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120.ギルドハウスの核

「おいおい、ちょっと待ってくれや。俺ぁ別に、ヤチを無理にアンダーテイカーへ引き込んだりしてねえぜ? お互い同意のうえで行動を共にしてんだ。そんな奪われたもんを取り返すみてえなこと言われんのは不本意だな」


 まるで戦いを挑むような雰囲気を出してるユマにそう言ってやれば、ヤチも援護をしてくれた。


「そ、そうだよユマちゃん。私はここを離れたいとは思っていないよ? それに【滅私】のスキルがゼンタくんをご主人様に指定しているから、どのみち離れられないよ」


「なにそれー!? どうすればご主人様を変えられるの?」


 ああ、ヤチめ。余計なことまで話したな。ここでそれを言ったらユマがなおさら興奮しちまうのは目に見えてるだろうに。


 聞かれるがままに勝負して勝ったほうに雇用権が移るとヤチが答えれば、案の定ユマは。


「ゼンタっちはガレルさんって人からそうやってヤッチーを引き取ったんだ? ……だったらゼンタっち! ヤッチーのご主人様の立場を賭けて私と勝負だ!」


 ほらな、こう言い出すに決まってる。マジで戦いを挑まれちまったよ。


「だ――駄目だよユマちゃん! ご主人様……じゃなくてゼンタくんは、凄く強いんだよ!?」


「ゼンタっちが喧嘩強いのは知ってるよ。あのときだって凄かったもんね、三人相手にボッコボコにしてたし……でも! 私はヤッチーのためなら――」


「だから駄目なの! 私のためにユマちゃんが危ないことするのは、嫌だよ……」


「ヤッチー……」


 涙目になりながらのヤチの訴えに、発奮していたユマも冷静さを取り戻した。我に返ったって感じだな。相棒とようやくの再会を果たしておかしなことになっていたテンションが落ち着いたんだ。


 実は決闘モードっていう危なくねー勝負方法が来訪者にはあるんだが、それは黙ってたほうがよさそうだ。カスカも空気を読んで口チャックしてくれてることだしな。


「ごめんね、ヤッチーの気持ちも考えずに変なこと言っちゃって。だけど、ヤッチーのことは絶対に私が守るから! 前の世界でも異世界でもそれ変わらないよ」


「私こそ、ごめんなさい。いつもユマちゃんに頼ってばかりなのに……」


 ユマがこんだけ熱くなるのも、普段からヤチを色んなもんから守ってやってるという意識を持つからなんだろう。そりゃつまり、ヤチが日頃どんだけユマの世話になってるかっていう証明でもある。ただしユマはそれが楽しそうというか嬉しそうでもあるんで、まあ……この二人は持ちつ持たれつの関係と言っていいんじゃなかろうか。わからんけど。


「だったらユマ、お前もこの家に住めよ。俺たちも今日からここに住むんだし、同じとこで暮らせばお前も安心できるだろ?」


「えっ、いいの?」


「いいってことよ。最近のアンダーテイカーはどんどん人が増えてるしな……なあヨル! ユマも住まわせて構わねえよな?」


 くれる、とは言っていたが一応は家主であるヨルへ確認すれば、


「無論。というかいちいち聞かなくともよい。ここは私の別荘ではなくお前たちのギルドハウスなのだからな」


「だそうだぜ。だから遠慮なく使ってくれ」


「わーい! ありがとうゼンタっち! ヤッチー、私たち今日から一緒のお家に住めるよ!」


 また抱き合って喜んでらぁ。まったく、どんだけ仲がいいんだよ。親友っていう括りともちょっと違う気がするぜ。


「そうだ、ガンズさん。あんたも家ないっつってたよな。よかったら部屋貸すぜ」


「なぬっ。ワシもいいのか?」


「おうよ。大量の魔鉱石はあんたのおかげで手に入ったんだ。報酬代わりとはいええらい稼ぎだろ? その礼に寝床ぐらいは用意するさ」


 それに何より、大発見した紅蓮魔鉱石のこともある。

 俺たちに手渡したと言っても、やっぱりアレをいつでも見られるところにいたいんじゃないかと思ってな。


「むう、前途ある冒険者にワシのような老いぼれが厄介になっていいものか……」


「老いぼれぇ? おいおい! 何時間も洞窟を彷徨ったってのにピンピンしてるのを老いぼれとは言わねえぜ、ガンズさん。厄介なんて誰も思わねーから素直に頼っとけって」


「……恩に着る!」


 決心がついたらしいガンズは潔く頭を下げた。そうそう、家無しの文無しなんだからそれでいいんだよ。ガンズも魔鉱石をいくらか貰っとけばよかっただろうに、全部俺たちに寄越して一切懐に入れなかったからな。


