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123.ギルドのハードルが高いぞ

「なあメモリ。今になってちょいと重大な事実を思い出したんだがよ」

「……なに?」


 メモリは遅い朝食、俺は早い昼飯を済ませたあと。

 二人で組合へと足を運ばせながらパインから聞いたことを話した。


「ギルド結成を認めてもらうにゃ、組合長かギルド長の三人から推薦を受けなくっちゃならないんだとよ……これダルくねーか?」


 俺はメモリがこのことを知らない前提で話していたし、面倒な事実として口にしているつもりだった。だって俺たち、そんなのが頼めそうな知り合いなんてトードくらいだもんな。ボパンさんもお願いすればいけるかもしれんが、それでも二名だけ。あと一人足りない。


 だがメモリは一人足りないってことも含めて事情を呑み込めているようだった。


「……トードがわたしたちのギルドを認めてくれるのであれば……他の組合長へ署名を頼むはず。あなたの言う通り、そのうちの一人はボパンになる可能性が高い」


「組合長がパーティのために他の組合長を説得する? そんなこともあるのか」


「組合長と、そのパーティの関係性にもよる」


 そりゃそうだ。そしてトードであれば俺たちを無下にはしねえだろうっていう信頼がメモリにはあるわけだ。


 なるほどな、組合長がギルド結成に賛成なら、そのために積極的に動いてくれるケースも十分ありえるってことか。メモリは他のギルドの結成を目の当たりにしたことでもあるんだろうか? 


 ともかく、必ずしも三人の組合長を相手する必要はねえんだな。実質的にはトードさえOKを出してくれればギルドとして認められる目算が大だってんだから、俺の気持ちもぐっと軽くなったぜ。


「やっぱメモリは組合のことに詳しいな。一緒に来てくれて助かった」


「……、」


 口じゃ否定も肯定もしなかったが、横を歩くメモリから若干嬉しそうな気配が漂ってくる。


 話さずにこんだけわかりやすいやつも珍しい……つってもそれは、この数ヵ月の積み重ねがあってこその伝心だが。

 なんにせよ、午後からメモリに他に大事な用ってのがなくてよかったぜ。 


 おっと、ちなみに言っておくと他の連中だって暇してるわけじゃなかったぜ。


 ヨルとカスカはまだポレロのことをよく知らねーってんでアップルに街を案内してもらう予定を立てていた。滅多にリンゴの木を出ねぇアップルがそんな役目を引き受けるとは意外だよな。


 ユマは魔鉱石の扱い方ってもんをガンズから教わりつつ工房に籠っている。

 ギルドハウスに工房まであったのには驚きだ。そこでユマが俺たちのために道具作りに精を出そうとしていることも驚いたが。「ただ飯ぐらいになるつもりはないよ、ゼンタっち!」とは本人の談だ。職人スミスの力を活かそうとしているようだが上手くいくかはわからん。

 ま、ガンズも教師役を楽しんでるようだったし好きにやらせておこう。


 ヤチは今朝から模様替えに挑んでいる。特に今は浴槽周りのデザインに執心の様子だ。

 すげえことに個室にもそれぞれ浴室がついてるんだが、一階の奥には大勢が使える大浴室とでも言うべきもんがある。工房や食堂も用意されているあたり【家護】と紅蓮魔鉱石の組み合わせがどれだけ凄いもんかわかるよな。

 けれどヤチは与えられたものに満足することなく、もっと見栄えと使いやすさを追求している。みんなが満足できる家にしたい、と言ってたぜ。それができるのは家政婦ハウスキーパーのスキルを持つヤチだけなんで、こっちとしちゃ応援するしかない。

 世帯主であるヨルやパーティリーダーである俺以上に、ギルドハウスの主って感じがするよな。


 ビート、ファンクの舎弟コンビは引き続きテッカに従事している。夜のぶんもメシを作るってのもあるが、なんでもまずは食材を相手に魔法の技量を伸ばす特訓をするんだとか? 

