねえぜ。


 どんだけ体をバラバラにされようが信徒たちの肉片はビクビクと床を這って寄り集まろうとする。あんな状態からでもいずれは元の形になるんだろうな。


 しかしスレンの言う通り、細かくパーツが分かれるほど再生が遅れることは確かみてーだ。スレンにやられた信徒は全員、俺が受付の女の首を折ったときとは比較にならんほど動きが鈍くなってる。


 これなら一度倒した奴らが追いついてくることもねえな!


 ――と楽観するためにゃ足止めをされないっつー条件が必要になってだな。


「お待ちしてましたよ」


「ちっ、ここにいやがったかよハンナマラ……!」


 いよいよこの上がレヴィの言ってた開かずの間、ってところで待ち構えてやがったのはあのハゲの司祭ハンナマラだ。

 最上階からふたつ下のエリアであるこの階は一個の大部屋のようになっていて、階段を上がってすぐにそいつらが目に入ったぜ。


 百人はいるかっつー変身済みの異形信徒ども。

 そしてそいつらを侍らせて守りを固めているハンナマラ……確実にここで俺たちをやるつもりだってのがヒシヒシと伝わってくる布陣だ。


 この数をいっぺんに、ってのはさすがのスレンでも無理だろう。


 それがわかっているのかハンナマラは下の階で見せてたのとはまるで違う、なんともいやらしい笑みを向けてくる。


「人数が先ほどより増えていますが、諸共丁重にお迎えしますよ。ようやく最近の異変の正体がわかった。まさか本部内に居を構えるとはなんとも大胆不敵、そして不敬。エニシ様からお教えいただくまで見抜けなかった私の不徳でもありますが……この際それも構いますまい。あなた方を捕え、エニシ様に献上する。それを以って謝罪としましょう。何せエニシ様はあなた方へ強い興味を示していますからね」


 どうやらハンナマラはアンダーテイカーとアーバンパレスが最初から組んでいたと思っているようだ。

 先に潜入してたレヴィたちに俺たちが合流した、っていう筋書きなのか? まあ結果だけ見るならそれも間違っちゃいねえな。


 ふ、とそこでスレンが笑った。


 こんだけの敵を前にしているとは思えねえ力の抜けた笑い方――だが。


「そうか……確かにエニシがいるんだね。この上で、私たちが上がってくるのを王様気分で眺めているわけだ。ふふ、なんとも血が沸き立つじゃあないか……!」


 標的である逢魔四天の存在が確定したのと、まだ逃げ出そうとする気配がないこと。これらを敵のトップの口から確かめられたのは大きい。


 ハンナマラはハンナマラでこの場で始末をつけるからには何を言っても構わないとでも考えたんだろうが、エニシがいると知れたことでアーバンパレス組の戦意はさらに漲っている。


 スレンだけじゃない。レヴィも、そんであのアルメンザすらも顔付きを変えているんだ。


「スレンさん。ここは私たちに任せて――」


「エニシ様の名を呼び捨てにしたかっ! この不埒な背徳者どもめが……私がお前たちを一匹でも逃がすと思うか!?」


 エンタシスだけでも逢魔四天の下へ送ろうとしたレヴィの言葉を遮って、くわっと目をガン開いたハンナマラが鬼気迫る声音で叫んだ。


 余裕ぶった口調も消えたが、おそらくはこっちがこの男の素だろうな。迷いなくそう思えるぐらいには罵倒がしっくりきているぜ。


「最高信徒ナキリよ!」


「ここに」


 ハンナマラの呼びかけに応じる声は、俺たちの背後からした。


 はっとして振り向けばこつこつと階段を上ってくる音とともにそいつが見えた……委員長だ。

 兜はしていないが体は例の白い鎧で覆われている。戦闘態勢だ。


 どういうつもりでここに現れたのかは、もはや言うまでもねえ。


「やあ柴くん、奇遇だね。こんなところでまた会うなんてさ」


 なんて白々しいことを俺に言ってくる。

 ……なんだかさっきと比べてやけに楽しそうだなこいつ?


「どこかで出てくるとは思ったがよぉ……委員長。お前も俺らの壁になるってわけかよ」


「フハハ、その通り! そして呼び寄せたのは彼だけではない。教団最強の戦闘部隊である鎮圧隊にも招集をかけた。一人一人がナキリと同格の力を持つと認められた精鋭たちだ! 直にお前たちがやった信徒も復活しここへやってくるぞ。教団の戦力を総動員し、全員まとめて再生誕を受けさせてやる!」


 下でスレンが片づけた信徒の数は十や二十じゃきかねえ。そいつらが蘇って追いついてくるのも時間の問題で、しかも鎮圧隊とかいう委員長と同じくらい強い連中も加勢してくる……そうなればもうスレンなしじゃ手に負えないのは確実じゃねえか。


 マズいな、と俺は冷や汗をかきながら委員長の後ろを確かめるが……あれ? 鎮圧隊も信徒も、誰も来る気配がねえぞ?


