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107.動き回る岩石

「ガァアアッ!」


「ぐえ」


「アップルー!」


 自分の代わりに攻撃を受けて吹っ飛んでいくアップルを見て、ビートが悲痛に叫ぶ。必死に手を伸ばしているがそれが届くはずもなく、少女の体は猛烈な勢いで岩壁へと叩き付けられた。「ひう!」と惨状を想像して目を覆ったヤチの悲鳴が続いた、けれど。


「ったぁ~……もう、なんで私がこんな目に。誰でもいいからちゃっちゃとやっつけてよ、ソレ」


「ア、アップル……?」


 ドガン! とすげえ音が鳴って壁にめり込んだアップルだが、ぜんぜん平気そうだった。普通に愚痴まで言える余裕っぷりにビートは唖然としている。伸ばした手もそのまんまで固まっちまってるぜ。


「おい! おいビート! たまげる気持ちはわかるが、一旦下がってこい!」


 俺たちは前々からパインの口振りで薄々はアップルの強さってもんに気付いていたんでそこまでの驚きはないが、ビートやファンク、それにヤチはびっくりだろう。


 だがこれでまた隙を晒してちゃアップルが庇った意味がない。


「う、うす! すみませんゼンタの兄貴! 不甲斐ないところ見せてしまいました!」


 無事ならそれでいいんだが、ちょいと変だよな。慌てて撤収してくるビートとファンクを見ながら俺は首を捻る……ロックリザードには十分通じたあいつらの技が、なぜロックトロールには通用しなかったのか。


「……おそらく、両者の体内構造の差異が関係している」

「体内構造ぅ?」

「あっ! なるほどそういうことだったんですか……!」


 なんのことかさっぱりな俺とは違って、サラにはメモリの言いたいことがすぐにわかったようだった。


「トロールは縄張り意識が強く危険な魔物だと知られていますが、それ以上に生息地によって生態が変化する種族として有名なんです。通常なら泳げないはずなのに海辺に住むシートロールは抜群に泳ぎが上手い、肉食のはずなのにグリーントロールは草や作物しか食べない、といったように。そしてロックトロールは岩場で岩ばかりを食べて暮らす言わば生きた岩石! あくまで鱗だけが岩に酷似したロックリザードとは異なり、筋肉も内臓も岩同然になっているはずなんです」


 つまりロックトロールってのは、生き物ってよりは意思を持って動き回る岩石と言ったほうがいい存在だと。


 だから毒に犯されて苦しむこともなければ、音も生身の肉体ほど響かなかったんだ。


「二人とも相性最悪ってことだね」


 と、いつの間にか岩壁から体を剥がして戻ってきていたアップルが埃を払いながら言った。へこたれている様子はないんで、あれだけの一撃を食らってもダメージらしいもんは負っていないようだった。


 このぶんだとアップルがまともに戦えばロックトロールなんて瞬殺できそうなんだが……ガンズの依頼を受けたのは俺なんだしな。ビートとファンクが失敗した以上、奴を倒すべきは俺だろう。


「お、おい。どうするんじゃ? トロールがこっち来とるぞ!」


「あー、みんな下がってていいぞ。サラだけ俺を手伝ってくれ」


「わかりました!」


 ロックリザードのときみたいに、他の場所からもひょっこりと別のロックトロールが顔を出すかもしれないからな。

 その場合の対処はみんなに任せて、とりあえず目の前のこいつをさっさと処理しちまおう。


「敵からの一発を防いでくれるか。俺が返しの一発を入れっからよ」


「はーい。クロスハーツ――『シールドプロテクション』!」


「ガァア!」


 ただのクロスから十字架状の盾となったそれをサラが構えるのと、ロックトロールの攻撃が来るのはほぼ同時だった。


 やっぱこいつ、足の遅さの割にゃあ腕を振るスピードが桁違いに速ぇな。


 重量と相まってかなりの威力が出ているだろうが……『プロテクション』を超える堅牢さを発揮する『シールドプロテクション』は、そんな重たい一撃も危なげなく防いでみせた。


 壁を破れずロックトロールの動きが一瞬、止まった。こりゃ狙った通りのチャンスだぜ。


「ゼンタさん、お願いします!」


「おお! 【武装】発動、『非業の戦斧』――おっらぁ!」


 サラと立ち位置をスイッチして俺がロックトロールの前に立つ。そんで戦斧を奴の手に叩き込んでやった。めちゃ堅い手応えがあったが、それすらも砕けるくらいには俺のStrパワーと戦斧の組み合わせは良好だったようで……結果としてロックトロールの右手首から先は粉々に砕け散ったぜ!


