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106.『ニンジャ』のようですね!

「音魔法だって? それが今の技の正体なのか?」


「うん。あれはただ殴っただけじゃあない。拳の威力に上乗せして、音の衝撃波で体内からロックリザードを破壊したんだ」


 音の力による内部からの破壊。いかに岩めいた硬い鱗をもつロックリザードでも、体の内側からくる衝撃には対応しきれなかったってわけか。そりゃそうだな、表面が硬かろうと中身はそうじゃないんだから。


 ビートのやつ、警団ガードを辞めることになったりギルドで門前払いを食らったって割には、かなり強いじゃねえか!?


 俺の抱いた感想と似たような評価をアップルもつけたらしく。


「どんなもんかと思えば、けっこうやるじゃんあいつ。……だけど目の前のことだけに集中しすぎかな」


「え? あっ……!」


 ロックリザードを仕留めきれたか用心深く確認するビートの真上に、何やらごそごそと蠢く影があった。――もう一匹のロックリザードだ! 最初から二匹でつるんでいたのか。おそらく連携して俺たちを襲おうとしていたんだろう。


 ビートはまだ、自分が狙われていることに気付いていない!


「メモリ!」

「了解」


「いえ、ここは自分にお任せを!」


「ファンク!?」

「……、」


 メモリが構えた弓をすっと下ろす。俺たちよりも前に出たファンクは、低い姿勢で何かを手の平の上に生み出していた。


「――『ドクシュリケン』!」


 ピピピッ、と濃い紫色をした尖った何かが飛ぶ。それは見事に天井に張り付くロックリザードの顔面に命中した。


「ギャシッ……、」


 苦しそうな鳴き声を漏らしたロックリザードは地面へ落ちて、しばらく藻掻いていたがすぐに動かなくなった。死んだのだろうか?


 突然上から別のロックリザードに降られて、ビートは目を丸くしている。それを見てファンクが得意気に笑った。


「ふ……自分が助けないと大変でしたね、先輩・・?」

「なっ! い、いいや、これくらい俺だけでも倒せてたな。先輩の獲物を横取りとは太々しいぞ!」

「はぁー!? ピンチに気付いていなかったくせに何を言っているんだ!? 先輩風吹かすならもっと尊敬できる男になってくれよ!」

「なんだと!? お前こそ弟子入り初日に兄貴たちと一緒に仕事なんて、生意気すぎるだろ!」

「嫉妬か!」

「嫉妬だ!」

「認めた!?」


 やいのやいのと言い合う二人は放っといて二匹のロックリザードを確かめるが……うん、どっちも確かに死んでるな。これでビートもファンクも思った以上に腕が立つとわかったぜ。


 しかしファンクはこれ、どうやって殺したんだ? なんか毒とか手裏剣とか聞こえたが。


「ファンクさんはどうやら……『ニンジャ』のようですね!」


 そこでいつもの如くサラの解説が始まった。ガチで博識だよな、こいつ。教会での教育の成果なんだろうか。


「ニンジャ? ニンジャなんてもんがこっちの世界にもいるのか?」


「ゼンタさんの世界にもいるんですか? ええ、職業クラスの一種ですよ。地方によって『アサシン』や『カルワザシ』等呼称が別れていて、使う技や魔法にも多少の差はあるようですが。ファンクさんはシュリケンを使ってましたから、特定地域のアサシン……『ニンジャ』に間違いありません! ですよね、ファンクさん?」


 ビートとの口喧嘩に一段落をつけてこっちへ戻ってきたファンクは、「おみそれしました」とサラの見識が当たっていることを認めた。


「自分の出身地は東方地域にあるんです。そこで生まれたというだけで、記憶はありませんが。物心もついていないような幼い時分に祖父と二人でこの地方にやってきて、生活費を稼ぎながら修行をする毎日でした。少し前に祖父が他界したもので、今後の自分の人生について迷っていたところだったんです」


 ほほう、ニンジャとしての技はその祖父から授かったものだったか。


 家族でもあり師匠でもある人物を失って、ファンクはきっと言葉にはできないような喪失感を味わったはずだ。

 それをおくびにも出さずにすらすら事情を話せるこいつは、精神的に相当タフだぜ。


 にしても、見つけた人生の道がよりによって俺たちに弟子入りすることだとは……亡くなったファンクの爺ちゃんへのプレッシャーまで感じちまうぜ、新師匠としちゃあな。


「祖父がそうだったように、自分も毒魔法が得意なんです。忍技と組み合わせて敵を仕留めること。これはビート先輩にも負けないという自負があります!」


「いや、ゼンタの兄貴! 見てくれてましたよね、俺の音魔法は敵の防御も無視してダメージを与えられます! 毒なんかに頼らなくたって一撃ですよ!」


「なんかとはなんだ!? 使う魔法と同じでいちいちうるさい人だな!」

「なんだと!? 音魔法を馬鹿にしてんじゃねえぞ後輩!」

「自分が馬鹿にしてるのはあんただけですよ!」

「余計悪いだろうが、毒舌でも気取ってるつもりかお前! これは先輩としてわからせてやる必要がありそうだな……!」

「へえ! 自分にどうわからせてくれるっていうんですかね……!」


「やめい!」


 売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしていくビートとファンクは、本気で取っ組み合いを始めちまいそうな雰囲気だった。


