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108.遭難中なんだから

 しまった、ロックトロールの最後のボディプレス! 

 あれがとうとうここの足場に限界を迎えさせたのか……!


「ゼ、ゼンタくーん!」


「俺ぁ大丈夫だー! ガンズさんを頼む!」


 ヤチが俺の名を叫んだが、それだけしか返せなかった。そんときにはもう、俺もサラも足元に開いた奈落へ落っこちてたんだからな。


「ぐうっ……!」


 深い……! ただ暗くて底が見えなかったんじゃあないな、この地割れは洞窟の底にまで通じちまっているんだ!


「サラ、無事か!?」


「は、はい! どうにか……っ、」


 俺たちはどうやらすげえ速度で岩肌を滑り落ちているようだ。ゴツゴツしてるんで普通は大怪我だが、サラはクロスハーツをサーフボードのように体の下に敷くことで難を逃れているようだ。俺は来訪者なんで元々怪我はしねえ。


 どうにか人間のすりおろしにゃならずに済んだ……が、滑落と言ってもほとんど真っ逆さまに落ちてるようなもんで、墜落の衝撃は半端じゃないはずだ。


「やれるか、サラ!?」

「たぶん!」

「たぶんか!」


 無理と言われるよりは断然いいな!


 俺はサラへ手を伸ばし、密着した。ウラナール山で谷底に落ちたときのことを思い出す。あれはマジで死ぬ一歩手前だったが……今回はそうじゃない。一瞬しか持たない『プロテクション』とは違い、『シールドプロテクション』は持続時間の保証がある。


「――きゃぁあっ!」

「ぐうえっ……!」


 とうとう滑落が終わって、一瞬の浮遊感のあとに案の定の途轍もない衝撃が下から襲ってきた。だがさすがはサラの専用武器、クロスハーツはビクともせずにその衝撃から俺たちを守ってくれた。


 まあ、それでもかなり胃の中のもんがせぐり上げてきたがな……。


「へ、平気かサラ……?」

「はい、なんとか……」


 ともあれ、お互いに無事で何よりだ。経験と成長が活きたってところだ。……なんて、自惚れていい場面じゃあねえよな。


「みんなとはぐれちまったか」


「ですねぇ。ここ、上とはかなり距離がありますよ」


 護衛対象のガンズと離れ離れになっちまうとは……とんでもねえ失態だぜ。せっかく人数を揃えたってのにこれじゃ意味がねえ。


 や、まだガンズの周りに戦力が残ってると思えば意味ねーこともねーのか。

 ヤチを除いたとしても、ビートやファンクはちゃんと戦えるやつらだし、メモリとアップルは頼りになる戦力だ。

 それにガンズを守るように命じたモルグだってついてるしな。


「はい! ガンズさんたちのことは心配いらないと思います。私たちはむしろ自分の心配をすべきですよね」


「それもそーだな」


 サラの言葉に全面同意する。ここがどこかもわからねえ……もちろん入口の方向だってもう判然としない。つまりは完全に遭難してるわけだ。


 となれば上より断然、俺らのがピンチだと言える。


「ちっ、暗くってなんも見えやしねえぜ」


 どちらへ行こうか辺りを見渡すが、ろくに先が見えない。すぐ傍にいるサラの姿すらも危うく見失いそうなほどだ。上ではガンズとヤチがランプを持っていたのに加え、魔鉱石の灯りもあった。だから洞窟とは思えない明るさで視界に困ることはなかったんだが……そのどちらもない場所だとこんなに真っ暗なんだな。


 いい勉強になったぜ、ったく。


「魔鉱石はポーチに入ってますよね? それを灯りの代わりにしましょうか」


「そうすっか。あと、こいつを撒きながら進もうぜ。照らす範囲が広がるし、来た道もわかるようになる」


「なるほど! 勿体ないですけど良いアイディアですね。勿体ないですけど、迷わないためには背に腹は代えられませんもんね……すごく勿体ないですけど!」


「勿体ない勿体ないうるせぇな! 遭難中なんだからしゃあねえだろっ」


 ともかくランプ代わりに使える魔鉱石を大量に入手しといてよかった。


 そう思いながらポーチからそれを取り出した、その瞬間だ。


「っ! サラ!」

「え、なんです――わっ!?」


 ビビッと来たぜ、あの嫌な感じ。


 【察知】のスキルが攻撃を知らせたんだ!


 その感覚に従って俺はサラを引っ張って場から飛び退く。直後、さっきまでいたそこに何かが飛びついてきた。気付けなかったら完全に食らってたな……!


