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116.ガレオンズ五番隊隊長

「ドラッゾさんや。腕をもう二本ほど追加で生やしてくれんかね?」

「グラウ」


 ぶにゅり、と体内から肉をかきわけるようにドラッゾに五本目と六本目の脚が生えた。


「そうそう。アップルが四つに分けて縛ってくれたからよ、その手でこの強盗どもを街まで運んでくれ」


「グラウ……」


「あーいや、そんな優しく運ぶ必要ねーよ。どうせ気絶してるし、そもそもこいつらに気遣う意味もねえ」


 つーことで俺とドラッゾは『廃れ屋敷アバンダンド』をえっちらと最も近場であるプーカの街まで搬入した。


 プーカとはここらの中心地的な大きな街で、ガレル率いる高名ギルド『巨船団ガレオンズ』の一応の本拠地でもある。


 まあ、あいつらは空飛ぶ船がホームということで日頃からあちこちの空を飛び回ってるそうなんで、本拠地と言っても常駐しているわけじゃなさそうだが。


「グラァ?」


 本当に飛ばしていいのか確認してくるドラッゾに俺は「おう」と頷いた。


 背中に乗せて安全に運ぶためには五、六人までという人数制限がつくが、単に運ぶだけならもっと大人数でもいける。例えばこんな風に、人で言うところの腕のように器用に物を掴める前脚で直接持つ、とかな。


 当然乗り心地は最悪を通り越して拷問めいた揺れと痛みを与えるだろうが……その点は罰代わりとして諦めてもらおう。目が覚めたら体中バッキバキってのは地味にイヤだよな。だからこそ罰に相応しいんだが。


「でっけーなー。ここがプーカか」


 空から見下ろしながら他の街と比較する。ネズミ駆除をしたパヴァヌはポレロよりも若干広いように思えたが、ここは若干どころじゃない。明らかにポレロやパヴァヌよりも大きい。ただ面積があるというだけじゃなく、栄えているっていうか。上から眺めるだけでもそう思えるくらいだ。


「ちょっとそこのー! こんなとこで何してんの! 街の人が怖がるでしょうがー!」


「っと、いけね」


 空の上っつー珍しい場所で注意を受けた。その主へと視線をやれば、思った通りそいつは見覚えのある小型ボートに乗って宙に浮いていた。


「ひょっとしなくてもあんた、ガレオンズの人だよな?」


「そうだよ、私はテミーネ! ガレオンズ五番隊隊長! つまりは五番船の船長だね」


 俺と同い年くらいに見える、人懐っこい笑みを浮かべた少女だ。名乗りも朗らかで、単に注意しに来ただけでこちらを害しようというわけではなさそうだ。目立ったせいでもっときつく当たられるかと思ったが、ちょっとホッとしたぜ。


 だがそうか、こいつがテミーネか。それはガレルと別れる前にも聞いた名だ。


「そっちは?」


「俺はアンダーテイカーのゼンタだ。リーダーをやってるぜ」


 名乗り返すと、どうも向こうもこっちの正体には当たりをつけていたらしい。納得したように頷いて、


「やっぱりあなた、話題沸騰中の『葬儀屋アンダーテイカー』さんか。そのドラゴンゾンビで十中八九そうだろうと思ったよ。それに乗って、うちのお頭とドレイク狩りをしたんでしょう?」


 その通りなんで肯定すれば、テミーネはひゅうと口笛を吹いた。


「あのガレルさんにゲームで勝ったっていうんで、ガレオンズじゃあなたの話題で持ち切りだよ。いやうちだけじゃないか。プーカの街全体がそうだね」


「たかがゲームでそんなにか?」


「たかがゲーム、されどゲーム。大小問わず勝負事には熱くなるのがガレルさんだからね。だからあなたのことはお頭に土を付けた恨み半分、ニューカマーへの期待半分って具合にガレオンズは見ているよ」


 にひひと笑うテミーネの後ろから大きな船がやってきた。ガレルの乗っていたブラック・ハインド号には劣るが、こちらもけっこうな巨大船だ。


「一応は戦闘に備えて、ね。でもその必要もなさそうだし、ついてきなよ。そいつらをハインド五号船で街に下ろしてあげるから」


 テミーネにはドラッゾが手にぶら下げている伸びた男たちの正体がわかっているようだった。


 倒したあとにガンズからも聞かされたことだが、親分と呼ばれていた男はプーカを活動の中心としながらも警団ガードから逃げ回っていたちょっとした悪党の有名人だったらしい。それでテミーネもすぐ見抜けたんだろう。


