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124.極秘依頼

「昇級……! じゃあ俺たち、たった今からBランク冒険者だってことか!?」


 ランクが足りないなら上げればいい。というもっともだが力業での解決法に驚く俺に、トードは至極真面目な顔付きでうむと頷いた。


「パーティがギルドになるのは人員が膨らみ出してからだと言ったが、逆に言えばそれだけ求心力のあるパーティでなければギルドになるのは認められないってことでもある。なんせギルドともなれば組合を通さずに冒険者活動ができちまうんだからな。誰をメンバーにするかの選出も含めて責任重大だ。そしてその責任を果たせられるだろうと判断するためには、強さ以外の指標も必要になってくる!」


 昇級査定ではクエストの達成率だけでなく、普段からの素行や組合に限らない冒険者界隈全体への貢献度も審査対象になる……とは俺も前に聞いている。


 そして高ランクになるほどより純度の高い強さというものが求められるのと同様に、それら他の部分もまた比例して重要になるらしく、ギルドの結成申請ともなればなおさらの話だ。


 組合長クラスの人間が三人推薦する。

 彼らの信用問題にも関わることを思えば、この条件は俺が思う以上に難度の高いものなのかもしれねえな。


「言うまでもないが俺はお前たちのことを高く買っているし、信用してもいる! だが、だからって評価を甘くしているわけじゃあないぞ。地域の治安向上に超稀少アイテムの発見・取得! これらはどう贔屓目に見たって高評価を付けねえわけにはいかねえ大層な仕事ぶりだ!」


 この口振りだと俺たちが訪れる前から準備を進めていたらしいな……たぶん、トードはもう昇格へ決定を下していたんだ。


 評価を甘くしてはいなくても、絶対に贔屓は入ってる。

 と自分でもトードからの奇妙なまでの期待っつーもんをひしひしと感じるわけだが、それで困ることはない。


 なんでこうもアンダーテイカーに入れ込んでくれるのかはわからんが、どんな考えがあるにせよ俺とトードの利害は一致してるんだからな。


「これでいよいよBランク……俺たちも上位冒険者の仲間入りか」


「……いよいよ、と言っても。あなたはデビューから上位入りが早すぎる。半年以上ブランクがあるわたしでも、異例の早さ」


「やっぱそうなのか? でも早いにこしたことはないぜ。遅いよりかはな」


「それには同意する」


 昇格どころか自分に見合ったクエストが受けられない期間を過ごしたメモリとしては、俺以上にこのスピード出世を喜んでいるかもしれない。だがそれはそれとして、やっぱり上位入りが性急じゃないかと気にしてるっぽいな。


 確かに今の俺たちがBランク相当の働きをできるかってーとちょいと不安がないでもないが、なぁに。そういうのは実力不足を感じてから悩めばいいことだ。


「これでギルド申請も通るようになったのか?」


「そうだ。つってもか必ず認可されると決まってはいねえからそこんとこは勘違いするな。……だがまあ、俺が他の組合長にもかけ合ってやるから心配はしなくていいぞ」


「ありがとよ、トードさん。そっちもお願いするが……俺としちゃ、例の話も気になるな」


 例の話。それだけでトードは俺がなんのことを言っているのかすぐに察した。


「あいつを紹介しろってか……、」


「そう、トードさんと旧知の仲だっていう来訪者の大先輩! 俺がビックリ芸じゃない強さを身につけりゃ会わせてもらえるって話だったよな?」


 この約束をしたときはまだぺーぺーでしかなかった俺だが、今や上位冒険者の仲間入りを果たした。これより上は一般に人外の領域とまで言われる魔境の『最上位』しか残っていない。


 ここまでくればそろそろ、その偏屈だという来訪者も会ってくれるんじゃないか……ぜひ世界の行き来の仕方を探るべく相談をしたい俺は、そう希望を胸にトードに訊ねたんだが。


「まだ駄目だな」


 返事は予想を裏切ってまるで芳しくなかったぜ!


「なっ、まだなのかよ!? だってもうBランクにまでなってんだぜ!?」


「最上位のSランクがある手前ひとくくりにされちゃいるが、AランクとBランクの間には壁がある。下手すると上位と中位の壁よりも分厚いもんがな。あいつに紹介するとなると……正確にはあいつへ興味を持たせるとなると、やはりAランクにはなってもらわねえと難しい。少なくともあいつのほうからお前たちに会いたくなるような要素がねえとなぁ」


「くぅ……やっぱAランクかぁ~」


 Sはまあ、別枠として。俺たちが目指せる現実的なトップというのはその一個前のAだ。Bなら十分、という考えはなるべく有名にならなくちゃいけない俺の立場からすると妥協以外の何物でもねえってことだな。