「こいつはなんだ!?」


 魔鉱石を向けてみれば、そいつは人型をしているのがわかった。だが間違っても人間と見間違えることはない。例えるならその生き物は、岩でできた猿か。それが明らかに闘争本能を剥き出しにした顔で俺たちを睨みつけてくる……!


「これは、ゲテモンキーですよ! トロールと同じく住み場によって特性が変わる魔獣の一種! だけどそれよりも……ゲテモンキーにはボスを中心として大きな群れを作る習性があったはずです!」


「……!」


 サラの危惧を察した俺は、ポーチから魔鉱石をいくつも取り出し、辺りへと放り投げた。ぺかー、と一帯が照らされて周囲の空間全体が見渡せるようになったが……予想した通りに最悪の光景がそこには広がっていやがった。


「おいおい、なんつー数だ!」

「あ、あわわ……本気で数え切れません!」


 キキィイィ、と唸り声を漏らしつつ俺とサラを取り囲んでいるゲテモンキーは、おそらくだが最低でも五十匹はいる。ひょっとしたら百近くか? 地面だけじゃなく岩壁にも引っ付くように、まさしく上も下も猿だらけの恐ろしいステージになっちまっている……俺たちゃこんな場所で呑気にお喋りしてたってのか!


「穏便に済ませる方法は……ねーっぽいな、こりゃ」


「ゲテモンキーは侵入者を群れで袋叩きにしますからね。こうやって取り囲まれた時点でもう刑の執行は始まっていて……そして彼らは途中で諦めるということをしません」


 はん、だろうな。

 どいつもこいつも殺意を全開にしながらにじり寄ってきやがる。

 戦いは避けられそうにもないってのがイヤでも理解できるぜ。


「だったらやるしかねーなぁ! 【武装】発動、『非業の戦斧』!」

「お願い、『クロスハーツ』!」


 互いに武器を手に取って、背中合わせで立つ。


 ゲテモンキーとの頭数の差は絶望的だが、根性でどうにかするっきゃねえ。


「お前はガード主体で頼むぜ。反撃抑え目でなるべく守ることだけに集中してくれ。ぶっ飛ばす役目は俺がやっからよ」


「私が崩されたら大変なことになりますもんね。ご心配なくゼンタさん! これでも私、どんな状況でも自分の役目はしっかりと果たすタイプですから!」


「へっ、そういやそうだった――なぁ!」


 最初に襲ってきた一匹がまたいの一番に動いた。跳び上がって上から来たんで、俺は戦斧の刃を振り下ろして叩き落としてやった。するとバゴッ、と割れてそいつは動かなくなる。ロックトロールと同じようにゲテモンキーの体もほぼ岩石同然であるらしい。


「ゼンタさん、横からも来てますよ!」

「おう!」


 左右から飛びかかってくるのを順に切り伏せる。まあ、切られたっつーより砕かれたって表現がピッタリな様子でゲテモンキーは散っていくんだが、ちょいと手応えが芳しくねえ。


「やれはするが、一匹一匹が硬えな……?!」


「土属性のゲテモンキーは防御力が特徴なんです! それと大抵は目が変化していて、視力というよりも電磁波を捉えて物を見るようになっています!」


 クロスハーツで次々と襲ってくるゲテモンキーを捌きながらサラが教えてくれた。


 優れた防御力に、暗闇でも機能する目か……洞窟なんかでまともに相手すんのはけっこうキツイな。今まさにそういう状態なんだがよ。


 単体ならどうってことはねえが、この数だ。もっとまとめてかかってこられると迎撃が追いつかねえかも……と考えたのがいけなかったのか? こっちの思考を読んだみてーに一斉に七匹も群がってきやがった!


「こなくそが――だったら【活性】と『パワースイング』だ!」


 そっちがそう来るならこっちにだって相応の手段がある。


 身体強化+ギミック攻撃!

 持ち手が鞭の如くしなった戦斧はぶぉん! と轟風を伴って空間を一閃する。


 その軌道上にあったゲテモンキーたちの肉体は、まるで花火みてーに爆散したぜ!


「よっしゃぁ! っとと……、」 


 戦斧の遠心力に引っ張られて体勢を崩しかけた。やっぱ強力だが、ちゃんと扱わねーと自分のほうが斧に振り回されちまうな。


 しかしそのぶん、気を付けてさえいれば抜群の威力を発揮できる……やっぱいい武器だぜ、『非業の戦斧』!


「さあて……【活性】もいつまでもは続かねえ。ちゃっちゃとやられにかかってこいよ、猿ども!」


 新武器の慣らしにちょうどいい機会が巡ってきたんだと思うようにして、俺はまたゲテモンキーの頭をかち割ってやった。


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