 同じ疑問をハンナマラも抱いたようで。


「……ナキリ。あなたと一緒に鎮圧隊も上ってくる手筈だったでしょう? 彼らは何をしているんです」


 同輩に対してはまだ丁寧な話し方をするハンナマラへ、委員長もにこやかな顔で丁寧に答えた。


「お答えします、司祭様――彼らなら誰もここへは来ませんよ。皆仲良く戦闘不能です。ついでに下の信徒たちも道すがら僕が再度切り刻んできたので、まだ当分は到着しないでしょう」


「な、……」


「ああ、鎮圧隊を片付けたのは僕じゃなく、スレンさんですがね。僕同様に再生誕を受けないほうが戦力になると判断された精鋭たちであっても、彼の前ではただの信徒と変わりなかったようですね。鎧袖一触でしたよ」


「なっ、な――何を言っている!?」


 くすり、とハンナマラの狼狽ぶりを見た委員長は可愛らしくもある顔を冷酷に歪めた。


「ご質問への答えを述べているまでですが、司祭様。言葉が足りませんでしたか? 詳しく説明しますと、本部の情報や鎮圧隊の所在をスレンさんに伝えたのは僕です。ずっと彼とは人目を忍んで密会を重ねていたんですが、あなたはまるで気が付きませんでしたね。おかげで慌てることなく事を進められました」


「きょ、教団を裏切ったと言うのかナキリ!」


「それは違う。元から僕は貴様らの敵だ。ずっと待っていたんだよ――あの邪悪な女の首を討ち取る絶好の機会をね。今こそがそのときだ」


「委員長……! そういうことだったか!」


 やっぱそうだ。絶対に何かあると思ったが、委員長は最初からエニシを成敗するために教団の仲間を演じていたようだ。


 単身で組織に潜り込み、信用を得ながらじっと好機を伺う……いわゆる獅子身中の虫ってやつか?


 言うのは簡単だが、きっとここまでくるのに想像もつかねえ苦労をしてきたはずだ。


 スレンたちが来なかったらきっとまだ行動を起こしてねえだろうし、先の見えない任務を誰に言われるでもなく果たそうとしていたと……そんな面倒を率先して背負うあたり、まったく委員長らしいぜ。


 あ。すると俺は、大詰めの段階でのこのこ悪目立ちしながらやってきたお邪魔虫だったわけか? 下手すると作戦が筒抜けになったり台無しになったかもしれねえ。


 ということを思えば、あんだけ委員長が俺をボコボコにしたのも当然っちゃ当然か。そうしなきゃ本当にバレてたかもだしな。


 すんなりと納得はできねえがな!


「ふー……備え、というのはこれのことだったんですね。内通者がいるのなら私たちにも事前に言ってくれてもよかったのでは?」


「うん。私も本当ならそうしたかったが……ここは敵地だよ? どこに目があるかわからないからね。だから念入りに用心をしたんだ。ほら、よく言うじゃないか。敵を騙すならまず味方から、とね」


「まったく……アルメンザの隠れ部屋ならその心配もないでしょうに」


 呆れたように言うレヴィと、こくこくと頷くアルメンザ。だがにこにこしてるスレンにゃちっとも反省の色なんてなかった。自分の下した判断に絶対の自信があるようだ。


 まさかではあるが、自分の不在中にレヴィやアルメンザが敵に操られている可能性も視野に入れていた、とかか? 

 そこまで疑ってちゃ普通だとなんもできなくなるが、スレンは普通じゃねえからな。


 これだけの強さがあれば、いざとなれば単独で暴れるという手も取れはする……まあそれは仲間を連れてる身としちゃ最悪の選択ではあるがな。


 と、そこで。


「首を……エニシ様の首を。討ち取る? 討つ、だと……そんなこと。そんなことを。そんなことをぉさぁせるものかあぁっ!」


 激昂のあまり顔を真っ赤にしたハンナマラ。

 その体が薄く光り、それに呼応するように信徒たちもぼんやりと光を放った。


 こ、これはなんだ……! 今度は何が起ころうとしてやがんだ!?


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