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109.ボス猿

「おらおらぁ! こいつで……ラストォっ!」


 ゲテモンキー最後の一匹を粉砕する。いやぁ、あの大群を目にしたときは気が遠くなったもんだが、なんとかなるもんだな。やっとこさ全滅させることができたぜ。


「や、やりましたねゼンタさん……ふう」


「おう、サラもお疲れさん……って本当に疲れてんな。大丈夫か?」


「そりゃ疲れますよー、あれだけの数でしたから。むしろゼンタさんはなんでそんなに元気なんですか? 私よりもよっぽど激しく動いていたのに」


「それはほら、レベルアップのおかげさ。前にも言ったろ? レベルが上がるたびに体力がまるっと回復するんだ」


「やっぱり来訪者さんってずっこいです」


 ぶー、と口を尖らせて不満を訴えてくるサラに、俺はへの字で返してやる。んなこと言われても知らんがな。つか俺がガス欠になってたらお前だって困ることになんだぞ?


 まーそれはともかく。


 またレベルアップできたのはいいんだが、今回はちょっと今までと様子が違うんだよな。



『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』



 戦闘中に出た表記だ。つまりゲテモンキーとの戦いで俺は四回もレベルアップしているのだ。


 これは、どう考えても変だよな。今までは一気にモンスターを倒したとしても、最高でも二回しか上がらなかったんだぞ? 


 アンクルガイストとの戦いが一番わかりやすい例か……あのときだってゲテモンキーほどじゃないにしろ相当な数を一人で屠ったもんだ。

 これで4もレベルが上がるなら、あれでももっと上がってなきゃおかしいだろう。


 おそらく、同じ種類を倒し続けていると得られる経験値がだんだんと減っていく……というのが俺の仮説だったんだが。

 戦闘の初回ボーナスってわけだな。

 あくまで仮説でしかないが、今日までの経験則からするとかなり自信のある説でもある。


 じゃあ、なぜその仮説を裏切るような結果が今回は起きたのか?


 ……こういう疑問の答えは大抵、スキルのほうにあるもんだぜ。


「サラ。ちょいとステータス確認しときてえから、しばらく周囲の警戒を頼めるか」


「あ、ごめんなさいゼンタさん。ステータスを見るのはもうちょっとあとにしてもらえますか?」


「んあ、なんで……あー、はいはい」


 聞くまでもなかった。まだ無事なゲテモンキーが残っていやがったからだ。しかもそいつは……どう見たって強い。倒したゲテモンキーは全個体が俺より頭ふたつぶんほど小さかったが、こいつは逆に頭ふたつほどデカいぞ。そして筋骨隆々のガタイをしている。


 いやまあ、モリモリと盛り上がってるのは筋肉じゃなくて岩なんだがな。


「なんだこいつは……まさか猿たちのボスか何かか?」


「まさにそうかと。まずは部下をけしかけて私たちを疲弊させる策だったんでしょう」


 だから最後の最後まで自分は出てこなかったのか。ボスのくせにせこい野郎だぜ……だがその小心っぷりが嘘のように堂々と俺たちに向かってくるじゃねえか。


「俺のほうもサラぐらいくたびれてると勘違いしてんのか。それとも群れの長として敵討ちでもするつもりか? どっちにしろ戦る気は満々みてーだなぁ」


「ゲテモンキーは執念深いですからね。援護します」


「いや、ここで本気でバテても意味がねえ。俺一人でやっからサラは休んでろ」


 洞窟から抜けることを考えたらそのほうがいい。

 ポーチから水筒を取り出してパスすれば、キャッチしたサラは「わかりました!」といい笑顔で了承してその場に腰を下ろした。


 すげー迷いなく休憩モードに入ったな……いいんだけどさ。


「注意してくださいね。体格だけでなく、ボスは通常のゲテモンキーより知能も発達している傾向にあります。子分にはない特殊な技を持っている可能性もありますよ」


「そうなのか。気を付けるとするぜ」


 サラの言葉に頷いて、俺も歩を進める。数メートルの距離で俺とボスゲテモンキーは真正面から対峙した。


 近くで見るとますます、通常の個体とは格が違うってのがわかる。これがあんだけの数で襲ってきたらさすがにマズかったかもな。だがボスはボス、一匹だけだ。そしていくら強くなってると言ってもゲテモンキーだってことに代わりはないぜ。