 いったいどんな修行になるのか見当もつかないが、成果は一朝一夕で確認できるもんでもねえ。成長の度合いについてはしばらく時間を置かないことには判断できないだろう……クエストを任せられるようになるまでは遠いかもしれんが、気長に待っておくのが吉だな。


 唯一の暇人はサラだな。

 あいつについては特に言うこともない。

 俺とメモリの帰りを待ってる。


「パーティ全員が揃ってるほうがよかったか?」

「……申請にはリーダーさえいればいい、と思う」


 メモリにも確信はないようだったが、全員いねーとダメってんなら出直せばいいだけだ。ひとまずはギルドを作りたいって意思をトードに伝えよう。


 辿り着いた組合に、俺はいつもとはちょっと違う気分で入った。



◇◇◇



「申請でメンバーが全員いなきゃいけねえってことはねえし、素質十分と認められるパーティなら組合長が推薦を集めることだってするが……」


「が、なんだよ?」


 一通り話せば、トードは俺たちの理解が間違ってねえと言いつつも渋い顔をしていた。なんだってそんな面になるのか不思議に思えば、どうも俺たちはもうひとつの重大な事実を知らなかったみてーで。


「そもそもの話、Cランクじゃあギルドは結成できんぞ。認可が下りるのはBランク以上の冒険者と決まってるからな」


「なにぃ!?」

「それは……知らなかった」


「あーまあ、それも無理はねえ。ギルド結成が案に出始めるのはパーティメンバーやその候補者が膨らみ出してからだ。つまりは大抵がAランク相当の冒険者たちの話だな。一応はB以上、という枠組みではあるがBランクの時点でギルドを作るとこなんてまずいねえ。実際、大抵のギルドはAランクだしな。最高峰のSランクだとたった二箇所だけだ」


 聞けば、『巨船団ガレオンズ』はAランクでも上位のほうのギルドらしい。そして例のぶっちぎりで有名で武闘派な『恒久宮殿アーバンパレス』は堂々のSランク。たった二箇所のうちの一角に収まってるってこったな。


「やっぱアーバンパレスってすげえんだな。ガレオンズだってかなり巨大なギルドっぽいのに、それよりも上なんだろ?」


「ああ。活動してるかどうかはともかく、パーティや個人単位ならSランク冒険者ってのもちらほらいはするんだが、ギルドでそれが認められるのは並大抵のことじゃねえ。特に、もう一方のSランクギルドがほぼパーティも同然の少数精鋭で構成されているもんだから余計にアーバンパレスの組織力ってのが目立つことになる。……まあギルドとして特殊なのはもう一方側のほうなんだがな」


「はぁー……」


 これは参ったな。思った以上にギルドのハードルが高いぞ。


 ギルドハウス(仮)に部屋を持つ人員をメンバーと仮定すると今朝加入したてのテッカを含めても十二人。俺としちゃかなりの大人数だったがこれでもギルドとしては少なすぎるらしい。


 つまり俺たちはランクも人員の規模も、パーティからギルドへ格上げするにはちっとも足りてないってこった。


「Cランクの時点で本気でギルドを検討するなんてそうはねえことだ。だからランク不足で審査が弾かれる例なんてのもほとんどねえ。申請書を出す前に話してくれてよかったぜ」


 そりゃあ、推薦を貰うためにはいきなり書類を出すよりもトードに一言入れておくのが筋ってもんだろう。単純にそっちのが話も早いしな。


 もしそうしていなかったら俺も組合も余計な手を煩わされることになっていたんで、やっぱまずトードを探して正解だったな。


 だがなんだか、無駄な手間が避けられたという以上の顔をトードがしている気がして、今の俺にはそっちのほうが気になった。


「どうしたよトードさん?」


「……まさか?」


「はっは、メモリは気付いたか。そうさ、俺が何も知らねえとでも思ったか? アンダーテイカーの新たな活躍とその功績はとっくに俺の耳にも入ってるんだぞ」


「えっ、まだ話してねえのにそりゃどうして?」


 クエスト完了の報告はパインがしてくれたが、あの人だって俺たちが何をしたかなんてまだ知らないはずだ。詳しいことはなんも言ってねえし、アップルも昨日はうちに泊まったしな。


「いやお前、プーカの警団ガードには洗いざらい話したんだろ? それからガレルんとこの団員にもな」


「あ」


「それで話題にならねえわけがねえだろう。そしてプーカの組合長とも俺は長い付き合いだと前に言ったよな?」


「あー……」


 そんじゃ納得だ。そりゃあトードにも伝わるわけだ……向こうのガードの連中も、アバンダンドのチンピラを纏めて捕縛したことと、それ以上に世界三番目の紅蓮石発見に相当沸き立っていたからな。興奮の割合で言えば圧倒的に後者の比率が大きいはずだ。どうやって見つけたのかってけっこう根ほり葉ほり聞かれたからな……。


 頷く俺に、トードは腕を組んで堂々と宣言した。


「地方全体から見ても厄介だった悪人をノして、紅蓮魔鉱石っつーSランク級の代物の発見に一役買い、そして入手までした! とでもCランクにできるような働きじゃねえ――だったら俺のやることはひとつ! 今ここに、お前たちの昇級を認めることとするぜ!」


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