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132.ここを潰す

「どうして俺たちがここにいるかって?」


「ええ。そんな妙な恰好で何をしているのか。できればそのわけを話してもらいたいわね」


「妙な恰好っておい」


「だって変でしょう、特にあなたは。そのメガネも髪形もちっとも似合ってないわよ」


 そう言ってじっと俺を見つめるレヴィ。

 やっぱ美人ではあるが、吊り上がった目じりからは以前同様にキツめな印象を受けるな。


 そんな目付きで訊ねられると、ただの質問でも詰問に感じるぜ……いやまあ、レヴィがどちらのつもりでいるかは判断のしようがねえんだけどな。


 ただ、口調自体はそこまで剣呑なものではない。

 純粋な疑問を聞いてるだけ、って感じだ。


 さて、ここでどう答えるべきかどうか。

 聞くところによると冒険者にゃ守秘義務ってもんがあるらしい。

 みだりに依頼者について話すのはマナーのいい行為とは言えねえ。


 だが、今は状況が状況だ。敵地と言ってもいい危険な場所で、ふと別バーティに出会ったというシチュエーション。ここは少しくらい互いに胸襟を開いておくべき場面に思えるぜ?


「ああ、実はだな――」


 だから俺はここまでの流れをざっと説明することにした。


 依頼があってユニフェア教団を調べていること、つまりこの宗教組織を怪しんでる依頼者がいるってことはバラしちまった形になるが、それが誰かっていう具体的なことまでは言わなかった。


「どこからの依頼なのかは悪ぃが伏せさせてもらうぜ」


「そこまでは聞かないわ。ギルド所属とはいえ私だって冒険者。そういうルールはわかってる……だけど、そう。ユニフェア教団の調査が必要だと考えたのが他にもいるのね」


「他にもってことはよぉ、やっぱそっちも同じ任務か?」


「……ええ」


 少し考えてからレヴィは肯定した。

 打ち明けるべきか迷ったようだが、俺のほうが包み隠さず教えたことで自分もそれに倣おうと決めたらしい。公平なやつだ。


 アーバンパレスの構成員だからって皆が皆、ジョニーのようにやたら偉ぶっているわけでもメイルのようにやたら好戦的なわけでもないみてーだな。助かるぜ、いやマジで。


「こちらは隠すまでもないことだから打ち明けるけど、依頼は統一政府セントラルからよ。と言ってもその内容はそれとなく教団を見張ること。褒められたものではないけれど、私たちは独断専行をしていることになるわ」


「独断……? どういうこった?」


 完璧に隠密を決めていて、任務を忠実に遂行してるようにしか見えんが。

 そう思って首を傾げた俺に、レヴィはクールな表情のままで言った。


「ここを潰す。今の私たちはそれを目指して行動している」


「つ、潰すぅ?」


「ええ、この任務を単なる見張りだけで終わらせるつもりはない。そもそも調査に向かう許可が下りるのが遅すぎたのよ。セントラルからの依頼と言っても打診はこちらから何度もしていたわ。ユニフェア教団は胡乱すぎる。早めに裏を取って、潰せるなら潰すべき。だというのに今になっても命令は『様子見』よ? ……勿論、ここが真っ当な宗教団体であればそれで十分だったけれど。あなたたちも見たんでしょう? ユニフェア教団の信徒は、既に人とは呼べない何かに変わり果ててしまっている。あんなのを見せられて動かないわけにはいかない」


 事前調査とここ数日実際に本部内に潜んで観察を続けた結果、ユニフェア教団――その頂点である司祭ハンナマラは真っ黒であると結論が出た。


 入信希望者は本部へ入ったが最後、数日は再生誕の間から出られず、出てきたあとにはもう手遅れ……いや、入った時点で手遅れになるという。


 俺たちのように逃げ出す術がなけりゃ、それもそうだろうな。


 問題は本部の信徒たちだけじゃなく、カノーネにも多数の再生誕を受けた信徒がいることだ。

 おそらくカノーネ以外の街にも広がっているだろう。

 それだけユニフェア教団の信者数は多い。


 そいつらがさも幸福そうに教団の魅力を語れば、何も知らない連中はコロッと騙される。


 特に苦しみを抱えてるやつや、心の弱いやつはイチコロだ。中身は化け物でも変化する前は同じ人間にしか見えねえからな。見破れるのなんてそうはいねえだろう。


「一度入ったら逃さない。そして絶対に裏切らない勧誘人に仕上げて、街に放す。評価されれば信徒としての位が上がり、司祭様のお付きや特別な役職に採り立てられる。洗脳とネズミ講の掛け算……これこそがユニフェア教団の急速なシェア拡大の仕組みよ」