「――キキィッ!」


「おっとぉ!」


 突き出してきた手を身を捩じって躱す。だが後を追うように膝蹴りがきた。腕を交差させて受ける――という判断をした次にはもう、俺の頭は掴まれていた。


「ぐぅおおおっ!?」


 振り回され、地面に叩き付けられる。っ、全身が痛ぇ! そして動きが普通のとはまるで違うな! HPも減らされたか……が、思ったよりも減りは少ない。


「やりやがったな……【武装】、『不浄の大鎌』!」

「キッ!?」

「おぉら!」


 大鎌の放つ不浄のオーラ。それがどれだけヤバいもんかはボスゲテモンキーにもわかったらしい。急いで手を引っ込めようとしたが、そうはいかねえ。俺は逃げるように離れていく腕に鎌の刃を引っ掻けた。


「切ったぜ! これでその腕は使い物にならねえ!」


「キィ……、」


 起き上がって見てみると、確かに不浄のオーラは奴の腕を浸食していた。小動物くらいなら一回触れただけでもアウトなんだが、こいつの場合は部位を侵すのが精々ってところか。だがたったワンパーツでも奪ってやったのはデカいぜ!


 そう思ったんだが。


「……キィッ!」


「なにっ!?」


 ゴガッ、とボスゲテモンキーは……黒緑のオーラに包まれた己の腕を、もう一方の腕で強引にへし折った! 


 浸食がもっと広がることを懸念したのか、あるいは動かせず戦闘の邪魔になるくらいならとあっさり捨てたのか? 


 思い切りの良すぎる自傷行為に戸惑う俺の前で、ボスゲテモンキーは肘までしかなくなった腕を地面に――いや、岩にくっつけた。


「っ、そういうことか!」


「キィイ……!」


 腕を引き上げたボスゲテモンキー。その肘から先は、なんと復活していた。元通りに手が生えてやがるんだ。その代わりに、奴が腕をくっつけた地面にはちょっとした陥没ができている。


「本物の岩から自分の腕を作ったのか! まるでプラモのパーツを補充するみてーに……なんつー生き物だよ!」


 岩も同然の肉体だからできる芸当だな。だが普通のゲテモンキーはどいつもこんなことやってなかったぞ? ってことは、これがボスならではの技ってわけか。


 こういう洞窟の中みてーな岩だらけの場所なら、ちょっとやそっとの負傷じゃ倒れやしねーと……なるほど、敵としちゃ厄介だな。


 いくらでも傷を治せるっつっても、即死はその限りじゃねえだろう。体の中心とかも腕ほど簡単には修復できねーはずだ。だから『不浄の大鎌』を手足みてーな末端じゃなく、胴体や脳天にでも突き刺せれば勝負は決しそうだが……。


「問題は、それを許しちゃくれそうにもねえってことだよな」


「キキィ……」


 明らかに警戒してやがるぜ。

 大鎌の効果はもうバレちまってんだから当然だ。

 そうなるともうひとつ当然なのが――。


「キィッ!!」


「ちっ! やっぱ速ぇなこいつ!」


 もう大鎌に当たってなんかくれねえってこった! 


 ボスゲテモンキーは素早く細かい動きで俺を攻めてくる。こういう動きをする奴に『不浄の大鎌』は通用しない。クイーンラットにも丁寧に刃を弾かれて封じられたように、鎌という扱い辛い武器じゃあどうしたって限界がある。


「だったら……【武装】、『非業の戦斧』!」


 一対一なら大鎌ですぐに決着をつけられるという算段だったんだが、不発に終わっちまったからにはこれ以上拘る必要もない。一旦解除し、【武装】を再発動してさっきまで使っていたほうを呼び戻す。


「こいつなら、どうだぁ!」


 ギミックを使っての『パワースイング』を披露する。

 その攻撃速度は大鎌の比じゃねえ、身のこなしの軽いボスゲテモンキーにも命中するはず――。


「キッ!」

「なにっ、避けやが……ぐおっ!」


 ぴょん、とまるでそう来ることは知っていたと言わんばかりの見事なタイミングで飛び上がったボスゲテモンキーは、戦斧をやり過ごし。


 そのまま飛び蹴りが俺の顔面に叩き込まれた!


「がっ……づ、そう、か……。こいつは散々、もう見せちまってたな……!」


 転がって、すぐに立ち上がる。HPは……まだ安全圏。今のでもこれくらいしか減らねえなら、まだ【補填】は必要ねえ。


「子分どもがこれで狩られてくのをじっくりと見てたんだもんなぁ……対応はばっちりと予習済みってわけだ」


 なら、もういい。『非業の戦斧』は強いが大味な武器でもある。鎌よりは断然武器として使い勝手がいいが、相手によっては有効じゃない場合だってそりゃああるだろう。


 ――鎌も斧も通じない相手なら、これがいいぜ。


「【武装】、『恨み骨髄』……!」


「キィ……、」


「へっ。感じてるかよ、こいつの怨念を。さあ……勝負はこっからだぜ、ボス猿!」


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