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126.君を叩きのめさなくてはならない

「……、」


 来訪者と呼ばれて白鎧は動きを止めた。


 図星か。そう思った俺だったが、白鎧は見抜かれたこと自体はなんとも思っていないようだった。兜をつけてるんで当然表情なんて読めないが、ピンと背筋を張った立ち姿になったそいつは俺のほうを真っ直ぐに見つめて……くつくつと笑った。


「この鎧に傷をつけるとは、流石だね」


「……!」


 くぐもった声。いや、顔中を兜に覆われている割には鮮明に聞こえているほうだろう。だからこそ俺もすぐに気付けた。


 その声はとてもよく聞き覚えのあるもんだってことに。


「まさかお前……委員長、なのか!?」


「うん。久しぶりだね、柴くん」


 あっさりと認めたそいつの兜が、ふっと消えた。顔が見える。そして確信する――この一見すると女子にも見える、凛々しくも中性的な顔立ち。見間違えるはずもない。


 新条ナキリ。

 女子どころか一部男子からも熱狂的支持を集める、我がクラスの絶対的リーダー様だ。


 かくいう俺も委員長とは仲がいいほうである。

 友人同士、というよりも問題児の俺を模範生である委員長が気にかけてくれていると言ったほうがいいだろうが……なんにせよ関係性は良好だ。


 そんな級友との再会を喜ぶ気持ちは、もちろんある。カスカの話にも名前が出てきたときには安心だってしたさ。頼りになるやつがいてくれてよかったってな。


 だけどこんな状況じゃ、素直に互いの無事を喜べるはずがねえ。


「どういうこった? なんで委員長がこんなとこにいるんだ。ここで何をしてんだよ。なんで俺たちを攻撃した!?」


 このタイミングでの出現。そして問答無用の攻撃。考えられるとすれば可能性はひとつだが、どうにも認めがたい。


 そんな俺の葛藤くらいはお見通しのようで、委員長はうっすらと笑みを浮かべた。


「質問が多いね。君だってわかっているだろうに、そんなに僕の口から聞きたいのか……。それじゃあハッキリと言ってあげよう。僕はユニフェア教団の一員だよ。それも役職を頂く最高信徒と呼ばれる一人だ」


 当たってほしくねえ予想がずばり当たっちまった。やっぱり委員長は調査対象である例の怪しい宗教組織に所属しているらしい。


 最高信徒、なんて名称まで貰って誇らしげにしちまってよ。


「役職だと? そいつはどんなもんなんだ?」


「警護さ。本部を守る任に就いている。不明瞭な輩や危険度が高いと判断されたものは本部へ辿り着く前に排除すべしとされているからね……ドラゴンで乗り付けようとしてくる不審者も当然、その範疇だ」


 ……やっぱドラッゾに乗ったまま本部近くまで来たのは良くなかったか。

 監視の術でもあるのか、それともカノーネの街の傍を通ったときに見られて連絡でも入れられたのか……どっちにしろもう少し隠密に動いてりゃここで襲われる事態にゃならなかったはずだ。


 頭を掻きむしりたくなるが、反省はあとだ。


「わけわかんねえぜ、委員長。なんで警備員なんかをそんな満足げにやってんだ。お前はクラスメートを探したがってるはずじゃなかったのか? その仕事はそれを放ってまでやることなのかよ」


「そうだよ、これが僕のやるべきことだ。司祭様にも高くご期待を頂いている。今も僕の働きぶりに注目されていることだろう。……悪いね、柴くん。そんなわけで僕は君を叩きのめさなくてはならない。司祭様が排除すると決めたなら、僕はその者を徹底的に打ち負かすんだ」