「ガァアアアッ!」


「うっしゃ、どうだ! ……うえっ!?」


 痛みを感じているのかどうか定かではないが、とにかく右手を失ったことでロックトロールが怒りを抱いているのは確かだろう。突然激しい足踏みを始めたんだ。足の動かし方はすっとろいし、言うなれば子供の癇癪みてーなただの地団駄でしかないんだが、なんせこいつには並外れた体重がある。


「きゃあ!」

「サラ!」


 ものすげえ揺れに倒れかけたサラの手を掴む。揺れっつーかこれはもはや地震だな……! 足元にビキビキと地割れが走るのを見てゾッとさせられる。こいつを好きに暴れさせたらやべえ、最悪洞窟全体が崩壊しかねないぞ!


 ヨルの王国のときはキッドマンがいたからどうにかなったが、今回はそうもいかない。早いとこロックトロールを沈めるべきだ。


「サラ! 俺が支えとくからあれをやってくれ!」


「了解です! ――えいっ! 『クロスブーメラン』!」


 俺の意図を汲み取ったサラはクロスハーツを投げつけた。揺れながらでも的確に放たれたそれは掬い上げるようにしてロックトロールの顎を打った。


「ガァッ、」


 重量差もあって流石にぶっ倒れはしなかったが、いい角度で当たったな。若干体勢が浮いたことでロックトロールの足踏みが止まった!


「【活性】発動! もう悪さできねえよう、その足を貰うぜ!」


 戦斧を振るう。手首以上にぶっといんで、【活性】も込みでさっきよりも力を込める。すると俺の意気込みに応えるように戦斧に変化が起きた。


 しなった・・・のだ。


 脊髄のようになってる柄が、まるで鞭みたいにぐいぃっと曲がった。そんでそのぶん、斧は冗談みたいに加速して。


「うぉおおおっ!?」


 危うくこっちが振り回されちまいそうなほどの遠心力で戦斧がロックトロールの左足をぶった切った。


 そうだ、叩き割ったんじゃなく確かに切ったんだ。

 この硬くて太い岩の足をだぞ!


「ガッ、ガガァアアアッ!!」


 自分でも想定外の威力にビビったが、ロックトロールからすれば俺以上に焦って当然だ。いや……これは焦りってよりも怒りの頂点って感じか。岩のようにごつごつした気味の悪い顔を真っ赤にして、まだ両腕を振り上げている。


 こいつ、失くした手首もお構いなしに暴れようとしていやがるのか!


「戻って、クロスハーツ! ……くうっ!」


 手元に自動で返ってきた盾を素早く構えたサラが、落ちてくるロックトロールの両腕を防いだ。ビキビキ……! と地面に走る亀裂がより深く大きくなる。サラのガードがなければ俺は今頃地面に埋まっちまってるな。


「野郎! 暴れんじゃねえって言ってんだろうが!」


 要領は掴んだ。ただ振るうんじゃなく遠心力を生み出すのがカギだ。そうすりゃこいつは攻撃力が上がる。『非業の戦斧』ってのはそういうギミックのついた武器なんだ!


「わかんねえならこのパワースイングを食らえ!」


 片脚をなくして低くなった姿勢。そのおかげで上にも攻撃が届いた。斧がロックトロールの下顎を吹っ飛ばした――惜しい! もう少し高さがあれば頭部を丸ごと切り落とせたってのに!


「ガッガガッガガガァ!」


 口を半分切り飛ばされていながらロックトロールは雄叫びを上げて襲い掛かってくる。こいつもえらくタフだな! マジで岩そのものが向かってきてるような感覚になるぜ……! だがそれもそろそろ終わらせてやるよ!


 デカい体躯を活かしたボディプレスを仕掛けてきたロックトロールを真っ向から迎え撃つ。

 今ならこいつの頭にも届くぜ!


「くたばり、やがれえっ!!」


 奴と俺の渾身の一撃同士がぶつかり合い――軍配はこちらに上がった。「ガ、」と小さな声を最後にロックトロールの頭蓋は打ち砕かれた。


 勝った!


 と、決着に喜ぶ間もなく。


「う、うお……!?」

「ゼンタさん……わっ!?」


 突然激しい揺れがぶり返したかと思えば……俺とサラの足元がばっくりと割れて、底の見えねえ大穴が開いた!


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