 んで、両方の頭をはたいて強制的に喧嘩を終わらせた。


「馬鹿たれ、今はクエスト中だぞ。ガンズさんの安全が第一ってときになーに好き勝手してんだ。これで事故でも起きてみろ、どう責任取るつもりだ?」


「「……すみませんでした」」


 お、素直だな? どっちもえらく負けん気が強いんで何かしら反論してくるかと思ったんだが、あくまで噛み付くのはライバル視しているお互いに対してのみらしい。


 できればそこも自重してほしいもんだが、人の言葉を聞き入れる冷静さが欠けてるわけじゃないってのはこいつらの良いところだよな。


「おうい、そろそろ先へ進まんか? ここらの魔鉱石ももう取りつくしたようだしのう」


「うっす、ガンズさん。ほら、行くぜお前ら。競うなら今みてーにモンスターを倒せばいいんだ。喧嘩するよりよっぽど健全だし、そのぶん安全も確保できんだからな」


 二人がしっかりと頷いたのを確認して、俺たちは洞窟のより奥へと進んだ。



◇◇◇



「ガァアア……!」


「ぬお! 新手が出おった! アンダーテイカー、頼んだぞ!」

「おお……でっけえなこいつ」

「これはロックトロール、ですね。トロール種でも珍しい個体ですよ」


 岩壁からぬっと顔を出し、やがて全身を露わにしたそいつは……でっぷりとした体躯の岩の巨人。そう表現するのがピッタリな大きくて異質な見た目をしていた。


 こりゃあなかなかの威圧感があるぜ。同じ岩っぽいモンスターとしてもロックリザードとは比較にならないほどだ。


「兄貴、今度は自分にお任せを!」


「あっ、抜け駆けしやがって……!」


 いち早く手に毒の手裏剣を持ったファンクがそれをロックトロールへと投げつける。同時に放たれた四枚の手裏剣は見事に全て標的の頭部へと命中した。すげえ技量だぜ。来訪者のステータス風に言えば、きっとファンクのDexはずば抜けて高い数値になるんだろうな。


「硬い表皮故にシュリケンが刺さることはないが、毒さえ体内へ入ればそれで終わる! これで奴も一巻の終わり――なにっ!?」


 ロックリザードがそうだったように、目や口から毒を摂取させられたらどんなに防御が硬くても意味がない。


 同様の戦法でロックトロールも仕留められると算段を立てていたファンクは……確かに毒を食らったはずなのに、構わずのしのしと近づいてくる敵の姿を見て泡を食った。


「ど、どういうことだ……? 何故自分の毒が効かない!?」


「ははっ、緊張でもして失敗したか? お前に現場はまだ早かったなファンク! 俺と交代しな!」


 ファンクに代わって前に出たビートは恐れることなくロックトロールに接近する。毒手裏剣の攻撃を受けて興奮している様子のロックトロールはビートを掴もうと手を伸ばすが、その動きは決して速くない。あれなら十分対応できるだろう。


 俺が思った通りにビートはまたステップを刻んで敵の腕を掻い潜り、まずは部位の破壊を目論んだんだろう。その手に対し拳をぶつけた。


「音に弾けな――『サウンドノック』!」


 ごん、と鈍い音。ロックトロールの腕には確実にビートの音撃が炸裂した。……だが、それだけだった。さっきみたいに内部から弾けることもなく、どころか奴さんは大して痛がる様子もない。


「な、なに……? 俺の音が響かないだと……どうしてなんだ?!」


「ガァ!」


 呆けているビートへロックトロールが腕を向けた。


 今度は掴むのではなく思い切り吹っ飛ばそうとしている――しかも断然スピードが速いぞ!? 思わぬ加速をみせたその攻撃に、ビートは対処しきれてない……! 


「まったく、揃って何をしてんだか」


 こうなることを予見でもしていたのか、真っ先に窮地のビートの下へ駆けつけたのはアップルだった。


 ギリギリのタイミングで攻撃範囲からビートを突き飛ばし、強引に退かしたんだ。だがその代償に……アップル自身がロックトロールの張り手をモロに食らっちまった!


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