「ちっ……!」


 これ以上会話をする気はないとばかりに委員長の顔は再び兜に隠れた。


 それだけでよく見知ったはずの委員長が、まったく知らない戦闘マシーンになっちまったかのような印象を受ける。


「委員長よぉ、正気か!? さんざん暴力で解決するのはよくねえって説いてたお前が力尽くで俺らを追い払うってか! そして何より……俺に勝てるつもりかよ!」


「勝つさ。僕と君には大きなレベル差がある」


「レベル差だぁ……?」


 戦った感触から当たりを付けて言っているのか、と思いきやそうじゃなかった。委員長にはそれがしっかりと目に見えているんだ。


「【天眼】というスキルだ。柴くんのステータスが僕にはよく視える……だから流石だと言ったのさ。その数値でよくぞ僕の鎧へ傷を付けられたものだとね」


「……! ステータスを勝手に覗かれるのはいい気分じゃねえな。それ、どこまで見えるんだ」


「そこまでは教えないよ。ただ、君のレベルが29なのはわかっている。一応言っておくと……僕のレベルは41だ」


「よっ……、」


「理解できたかな」


 俺の顔色が変わったことに可笑しそうにする委員長。兜越しでもあの笑みをしてるのが目に浮かぶようだ。

 しかし41レベルだと……こりゃ相当マズい相手だぜ。


「ふうー……仕方ねえ」


 深くを息を吸って、吐いて。俺は委員長とガチで戦り合う覚悟を決めた。


「サラ、メモリ! 一対一サシでやっから手ぇ出すなよ!」


「えっ! な、何を言ってるんです!?」

「…………、」


 俺のほうこそ正気じゃない、とでも思ってるんだろうか。

 サラはびっくりした顔をしてるし、メモリも無言だが全身から不満のオーラが溢れ出ている。


 ああわかってる、三人で一丸になって戦わなきゃならねえ相手だってことくらいは俺にだって理解できてんだ。だが。


「頼む、二人とも。ここは俺にやらせてくれ」


「ゼンタさん……」

「……、了解した」


 真剣に頼めば、二人とも了承してくれた。知人を前に、俺にも何かしら思うところがあると受け取ったみてーだ。だけど本当はそう大した考えがあるわけじゃねえ。


 俺ぁ単純に……委員長とタイマンを張りたかっただけだぜ!


「彼女たちを巻き込まない判断は、正解だよ。君ならきっとそうするとも思っていた。それでこそ柴くんだ」


「お褒めいただきどーもな。お礼に吠え面かかせてやっからよぉ!」


「やってごらん。【武装】発動、『サンドリヨンの聖剣』」


 俺が『非業の戦斧』を構えたのを受けて委員長もスキルで武器を出した。さっき使ってたのとは別の剣だ。ガラスのように刀身の透けた細身の剣……使い分けるってことは、なんかしら効果に差があると見ていいか?


 剣を手に佇む委員長は、戦斧を掲げる俺と違ってただ立っているだけだ。とても戦闘中とは思えない姿……だが隙がねえ。だらりと下げられたあの剣は、迂闊に踏み込めば立ちどころに俺を切り裂くだろうってのが容易に想像つくぜ。


 12もレベルが離れてるとやっぱキツいな。対峙しただけで勝つのが無理ゲーに思えてくる。


 だが、俺にだって勝算がねーわけじゃない。


 おそらく委員長の【天眼】ってのは、スキルによる強化幅までは見えてねえ。あくまで素のステータスの数値だけのはずだ。

 そうじゃなきゃその数値でよくぞ、なんてセリフを吐くはずがない。


 今の俺は【活性】と【死活】のダブル発動で最大限に強化されている状態なんだ。そしてそれで鎧に僅かとはいえ傷を付けられたってこたぁ、強化込みなら委員長のステータスともそこまでかけ離れていねえってことになる。少なくともその足元くらいにまでは迫れているだろう。


 覗き見のスキルも完璧じゃあない。

 だったら数値と実態のギャップで委員長の不意を突けるかもしれない。


 いや、そこを突く以外に勝ち目はねえ!


「うぉおおおおっ!」


 駆け出す。やることはシンプルだ、全力で斧を振るう。その一撃に持てる全部をかけるんだ。強化の効果が切れる前に最大の一発を何度でもぶち当てて委員長を退かせる――今度こそ鎧をぶっ壊す! 


 クエストを続けるにはこれしかない。そしてこいつはそう分の悪い賭けでもねえはずだ……そう考えた俺を、浅はかと切って捨てるように。


「短慮だよ、柴くん。スキルの効果を僕が見誤るとでも?」


 冷やかに告げられたその言葉に背筋に冷たいもんが走った。


 そこで俺は自分が思い違いをしてたってことを自覚したが、もう委員長は目の前だ。ここで攻撃を中断したところで隙にしかならねえ! ビビんな、このままやるんだ!


「っ、『パワースイング』!」


「【奮闘】」


 剣で防ぎにくいよう、やつの持ち手とは反対から振るった戦斧。だが俺のそんな狡い策略なんぞなんの意味もなかった。


 委員長は、剣なんて使わず。

 避けることだってせずに。

 空いた左手で斧を止めたんだ。


 それも――指先で刃を摘まむという、俺に屈辱を与えるやり方で。


「なん……っ、」


 気合まで絞りつくした全力全開の一撃。それを人差し指と親指の二本だけで止められた……そんな現実をすぐに受け入れられるはずもねえ。


 俺の思考は一瞬真っ白になった。そして。


「ゼンタさん!!」


 呆けた俺の体を、委員長の振るった剣が横断した。


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