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112.ワシが求め続けてきたものじゃ

「絶対、ぜーったい一個多く肝を食べてますよね。ねえゼンタさん。こっちを向いて、私の目を見て正直に答えてください……食べましたね?」


「いやあどうだったかなー。最初のを分け合うとき、しれっとサラがデカいほうを取ったのは覚えてるんだがな」


「むむぅ……!」


 フグみたいに頬を膨らませるサラ。この態度、とても十七歳には見えんぜ。


「確かに! ついつい大きいほうを自分で食べちゃいましたし、いっぱい動いているゼンタさんのほうが私より多く食べるのも道理だとは思います! でも、でも……美味しいご飯について理屈だけでは語れないんですよ!」


「なんのこっちゃ」


 頭ではわかってても感情では別ってことか? 

 単に食った肝の数が俺よりひとつ少なかったことへブー垂れてるだけのくせして、妙にカッコつけやがるな。


 はい、もうこの話は終わりだ終わり。


「そんなことより、俺らもけっこう上ってきたはずだが……まだガンズさんたちとは会えねえか」


「道も一本だけになってますし、最下層からは抜けてるはずですけどね」


 迷路からはなんとか抜け出せて今はただ先へと進んでいるところだが、念のために定期的に魔鉱石を置いていくのは続けてる。


 見えない範囲を減らしとけば万一この道を戻る羽目になっても安全だからな。


 ただしいつまでもこうやってちゃあ、いくら大量にゲットしたとはいえいずれ魔鉱石も底をついちまうってもんだ。


「そういや、サラよ。お前の『リターン』であいつらんとこへ飛べたりしねえのか?」


「無理ですよー。いくらクロスハーツがあっても、リターンポイントを設置しないことには使えないんです。洞窟の入り口に書き直しておけばまだよかったかもしれませんね」


 インガのときの教訓を活かしてサラは毎度、クエストで街の外へ出るたびにポイントを設置しているらしい。ただし設置場所は俺たちの拠点であるリンゴの木の前だ。


「つまり今使うとガンズさんたちを置いて、俺らだけポレロへ戻っちまうことになるのか」


「ですです。加えて言いますと、私の『リターン』じゃ自分以外にはもう一人までしか一緒に飛べませんので、それも覚えておいてくださいね」


 そうなのか。じゃあいつもみたいに俺、サラ、メモリの面子でクエストをやっててピンチになったとしても全員が『リターン』で逃げる、なんてことはできねえんだな。


 こいつは先に知っといてよかったぜ。いざって場面で当てにしてたものが外れたときほどガックシくることもねえからな。


「そんじゃ地道に洞窟を抜けるしかねえってわけだな」


 しゃあない、と新しく置くための魔鉱石を取り出した俺の手をパシッと握って止めた。


「おい、なんだ?」

「いえ……前のほうが、なんだか明るい気がして」

「なんだって?」


 試しにランプ代わりに持っている魔鉱石も合わせて全部ポーチに仕舞い込めば……うお、本当だ! 俺たちの周りは暗いのに、向こうから若干だが光が差しているのがわかる!


「見えますよね!? うっすらと赤の光が!」


「ああ! つーことはこの先に光源になる何かがあるってことだ!」


 ひょっとしたらガンズたちかもしれねえと考えた俺たちはテンションが上がった。


 あいつらの持ってるランプとは灯りの色が違うってのが気になりはするが、この洞窟に生息してんのはどいつも灯りなんざなくてたって生きていける奴らばっかりだ。


 必然、光があるところにはガンズたちもいる公算が高くなるってこったな。


「急ぐぞ!」

「はい! でも急ぎ過ぎて転ばないでくださいね! あいたっ!」

「自分が転んでんじゃねーか!」


 見えにくい足場もなんのその、赤い光を目指して走った俺たち。

 そしてそこには。


「うぉお! お前らー!」


「ようやく会えましたー!」


 思った通り、ガンズたちが揃っていた。呼びかけながら駆け寄ると、向こうもすぐに俺たちに気が付いた。


「あ! ゼンタの兄貴にサラの姉御!」

「お二人とも無事だったんですね!」

「良かった……!」

「ゴアゴア!」


 ぶんぶん手を振るビートとファンクに、胸に手を当てて心底からほっとした顔を見せるヤチ。モルグも両手を上げて喜んでいる。


 おうおう、どうやらみんなも無事のようだな!


