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13.珍妙な同行者

「そんじゃ、俺もこれで」

「あ、はい。お気をつけて」


 なるべく自然な感じで挨拶して、サラに背を向ける。

 よし、このまま行けるか……?

 と思った瞬間にがしっ! と肩を掴まれた。


「って、ちょっと待ってくださいよ! こんないかにも訳ありで困ってる女の子を放って行っちゃうつもりですか!?」


「チッ、駄目だったか」


「舌打ちした! 本当に見捨てる気だったんだ!」


 当たり前だろ。いや当たり前っつーか、そもそもなんで助けなくちゃいけない前提なんだよ。


「困ってるっつっても荷馬車強盗ができるくらいには逞しいっぽいし。大丈夫、その行動力があるサラならきっとなんとかなるって」


「今なんともなってないじゃないですかー! お腹ぺこぺこなのにっ……うう」


「何度目だってのそれ」


 でも、腹を押さえるサラの様子からして空腹なのはマジっぽいな。ボチを戻したっていうのに顔色がそれほど良くなってない。


 元気そうにしてるのでパッと見ではわかりづらいが、けっこう深刻な疲労状態にあるらしい。


「これで野垂れ死にされても後味わりーし、助けてやりたくはあるんだが……」


「本当ですか! ありがとうございます、助かりましたご飯ください」


「せめて礼と要求に間を置けよ。一拍でいいから。……つーかまず、俺には助けられねーんだわ」


「え?」


 呆けた顔をするサラに、俺は自分の事情を明かしてやった。

 何を隠そうこっちはサバイバル明けの一文無しの身なんだぜ。食料だって自家製干し肉を食い切っちまったばかりで、なーんにも持っちゃいない。


 つまり、サラを助けたくても俺にしてやれることは何もないわけだ。


 それを聞いたサラは、納得がいかないと抗議の声を上げた。


「もう、私のことバカにしてるんですか? そんな長いこと森にいた人が、こんなに綺麗な姿でいるはずないじゃないですか。『クリーン』にだって限度はありますからね。そもそも、気が付いたら森の中だったっていうシチュエーションが意味不明です! 嘘をつくにしてももっとマシなつきかたがありますよ。私は騙されませんからね!」


「論破! って感じで指を突き付けられてもな」


 自分でもそりゃあ、すげえ荒唐無稽な話だとは思うさ。

 でも全部事実なんだから仕方ねえだろ?


「これで俺が、実は別の世界から来たとか言ったらどうなる? やっぱ頭のおかしな奴って扱いになるのか?」


「え、ひょっとして『来訪者』さんですか? あー、そうだったんですね! それなら納得できます!」


 いやそこは通じるんかい! しかも別に、そんな珍しいってわけでもなさそうな感じがすんな……?


「こことは違う世界からやってくる人は不定期で見つかるらしいですよ。どこにでもはいませんけど、確かにそう珍しい存在でもないかもですね。だって私のところにも来訪者の……あ、これは聞かなかったことにしてください」


 口が滑った的なリアクションをするサラ。

 何やら事情がありそうな気配だが、俺としちゃ今の言葉は聞き捨てならねえな!


「そんなこと言わずに教えてくれよ。俺は今、情報ってもんに飢えてるんだ」


「そんなこと言わずに聞かないでください。ちょっと諸事情あって、元の職場を明かすわけにはいかないんですよ」


「前の職場って、語るに落ちてねえかお前……? いやわかった、そこがどういうところなのかは言わんでいいから、せめてお前の知ってる来訪者がどんな奴かってのだけ教えてくれ」


「では……見た目は二十代くらいの、女性です。とてもお綺麗な」


 二十代の、女性。

 それを聞いてどうしてもガッカリしてしまった。


 何故ならクラスメートたちは当然、俺と同い年の中三ばかりだからだ。

 大人びた奴もいるにはいるが、さすがに二十代に歳を間違えられるようなのはいない。


 そして、教室にいた中で唯一の大人は担任のナガミンだが……あの人は男だ。それも細身だが筋肉質な体格をしてる。これまた女と間違われる要素はゼロだ。


 サラの職場にいたらしい来訪者ってのは、俺となんの関係もない人ってことになる。

 誰か知り合いなんじゃないかと期待しただけに落胆もデカいぜ。


 まさか、飛ばされたのは俺だけなんてオチじゃねえだろうな……? いやしかし、飛んだ原因はどう考えたってあの謎の光だ。そして飛ばされる直前のクラスの騒々しさからして、光ったのは全員が目撃していたはず。


 だったらこの世界にいるのが俺だけってことはない――と、思いたいがどうなんだ。


 俺は合理的に物を考えられてるか? 