 なんてこった。こりゃ寒気がするほどにあくどいやり口だぜ。

 人ってもんをなんとも思ってない、食い物や玩具にするためのシステムだとしか言いようがねえ。


 激しい嫌悪と、それ以上の怒りが俺の顔を歪めてんのが自分でもわかる。


「……なるほどな。教えてくれてありがとよ。おかげで胸糞悪い事実を自分らで調べずに済んだ。そして一級同士でコンビを組んでるわけもわかったぜ。そんなヤベぇのが仕切ってる場所ならそれも当然のこったな」


 完全実力主義だという『恒久宮殿アーバンパレス』で一級の地位に就くってのは、トップである団長から強さを認められてるってことだ。


 ジョニーがあっさり不合格を食らった昇級テストをクリアしたやつらのみが一級を名乗れるんだからな。


 俺ぁドラッゾの腐食のブレスを霧散させた一発の蹴りしか見てないが、あれだけでもレヴィの実力が並みじゃねえってのはよくわかった。

 そして一見頼りないアルメンザもそれに並ぶくらいの強さがあるってのは確実だ。


 仲間っつーわけじゃないが、それだけの実力者が二人もいてくれるのは俺たちとしても心強いぜ。


「クエストは別だが、手を組めないこたぁねーよな? お前たちが命令違反してまでここを潰すってんなら俺たちも力を貸すぜ。なあ、二人とも」


「もちですよ! 元教会勢力のシスター候補としては、こんな非人道組織を野放しにしてはおけませんから!」

「……同意する。ユニフェア教団は一刻も早く、この世から消え去るべき」


 言わなくていいことを言いながら息巻くサラと、やはり静かながらにセリフが物騒なメモリ。

 

 ツッコミどころはあるがとにかくやる気は十分伝わったみてーで、レヴィの顔には喜びとも苦笑いとも取れるような表情が浮かんだ。


「戦力が増えるのは私たちも素直にありがたいわね。でも、ひとつ勘違いしているようだからそこを改めさせてもらうわよ」


「勘違い?」


「そう……ここにいるのは私とアルメンザだけじゃないってこと。来てるわよ、特級構成員エンタシス


「……!」


 アーバンパレスの主戦力。一級すらも超える超実力者――それがエンタシス。


 地下王国でのメイルの暴れっぷりを嫌と言うほど目に焼き付けた俺たちにとっちゃその名は恐怖の象徴でもあるが、味方にいるとなればこれほど頼りがいのある存在もねえ。


「マジか、いるのかよここにも……! じゃあお前たちは三人で任務に当たってるってことか。ツーマンセルが基本なんじゃなかったのか?」


「そう、基本・・はね。コンビとして組む相手は主に戦闘面で互いを補えるかを重視して選ばれる。実力差がある組み合わせは滅多にない。だから普通、エンタシスと組むのは同じエンタシスか、補助役として万全にエンタシスをサポートできる人材だけよ。だけど今回は、なんと言うか……エンタシス一番の自由人が組み合わせも決まらないうちから勝手に動き出しちゃって」


「そ、そうなんです。自分とレヴィさんはそれを追いかけてやってきたんです」


 何故か恐縮したようにぺこぺこしながらアルメンザが言う。や、別に謝られるようなことじゃないが……しかし大丈夫なのか、そのエンタシスは。


 自由人と言えばなんだかいい風に聞こえるが、ただの自分勝手な奴なんだとしたらこっちとしても困るぜ。


「協調性がないわけじゃないんだけどね。なまじ実力が際立ってるぶん、一人で物事を進めちゃうきらいがあるから……まあこれはエンタシス全員に言えることなんだけれど」


「ああ、そうかもな」


 メイルを思い返しながら深く頷く。確かにあいつもいかにもそんな感じの女だった。


 けどあの強さがこっち側についてくれんなら、多少我儘だろうと横暴だろうと許せるな。こりゃあハンナマラも一巻の終わりだぜ。


 と、それこそエンタシスをサポートするだけで任務が終わるだろうと確信した俺の考えを、レヴィは真っ向から否定した。


「残念ながら高確率でそうはならないでしょう。わからない? 今、アーバンパレスが何に力を入れているか。エンタシスを差し向けるということが、どういうことを意味しているのか……」


「! お、おいおい。まさかそれって」


 以前ジョニーが垂れた高説。

 そしてヨルを連れ去ろうとしたメイルが語ったこと。

 それらを思い出して超絶嫌な予感を覚えた俺に、レヴィは真っ直ぐな目をして答えた。


「そのまさかよ。この本部にはおそらく――『逢魔四天』の一人がいるわ」


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