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125.白鎧

呪術廻戦のアニメすごいですね

「見えたぜ二人とも。あれがカノーネの街だ。ここまで来たってこたぁ例の場所も近いぞ」


 ドラッゾの背から見下ろせば、先に新たな街が確認できた。プーカよりももっと離れた距離にあるカノーネは、位置的にはもうポレロとは別の地方になる。


「そこに行け、とトードさんは仰っていたんですよね?」


「ああそうだ。正しくはこの街の傍に本拠地を構える新興宗教『ユニフェア教団』――を、探れってのがルチアとカロリーナからの依頼だ」


 教団組織の内部調査。

 それが指名で任された俺たちの今回の任務だ。


 教会勢力であることをほのめかしつつも明言を避けた依頼人。その正体は俺たちへ遠からず依頼すると言い残したあの二人と見て間違いないはずだ。

 やつらはサラにクロスハーツを渡すために教会にも黙って行動していたんだから、ここでも立場を隠すのは不自然にゃ感じない。


「ですが、基本としてシスターは教会のためにのみ行動します。まったく関与しない依頼をわざわざするとも思えませんし、この内部調査についても教会にとって必要なものか……あるいはルチアさんとカロリーナさんがそう判断するだけの何かがあるんじゃないでしょうか」


 元後輩のためとはいえ、教会のアイテムを出奔者へ譲る行為は相当な問題行動だ。


 けどだからってルチアとカロリーナが教会を翻意を抱いてるってことにはならん。サラに対する言動は厳しく、多少の照れ隠し程度は入っていただろうが突き付けた言葉の大方はルチアの本音でもあっただろう。


 あのとき受けた印象そのままにサラへ伝えると、彼女もその通りだと頷いた。


「はい、私もそう思っています。ルチアさんの教会への忠誠は本物。そしてそんな彼女だからこそ、放っておけない闇となる部分がユニフェア教団にはある……とも思っています」


「……わたしも同意見」


 サラの言葉に続き、メモリが静かな声で言った。


「奇跡の信奉者であり最高の使い手が集う教会勢力がある以上、どんな信仰を掲げる宗教団体も滅多なことでは表に出てこない。潜むこと、目立たないことが教則になっているところも多い……裏を返すと、そうでないと宗教令が適用されないせいでもある。統一政府セントラルが公認しているのは教会だけ。その唯一に逆らったり、そうでなくても『客』を奪うような真似をしてしまえば……潰される。みんな、それをわかっている」


「またやけに詳しいじゃねえか」


「……邪教について調べていた時期がある。ネクロマンサーが死者蘇生を可能とするとまだ信じられていた時代の名残……昨今ではそれもまず見かけない」


 ふうん? いくら自分がネクロマンサーだからってそんな昔の怪しい宗教を調べ回って何になるのか……俺にはちと理解できんかったが、今はユニフェア教団の話だ。


「トードやお前が言うには、新興宗教と認知されてるだけあって相当な速度で規模が拡大してるそうじゃねえか? それじゃすげえ目立ちまくりだ。そんなユニフェア教団をどうして教会も統一政府セントラルもスルーしてんだか……。おっと、噂をしてればもう目前か。あれが本部だろうよ」


 カノーネの真上は避けて過ぎれば、遠くのほうに高い建物が見えてきた。この距離でもデカさがよくわかる。上の階ほど小さくなってるピラミッドみてーな建造物……かなり立派な御殿だぜ。噂になるだけあってよほど儲けてんのかねぇ。


 近隣街のカノーネにも支部というか、本部との連絡用みたいな場所が設けられているともトードから聞いたが、俺たちのクエストはユニフェア教団を深く探ること。


 だったら本部を避ける手はねえと、直接乗り込むつもりで訪れたわけだが。


「でもゼンタさん。どうやって教団に潜入するつもりですか? トードさんにも任務の性質上、最初の内は大人しくしてろって言われましたよね。……こうしてドラッゾちゃんに乗って近づくと、私たちのほうこそ悪目立ちすると思うんですが」


「あぁ、確かに」


 そうだな、とサラへ同意しようとして。


 最近足代わりに使いすぎてドラッゾに乗るのを当然としか思えなくなってきている自分の間抜けさに気付いたときには、もう遅かった。


 ザシュッていう不吉な音が鳴ったんだよ。


 俺のセリフを遮ったそれがなんなのか、前を向いて確かめれば。


「なんっ……!?」


 そんときにはもう、ドラッゾの首が斬られていた……!


 ぐらりと視界が傾く。制御の利かなくなったドラッゾの体が落ちようとしている。それが妙にゆっくりに感じられるのは……これをやった下手人が、宙に浮いてるのかと錯覚するほどじっとこちらを見つめているせいだ。


「よ、鎧だと……!? フルプレートってやつか!」


 全身を真っ白な鎧で覆ったそいつは、暴力的なまでに力強く輝く剣を手にしている。


 兜越しにもひしひしと刺さる奴の視線――次に俺を狙うってのを隠そうともしてやがらねえな!


「サラぁ! メモリを頼むぜ!」

「は、はい!」


 召喚が強制的に解除されドラッゾの体が消える。だが二人は大丈夫だろう。なんせサラは落下にゃ慣れっこだからな。


 問題は俺がこいつの攻撃を凌げるかだが……!