 知らねー世界に飛ばされたときのセオリーなんぞまったくわからんからなぁ。


「あのー、どうかしましたか?」

「いや……なんでもねえ。ありがとよ、参考になった」


 考え込んでる最中に顔の前でぶんぶん手を振られて若干イラっときたが、一応は礼を言っとく。少なくともサラのおかげで、俺みたいにこの世界に迷い込んでいる人間が一定数いるってことは判明したからな。


「そんな、お礼なんていいですよ。それじゃお腹は膨れませんし、ご飯さえいただければ十分です」


「謙遜しきれよ! すげー失礼だぞお前」


 てかさっきから何も持ってねーって言ってんだろうが。来訪者だって聞いて納得してたくせにまだ要求してくるか。メンタルの化け物かこの女。


「ここらへん、街とかねーの? こんなとこで追い剥ぎみてーなことするより人のいるところに行ったほうがいいだろ」


「残念ながら私、この辺の地理には疎いもので……。右も左もわからずに進んできたんです」


「なんだそりゃ。元はどこを目指してたんだよ」


「いえ、特には。ただひたすら西へ西へと向かっただけです」


「そんな天竺へ旅するみたいなノリで」


「着の身着のままでここまで来たので、お金もちょっとしかないんです。他に残された物と言えばこのロザリオくらいで」


「それこそ飯のタネにもならねーもんじゃねえか」


 ガチの手ぶらな俺が言うのもなんだが、こんなところにいて荷物がそれひとつってのはおかしいだろ。そりゃ行き倒れも同然になるわな。


「……なあ。ふと思ったんだが、さっきのおっさん」


「私がぶん殴ってやったあの人がどうかしました?」


「なんでわざわざそんな表現を選ぶんだ……そう、お前がアホな勘違いで襲ったおっさんだよ。あの人、荷物を運んだ帰りだって言ってたよな」


「はい、言ってましたね」


「んで、ここは道になってる。つまり人が定期的に通る場所ってことだ」


「……ハ! ということは、そう遠くないところに人の住んでいる土地がある!」


「そう考えんのが自然なんじゃねえか?」


「て、天才ですかあなたは……」


 と戦慄したようにサラは言う。


 いや、こんなのちょっと考えりゃ誰にでもわかることだろ……むしろ今まで気付かなかったのがヤベーわ。

 言われてようやく気付いたサラは俺よりヤベーけどな。


「俺は善太ゼンタ。どうだサラ、一緒にそこを目指さないか? 俺もできるだけ人がたくさんいるところに行きたいと思ってたんだ」


「それはいいですね、ゼンタさん! 行きましょう行きましょう。旅は道連れ世は情け。死なば諸共って言いますしね!」


「最後のはちげーだろ。なんで俺共々滅びるつもりでいるんだ」


 とまあ、こうして珍妙な同行者ができちまったわけだが。


 何はともあれ荷馬車のおっさんが去っていったのとは逆方向へ進路を取って街だか村だかを探すことになった。


 のだが。


「な、なんですかこのお猿さん……!?」

「しまった……つけられてたか」


 歩き出したのも束の間、背後から迫ってくる何かに気付いてサラを抱えて飛び退けば、そこに突然の攻撃がやってきた。


 ギリギリだったがどうにかそれを躱し、そいつの正体を確かめれば――そこにいたのは見覚えのある巨大なゴリラ。


「ちっ、こいつかよ」


「お知り合いですか?」


「なわけあるか。けど、俺が連れてきちまったってのは確かだな」


 考えなしに森を駆け抜けたツケが回ってきたわけだ。だったら、自分のケツくらい自分で拭かねーとな。


 下がってろ、と言ってサラを下ろす。


「【召喚】、ボチ!」

「わうん!」


 威嚇のつもりか激しくドラミングするデカゴリラを前に、ボチと並んで立つ。


 さあ、森の獣とのラストバトルだぜ!


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[一言] これがヒロインでこれからずっと行動を共にするんならもう読んでられんわ
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