「メモリちゃん!」


「サラ……心配した」


「ごめんなさい。でも、お互い怪我もなくて何よりですね!」


 メモリとサラは抱き合って、それから再会を祝してくるくると回り出した。や、回ってんのはサラだけだが。メモリはされるがままになっているだけだ。


「よっす。自力で戻ってこられてよかったよ。上がってこないなら探しにもっと下まで降りなくちゃならないとこだった」


「アップル! 面倒かけて悪かったな。お前も怪我とかしてねーか?」


 傷でもあったらパインにどやされること間違いなしだが、アップルは見るからに五体満足だった。どころか、大した疲労もない様子で首を振った。


「別にこれといって面倒はしてないかな……十分楽させてもらったからね。ただの散歩と変わらないぐらいだよ。そのぶん、ビートとファンクが奮闘してたけど」


 言われて二人を見れば、確かに見てくれだけでもそうとわかるくらいにくたびれてるな。未知の洞窟を移動してきたことでみんな大なり小なり疲れてはいるだろうが、その度合いがこいつらは飛び抜けている。ここまでよっぽど大変な思いをしたようだ。


「いや、そんなことは! こういうときこそ弟子の俺たちが矢面に立つのは当然ですから……はは」


「自分もそう思います! 戦い続きで大変ではありましたけど……」


 強がっちゃいるが、やっぱ苦労したってのがひしひしと感じられる口調だぜ。これはきちんとお礼を言っとかねーとな。


「ありがとよ、落っこちた俺のミスをカバーしてくれて」


「そんな、俺たちに礼なんてする必要はないですよ兄貴! それに結局はメモリの姉御の力も借りることになってしまって……不甲斐ない限りです!」


「ええ本当に、お手を煩わせたくはなかったんですが。しかし、あの骸骨の軍団は圧巻でした……」


 お。メモリのやつ、レガレストホロウと戦ったときぶりに『死の軍勢』を使ったらしいな。


 そりゃあつまり、あの骸骨パーティーを開かなくっちゃならねえくらいに大勢のモンスターに襲われたってことか。


 下で俺たちは大変な目に遭っていたが、上は上でなかなか困難な道のりを辿ってここまで来たらしい。ホント、なんなんだよこの洞窟は。ちと荒っぽすぎるだろうが。


「あれ? ガンズさんは何をしてんだ?」


「あれを見てみるとわかるよ」


 俺たちのやり取りにただ一人参加せず、背を向けているガンズ。

 彼は壁に埋まった何かに釘付けになっているようだった。


 広く洞窟内部を照らしている真っ赤な光は、どうやらその何かから発せられているものらしい。


「あのぉ、ガンズさん?」


 既にそれの正体を知っている様子のアップルに促され、サラと一緒にガンズの背中から覗き込む。サラが呼んでもガンズはこちらを向こうとはしなかったが、声はしっかりと届いていたようで。


「おお、二人も見ておくれ……ようやく。ようやく、悲願が叶った。これぞ五十年以上、ワシが求め続けてきたものじゃ」


 七十三歳という年齢相応の、積み重なった年月に基づく深い感慨の込められたガンズのセリフ。それを耳にしながら、彼が視線を外そうとしないその物体に俺まで目が釘付けになった。


「な、なんだこりゃ……すげー美しいぞ! こんな綺麗な赤は見たことがねえ!」


 赤、というよりも紅。真紅の色だ。どこまでも純粋な真紅色に染め上げられた、人の頭ほどの石があった。しかもその色によく似合う、ハート型の形をしているぞ。こんなもんが自然界に存在してんのか……!


 呆気に取られる俺の横で、サラが息を呑みながらそれの名を口にした。


「これは――ぐ、紅蓮魔鉱石ですか!? まさか本物の……!?」


「おう本物じゃとも! この色、この輝き、このパワー! 間違いなくこいつは正真正銘の紅蓮石じゃよ……! ワシが発見した紅蓮石なんじゃ!」


「お、おいおい二人とも。興奮してるのはわかるが俺にもその興奮をわけてくれよ。紅蓮石? 紅蓮魔鉱石? ってのは、いったいどういう代物なんだ?」


 さっぱりついていけないんでそう聞いてみれば、ものすごく真剣な顔をしてサラが俺を見た。


「紅蓮魔鉱石、縮めて紅蓮石。それは魔鉱石が結集し、凝縮され、持つべき本来の力を取り戻した姿だと言われています。簡単に言えば、完全なる上位互換! とても稀少な魔鉱石と比べてもなお比較にならないほどの稀少性が、この紅蓮石にはあるんです」


 魔鉱石は魔力を持つ石で、美しさだけでなく色んなもんの素材としても有用かつ最高級品である。


 そんな魔鉱石を更にハイグレードにしたのが、この異様なまでの光を放つ紅蓮石だということらしい。


「なるほどな、そりゃとんでもない価値がありそうだが……具体的にどんなもんなんだ? 同じ大きさの魔鉱石と比べていくらぐらいの高値がつく?」


「ですから、比べ物にならないんですって! 売り値なんて想像すらできませんよ。なんと言っても、世にある紅蓮石はたったのふたつだけ! ここにあるのでようやく三つ目――ガンズさんは歴史上でも三人目の紅蓮石発見者になったんですよ!」


「な、なにぃーっ!?」


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