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104.私が面倒見ようか?

「ひとつ問題があるぜ」


「ほえ?」

「ぬう?」


 はしゃいでいるサラとガンズには水を差すようで悪いが、これは言っておかねえとなんねえからな。


「採掘に向いたその場所には、まず確実にモンスターがいるんだろ?」


「十中八九そうじゃ」

「そういったところに生息する魔物も多くいますしね」


「俺たちはそのモンスターからガンズを守りながら進む、と……そんじゃその間、誰が採掘をするってんだよ?」


「「あ」」


 まったく考えてなかった、という顔をする二人に俺は呆れる。ちょっと考えなしにもほどがあるだろ……。


 パヴァヌの街でのネズミ駆除では、ちゃんとした冒険者パーティであるところのラステルズすらも俺らは万全には守り切れなかった。これがガンズを対象に、しかも街中ですらない危険地帯での護衛となれば、あのとき以上の警戒が必要になってくるだろう。


「一人一人がメイルとか並みに強けりゃ、護衛とアイテム採集で手分けもできるかもだけどよ。そんな余裕かませるほど俺たちゃベテランじゃねえだろ? とてもじゃねえが護衛をほったらかして魔鉱石探しなんて呑気はできんぜ」


「むむぅ……」


 魔鉱石を報酬代わりにと考えているガンズとしては、採掘をさせないことには俺たちを連れていけない。

 しかし採掘を優先させてしまうと自分が死ぬ危険性がグンと上がる。


 代金と安全の板挟みでガンズは呻っているが、サラのほうは何かを思い付いたようだった。


「つまり……他にも人手があればいいんですよね」


 そう言ったサラの目線は、俺ではなく大人しく話を聞いている三人。


 クラスメートのヤチと、弟子枠のビートとファンクへと向けられていた。


「お前、まさか……!?」


「そうですよ、ゼンタさん。手が足りないなら使える手を増やすまでです! 今回は皆にも手伝ってもらいましょう!」


 そ、そりゃ確かに、手の数は単純に二倍になりはする……護衛にも採掘にも注力できるようにもなるだろうよ。


 だがいくらなんでも、いきなりクエストについてこさせるのは危ねえんじゃねーか? ヤチはともかく、ビートやファンクがどれぐらいやれるのかってのも未知数なんだが。


「ちょうどいいじゃないですか、ゼンタの兄貴! お供させてください! 俺の実力をお見せしますんで!」


「じ、自分からもお願いします! お役に立てると証明してみせますから!」


 サラの提案に案の定ビートとファンクは意気込んでいる。ハイハイと挙手までして、まるで先生にあてられたがっている小学生みたいなテンションだ。


 その勢いに押されるように、ヤチもぼそぼそと呟いた。


「わ、私も……ゼンタくんのお仕事の役に立ちたいな。戦うのは怖いけど、ご飯ならいくらでも出せるよ?」


 食料の確保は、割とマジでありがたい。なんでもワゴンなら持ち運ぶ手間もねーしな。


 そういう意味じゃ戦力にならないとしてもヤチは是非ともクエストに同行させたい人材ではある。……が、ビートやファンクでも不安だっていうのに、レベル5のヤチをモンスターが闊歩する場所に連れ出すのはさすがにな……。


「そういえば、レベルが9になったこと言ってなかったね。ガレルさんとの勝負で上がったんだ」


「うおっ、あれで一気に4も上がってたのかよ。じゃあスキルもゲットしたのか?」


「う、うん。新しいのが五つ……」


 五つだと! 低レベルだと伸びしろがすげえな。そういや俺も、一桁だったときのほうがポンポン新スキルが出てた気がするぜ。


「……すまねえヤチ、もし嫌ならいいんだがよ。ちょいとお前のステータスを見せてくれねえか?」


「? うん、いいよ」


 ちっともイヤそうな顔をせず、ヤチはさらっとステータス画面を出して俺に見せてくれた。カスカは俺のステータスも見せることを条件にしてたってのに……いやどっちが良い悪いってこともねえが、ヤチにはもう少し用心を覚えさせたほうがいいかもしれん。


 ともかく、ヤチのステータス確認だ。



『ナカザワ・ヤチ LV9

 ハウスキーパー

 HP:45(MAX)

 SP:45(MAX)

 Str:9

 Agi:10

 Dex:18

 Int:24

 Vit:27

 Arm:27

 Res:18


 スキル

 