「【召喚】、『コープスゴーレム』!」


「ゴァアッ!」


 足場もねえってのにバッチリの安定感で上段に構えられた白鎧の剣。剣筋を立てずに何故か平打ちで振るわれるそれを、俺はモルグを間に挟むことで防ごうとした。


 耐久性で言えばドラッゾ以上のモルグへ信頼を置いた(容赦がないとも言う)作戦だったんだが、敵の膂力は俺の想像を易々と超えた。


「ぐぉ……っ!?」

「ゴォアァ、」


 ドゴン! と凄まじい衝撃。


 モルグ越しでもちっとも柔らいだ気のしないそれにぶん殴られて俺たちは諸共に地面へ落ちた。

 いや、奴に叩き落とされたんだ!


「がふっ!」


 肺から空気が抜ける。くそ、全身が痛ぇ! いつかインガにぶっ飛ばされたときを思い出す……だがあのときほどHPゲージのバーは減ってない。ステータスの成長の恩恵を感じるぜ。


 だが、モルグをクッションにしてもこんだけダメージを受けるってのはつまり――それだけ奴と俺に地力の差があるってことになる。


「ぐ、モルグは……ダメか!」


 まともに、真正面からあの一撃を食らったモルグはもう限界だった。召喚解除も目前か。だがすぐには寝かせてやれない。


 何故って、目の前に白鎧が降りてきたからだよ!


「もうちっと踏ん張ってくれ! 【死活】発動!」

「ゴ、ァアアアアッ!」


 消滅寸前だったモルグが【死活】の効果で活力を取り戻した。黒いオーラを纏うことで復活し、俺に近寄ろうとする白鎧へ掴みかかろうとする。


「……、」


 だが奴は、自身の身の丈を超えたグロい肉の塊が敵意剥き出しで襲って来ようとちっとも焦らない。

 落ち着いた所作でモルグを一瞥し、ちゃきりと剣の刃を立てる。


 そして一閃。


「も、モルグ!」


 思わず悲鳴を上げちまった。たったの一振りでモルグが真っ二つにされた! 死活状態のモルグはガレルの強力な風魔法だって一発は耐えたんだぞ!? それをあっさり斬り伏せるたぁこいつ……!


「ちっ、【召喚】! 『ゾンビドッグ』――そして変態だ!」


 邪魔者を排除し俺へ視線を戻した白鎧。モルグを殺してもまったく気を緩めていない。強いんだからもうちょい油断してくれよな!


 ここはとにかく攻め込むしかねえ。守勢に回っては本格的に勝ち目がないと考えた俺は、すぐにボチを召喚して戦闘モードにさせた。


「バウッ!」


 ゾンビウルフへと変態したボチはその瞬間、強く地を蹴った。目標は白鎧。だが風のような速さで迫るボチに対しても奴は慌てやしない。モルグ同様に一斬りで仕留めるという固い意思がその剣から感じられる。


 だが!


「今だ! 分裂しろボチ!」


「「「バウル!」」」


「――!」


 斬ろうとした直前で三体へ別れたボチに、あの白鎧も意表を突かれたようだった。かすかに動きが鈍る……それでも奴の剣はボチツーを斜め切りにし、ボチスリーを串刺しにして封じ込めた。


 達人的な腕前だ。だが同時三連撃への対処は奴をしても間に合わなかったようだ――三度目の正直! 


 最後のボチの噛み付きが見事に白鎧の手から剣を奪い取った!


「よくやったぜボチ! 【武装】発動、『非業の戦斧』!」


「……!」


「【活性】と【死活】を同時発動――おぅら『パワースイング』だ!」


 得物を失った白鎧へ踏み込み、俺は強化スキルを盛り込んだギミック攻撃を繰り出す。


 大斧が鞭のような速度で叩き込まれるパワースイングはしっかりと野郎へ命中した。


 が、しかし。


「ちィッ! これを堪えやがるだと!?」


 多少は押されたようだが、その程度だ。膝をつきつつも奴は倒れることなく耐えてみせた。鎧にもほんのちょっぴりの傷しかついてねえとは……冗談じゃねえぞくそったれ!


「『クロスブーメラン』!」


 歯噛みする俺に助け船が来た。

 少し離れた位置に落ちていたサラがやってきて援護してくれたんだ。


 抜け目なく鎧の傷を目掛けて投げ込まれた十字盾を、奴は後方へ飛び退いて躱した。しかもそこで止まらず、返ってくるブーメランの二撃目もきちんと躱す。

 こっちも抜け目がねえな!


「――『耳を塞いでも無駄だ。聞こえるだろう、あのいくつもの足音が。あれはお前を連れに来たのだ』」


 不発に終わったサラの投擲攻撃だが、俺と奴の距離は十分に離れた。そう考えたらしいメモリの死霊術が炸裂した。


「来たれ『死の軍勢』……そいつを沈めてしまえ」


 物騒な命令に従い、メモリの体から噴出した青白い骸骨の群れが一斉に白鎧へと雪崩れ込んでいく。


 まるでパニックホラー映画さながらの恐怖映像だが、無手でそんな状況に陥っているというのに、やはり奴に焦る様子は少しも見られなかった。


「――【聖痕】」


 強烈な光が奴の全身から放たれる。


 それに晒されたメモリの骸骨軍団は砂が崩れるように、なんの抵抗もできずに消え去っていった……!


「……っ、」


 ネクロノミコンで強化した術を無効化されてメモリの顔付きが変わる。俺も似たような表情になってるだろうな……なんせせっかく付けた鎧の傷も今ので綺麗に消えちまってんだから。


 いや、鎧が修復されたことよりも……こいつのこの力。

 そして奴から離れた途端にボチの口にあった剣が霞のように消失したこと。それこそが問題だ。


 確証はねえ、だが俺の勘は間違いないと警鐘を鳴らしてる。


「てめえ、さては……来訪者だな!?」


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