105.賑やかすぎるね、アンダーテイカーって
「おっほっほ! こらーすごい、竜の背に乗れる日が来るとはのう!」
「あはは、確かに貴重な体験だな」
俺、サラ、メモリといういつもの面子に加えガンズとアップルを背中に乗っけたドラッゾは、初対面の人間にもまるで頓着せずに空を飛んでくれた。依頼人であるガンズはもちろん、アップルに関しては「ドラゴンに乗ってみたい」と本人が希望したので乗せることになったんだ。
「さすがに早いのう、もう着いたわい! あそこが入り口じゃ!」
「お、そうかい。じゃあドラッゾ、着陸頼むぜ」
「ガウル!」
お目当ての鉱山の入り口付近に降り立って、一旦ドラッゾの召喚を解除する。さすがにこの図体をお供にゃできねえからな。そんで、決めた通りにヤチを呼ぶ……つってもどうすりゃいいんだかな。
「えーっと……おーい、ヤチ。こっち来ーい」
テキトーに呼んでみると、目の前にぽうん! と小さな煙が出現し、気付けばそこにヤチが立っていた。その後ろにはビートとファンクもちゃんといる。
「おお、すっげえ。これが【従順】の効果なのか」
「うん。ちゃんとゼンタくんの呼ぶ声が聞こえていたよ。それに応じると、こうして傍に来られるみたいなの」
「空間魔法みたいですね! これは貴重なスキルなのでは?」
「……便利」
かもしれねえ。
スキルってのは大概なんでもアリっぽいが、狙った効果のもんを入手できるわけじゃねえからな。
ヤチのこれは言うなれば、アーバンパレスのキッドマンがやったような瞬間移動の力だろ? きっと貴重なんだろうな。少なくとも俺やカスカにはないスキルだってのは確かだ。
「数名なら一緒に飛べるってのもいいな……ところで、このスキルは誰に呼ばれても発動するのか?」
「ううん、ゼンタくんだけだよ。ご主人様からの呼びかけって指定がされているから」
「ご、ご主人様だぁ?」
なんとなくインモラルな響きに狼狽えたが、よく考えりゃ家政婦的な意味でのご主人様だってのはわかった。
これにはどうも、ヤチがこっちの世界に来た直後から持ってたっていう【滅私】のスキルが関係しているらしい。
「【滅私】は特定の人物をご主人様として設定するものでもあるんだ。前はガレルさんがそうだったんだけど、今はゼンタくんになってる。勝負で勝ったから、私の所有権がゼンタくんに移ったんだと思う」
「私の所有権……」
所有権っつーか、雇用権かな?
俺がヤチっていう家政婦を雇ってる形になってるわけだ。
聞けばなんでもワゴンで飲食物を出せる【奉仕】のスキルも、ご主人様に設定されている人物が欲しがらない限りは発動できねーんだそうだ。たぶんだが他の新スキルたちも似たり寄ったりの効果なんだろうな。
便利だが主人ありき。
ハウスキーパーって職業はそういう調整にでもなってんのかねぇ。
「ねえ。揃ったことだしそろそろ始めない?」
「っと、そうだなアップル。だがちょっと待てよ――【召喚】、『コープスゴーレム』!」
「ゴアァ!」
ボチとどっちがいいか迷ったが、今回はモルグが適しているだろうと判断したぜ。
「モルグ。いざってときにガンズさんの盾になってくれ」
「ゴア?」
「ああ、俺のことはいいよ。自分でなんとかすっから」
呼び出される=俺の盾になるためだとすっかり刷り込まれているらしいモルグは最初こそ戸惑ったようだが、「ゴアッ!」と自分の胸を拳でドンと叩いた。任せておけ、ってところか。頼もしいぜ。キョロやボチより遥かに耐久性があるモルグはガード役に適任だからな。
「ようし、これで本当に全員揃った! 行くぜお前たち!」
ガンズ含めて九人というかなりの大所帯で、俺たちは人類未踏の鉱山へと足を踏み入れた……! って、人が掘ってないなら鉱山じゃなくてあくまでその候補地だけどな。
◇◇◇
「見てくださいゼンタさん、あっちに魔鉱石が埋まってますよ! あっ、そこにも! 向こうにも! す、すごい……こんな場所があったなんて! ガンズさんは天才ですか!?」
「ばっはっは! どうじゃい、ワシの言った通りじゃったろう!?」
非業の戦斧を装備して、ピッケル代わりに壁を削る。サラの見立ては正しかったようで、メモリもアップルも魔鉱石で間違いないとお墨付きをくれた。
「ほー……これが高値で売れるのか」
石自体は透明なのに、内側から虹色の光が漏れていてなんとも神秘的だ。魔具の素材にしなくたってこれだけで美術品的な価値がありそうだ……そりゃあ高価にもなるわな。
「ゼンタの兄貴! こっちにもありましたよ!」
「自分も見つけました!」
ビートとファンクが競うように魔鉱石を見つけ出しては掘り出す。おいおい、本来こいつはなかなか見つからねえ貴重品のはずだろ? それがざっくざくだ。この山はどうなってんだ。
……ま、これで儲けられるってんなら万々歳だがよ!