 クラススキル

 【滅私】

 【武装:LV1】

 【奉仕】

 【節約】

 【従順】

 【身代わり】

 【家籠り】

 【手当て】』



 おっと、スキルのほうまで出してるじゃねえか。そこまでは頼んでねえってのに……まあいい。見せてくれるってんなら見ておこうじゃねえの。


 うーん? レベルの割に高いステと低いステがはっきり分かれてる感じか? 俺が同じくらいのレベルだったときと比べてStrが極端に低い。けど、大体のステがバランスよく上がってはいる……どっちかってぇと耐久寄りの能力値かね。


 目について奇妙なのが、MPがないってところか。


 俺やハヤテは賢さを示すIntが絶望的に低いせいで魔法が使えないんだろうとカスカと結論付けたが、ヤチの賢さは24もある。レベル9にしちゃまあまあ高いほうだろう。


 なのにMPがないってのは……ハウスキーパーって職業クラスの影響としか思えんな。

 だとすると魔法が使えるかどうかってのは本人の素質よりも、やっぱり選ばれた職業クラス次第ってことになるのかもしれん。


 次にスキルを見てみると、これまたビックリだ。


 なんと通常スキルが一個もねえ!


 前に言ってた三つのスキルも、新しく入手した五つのスキルも、全部まとめてクラススキルのほうに振り分けられている。偶然でこんなにも偏るもんか? これもハウスキーパーの性質によるもんだと見ていい気がするな。


 書かれているスキルの字面も、俺のに負けねえくらい如何にもな職業クラスらしさを出してるしな……【滅私】に【奉仕】、【節約】に【従順】。おまけに【身代わり】とまできた。


 どれもこれも戦うためのもんには見えねえぜ。


 むしろ普通なはずの【武装】がどえれぇ浮きまくってるくらいだ。


「ううむ……」


 悩ましいなぁ、こいつは。連れていけそうにも思えるし、やっぱ危ないような気もするし……。ガンズと同じでヤチも護衛対象になるなら、結局は人手を増やした意味もなくなっちまうからな。


「んー……だったら私が面倒見ようか?」


「アップル!?」


 意外なところから上がった声に、俺たちは目を丸くする。なんかの冗談かと思えばアップルは至極真面目に、


「人手の多いほうがいいんでしょ? 一緒に行って、危なければヤチとかは私が守ってあげてもいいよ。その代わり、見つけた魔鉱石を何個か融通してくんないかな」


「そりゃあ、手伝ってくれんならそのぶんの礼はするけどよ……でも」


 まずアップルの強さってのが詳しくわからねえし、そもそもそんなことパインが許すはずがねえ。


 という俺の考えは見通されていたらしく、アップルはカウンター内のパインへと向き直った。


「ね、いいでしょパイン」


「……本気か?」


「もち、本気。出稼ぎってやつ?」


「小遣い稼ぎで冒険者ごっこは感心しねえな」


 当然だが、パインは渋る。頭ごなしに否定しないのが驚きなくらいだ。とはいえ父親として、幼い娘を死地になりかねん場所へ送り出したくはないってのは確かだろう。


 だがそこで、アップルはふわっとした微笑みを見せた。


「パインと一緒でさ、嫌いじゃないんだよね。アンダーテイカーのこと。見てるだけでも楽しいし」

「……、」

「だからまあ……たまには手を貸してもいいかなって」

「ふん」


 娘の言葉に鼻を鳴らしたパインは、俺のことをジロリと見た。


「おいゼンタ……こいつのこと、頼んだぜ」


「え、いいのかよ?」


「けっ、どうせ止めたって勝手についてくだろうからな。俺の言うことなんざ聞きやがらねえよ……ま、出不精なこいつが珍しく自分の意思で街の外まで出向こうとしてんだから、やらせてやるのもいいだろう。安心しとけ、足手まといにゃ絶対ならねえからよ」


「親公認。んじゃ、そいういうことでよろしくねー」


 とんとん拍子で同行を決めたアップル。サラやメモリはなんの疑問もなくよろしくと挨拶を返しているが……本当にこれでいいのか? あれよあれよという間に七名もの大所帯でクエストへ挑むことになっちまったが。


 そんな俺たちを引き連れる依頼主のガンズは、うむと大きく頷いた。


「これで決まったな。アンダーテイカーとその協力者たちよ! 上手くやればお前さんたちには一攫千金のチャンスが! そしてワシには人生最大の夢を叶えるチャンスが待っておる! 見事共にこのビッグドリームを掴もうではないか!」


「「「おー!」」」


 かくして、ガンズの夢+魔鉱石を求めて俺たちはポレロを出立したのだった……うーむ、そこはかとなく不安だぜ。


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