111.肝ですね!
「ボスもやっつけたことですし! 先へ進みましょうか!」
一息入れたことでサラは体力とやる気を取り戻している。取り戻し過ぎてると言ってもいいか。
ボス猿をやったのは俺なんだがまるで自分で倒したみてーなキリッとした表情を向けてきやがる……もうツッコむ気すら起きねえぜ。
「早いとこ合流したいよな。あいつらのほうも下へ降りてきてるはずだとは思うが」
だが見つけてもらう前提じゃ合流は遅れちまいそうだ。こっちからも積極的に向こうを探すべきだろうよ。
そのためには、あいつらのいる場所へ通じる精確な道を探し出す必要があるわけだが。
「ちょーっと骨が折れそうだな……」
ゲテモンキーたちが残した砂の残骸めいたもんばかりが溢れるここからでも、ぐるっと見渡せばいくつもの道が見えている。
あの全部が別々の場所へ通じているのか、それとも途中で蜘蛛の巣の如く繋がっているのか……どっちにしたってこの中から正解を見つけるのはかなりの苦労をさせられそうだぜ。
「上はほとんど一本道だったってのになぁ」
「最下層らしきここは、天然の迷路も同然……そうなるとほとんどダンジョンのようなものですね。ですがゼンタさん! どうぞご安心を!」
「はあ?」
「道案内ならこのサラにお任せあれ! 一度は教会の門を叩き、神聖なる教えをいくつも賜った身です。願い行くところに道は開かれる。私の選ぶ道こそが私たちの進むべき道になる……といいですね」
「ただの願望!? いやだが、俺が選ぶよりは良さそうか……?」
ご利益っつーわけじゃないが、確かに俺よりもサラの勘のほうが、なんつーかこう……天啓っぽいもんが降りてきそうな気がしないでもない。
そんな確証は一切ねーが、サラの自信満々な態度を見てるとマジで期待が持てるように思えてくるんだよな。
「わかった。信じっぞサラ」
「ガッカリはさせませんよ。さあ、まずはあそこです!」
ビシッとひとつの道を指差したサラは、ずんずんとそっちへ歩いていく。俺は頼もしさすら覚えてその背中に続いたぜ。
こりゃあひょっとして、本当にあっさりと合流できちまうかもな……!?
◇◇◇
「なんてことは全然なかったな! 迷いまくりのモンスター出まくりじゃねえか! うおりゃ!」
「おかしいですね、こんなはずでは……えいっ!」
俺は『非業の戦斧』で、サラはクロスハーツで巨大な亀を沈める。
こいつは亀のくせにやたらと俊敏に突進攻撃を仕掛けてくる面倒な魔獣だ。幸い攻撃が単調なんで迎撃自体は容易いが、そもそも襲ってこなければこんな手間もかからねえ。
つか、ここにいるのは種類に問わず血気盛んなのが多すぎる。
俺たちを発見した途端にどいつもこいつもノータイムで殺し合いに持ち込んできやがるのはどういうわけだ?
手つかず森の魔獣どもだって腹が減ってなきゃ襲ってはこなかったぞ。積極性の塊かここのモンスターたちは。そーいうのは気になる異性にだけ発揮してくれよな……俺たちにアタック(物理的)されても困るんだっての。
「ふいー、片付いたか……。またレベルが上がっちまったぞ、おい!」
さんざっぱら迷いに迷いまくって、各所で戦いまくって、もはやどこを通っても死骸や戦闘痕、そして目印として歩きながらばら撒いてきた魔鉱石だらけになっちまったぜ。もうほぼマップ埋め完了だろこれ。
よほど自分の直感に自信を持っていたらしいサラは、この結果にしきりに首を傾げていた。
「私のやり方が通用しないなんてびっくりですよ。確かな実績もあるんですが」
「やり方ってもただの運任せだろうが。これにどんな実績があるってんだ?」
「ゼンタさんに出会えました」
「……!」
「ふふ。これぞ何よりの実績じゃないですかっ?」
教会から逃げ出して、土地勘のない場所をあてもなく彷徨っていたサラは、それでも必死に歩を進めて――そして俺と出会った。
まあ、あの出会い方はぶっちゃけ印象的には最悪な部類の、そう褒められたもんじゃないってのが引っかかるところではあるが……俺にとってもあれは特別な出来事だったのは確かだ。
だからこんな風に言われちまうと、もう文句もつけられねえ。
「けっ、仕方ねえな……とりあえず、また少し休憩すっか」
「お疲れですか? ごめんなさいゼンタさん、常に私よりもたくさん倒してますもんね」
そらまあ、前衛だからな。