 きっと報酬として魔鉱石を設定したからには、一個たりとも自分が頂くわけにゃいかないと考えたんだろうな。

 そういうところがガンズの不器用なとこで、嫌いじゃないとこだ。


「私もこっちにも部屋欲しいなー」


「うお、アップル!? いたのか!」


「ついてきてたよ。ね、ダメかな。大変そうなときは仕事手伝うからさ」


 手伝うっつってもアップルの場合、パインの許可が下りるか次第だよな。戦力としては申し分なしではあるんだが……まあいいか。このぐらいの歳だとあれだ、自分家以外にも棲み処を持ちたくなるもんだ。秘密基地ってやつだな。


 俺も男子だ。そのロマンがわからねえほどまだ大人になっちゃいねえ。


「いいぜ。好きなとこ使いな」


「わーい、やったね」


 お、嬉しそうだ。素直な喜びかたを見ると俺も嬉しくなる。普段のアップルは蓮っ葉な口調なもんでスレた雰囲気を感じさせるが、こういう歳相応な面もあるんだな。


 と俺がほっこりしていると、呆れたような声でカスカが言った。


「ちょっと……あんた部屋数のこと忘れてない? 言ったそばからこんなに人を増やしてどうするのよ」

「あ」


 いけね、聞かされたばっかだってのにガチで忘れてた。二階建てでそれなりに広いとはいえ、大人数が住める家じゃないんだったな。や、普通の家族くらいなら問題はねーんだろうが……。


「俺、サラ、メモリ。ビートにファンク。ヤチとユマ。ガンズさんとアップル。それにヨルとカスカ……この時点でもう十一人だと!?」


「だと!? じゃないわよ自分で誘ってんでしょうが。私まで数に入ってるし……」


 ちなみに既に部屋の数より人のが多いわよ、と無慈悲に言われて俺は慌てる。


 っべー、マジべーよこれ。なんも考えてなかったがどうしよう。……いやそうだ、相部屋方式にするんだったな。俺もガンズさんあたりとひとつの部屋を折半すりゃなんとかなりそうだ。


「ならばゼンタよ。今こそ紅蓮石を持てい!」


「へあ?」


 なんのこっちゃわからんが、ガンズに言われるがまま紅蓮石をポーチから引っ張り出す。口幅いっぱいでかなり取り出しにくいが、まさかこんな希少品を手荷物にするわけにもいかなかったんでな。


「ほれ、出したぜ……こいつをどうすんだ?」


 まさかこの場面で鑑賞するために出させたってこたぁないだろうが、それ以外で何をするつもりなのかちっともわかんねえぜ。


 するとガンズは、俺がますます戸惑っちまうようなことを口にした。


「魔鉱石の最上位である紅蓮魔鉱石! 七色の光を放つ魔鉱石がより力を持つと、何故か鮮烈な紅一色に染まる。そして放つ魔力の質、量ともに桁が跳ね上がる。魔鉱石の使い道は説明したな?」


「あ、ああ。素材とかにすると便利なんだろ?」


 クエスト中にサラからも聞いたが、武具や防具に使う以外にも日用品への使用例もあるんだとか。何せ魔鉱石は魔力切れを起こさないからな。例えるなら永久に切れねえバッテリーみてーなもんか。……冷静に考えるととんでもねえな、それって。


 こっちの世界じゃお湯を沸かすためのポットとかも魔力で動くが、似たような品でも使い切り式、補充式、魔鉱石式の順で高価になっていく。ちな、値段の跳ね上がり方は倍々ゲームどころではないらしいぞ。


「そう、魔鉱石の大きさや質によって一度に使える魔力量には差があるもの。じゃから大型かつ光が美しいもんはそんだけ高い!」


「ほうほう、そこは単に宝石としての価値だけかと思えばそういう意味でもあったのか」


「その通り、ある意味では装飾品にするのが魔鉱石の最も贅沢な使い方でもあるが、やはり実用性ありきじゃ。そして、魔力の質も量も極みに達しているのがその紅蓮石! 真紅の輝きこそがその証拠……! うむ、何度見ても美しい!」


 さっきのユマよりも興奮が露わになった顔ではあはあしながらガンズが言う。怖えーわ。だがガンズだけじゃなく、初めてこいつを見るヨルにカスカ、ユマまでもが真紅の光に目を奪われてるからな。そんだけ紅蓮石の魔力がすげえってことだ。二重の意味でな。


「で、こいつをどーするって? そろそろ教えてくれよ」


「おっと、そうじゃった。ワシが言いたいことはつまり……このギルドハウスの核に紅蓮石を使ってはどうか、という提案じゃよ!」


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