「親分なんて言っても、掃きだめを纏めているだけのつまらない奴だけどね。腐れ・・屋敷の本当の幹部は顔に三本線の入れ墨を入れているからすぐ見分けがつく。こいつにはそれがないでしょう?」


「なんだ。じゃあこいつら全員ただの下っ端だったのかよ」


 闇ギルドの戦力を削いでやったとは言えねえなとがっかりした俺だが、それをテミーネは否定した。


「そりゃあ連中の全勢力からすればちっぽけなものかもしれないけどさ。でもここらでのさぼって悪事を働くクズを退治したわけだからね。それがなかなかできなかった警団ガードはもちろん、大勢の人がアンダーテイカーに感謝すると思うよ」


「そっか。まあ、誰に喜ばれなくたってこんな奴らは勝手にぶっ飛ばすけどな」


「ははは! いいね、お頭が欲しがる理由がよくわかるや」


 テミーネの厚意に甘えてハインド五号船に強盗たちを下ろし、ついでに俺も乗せてもらってプーカへと降下する。ドラッゾに礼を伝えて召喚を解除し、それを興味深げに見ていたテミーネに俺は言った。


警団ガードへの引き渡しにもついてきてくれるって? ありがたいが、こんなに親切にされるとなんだかこそばゆいな。お前も『廃れ屋敷アバンダンド』を憎んでた口か?」


 腐れ屋敷なんていう蔑称らしきもんを言い慣れた感じで喋ってたから、こうやって逮捕に一躍買ったやつに感謝を示しているのか……と思ったんだが、どうもそういうことではないらしく。


「こんな連中を好かないのは当然だけど、力を貸すのは別の理由。ほら、ラステルズのことを覚えているかな?」


「ラステルズ?」


 意外な名前が出たことで驚く。


 ボパンに頼まれて一緒にネズミ駆除のクエストに当たったランド、ステイン、ルーナからなる三人組の若い冒険者パーティ。一緒に死線を潜り抜けた仲だ、忘れる訳はないが……なんでその名がテミーネの口から出たのかがわからん。


「ルーナは冒険者学校で知り合った親友なんだ。ランドやステインも同期でね、あの頃はよく四人でつるんでたよ。クエストでアンダーテイカーの世話になったって聞いていたから、ずっと興味があったんだ。会えてよかったよ」


「なーる、そういう繋がりか。そんで、どうだ。実物はお眼鏡にかなったかね?」


「そりゃあもう。少し話しただけでもよくわかる、あなたは気持ちのいい奴だ」


 だから手伝うんだよ、とテミーネはウインクをした。



◇◇◇



「おーいヤチ、聞こえてっかー? 事情聴取だかなんだかで話さねーといけなくてな。『廃れ屋敷アバンダンド』に依頼したときのことをガンズさんに説明してもらいてーんだ。来られるんなら一緒にこっち来てほしいんだが」


 ヤチのことを思い浮かべながらそう言ってみると、了承の気配が返ってくる。向こうの声は聞こえないがなんとなくヤチの意思は把握できるようだ。大丈夫そうなんで、そのまま呼びつけることにする。


「よし、じゃあ来てくれ!」


 ぽうん、とまた煙が立って、そこにヤチとガンズが現れた。【従順】のスキルによる瞬間移動だ。


「お待たせしました、ご主人様」


「え? ぜんぜん待ってねーけど。てかなんだその口調」


「あ、あれ? なんだか口が勝手に……変だよね」


 いや、メイド服を着てるせいもあって違和感はねーんだけどな。しかし口調が勝手に変わるってけっこうやべえな? これも【滅私】の影響なんだろうか。


「向こうはどうだ、暇してねーか?」


「いんや、そんなことはないぞ。ヤチの嬢ちゃんがワゴンに出した山盛りのお菓子でティーパーティーを開いとる」


「想像以上に楽しんでるな!」


 そういうガンズもシュークリームっぽいのをもぐもぐしてるしよ。一人働いてる俺を差し置いて茶会で盛り上がるとはひでぇや。


「一番食っとるのはモルグじゃぞ」


「あいつかよ……ってか食えんのかよ!?」


 ボチやドラッゾみてーにゾンビならまだしも、死肉の塊で出来たゴーレムだろ? いらんだろ、お菓子なんて。そもそも味覚があるのかも疑問だぜ。


「いやー、噂には聞いていたけどさ……やっぱ滅茶苦茶なんだね、来訪者っていうのは」


 ヤチの呼び出しから一連のやり取りを聞いていたテミーネが、呆れ混じりに感嘆しながらそう呟いた。


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