サラもクロスハーツを取り戻して自主的な攻撃手段を得たとはいえ、サポート主体のスタイルに代わりはねえ。
俺が前に出張るのは当然ってもんだ。
「レベルアップも挟んでっから体力的には問題ねえぜ。ただずーっと同じとこをぐるぐるしてるもんで、精神的にな。……あと腹も減った」
ヤチさえいればなんでもワゴンで謎の材料から作られた謎メシが食えるんだがな。【従順】という呼び出しのためのスキルをヤチは持ってるんで、実はやろうと思えばいつでもこの場に呼びつけることは可能なんだが……サラ以上に補助役としての側面が強いヤチは人数の多いほうこそいるべきだろうと思って、今んとこその選択は俺の中じゃナシだ。
単純に、こういう暗くて敵だらけの迷路なんぞにヤチを呼んだら怖がらせちまうだろうしな。
善意でクエストの手伝いを申し出てくれたあいつに対してそんな真似はしたくねえ。
「組合から買った携帯食料、まだあるぜ。サラも食うか?」
噛み応え抜群の干し肉と、カロリーメイトっぽい栄養クッキー。
味気ねーが冒険者にとっちゃお約束だっていう携帯食料の組み合わせをポーチから取り出そうとした俺だが、「待ってください」とサラにストップをかけられた。
「それには及びませんよ。いつでも食べられる携帯食料は最後の手段に取っておくべきです」
「お前、この前のクエストでおやつ代わりに栄養クッキーをぱくぱく食べてたじゃねえか」
「クエスト中の冒険者の食事は現地調達が基本だと受付のお姉さんから聞きました。私たちもそれに倣うべきだとは思いませんか?」
「華麗に無視すんのな。つか、現地調達だぁ? こんな岩と岩っぽい生き物だらけの場所でどうやってメシを調達すんだよ。魔鉱石でも食うってか?」
「そこでこのカムカムタートルですよ!」
サラが手で示したのは、たった今倒したばっかりの突撃亀野郎だ。
「こいつがどうした。甲羅も頭もカッチカチじゃねえか。とても食えたもんじゃねえ」
「ところがどっこい、カムカムタートルの甲羅の奥には生身の部分があるんです! 肝ですね! 一匹ごとにごく少量しか取れませんが、栄養豊富かつ珍味で美味しいらしいですよ。料理の具材として広く出回っているくらいですからね」
サラが言うにはカムカムタートルの肝と言えばけっこうな高級食材であるらしい。
そーいえば、テッカんとこの露店料理屋でもそんな感じの名前の肝スープがあった気がすんな。
「……だったら食うしかねえな!」
「食いましょう食いましょう! スープにするのが一般的ですけど、生のまま食べてもぷりぷりしていて十分に美味しいと聞ききます。実際、人によっては新鮮な生こそがカムカムタートルの肝の最高の食し方だって言い張るくらいですからね。クララさんもそう仰ってました」
さすが、食う量こそ普通だが俺よりも遥かに食い意地の張ってるサラだ。モンスターの知識だけでなく、それを食材として見たときの知識も一通り頭に入っているらしい。
女子としてそれでいいのかと思わなくもないが、こういうときには頼りにはなるぜ。
「せいっ! どこでしょうか……あ! ありました! これですよゼンタさん! 肝です肝!」
ほら、今もさっさと甲羅を砕いて躊躇なく肝を取り出してるし……クロスハーツをそんな雑に使っていいのか? 一応は親の形見だろうに。
「はい、ゼンタさんのぶんですよ」
「お、サンキュー」
サラが豪快に引き千切った肝の片割れを口に運ぶ……おっ! マジでプリップリの食感で、味はやや淡泊ながらそれが食いやすくていい感じだ。
肉、つーか内臓のはずなんだが、食ってる感覚としては味付けされたエビに近いか?
独特な風味がついたロブスターの身を頬張ってるような感じだ……一回しか食ったことねえんで詳しい比較はできねえが、少なくとも記憶じゃあれに一番似てるぜ。
「ホントに生でも美味いじゃんか! 疑って悪かったな」
「疑われてたんですか、私……まあいいですけど。それで、どうします? カムカムタートルはまだたくさんいますよ」
倒した亡骸たちを見ながらサラがそう言った。
じゅるり、とその口の端から涎が垂れている。
どこまでも自分に正直なやつだと呆れるが……実を言うと俺もサラと同じだった。
半端にちょっとだけ食ったことで余計に胃袋が刺激されちまったんだな。
「全部食うぞ!」
「了解です!」
肉食獣と化した俺たちは、残らずカムカムタートルの甲羅を叩き割ったのだった。
……美味っ。