「よぉーし、こうなりゃ片っ端から持ってこい! 重量は気にすんな、俺たちにゃボパンさんから貰ったこのポーチがある!」
「うぉお! 次元格納ポーチですか! そんなものまで持ってるなんて、流石アンダーテイカーはそこらのパーティとは違うんですね!」
「おう後輩、当たり前のことを言うんじゃないぞ! 兄貴や姉御たちが普通の冒険者の器じゃ収まらないなんてのは常識なんだからな!」
「しかも私たち、今日からちょー大金持ちですよ! 本当にこの魔鉱石を全部貰っちゃっていいんですか?」
「なぁに構わん構わん! ワシの目的はあくまでたったひとつよ! これだけ魔鉱石が溢れているからにはそっちも大いに期待できるぞ……! 滾ってきたわい! 皆の衆、ワシに続けぇ!」
「「「「ふぅー!」」」」
テンション爆上がりで採掘しながら奥を目指す俺たち。最後尾からはローテンション組の落ち着いた話し声がする。
「賑やか過ぎるね、アンダーテイカーって」
「……ごめんなさい」
「ゼンタくんは、はしゃげるときにはすごくはしゃぐ人から……」
「や、責めちゃいないけどさ。あんだけ依頼人と一緒にはしゃげるのも才能だよ。お通夜みたいな雰囲気でクエストを受けるパーティよりはこっちのが好きだな」
でも、ちょっと注意散漫。
と、ぼそりと言ったアップル。そのいつも以上に低い声音に俺が注目すれば、アップルは足元の石を蹴り上げるところだった。ズガン! と弾丸のような勢いで発射されたそれは岩壁の一部にぶつかった。
「そら、やっぱりいた」
「い……!?」
ぼろりと壁の一部が剥がれたのか……と思ったが違った。それは明らかに動いている。岩そっくりの見た目をしちゃいるが、こいつは生き物だ!
「ロックリザードじゃないですか! 岩と瓜二つの肌を持つトカゲのような魔獣です! ひっそりと近づいてきていたんですね……!」
マジかよ、まったく気付かなかったぜ。【察知】もおそらく俺への攻撃じゃねえと知らせてくれねえだろうから、このまま俺以外の誰か――それこそガンズあたりへ不意打ちが決まってたら相当危なかったぞ。
「ギシャア!」
「来るぞ!」
起き上がって威嚇してくるロックリザードに俺たちはガンズを囲って守りを固めた。さて、全員でかかるのは効率が悪い……つか互いの邪魔になっちまうよな。そんじゃあ誰が撃破役をやるか。
「俺がやります!」
と、そこで名乗り出ると同時に敵へ飛び出してったのはビートだ。
一人だけでやる気のようだが……トカゲと言ってもロックリザードの体長は人と同じくらいあってけっこうデケーぞ、大丈夫なのか!?
「おぉお! 『サウンドノック』!」
ロックリザードの噛み付きをステップで躱したビートが、お返しに殴打を放つ。あまり重さのないジャブめいた一発。だがそれはただのパンチではなかったようで、「ブギア!」と喉の奥から弾けるような声と血を吐き出してロックリザードがひっくり返った。
「うお! や、やりやがったのか……!?」
今のビートの攻撃、俺の目にはそこまで破壊力のある一撃には見えなかったが、いったい何が起こったんだ?
「あれは……音魔法だね」
戸惑いと一緒に口をついた俺の問いに、落ち着いた声音で答えたのはアップルだった。