 クラスメート全員の発見と、先輩来訪者との面談。


 俺の目標は最初から何も変わってねぇんだから。


「しゃあねえ、もっと上を目指すとするか。バリバリ仕事するぜ、俺は!」


「だけど……トードの言う通り、Aランクへの昇格には高い壁がある。査定もそれだけ厳しくなる……単純にBランククエストをいくつも受ければいい、というものではない」


「う……」


 せっかく入れた気合を霧散させるようにメモリが言った。淡々と呟かれる言葉はまるで呪詛のようだ。思わず体から力が抜けたぜ。


「Aに昇格すんのってそんな難しいのか……?」


「そらぁな。上位ともなればクエストの難度もかなりのものになる。だが高難度をクリアできて当然なのが上位冒険者だ。これはAからSへの昇格にも同じことが言えるが、上位ランクってのはただ与えられた仕事をこなすだけじゃ上には上がれねえようになってるんだ。もしそれで昇格できるんだったらもっとAやSの冒険者がポンポンと誕生してるだろうぜ」


 マジかよ……! 素行や貢献度を見る比重が大きくなる影響ってことか。


 強いのなんて当たり前。上に行くためにはもっと強くなるのも当たり前――そのうえで壁を破れるだけの光る何かを示さなくちゃならねえと。


 これは……やばいよな。

 上がれるイメージが湧かねえ。

 だってBランクへの昇格だってほとんど棚ぼた的なもんだろ? 


 ガンズが変なパーティだと噂のアンダーテイカーへたまたま依頼を持ってきて、そこで紅蓮魔鉱石っていうとびきりのレアアイテムを見つけられたからこその昇格。ラッキーなんてもんじゃねえ、宝くじの一等が当たったようなもんだぜ、これは。そのぶん、洞窟じゃけっこう散々な目に遭いはしたがよ。


 こんな滅多にはねえ幸運に後押しされてようやくBランクだ。


 となれば、Aランクに上がるにはどんだけのラッキーが必要なんだ? カジノの全ゲームでバカ勝ちするくらいのとんでもねえ豪運がないと無理なんじゃねえか?


「そんなのありえねー! 絶対無理じゃねえか、Aランクなんて!」


「そうでもないぜ」


「おう、そうでもないか。よかったぜ。ってなんでだよ!?」


 たった今Aへ上がる厳しさを説いたばかりの本人がその意見を翻したことに面食らう俺だが、どうもトードはトードなりに俺たちがもっと上へ行くための道筋ってもんを考えてくれているようだった。


「勿論、俺がお膳立てすることはねえ。アドバイスくらいならいくらでもしてやるが実績を出すのはあくまで現場でないといけねえ。鉄火場じゃお前たち自身の培った力、それだけが鍵になるんだ。だからAランクを目指すために肝心なのは、お前たちが全力で結果を残せるようなデカい仕事が舞い込む運とも言える。そしてその点をお前たちは既にクリアしている!」


「なんだって……!? いったいなんのことだ?」


「ガンズの爺さんがそういうクエストをお前たちに持ち込んだように、今回もまた……まったく呆れた『悪運』と言うべきか、重大な指名依頼がアンダーテイカーへ入ってんだよ」


「重大な、指名依頼……?」


 おうむ返しに問えば、トードはぐっと声を小さく、俺たちの耳元へと口を寄せていった。


「そうだ、あまり大きな声じゃ言えねえが……おそらくこれは教会勢力かその関係者からの極秘依頼だ。ハッキリと名乗ったわけじゃねえが、そう匂わせるだけのことは口にしていたぜ。何かしら名乗るわけにはいかん事情があるようだ」


「!」


「アンダーテイカーにそう言えば伝わる、とわざわざ組合長から話すように指定までする徹底ぶりだ。かなりの金額の依頼料も一緒にな……そして『重大な命の危険がある』とも言っていた。そりゃあ冒険者のクエストなんて大なり小なり危険は付き物だ。だがこの依頼は関しちゃ……俺の組合長としての勘が告げてやがる。とびっきり危ねえもんだってな」


 だがその代わり、達成できた暁には大きな実績にもなるだろう。

 トードの目はそう語っていた。


「どうする? いくらAランクを目指すっつってもペースはお前たち次第。どのクエストを選ぶかってのもな。指名だからって必ず受ける必要はないぞ。組合や俺の面子なんて考えず、自分たちの身を第一にして決めるんだな」


「受ける」


 即断で答えた俺にトードは少し目を丸くして、それから男らしくニヤリと笑った。俺もその顔と同じように返してやったぜ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 中学生なのに目上に対する言葉使いが少々気になるな〜。 小説だから仕方ないか。
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